東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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果てしなき不完全な道

人造人間キカイダー』感想・最終話

◆第43話「ジローの最期か ダーク全滅か?!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳
 ナレーションさん曰く「あれほどの強敵ハカイダーを、一瞬の内に倒した白骨ムササビ」が襲来すると、チェンジ不能のジローは眠れる光明寺姫からムササビを引きはがして屋外へと飛び、ここに来てジロー大事で父の手術を後回しにしようとするミツ子さんには、とうとうマサルくんの平手打ちが炸裂!
 目を覚ましたミツ子は手術の開始を決断し、光明寺一家の抹殺を指示するギルの背中の壁には……穴が開きっぱなしであった。
 (俺は多分あいつには勝てない。どうせ奴に殺されるのなら、少しでも遠いところへ行って殺されよう)
 上空からムササビの追撃を受けるジローは、手術の時間を稼ぐ為にアクセルをふかし、「光明寺家を守る」という使命感の元ひたすら逃げるヒーローの姿を、音楽と台詞回しでヒロイックに見せていくのが巧妙。
 「いえひひへひ! これはいい! チェンジできないキカイダーとは面白いぞ。ゆっくりと遊び相手になってもらおう~!」
 チェンジを試みるも失敗したジローに白骨ムササビが迫る一方、決死の囮となった半平がアンドロイドマン部隊を引きつけている間に光明寺の脳移植手術は完了し、物語中における全ての役目を果たし、空っぽの器として画面手前に横たわるハカイダーの姿には悲哀を感じずにはいられません。
 前回今回で、脳の配線が焼き切れそうなレベルの大仕事を成し遂げたミツ子さんだったが、光明寺は目を覚まさず……
 「まだわからないよ姉さん! なにか、なにかやってみることがある筈だよ!」
 王子様のキス……?
 「ないのよ! すべてやってみたのよ……!」
 だがこの場にジローの姿はなく、代わりといってはなんだがミツ子のこぼした涙に反応して光明寺姫は目を覚まし、苦節四十数話……洞窟で湧き水を啜ったり、カビとホコリだらけのあばら屋を宿にしたり、トロッコで怪人を轢いたり、恩人を見捨てて逃げ出したり、盗んだマイクロフィルムを燃やしたり……色々ありましたが、遂に本当の再会を果たす光明寺一家。
 「そうか……ここはダークの……わかった、わかったよミツ子。泣くなマサル! 私はもう大丈夫だ!」
 よーし、お父さん、内部からこの基地を木っ葉微塵にしてやるぞ! ぐらいの勢いで元気を取り戻す光明寺だが、そこにアンドロイドマンを引き連れて乗り込んでくるプロフェッサー・ギル
 「今までおまえ達を殺さないでおいた、儂が馬鹿だったのだ! 今日こそは……おまえ達を皆殺しにしてやる!」
 脳移植手術のついでに光明寺液でも注射されてしまったのか、とんずら決めずにダーク基地に戻ってきた半平は、真紅のギターを響かせ場を撹乱すると、逃げる光明寺一家を追うアンドロイドマンを車で蹴散らす獅子奮迅の活躍を見せ、「服部半平、ここに眠る」(東映名物:勝手にお墓)建立の日は近い。
 白骨ムササビの噛みつき攻撃を受け、崖から蹴り落とされたジローは、激しく損傷しながらもサイドカーを召喚したところで気を失うが、逃走中の光明寺一家に発見されると緊急修理を受け、変身回路が復活。
 だがその為に光明寺一家はダークに捕まって処刑場で縛り上げられ、半平は死んだフリでムササビを誤魔化して勝手にお墓を回避し、目まぐるしく場面を動かして疾走感による盛り上がりを出そうとしているのですが、そもそも事のきっかけが、光明寺を餌にして捕らえたミツ子とマサルを何故か本拠地に移送したらキカイダーの侵入を招いた、なので、最終決戦としての盛り上がりはどうにも不足。
 せめてダークに、世界征服に向けた一大作戦を展開するだけの余力があれば良かったのですが、怨敵キカイダーを抹殺する為にハカイダーを作るので精一杯、そのハカイダーの手綱を握り損ねると、アカ地雷ガマにしろ白骨ムササビにしろ、本拠地防衛の為に温存されていたと思われる手札を切る他なく、栄光の日は遙か遠く、ズルズルと寝たきりから瀕死に陥ってしまったのは、ヒーローを輝かせるべき「悪」としては残念でした。
 ……作劇としては、そこに「ハカイダー」を当てはめているわけですが、結果としてハカイダーが倒れると「ダーク」が空っぽになってしまったのは、最終回にしても極端になりすぎたかなと。
 ギルもとうとう、「今までおまえ達を殺さないでおいた、儂が馬鹿だったのだ!」と過ちを認めましたが、ミツ子とマサルについてはこれまでも難度も抹殺を試みているので、光明寺への執着、そしてヒーローの戦闘力を引き上げる光明寺のヒロイン力を甘く見ていたのが、つくづく敗因であったなと。
 つまるところ、光明寺のヒロイン力がギルの精神にも深い影響を与えていた事が窺えますが……この未練を断ち切ってこそ勝利の栄光はある! 儂は今、KAWAIIを捨てる!!
 とギルは光明寺親子の処刑を号令し、薙刀の刃が3人に迫ったその時――僕らの仲間、ジローのギターが響き、最後の最後で、ちょっと無理のある書き割りで登場するジローーーーーーーー!!
 どういうわけか、処刑場のシーンで急に屋内セットになっており、恐らくはミニチュアの岩山の上に、ギターを構えたジローの写真パネルを乗せる、強引極まりない映像になるのですが、ヒーロー登場における高さへの挑戦にこだわりの見えた作品だけに、最終回で何故こうなってしまったのか。
 「ダークの首領プロフェッサー・ギル! いよいよ最後の時が来たようだな!」
 「ほざくなキカイダー!」
 まあそれはそれとして、ジローが啖呵を切るとEDが流れ出すのは格好良く(近年特に、定番の演出が思考停止になる事への危機感や疑念もわかる一方で、“ジャンルならでは”の魅力、は大事に使ってほしいと思う次第)、宙を飛ぶ薙刀を次々とはじき返すジローの反撃により、四十数話に渡ってジローを苦しめてきた悪魔の笛、呆気なくリタイア。
 最前線で使うには、発動までのモーションが大きすぎました!
 「チェンジ! スイッチオン! 1・2・3!」
 半平の囮にまんまと引っかかっていた白骨ムササビが飛来すると戦いの舞台は屋外へと移り、アクロバットな格闘戦が展開すると、クロスカウンター気味に入ったデンジエンドが白骨ムササビの喉をかっさばき、ダーク最強の戦士は木っ葉微塵。
 ……結局、電気ショックで強化されたライジンキカイダーとは何だったのか。
 キカイダーに追われ、司令室に逃げ込んだプロフェッサー・ギルは、こうなったら光明寺と心中だ、と自爆装置のスイッチを入れると狂気の笑みを浮かべながら玉座に座り込み、次々と発生する爆発によりダーク本拠地が崩壊していく中、ヒーローによって完全に心を折られ、もはや焦点を失った瞳は闇の中に消えていくのであった――。
 ダーク組織の組織感、半分ぐらいはプロフェッサー・ギルの一人芝居で持たせていたところがあるので、最後の最後までその鬼気迫る表情に焦点を当てての、組織壊滅となりました。組織の首領としては問題が色々ありましたが、袖を振りながら悪魔の笛を吹き鳴らすシーンは非常に印象的な映像で、個人的には、『キカイダー』といえばこれ、のシーン。
 忘れられない名台詞は、
 「ええぃ! 専門的な説明はいらん!」
 です!
 ジローと光明寺一家が脱出に成功した直後、逃げ惑う多数のアンドロイドマンを道連れにしてダーク基地は大爆発し、ここにダークは壊滅。光明寺の生存によりジローの指名手配が取り消されると、ジローと刑事が握手をかわす和解シーンが描かれる異例のアフタフォローが入り……さすがに指名手配については、解決を明言しておいた方がいい、という判断があったのでしょうか。
 光明寺は、「いつの日か人間が、私の発明を正しい事のみに使えるようになるその日まで!」(ベ○トさん)みたいな事を言い出すと、しばらく外国でのんびり暮らそうと思っている事を皆に明かす。
 「おまえ達にはまだ言っていなかったが、スイスにうちが買ってあるんだ」
 いつ?!
 ダークに監禁されたのが5年前だし、逃走中は記憶が無かった筈だし、警察に出向くまでの間に買ったにしても不自然すぎますが、とはいえ光明寺は自分の研究について一度じっくり考えた方が良かったとは思うので、「私は更に研究を進めて、遠からずもっと完璧な人造人間を作り出すつもりです」とか言い出さなくてホッとしました(笑)
 ……なおこの時、光明寺が中断した研究の一部を受け継いだ佐原博士が、愛と平和の為に作り出した完璧な超巨大コンピューター、その名をブレインと言うトカ、言わないトカ。
 これまでの人生が人生なミツ子さんは、ジローとのいちゃいちゃ妄想を胸にスイスへの憧れに目を輝かせ、ちゃっかり生き延びた半平はしれっと荷造りに加わっていたが、平和を取り戻した光明寺家の団らんを見つめるジローは、一人、旅立つ事を決めていた。
 「博士、ミツ子さん達には、なにも言わずに行きます」
 「うん。私も、君の良心回路を、完全にしてやれなかった事だけが心残りだ」
 「いえ、僕はこのままがいいんです。欠点の多い人造人間のままで。完全な機械にはなりたくありません」
 ジローは、“作り出され、与えられた完全”である事よりも、“不完全ゆえに、苦しみ、痛み、それでも歩み続ける”事こそを、己自身の個と生の意味だと見出し、テーゼを強調する都合とはいえ、最後の最後まで、光明寺家の人たちにはジローの言いたい事がいまいち伝わらず仕舞いだったのですが、これはこれで一つの父殺しであり、ジローの真の旅立ちにとって、必要な通過儀礼であったのかもしれません。
 「ではこれからやはり修行に出るのか?」
 「はい。全国を回って、不完全な良心回路に負けない、精神力を身につけてきます」
 最後にものを言うのは、精・神・力!
 「君が来ないと知ったら、ミツ子やマサルがガッカリするだろうが……ま、私からうまく話しておこう」
 そして、博士は素も割と適当だな!!
 EDパートには結構な尺が採られ、半平に見送られてスイスへと飛び立つ光明寺家の中にジローの姿は無く、ミツ子さんのラストシーンは、悲痛な表情でジローの名を叫ぶアップ3連発、の悪魔の仕打ち。
 終盤割と活躍したのに、どういう事なの?!
 その飛行機を地上から見つめるジローに言葉はなく……
 機械の器は涙を流すのか?
 機械の心に愛は宿るのか?
 それとも機械は、人に代わって無謬の神となりえるものなのか。
 時計仕掛けの林檎を胸に、今はただ、ジローは征く、不完全な己を律する、心の筋肉を鍛える旅に。
 ナレーション「そしてジローは、今日から明日へ、そして未来へ向かって、力強く自分の道を進む。頑張れキカイダー! さようなら、ジロー!」
 地平線へ向けてサイドマシーンを走らせるジローの勇姿で、完。
 以前に次作にして直接の続編となる『キカイダー01』を見ていた為に、順序が逆転しての視聴となった『キカイダー』、どうしても『01』の印象がちらつきながらの視聴になったのがちょっと厄介だったのですが、変身ブーム最初期の作品として、後の東映ヒーロー作品にも様々な影響を与えていると思われる、主人公の造形、コメディリリーフ服部半平、そしてダークヒーロー・ハカイダー、といった諸々を見られて良かったです。
 特にハカイダーは、長らく『01』ハカイダーの印象だけだったので、原型を確認できて本当に良かったですが、そのハカイダー登場から7話で終わったのは、『ウルトラマン80』の学校編が1クールで終了、ばりの衝撃でありました。
 その後、『01』であんな事になったのに、東映悪のライバルキャラの金字塔としてその名を残したのは、この圧縮された切れ味によるところもあるでしょうか。そしてとにかく、シニカルな悲哀を背負ったキャラであったな、と。
 ただ個人的には、先に見てしまった『01』ハカイダーがある意味好きだった事と、その継承者ポジションのワルダーが印象深かった事もあり、今作通して最もインパクトのあったキャラクターは、光明寺博士(笑)
 東映ヒーロー作品らしい生粋のマッドサイエンティスト風味を漂わせつつ、それ以上にパーフェクトヒロインである、というのは度肝を抜かれる存在でした(笑)
 それから、中盤以降に戦慄のダークの女ぶりを見せたミツ子さんも、意外性が段々と好きなキャラに。
 また、如何にも持てあましそうなポジションだったのに、ジローとサブローの対比を鮮明にする役割も果たし、終盤に思わぬキーマンとなったマサルくんの使い方は綺麗に収まり、メタ的にはサブライターに致命的に動かしにくい大問題はあったものの、“撒き散らす災厄”も含めて、光明寺一家が、なかなか面白い存在でした。
 だいぶ頭が煮えてきたので、落ち穂拾いも含めて、簡単な構成分析(という程メリハリ無さそうなのが、ある意味、特徴ですが……)は早めに別項でと思いますが、以上ひとまず、『人造人間キカイダー』感想、お付き合いありがとうございました!