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君の心が震える場所

仮面ライダー響鬼』感想・第47話

◆四十七之巻「語る背中」◆ (監督:坂本太郎 脚本:井上敏樹
 ヒビキとイブキは湖畔で太鼓の特訓に励み、湖面の向こうに山の連なりを望む雄大な風景は、決戦を控え、『響鬼』の意地を見せた、とでもいう画。
 「イブキ! ……もっと強くだ。全身から響きを放たなきゃ、大地は清められないぞ」
 「はい!」
 そこへ巨大蜘蛛が襲来すると、二本のバチで挑む威吹鬼だが、苦戦の末に轟鬼が援護に入ってようやく撃破し……まあ銃使いに、いきなりこんな気の狂った間合いで戦いを要求する総本部がだいぶおかしいと思います!
 ……しかし、やむを得ない感じはありますが、OPには並べてみたものの、猛士所属の他の鬼の存在に全く触れられないのは、とにかく残念。せめて台詞だけでも、儀式を前に各地でオロチ魔化魍狩りに励んでいる言及ぐらいあっても良かったと思うのですが――「秩父では裁鬼が20体目のツチグモを撃破したぞ!」的な(笑)――その他大勢の鬼については轟鬼が一人で代表する形に。
 「調子良くないな。何か迷いでもあるのか?」
 「いえ。僕は鬼です。いつでも命を懸ける覚悟はできてます」
 「……戦った後、生きてなきゃ負けだぞ」
 命を賭すのはあくまでも生きる為だとヒビキは諭し、重い病気を抱えながらも精一杯生きる少女と明日夢はパネルシアターの約束をかわし、ヒビキは京介と明日夢の前で、敢えて変身せずに魔化魍に立ち向かう姿を見せると、生身のままバチから炎の剣を噴出する境地に達して、化け猫を成敗。
 「二人に、見せたかった意味ってのはさ……“鬼になる”っていうのは……変身するって事じゃないんだよね。怖いと思う気持ちと戦う、そういう事だと、俺は思う」
 “鬼”の姿は、あくまで一つの目に見える形であり、“鬼になる”とは、なによりも目に見えない心の在り方だとヒビキは二人に伝え……
 「ヒビキさんでも怖いと思う事って、あるんですか?」
 「……いつも怖いよ。だから、一生懸命鍛えてる。また、生きる為に」
 他者の構築してきた物語世界に、およそラスト1クール半だけ参加して一定の結末をつけつつ諸々のテコ入れと並行しながらキャラクターの行く末を描く荒行の事情もあってか、ヒビキのヒーロー像に関しては、ほぼほぼ『ファイズ』を引用するような形にまとめられる事に。
 「……また生きる為に」
 そんなヒビキの言葉になにやら思うところのあったらしい明日夢は、一大決心をすると、「鬼の修行を休みたい」と申し出る。
 魔化魍を倒して、人を助けるというのは、凄い事だって思うんですけど……ただ、世の中には哀しい事がもっと沢山あって……もし、力になれるんだったらって……」
 パネルシアターでの出会いを通じ、今の自分なりに人を助け、悲しみを減らす為に出来る事があると感じた明日夢は、今、自分がやりたい事を選び取ろうとし…………長かった、ここまで本当に長かった。
 明日夢くんの弟子入りに関しては、京介に触発されたり張り合ったりでどこか成り行きの部分が強く感じていたので(そういう「選択」が必ずしも悪いわけではありませんが)、「弟子入り」を経た上でようやく、明日夢くんが“自分が手を伸ばしたいもの”と“自分が手を伸ばす方法”は、目の前の力だけでなく世界に山ほどあるのだと気付き考えてくれたのは、嬉しかったところ。
 また、なんというか明日夢くん、鬼たちとの出会いや、魔化魍退治の目撃などはあるものの、“誰かを助ける為に命を懸けて戦う事”へのリアリティを持っているようには未だあまり見えなかったので――京介はこの点、消防士である父親への憧れを背景に置いているのが、巧い――、“鬼”になる為のリアリティを明日夢くんに持たせるよりも、明日夢くんの肌感覚に近いリアリティに辿り着くのは、個人的に納得度が高かったです。
 難点としては、京介には「父の死」というカードを配り、明日夢には「難病の子供」というジョーカーを切らざるを得なかった部分はありますが……少年は今、自分が後悔しない為に、誰かを後悔させない為に、生きるという道を歩き出す。
 「……明日夢、鬼の道っていうのは……迷いながら歩く道じゃない」
 「…………ちょっと待って下さい! ヒビキさん!」
 「……自分の生きる道を決められない奴に、なんの人助けができるんだ」
 それでもまだ、この選択が正しかったのか? 他にもっと最良の道があるのではないか? 人が生きていく上で当然の悩みを振り切れない明日夢に対して、ヒビキは敢えて、愛情をもって突き放す言葉をかけ、旅立とうとする少年に、師匠として最後になるかもしれないエールを送る。
 「俺には師匠が居なかったからさ……それでも自分一人で、鬼になった。……それがいつも、大きな自信になった。でも、何かを伝えたい奴が出来て、わかったことがあるんだ。……自分を必要としてくれている、人間が居るって」
 「うん」
 オロチを食い止める大地浄化の儀式を前に、イブキ×香須実、トドロキ×日菜佳、と男女カップルでの語らいが挟まれ、ヒビキさんの話し相手は、一応みどりさんが担当してくれました!(危うく勢地郎になるところに!)
 ……まあこの二人は気心は知れてるし、お互い憎からず思ってはいるけれど、二人で手を取り合って生きていくより譲れない大事なものがあって“そういう風に生きられない”みたいな関係ではありましょうか。
 「人を助ける事に一生懸命になれるから、俺は鬼になったんだ。人助けをして……また一生懸命生きて……人助けをして……そしてまた一生懸命生きて。俺はこれからもずっと、そうやって生きていきたいと思う」
 前期/後期の体制変更の招いた問題点として、一種苛烈な求道者の面を持つヒビキと、井上敏樹的人間賛歌の折り合いの悪さはあったように思われるのですが、
 〔少年に対する9割方完璧なメンター・人間としてはともかくヒーローとしてはほぼ無謬の存在・ライフ=ヒーロー〕
 と、井上脚本とは相性の悪そうだったヒビキさんは、人助けする事で人生に充実し、人生が充実しているから全力で人助けができる、人助け全力無限機関として着地。
 一方、パネルシアターの練習に殴り込んでくる京介……京介……!
 「おまえに何がわかるんだよ」
 「俺はな、おまえとちゃんと勝負して勝ちたかったんだよ! それなのに、裏切りやがって!」
 「おまえには関係ないだろ!」
 「……俺はおまえを許さない。絶対に許さないからな」
 場を滅茶苦茶にした京介は、ひとみとあきらにも止められて去って行き、面倒くさい、面倒くさすぎる京介は、とうとう激昂した明日夢くんが胸ぐら掴んで殴り合い寸前の事態を招き、キャラとしては明日夢の激しい情動を引き出す為の舞台装置の面が強すぎるところはありましたが、受け手に嫌われるのを承知で最後までそれを貫ききったのは良かったと思います。
 ある意味で、後期『響鬼』のガイドラインというか、京介を用いて明日夢にさせた事というのは割とストレートに、白倉-井上ラインが、「『響鬼』(明日夢)に必要だと思った事」だったのかと考えられ、明日夢と京介はこのまま仲違いしたままかもですが、それでも、“大切なものの為に誰かと戦う明日夢”をここで描いておきたかったのであろうな、と。
 己の存在意義を得ようと和服の男女に明確な反抗を見せた烏帽子童子と姫はエネルギー切れで自壊し、うーん……最終回まで様子見。
 ヒビキ・イブキ・トドロキは、浄化の儀式へと出発し、道中、魔化魍を見た気がする、とイブキ&トドロキと分かれたヒビキは、一人で石碑の元へ。
 太鼓担当問題は、ヒビキさんが最後の最後で独断専行して収まるところに収まり、石碑を太鼓に見立てて打ちまくると、大量の魔化魍軍団が出現。太鼓を叩きながら群がる魔化魍を打ち払っていくのは今作の特質への意識が強く見える気合いの入ったクライマックスバトルで、個人的には、ここで裁鬼さんや鋭鬼さんがしれっと助けに来ると滅茶苦茶熱かったのですが(笑)
 そして、夢のトリプル太鼓だ!
 ……残念ながら鬼の増援は置いていかれた威吹鬼轟鬼に留まり、生きる為に戦うが、生き残ったら揃って減給処分待った無し!!
 激しい乱戦の中、片手でバチ、片手でセイバーを手にし、太鼓を叩きながら魔化魍を切り刻む響鬼は、前期・後期の融合点といえる画となり、浄化の太鼓が大地に響き、明日夢は少女の為にパネルシアターで朗読を行い、第29話を意識したと思われる流れで、駆けつけた京介がバチを拾って響鬼にパスする姿で明日夢から京介へとバトンがタッチされ、乱舞する魔化魍、乱打される太鼓、大地の浄化や如何に?! で、つづく。
 ……オロチの始末や、童子・姫関連など、魔化魍との戦いはかなり強引に片付けていく流れとなり、ヒビキ周りの台詞も少々くどくどしくなった一方、超人に憧れ、超人と身近に接し、一度は超人の道に踏み込もうとした少年が、超人ならずとも、俗人のまま誰かに手を伸ばせる存在になろうとする物語としては、思わぬ美しい着地が見えた感があり、次回――最終回。