東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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年始の読書メモ

書初め

●『密室キングダム』(柄刀一
 “壇上のメフィスト”と謳われる希代の手品師ダンジョン・イチロウが、長い病気療養からの復帰公演を華々しく成功させたその日、私邸での特別な舞台を前に脱出マジックに用いる棺桶の中で死体となって発見される。“三重の密室”だった現場から、犯人は如何にして消え失せたのか……被害者と親交のあった青年・南美希風は、絢爛ともいえる謎の大伽藍に挑む事となる。
 タイトルに「キングダム」と銘打たれた通り、密室、密室、そして密室! にひたすらこだわった長編ミステリ。
 著者のシリーズ探偵である南美希風が若かりし頃に関わった事件として描かれ、徹底した理詰めの推理、微に入り細を穿つ“前提”の検討、解かれること(メタ的には「名探偵の介入」)を前提としたトリック、などに著者らしさが満載。
 その上で今作を特徴付けるのは、手品の発想を犯罪に利用し、現場での当然の行動をトリックに組み込んで警察を翻弄する犯人、アンチ“壇上のメフィスト”の存在で、奸智に長けた超人的犯罪者の存在が強調される〔怪人vs名探偵(の卵)〕の構図は、ジェフリー・ディーヴァーの《リンカーン・ライム》シリーズも思わせます。
 ハードカバー900ページという大ボリュームですが、その時その時の“解かなくてはいけない謎”が明確かつ、部分的な謎解きがテンポ良く挟み込まれるので読みやすく、ミステリ読みなら思いつきそうな要素へのぬかりない言及や、挑発的ともいえる“禁じ手”を随所でスパイスに使いながら、積み重ねられていた“まだ解けない謎”が真相に向けて繋がっていくのは、さすがにしっかりした構成でした。
 一方、フィクションとはそもそも“そういうもの”ではありますが、手の込んだ機械式トリックはどうしても「劇中で実現可能と書かれているから実現可能」と読む他ないところはあって(検証する方も居るでしょうが)、相当に大胆なトリックか、派手な謎解きをしないと劇的さに欠けるところはあり、そこは筆者も承知の上でか、トリックそのものよりも、「何故トリックが施されなけばならなかったのか?」その背後にある真犯人の情念、密室そのものの観念的意味づけを二重三重に行う事で、如何にもミステリ小説的な道具立てである「密室」を“物語”に昇華しようとする試みが成されているのが全体的な趣向といえます。
 ……ただ、個人的には柄刀さんの文章を上手いと思った事が一度もなく、今作でも情念を描き出そうと言葉を重ねれば重ねるほど表層で空転してしまうところはあって、毎度ながら、作者の“物語”への志向性は好きなのですが、文章がもう一つ……と思うのでありました。

●『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』(宮部みゆき
 「変調百物語」と銘打ち、主人公おちかが客人から一つずつ“不思議な話”を聞いていく形式の連作中編シリーズ第2弾。
 1作目は、江戸で叔父夫婦の営む商家に厄介になる事になった主人公の背景事情に主眼があった為に、どうしても物語全体に重苦しさがつきまとっていたのですが、前作の事件を経て真っ暗闇を抜けた主人公の心境の変化にともなって全体がぐっと読みやすくなり、いや面白かった!
 人とカミの関係を描いた第1話「逃げ水」、隣家の嫁入りに関わる呪いの話を知りこれは三島屋の人たちにフォローが必要になるのでは……からのオチが鮮やかな第2話「藪から千本」と、筆者の筆が冴え渡ると共に、前作では名前と存在が示されたぐらいだった丁稚の新太の出番や新たなレギュラーキャラも増え、点と点が繋がって世界が広がっていく流れが、実に巧い。
 そうして“広がっていく”世界は、未だ“閉ざされた”深い暗闇を抱えるおちかが向かい合っていくべきものとして長編の主題を彩ると同時に、百物語の1話1話、バラエティ豊富な怪異譚としての中編の面白さが両立されているのがさすがの手並み。
 寺子屋での騒動に始まり不審火で焼け落ちた紫陽花屋敷の過去が語られる第3話「暗獣」、生臭坊主が山深い村で出会った悲劇を描く第4話「吼える仏」、一貫して、“怪異との出会いが人にもたらすもの”を描いており、そこに描かれる人や物事の繋がりや、1話単位では解決しない要素の散りばめ方など、2巻に入って縦横無尽(以前に読んだ《きたきた捕物帖》シリーズと類似の構造といえ、《きたきた》は今作のフォーマットを踏まえていた模様)。
 果たして、「変調百物語」なる“巨大な怪異”との出会いは、おちかと、その周囲の人々に何をもたらすのか。だいぶ後追いでありますが、登場人物それぞれがどうなっていくのか、一気に目が離せなくなって参りました。

●『コフィン・ダンサー』(ジェフリー・ディーヴァー
 現場鑑識中の事故で四肢マヒとなり、現在は市警やFBIの顧問として捜査に協力している天才的な科学捜査官リンカーン・ライムと、衝突はありながらもその優秀な助手として働く刑事アメリア・サックスのコンビを中心にした《リンカーン・ライム》シリーズ第2作。
 障害により自宅から動けない主人公が、集められた微細証拠物件を元に恐るべき犯人追い詰めていくのが基本の形式で、第1作『ボーン・コレクター』の後に、第5作『魔術師』を読んだ後、7年ぶりに2作目に舞い戻りましたが、敵はある裁判の証人を狙う、超一流の暗殺者!
 暗殺者の正体は早々に明らかになり、警察サイドと暗殺者サイド、双方の主観を入れ替えながら頭脳戦が展開していくサスペンスで、個人的にいまいち、その組み立てに面白みを感じられずノりきれなかったのですが、終盤の仕掛けには唸らされ、色々と据わりの悪く感じていた部分がピタッと一つの絵に収まるのは面白かったです。
 個人的に面白くなるまでがだいぶ長かったですが、改めて最低限、『ウォッチメイカー』は読んでおこう、と思いました。