東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

ぼくらのキカイダー今日もゆく

人造人間キカイダー』感想・補遺

 簡単な構成分析と、ジローについての補足をつらつらと。

-----
 ◆第1話「恐怖のグレイサイキングは地獄の使者」◆ (監督:北村秀敏 脚本:伊上勝
 ◆第2話「怪奇グリーンマンティスは殺人鬼」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:伊上勝
 ◆第3話「呪い オレンジアントの死の挑戦」◆ (監督:北村秀敏 脚本:伊上勝) 〔伊豆・伊東温泉編1〕
 ◆第4話「悪魔のブルーバッファローが罠をはる」◆ (監督:北村秀敏 脚本:伊上勝) 〔伊豆・伊東温泉編2〕
 ◆第5話「イエロージャガーの魔の手が迫る」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳

 ◆第6話「ブラックホースが死刑場でまつ」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:伊上勝) 〔ダークを脱出した光明寺博士が記憶喪失に〕
 ◆第7話「怪物ブルスコング大暴れ」◆ (監督:北村秀敏 脚本:伊上勝
 ◆第8話「カーマインスパイダーが無気味に笑う」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳
 ◆第9話「断末魔! 妖鳥レッドコンドル」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳
 ◆第10話「サソリブラウン 人間爆発に狂う」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:押川国秋)
 ◆第11話「ゴールドウルフが地獄に吠える」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳
 ◆第12話「残酷 魔女 シルバーキャット」◆ (監督:北村秀敏 脚本:島津昇弌)
 ◆第13話「ピンクタイガーの遊園地襲撃」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:島津昇弌)
 ◆第14話「大魔神ギンガメが三怪物を呼ぶ」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳) 〔ダーク新・破壊部隊、登場〕
 ◆第15話「キンイロコウモリ呪いの陰」◆ (監督:北村秀敏 脚本:伊上勝
 ◆第16話「女ベニクラゲが三途の川へ招く」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳
 ◆第17話「アカクマバチ恐怖の人質計画」◆ (監督:永野靖忠 脚本:島津昇弌) 〔群馬・伊香保温泉編1〕
 ◆第18話「クロカメレオン幻の大強奪作戦」◆ (監督:永野靖忠 脚本:渡辺亮徳/島田真之) 〔群馬・伊香保温泉編2〕
 ◆第19話「死神獣カブトガニエンジ参上!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳
 ◆第20話「冷酷アオタガメのドクロ計画!!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳) 〔光明寺がドラム缶を押すミラクル〕
 ◆第21話「残虐! ムラサキネズミの毒牙」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳
 ◆第22話「シロノコギリザメ悪夢の12時間」◆ (監督:北村秀敏 脚本:島田真之)
 ◆第23話「キイロアリジゴク三兄弟見参!」◆ (監督:永野靖忠 脚本:長坂秀佳
 ◆第24話「魔性の女??モモイロアルマジロ」◆ (監督:永野靖忠 脚本:島津昇弌)
 ◆第25話「ダイダイカタツムリ殺しの口笛」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:伊上勝) 〔伊上勝降板〕

 ◆第26話「ミドリマンモス地球冷凍作戦!!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:春日憲政) 〔光明寺就職編スタート〕
 ◆第27話「バイオレットサザエの悪魔の恋」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳) 〔伊豆・七滝温泉編1〕
 ◆第28話「赤子を泣かすアカオニオコゼ!」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳) 〔伊豆・七滝温泉編2〕
 ◆第29話「カイメングリーンは三度甦る」◆ (監督:永野靖忠 脚本:長坂秀佳
 ◆第30話「アカネイカ美人女子大生を狙う」◆ (監督:永野靖忠 脚本:長坂秀佳
 ◆第31話「ジローの死を呼ぶタコヤマブキ」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳) 〔鳥取皆生温泉編1〕
 ◆第32話「アオデンキウナギ魔の腕が光る」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳) 〔鳥取皆生温泉編2〕
 ◆第33話「凶悪キメンガニレッド呪いの掟」◆ (監督:永野靖忠 脚本:多村映美)
 ◆第34話「子連れ怪物ブラックハリモグラ」◆ (監督:永野靖忠 脚本:島田真之)

 ◆第35話「ジロー デンジエンドの最期!」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳) 〔ハカイダー前振り編1〕
 ◆第36話「狂ったジローが光明寺をおそう」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳) 〔ハカイダー前振り編2〕
 ◆第37話「ジローの弟 強敵ハカイダー!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳) 〔ジロー逮捕、ハカイダー登場〕
 ◆第38話「ハカイダーがジローを殺す!」◆ (監督:永野靖忠 脚本:長坂秀佳) 〔ジロー脱獄、ハカイダーとの初顔合わせ〕
 ◆第39話「父の仇ジロー 全国指名手配」◆ (監督:永野靖忠 脚本:長坂秀佳
 ◆第40話「危うしジロー! 機能完全停止!!」◆ (監督:北村秀敏 脚本:長坂秀佳) 〔マサルとジローが和解〕
 ◆第41話「壮絶ジロー空中分解!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳
 ◆第42話「変身不能!? ハカイダー大反逆!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳) 〔ハカイダー退場〕
 ◆第43話「ジローの最期か ダーク全滅か?!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳) 〔ダーク壊滅〕
-----

 全43話、一貫して物語を貫いた要素は「ジロー・ミツ子・マサル光明寺博士捜し」となり、ニアミスの繰り返しや、記憶喪失・意識不明での再会などの末に、最終話をもって遂に親子が再会を果たし、ダークも壊滅して大団円となる事に。
 第1話でのダーク脱出時に消息不明となっていた光明寺が第6話に記憶喪失となって再登場後は、〔フラフラしている光明寺 → その情報や心当たりを追って日本全国を巡るミツ子とマサル → ダークとバッティング〕がエピソードの基本形となり、この型を組み込めば『キカイダー』が成立する一方で、「光明寺親子をニアミスさせる」が何かと無理の出る約束事となって、伊上・長坂を除くサブライターの担当回では露骨に厄介な要件になってしまう問題点は最後まで解決されず、メリット・デメリットのある設定となってしまいました。
 一方の悪の組織ダークは、「世界征服」を一大目標に掲げつつ、その秘密厳守主義と人材の不足から執拗に「裏切り者のキカイダーを始末せよ、ただし光明寺は利用価値があるから生かして再契約したい」にこだわって行動し、今作序盤は特に“抜け忍物”のテイストが強いのですが、その行動指針の分裂が結果的には、悪の組織として竜頭蛇尾に終わる一因となったかとは思います。
 当時、『仮面ライダー』『変身忍者嵐』『超人バロム・1』そして今作と、メインライターを掛け持ちして多忙を極めていた伊上勝が、復讐の為に殺人ロボットを開発する光明寺を置き土産に番組を去ると、第26話からは、「記憶を失ったまま行く先々で職についている光明寺」の新パターンが組み込まれ、光明寺の各種コスプレが売りとなる事に(?)。
 その皮切りとなった第26話の後、第27話~第32話(伊豆~鳥取)までを名実ともにメインライターとなった長坂さんが連続で担当すると、ジローとミツ子さんのロマンスの押し出し、マサルくんの情緒の掘り下げ、良心回路についての踏み込み、と自らの色を押し出していくのですが、伊上回の第25話における「口笛&宿敵たる兄弟機」を含めて、第27-29話の「連続ドラマ性」、第30話の「人間の脳を利用」といった辺りは、最終章となるハカイダー編の試運転の意識もあったのかもしれません。
 サブライターによる、やや変化球な(ダークロボットに情を見る)2話を挟み、ジローと光明寺を怒濤の展開が襲い、ダークヒーロー・ハカイダーが登場する最終章となり、前振りの2話を含めて計9話を、一連の最終章として展開するのは、意外性も含めて面白い構成となりました。
 ラスト9話を別とすると、今作において物語にアクセントを加える要素は「光明寺の扱いの変化」と「温泉地タイアップロケ」ぐらいのもので、振り返れば振り返るほど、光明寺の存在が大きい(笑)
 その点で、光明寺とゲストがある程度以上に関わり、ゲストキャラの持ち込んだ要素に先行きが示される第16話「女ベニクラゲが三途の川へ招く」、光明寺が奇跡のドラム缶転がしでダークの陰謀打破に一役買う第20話「冷酷アオタガメのドクロ計画!!」の2編は、印象的(どちらも長坂脚本)。
 逆に、ダークロボットが新・破壊部隊としてリニューアルするも、2分30秒で4回のデンジエンドによりただの再生怪人祭に終わった第14話「大魔神ギンガメが三怪物を呼ぶ」、そのデンジエンドが無効の強敵クロガラスがハカイダーの先触れとして現れ、自ら高圧電流を浴びたキカイダーが新必殺技でこれを打ち破るが二度と使用されない第35話「ジロー デンジエンドの最期!」と(これまたどちらも長坂脚本)、敵味方の強化要素が実質皆無なのが、全体の構成にあまりメリハリを感じない一因といえるでしょうか。

 演出担当回数は、以下。
 〔畠山豊彦:18本 北村秀敏:15本 永野靖忠:10本〕
 立ち上がりこそ、北村・畠山の二人体制で回していましたが、第17話で永野監督が参加して移行は、割ときっちり、3人ローテ。
 脚本担当回数は、以下。
 〔長坂秀佳:25本 伊上勝:8本 島津昇弌:4本 島田真之:3本 押川国秋・春日憲政・多村映美・渡辺亮徳:各1本〕

 「光明寺探し」を構成上の導線とする今作、物語の下敷きは普遍的な「人間になろうとする人工物」テーマといえそうですが、そこに「(不完全な)良心回路」という要素を持ち込む事によって、
 「人間の理想の模造品を手がける事により神の現し身を造り出そうとする人の業」
 と
 「限りなく神に近づく為の完全な存在にはなりたくない魂」
 のせめぎ合いが発生していたのが、特徴といえるでしょうか。
 ジローにとっての「不完全な良心回路」とは即ち「楽園の知恵の実」であり、その「原罪」を胸に宿してしまったが故に痛み、苦しみ、ジローの中には常に悪魔の声が存在しているのですが、それでも「そこに生まれた自分自身でありたい」というジローの想いは、それ故にこそ痛切であり、不完全なる世界において不完全なる存在として歩んでいくしかない“人間”の寓意的象徴となりえるのが、上手い構造であったと思います。
 ……ところで今作、物語を通して“人間の素晴らしさ”が描かれていたかというとそういうわけでもなく、ことさら人間の悪意が強調されるわけでもないが(ギルの場合は「人間」とは切り離された“悪の象徴”として描かれている)、その逆に各エピソードにおいて人間の善意にも特別焦点が当たるわけでなく、敢えて言えば、行く先々で光明寺を受け入れるささやかで優しい“人々の暮らし”があるぐらい。
 物語全体のテーマ性としてはそこが弱いとはいえるのですが、等身大の変身ヒーローとして「人間の心に疑義を示す」のは意図的に避けた部分であったのかもしれません。
 “神の模造品”の物語は、次作『キカイダー01』終盤でより掘り下げられていく事になりますが、“神になれない造物主”としての光明寺博士と、“神のなり損ない”としてのジローが、互いに互いを神に接近した存在として(本質的に)扱っている二重構造もまた今作の面白いところかもと思いつつ、だいぶこんがらがってきたので、とりあえずこのぐらいとして、『キカイダー』感想・補遺でした。