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君のエンジンに火を点けるものは何か

劇場版『ドライブ』感想

◆『劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー』◆ (監督:柴崎貴行 脚本:三条陸
 「まーたお得意の秘密主義かよ」
 ……あれ、おかしいな……つい8ヶ月ぐらい前の劇場版では……


 「ベルトさん! 賭けてくれ! 俺に!」
 「出会った時からそのつもりだ! 進ノ介!」

 みたいな関係を築き上げた筈だったのにな……!
 個人的には冒頭のこの一言だけで元の取れた『ドライブ』夏の劇場版、ビルの壁に垂直に停車する謎めいた車と、そこから現れる青筋ドライブは格好いい導入でしたが、フェンシングの選手みたいな服装の青年が姿を現すところで腰砕けになるのが、東映ヒーロー映画といった感。
 勿論、かけられる金も人手も時間も違えば、ターゲットもマーケットも違うので一概に比較できるものでは全くないのですが、マーベル映画がこれだけ成功を収めた後の世界においては、もう少し“この先”は見たくなるというか、この青年の衣装にもう少しこだわるだけでも映画全体の精度が変わってくると思うわけなのですが、ヒーロー自体のポテンシャルで負けているとは思わないので、そういった作りではないのは承知の上で、一抹の悔しさは付きまといます。
 巨大ロイミュードに対するドライブの攻撃を止めようとした青年は、未来からやってきた進ノ介の息子・泊エイジだと主張。
 「馬鹿言うな! まだ彼女もいないんだぞ!」
 「その内できるよ!」
 は面白かったですが(笑)
 エイジによると、20年後の未来は「これから本当の夜をお見せしよう。全て私の思うがまま」と言い出してロイミュードと手を結んだベルトさんの手引きによってロイミュードが人類を支配しており、ベルトさんの人間性に関する疑問を逆手に取って、“本当にベルトさんがラスボスだった世界”をサスペンスの材料にしつつ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』×『ターミネーター』といった具合の趣向。
 エイジの言葉通り、突如として異変を起こした(本性を垣間見せた?)ベルトさんにより、制御不能のフォーミュラカノンがロイミュードと共に周囲の施設を吹っ飛ばしてしまい、社会的危機に陥る進ノ介。
 これまで共に戦ってきたベルトさんを信じるのか? それとも自称息子を信じるのか?
 当然のようにベルトさんを選ぶ進ノ介だが、エイジの取り出した“父の形見”だというネクタイは進ノ介が身につけているものと組成が完全に一致し、(こいつの口にする俺の嫁が霧子っぽいんですけどーーーーー)と内心では悶絶し、ミルクキャンディにかすかな“繋がり”を感じ……本編3クール目を混迷の渦に叩き込んだ「父と子」の主題を接続してくるのですが、本編における「父と子」要素の使い方が褒められたものでは全く無かったので、効果は薄め。
 一方、警視庁ではエネルギー施設の破壊後に逃走した泊進ノ介の全国指名手配が決定され、警察上層部の描写は『ドライブ』の鬼門だと認識しておりますが、捜査会議の場面に人数こそ派手に投入したものの、剛がしれっと加わっていたり、役者としてのキャリアはあるにしても柳沢慎吾を“警察の偉い人”に配役する事そのものがある種の持ちネタパロディになってしまう上、案の定、本願寺課長がおふざけ気味にそこに絡み、緊迫感を持たせたいのか緩めたいのか大困惑。
 トドメに一日署長のアイドルが顔を出して間の悪いやり取りをかわし、全体にユーモアを散りばめて緩急をつけるのではなく、前後の分断を厭わない勢いで、ギャグシーンのノルマ確保ーーー! と放り込んでくるのが、悪い意味で凄く『ドライブ』。
 その頃、警察から逃走を続ける進ノ介は、ベルトさんの進言もあってエイジの言葉を信じ、ベルトさんの再調整に同意するが、調整の真っ最中に現れた青筋ドライブの銃弾にエイジが倒れてしまう。
 「私を破壊して、未来を守れ!」
 ……この人、正義の為の捨て身の覚悟と見せて、勿論バックアップは取ってあるに決まっているさ進ノ介ハハハ! とかやりかねない負の信頼感には定評があるわけですが、そこに剛とチェイスが駆けつけて変身すると青筋ドライブと重機メカを相手取って戦いを始め、各キャラのギミックを一通り見せてくるのは、本編終盤に作られた劇場版として良かったところ。
 「待て! 変身は危険だ!」
 「あんたに何かあったら俺がカバーする! ……俺はエイジが、俺の息子が守りたかったものを……守ってやりたいんだ」
 目の前で銃弾に倒れた効果も手伝い、すっかりエイジに肩入れしている進ノ介は、チェイサーの危機に居ても立ってもいられずベルトさんを腰に巻き付けると変身。タイプトライドロンを発動すると、ミキサー寸前だったチェイサーを救出し……何故、よりにもよって、「あんたに何かあったら」肉体丸ごと乗っ取られるフォームになるの?!
 ドライブ&マッハのダブルキックで青筋ドライブは木っ葉微塵に吹き飛ぶが、直後、ドライブはマッハを攻撃。
 「なんだこの殺気?! いつものドライブと違う!」
 「殲滅だ。私以外の全てを破壊する」
 殴り倒されたマッハの変身が解けると、進ノ介の制止も虚しく生身の剛を消し炭にしようとするハザードライブだが……先程から姿の見えないチェイサーはどうしたのかと思ったらまだ重機メカと戦っており、剛バッドエンド寸前、なんとか銃口を逸らすと、ベルトさんは自分で自分を外して自分にパンチ。
 「この破壊衝動は、誰にも押さえられない……。……さあ、私を処分してくれ……」
 呪われた右手が鎮められないベルトさんは進ノ介にトドメを刺される事を望み、決断を迫られる進ノ介は、重機ロボをなんとか倒したチェイサーが落とした信号アックスを手に取り……なまじハート様から情報を得てきたばかりに、重機ロボ(『アーマード・コア6』に出てきそう)に大苦戦した末に背後で地面に転がっているチェイサーの扱いが、ちょっと可哀想。
 「それが、ベルトさん本人の願いなら……」
 「……それで、いいんだ。……未来の悪を滅ぼせるのは、この瞬間の……君の正義だけだ」
 「もう……考えるのはやめた」
 や・め・る・な。
 今作最序盤においては、色々あってエンジンの錆び付いていた進ノ介が再び前を向いて動き出した際を皮切りにして、立ち止まらずに遮二無二動き出すと決めた時の推進剤となる決め文句だったのですが、後半になる程、本来なら考え続けなければならない事を進ノ介が放棄した際の象徴になってしまったのは、つくづく残念(さすがにここでは、ネガティブなニュアンスも含まれていそうですが)。
 「ありがとう、進ノ介」
 進ノ介が信号アックスを思い切りよく振り落とすと、全壊したベルトさんは物言わぬ破片と化すが、そこに乾いた拍手と共に姿を見せたのは、凶弾に倒れたとばかり思われていた泊エイジ。
 「おまえの一人芝居か……全部嘘だったんだな!」
 「いや、八割方ほんとだよ。それが嘘を信じさせるコツだ。クリムが悪人ていうあの映像と、僕がエイジ本人じゃないっていう事だけが嘘さ」
 未来技術により青筋ドライブをオートで操り、ドラマチックな場面を演出してみせた偽エイジの正体は、西暦2035年でエイジを倒し、ベルトとタイムロードシステムを奪ったロイミュード108。
 現代ではわけあって封印されていた108は、ベルトを破壊する事で歴史をねじ曲げる事に成功すると、永遠のグローバルフリーズを引き起こすと宣言し、青筋ドライブ――ドライブタイプXを装着。
 「さよなら、父さん」
 青筋ボールが放たれると進ノ介を中心に色々吹き飛び、Xドライブは高笑いしながら離脱。
 チェイサーにかばわれていた進ノ介は、雨に打たれながらゴミ捨て場に転がる実績を解除すると、「8月8日まで開けてはいけない」とベルトさんに預けられていた封書を開き……そこに記されていた場所は、多数のクラシックカーが並ぶ初代ドライブピット。
 入り込んだ進ノ介を暗黒駄メンター名物:ビデオ……ならぬ録音メッセージで出迎える辺り、ベルトさんは、わかって自分の信用度を落とそうとしているのでしょうか!!(笑)
 8月8日――それは進ノ介が特状課に配属され、ベルトさんに初めて声をかけられた日であり、本編では描かれなかった両者の出会いを劇場版で持ち出してくるのは面白い趣向でしたが、この配属自体が、本人には何も教えないまま、裏で色々と手を回した賜物だったと思うと、何か美しい思い出のように語られている事に対して、(このベルト野郎……)という視線を向けずにはいられません。
 これまで共に戦ってくれた事へのささやかなお礼として、生前の趣味のコレクションルームと化していたピットを進ノ介に進呈するベルトさん、破壊される前のベルトさんから相棒への気持ちを描いてちょっとしんみりさせる場面にはなっているのですが……相続税は払える手筈になっているんですよねベルトさん?! あなた、城も持っていましたよねベルトさーーーん?!
 「いい趣味してるぜ……ベルトさん。……俺と車の好みが似てるよ」
 涙混じりに呟く進之介は霧子とも再会を果たし、個人的にTV本編の進ノ介は思い入れを持てない主人公だったのですが、この場面は霧子との抱擁も含めて、進ノ介の人間味を好意的に見ることが出来ました。
 『ドライブ』本編は、おふざけの底が抜けている一方で、ギャグとシリアスの間にある“キャラを膨らませる余地”を上手く活かせなかった印象が強い作品ですが、本編でもう少し、進ノ介のプライベートの一面を小出しに挟む工夫が欲しかったなと改めて。
 霧子との再会も束の間、ガレージはXドライブの強襲を受けて炎に包まれるが、プロトトライドロンに乗り込んで進ノ介は脱出し、ここからしばらく、闇のデコトラとのカーチェイス
 一方の霧子は捜査本部に辿り着くと、チェイスから聞き取った情報などを元にXドライブの目的を伝え、「未来と過去の108が出会うと永遠のグローバルフリーズが起こる」とやらの理屈が無から沸き出してくるのは、劇場版の圧縮を差し引いても、いつもの『ドライブ』節を感じます。
 事ここに至っても警察の体面にこだわる参事官に向けて霧子さんが啖呵を切り、本編では割と眠っていたヒロイン力を爆発させる霧子さんは熱演なのですが、霧子さんが「警察官」とはなんぞやを問いかける程に、特状課は何を考えて、この娘にこんな改造制服を着せているのだろう……と参事官の思考が遊離していっても仕方が無い気がしてなりません。
 デコトラに追い詰められていた進ノ介は、チェイスから預けられたシグナル装備と、ベルトさんから受け取っていたトライドロンのキーを合わせる事により、マッスル体型でちょっと邪悪な感じの魔進ドライブデッドヒートになると、ロイミュード一体を撃破。もう一体に苦戦していると、指名手配を取り下げ、仮面ライダードライブの支援を決定した警官隊の援護を受けて逆境を抜け出し、遂に偽エイジの元へと到達。
 偽エイジは、未来知識で知り得た史上最大級の落雷を利用して、封印されていた過去108に莫大なエネルギーを与えようとしており、割とストレートに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』オマージュでありましょうか。
 魔進ドライブとXドライブが衝突する一方、警官隊を苦しめるロイミュードは、黒いもやもやの中から姿を見せた仮面ライダーゴーストがふわふわアクションで葬り去り……まあ、深く気に留めない方向で(本編ではもっと無茶な先行登場をしていましたし……)。
 次作ヒーロー登場ノルマが片付けられると、猛攻を浴びる魔進ドライブはヘルメット割れをし、変身解除。
 そして落雷のエネルギーにより108が復活し、クライマックスに一つの焦点を合わせていた落雷が凄くあっさり味だったのは、劇的さとして物足りなかったところです。
 過去と未来、二つの108が融合する事により超絶進化を遂げると、そういえば忘れていたどんよりが発生して地球全体を覆い、重加速現象の中でトドメを刺されそうになる進ノ介だが、それを防いだのは復活したマッハ。
 マッハが超絶108――パラドックスミュードと戦っている間に、脳細胞がようやくトップギアになった進ノ介は、108が放り捨てた未来ドライブのベルトと、変身に利用していた現在トライドロンのキーを握りしめ、またも変身の解けた剛が死にそうになっている中、その背後で落雷待ちのポーズで固まっている画は、もう少しなんとかならなかったのでしょうか(笑)
 「これが最後の賭けだ。……ベルトさん! ――スタート! ユア! エンジーーーン!!」
 いつもと逆の構図になる台詞の使い方は非常に面白かったのですが、首をねじり上げられて殺されそうになっている時に、義理の兄候補がベルトを握りしめてなにか絶叫している時の、剛の気持ち。
 進ノ介の呼びかけに応えるかのようにシフトカーが飛んでくると、落雷のエネルギーにより再起動したベルトがキーに蓄積されていた戦闘データを読み込む事によりベルトさんが復活し、やはり、実質的にバックアップ残していたぞ、このベルト。
 「もしもエイジが敵だったら……という可能性も、考えたからな」
 「……この、疑り深くて胡散臭い秘密主義者め」
 「ふっふー、何をいう。頭脳派気取りの、火の玉小僧が」
 「「はは……はは、ははははは!」」
 進ノ介とベルトさんの関係性およびキャラクター性における理想と現実のギャップや、おおよそ3クールの間に発生したズレや描写不足については、互いに全裸で殴り合う痛み分けにより落着させ、進ノ介は知らない間に劇場版で、赤座伴番と同じフォルダに放り込まれておりました。
 「……――行くぜベルトさん」
 「OK! ――Start Our Engine!」
 「――変身!!」
 二人が変身すると、未来ドロンのタイヤが体にはまり、ドライブ完全復活。
 「俺は……いや、俺達は! 仮面ライダードライブ!!」
 「ひとっ走り、付き合いたまえ!」
 「泊進ノ介! おまえなどはクリムの人形だ! 歴史の中の小石! 私がおまえごときに、邪魔される筈はないのだぁ」
 「その小石が正義の塊なら、つまづいた悪の未来は変わるかもしれない! 俺は、その可能性を信じる!」
 「笑わせるな!!」
 超絶どんよりが発動して世界中の時間が停止するが、霧子がシフトカーに移し替えた未来ドロンの力を得る事で行動可能になると、進ノ介とエイジが時間を越えて変身を重ねる事により、全身に黄色い筋の入ったドライブ:タイプスペシャルが誕生。
 「俺の息子のドライブ! 返してもらった!」
 主題歌をバックにヒーローのターンとなると、可哀想な扱いだったチェイサーの代わりに信号アックスで大ダメージを与え、雷撃パンチでの打ち上げから、未来ドロンとの協力による超絶電光ドライブキックでパラドックスミュードを粉砕し、世界を完全停止させようとした超絶どんよりは解除されるのであった。
 「「ナイスドライブ!!」」
 進ノ介とベルトさんは声を合わせ、最終的に、進ノ介とベルトさんの話にしたいのか、進ノ介とエイジの話にしたいのか、両取りしようとして焦点が絞りきれなかった感はあり。
 「未来の悪を滅ぼせるのは、この瞬間の自分の正義だけ。俺はベルトさんにそう教わった。そう信じて戦うよ。これからも。……そして、必ずおまえに会うからな、エイジ」
 もろもろ丸く収まった後、進ノ介は手元に残されたネクタイを見つめ、今の戦いが未来の悪を倒す事にも繋がるという進ノ介の戦っていく理由・それを伝えたベルトさんのメンター性・そしてそれを継承していく父と子の絆――合わせて視聴者へのフィードバックとしての「ヒーロー」の意味――がまとめられて、本編最終盤では、対バンノにおいて進ノ介の存在が無になりがちだったのですが、進ノ介についてはこの劇場版が、一つのエンディングとして用意されていたという事に。
 ……まあ、〔進ノ介とベルトさん〕〔進ノ介とエイジ〕の両方を一つの話に収めようとした結果、
 〔ベルトさん(疑似父)-進ノ介(子)-エイジ(その子)〕
 の構図が強固になってしまい、3クール目で大きく扱われた進ノ介の実父について一言も顧みられなくなってしまったのは、実に『ドライブ』な感じですが。
 また、TV本編では、進ノ介が「ロイミュードとは何か?」について考えるのをやめてしまった事で、最終局面において大規模な空虚が発生するのですが、今作ではその点をばっさりオミットする事により、良くも悪くもスッキリとした結末になったのは、本編クライマックスを控えた劇場版として、飲み込みやすい落としどころでありました。
 エイジについて思いを馳せる内に、「その内できる」彼女について考えを巡らせた進ノ介は、隣の霧子を見て失笑を漏らすと追いかけ回され、あわよくば軽く蹴られたいMの衝動からエピローグとなり……『ドライブ』らしい問題点も色々とありましたが、『鎧武』コラボの冬映画に続き、本編で不足していた描写をあれこれ補完する、進ノ介の為の劇場版として、思ったより楽しめる出来でありました。