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金と宝と肉とセラピー

『騎士竜戦隊リュウソウジャー』感想・第9話

◆第9話「怪しい宝箱」◆ (監督:柏木宏紀 脚本:下亜友美)
 「「さ、札束!?」」
 君らほんと、変なところ俗っぽいな……。
 室内でフォーメーションの訓練中に揉めたコウ達は、Youtuber父に息抜きを勧められてリアル宝探しゲームに参加する事になるが、謎の宝箱に飲み込まれ、他の参加者ともども不思議な空間の中に誘い込まれてしまう――。
 「もしかして……ドルイドンの罠?」
 「それは考えすぎじゃない?」
 超常的な敵を相手にしている筈なのに不可思議な状況に行き会った際に敵の関与を否定して話を進めてしまう、というのは戦隊シリーズに限らずままある典型的な失策(或いは故意の見ないフリ)なのですが、前回今回と、ありがちな故に避けたい失点、で確実に床を踏み抜いてくるので、スタッフへの信頼ゲージがめきめき下がらざるを得ません。
 「宝探しゲームて、ファンタジーな感じだと思ってたけど、リアルガチなんだね」
 今目の前で起こっている現象は、明らかにファンタジーだけどな!
 この辺り、世界観がザル(故にキャラのリアクションもザル)なのか、リュウソウ族はスキルソウルで割と何でもありなので不可思議現象への許容範囲が広い(デフォルト魔法あり世界の住人的な)のか、何とも言いがたいところはありますが、後者の場合、ニンゲン社会とリュウソウ族価値観のギャップ描写や摺り合わせ作業を積み重ねてこそなので、説得力の薄さは如何ともしがたく、立ち上がりに地盤の整備をせずに建築を始めてしまった事のダメージが響きます。
 望みを叶える箱を開き、アスナは無限焼き肉三昧、トワは百人組み手の雑魚エネミーに大興奮。「俺はもっと広い世界が見たい!」(を拾ってくれたのは良かった)と箱を空けたコウは空を自由に飛び回るが見えない天井にぶつかり、事ここに至って、慎重派のメルトの話を聞いて不思議な世界を調査する事に。
 なお、焼き肉食べ放題と、組み手チャレンジの二人は、がっつり放置されました。
 その頃、めっちゃ肩をいからせながら商店街を歩いていたバンバ(明らかにカタギでは無いが、実際、家の中で段平振り回す人なのでカタギではない)は、滅茶苦茶に荒らされた骨董品屋の中で倒れていた店主を助け、古い箱が一つ、盗まれた事を知る。
 一方、宝探しワールドが一定の範囲で封鎖されている事を確認し、ヒャッハー、壁破壊だー!! とポストアポカリプス物に登場するチンピラ的な満面の笑みでリュウソウ剣を振り上げたコウはメルトに止められる。
 「いらない危険は回避すべきだ! おまえはいっつも、考え無しに行動する」
 「メルト、考えるよりも行動が大事な時があるんだ」
 不満げなコウは、ウジ虫を見るような視線をメルトに向け……えー多分、耳にたこができるほど聞き飽きた、というニュアンスを表情で示したかったのかとは思うのですが、停止線を遙かに踏み越えて蔑みソウルになってしまい、これはメルトもこじらせるよな、と別の納得感が。
 「あいつらは何も見えていない」
 「何も見えていないのはおまえだ! メルト」
 方針の違いから決裂し、森を歩いていたメルトの前に現れたのは――マスター・ブルー。
 「メルト、おまえは仲間に信用されていないと思っているのか? おまえは仲間を信用しているのか?」
 コウ達が自分の意見に耳を貸さずに突っ走るのは、自分の事を信用していないからではないか……とやさぐれていたメルトは、かつての師から、それは裏を返せばコウ達の行動をメルトが信用していないのではないか、と痛いところを突かれて沈黙。
 「おまえが注意深いのは、おまえが仲間を誰よりも大事に思っているからだ。あいつらは、おまえが心配するほど、頼りないのか?」
 マスター・レッドの「無言でしゃがみ込んで背中を向ける」に続く、マスター・ブルーのナンパテクニック!
 それは!
 3秒で論点ずらし!
 「仲間を大事に思っているから注意深い」を「頼りないから心配している」にすり替え、そもそも「心配する」のは「信用していない」からではないか、とメルトの心の隙間をグイグイこじ開けてくるマスター・ブルー。このままでは霊験あらたかな壺を買わされてしまう! だがその時、ドルイドン兵、そして犬とイカの再生マイナソーが出現。
 「自分を信じろ! おまえが欲しかったものは、それは自信だ」
 そしてそんなおまえにお薦めなのが、この、持っているだけで自信が付くブレスレット。俺はこれで、宝くじの3等を当て、彼女も出来た。今なら、勇気の出る首飾りもつけて、29,800円、29,800円の大奉仕価格で提供します。
 じゃなかった、マスターのエールを受けて奮い立ったリュウソウブルーは、スキルソウルを駆使して二体のマイナソーを同時に撃破。歓喜と共に振り返るとマスターの姿は消えており、後には、開け放たれた宝箱が。
 果たして、メルトが目にしたマスターは、宝箱の効果に過ぎなかったのか? その場合、メルトがマスターの姿形を借りて、自分の心の迷いを突きつつ、自分が言ってほしい事を自分自身に言わせるセルフ心理療法を行っていた事になりますが、メルトは宝箱の底に何かを発見する……。
 その頃、またも鼻をくんかくんかさせていたバンバは盗まれた箱を発見し、そこに居たドルイドン兵士を撃破。
 宝探しワールドでは、すっかり狂戦士状態の緑がねむソウルで止められ、そこは言ってくれるなという部分ではあるのでしょうが、リュウソウジャーの状態異常系ソウルは、対象をあっさりと戦闘不能にして、強すぎて怖い。
 食べ放題チャレンジ中のアスナは「マイナソーだ!」の言葉で正気に戻り、赤青桃が合流。何かに気付き、マイナソーそっちのけで地面に図を書いて考え始める青を、赤桃がマイナソーから守って戦い……これを“培われたお互いの信頼感”として見せるには、「赤桃が考え無しでやらかす(のを青がそっとフォローする)」「青が状況を無視して自分の思考に没頭してしまう(のを赤桃がそっとフォローする)」という、互いのマイナス面を事前に描いておかないと効果的にならないのですが、「考え無し」も「考えすぎ」も台詞のやり取りでしかなく具体的な失敗例が描かれていないので、実は互いに上手く(無自覚に)補い合っていた、というのがまるで劇的にならない、のが残念。
 今回、監督も脚本も初見だったのですが、またしても今作の負の特徴である“仕込み不足で肝心の瞬間が劇的にならない”にはまってしまっており、省略してはいけない部分の判断ミス、という病が『リュウソウジャー』の全身に広がっております(とすると、プロデューサーの方針やセンスの問題になるのか……)。
 犬とイカの再生マイナソーは、宝探しワールドに取り込んだ人々の感情を吸い取って巨大化し、同時撃破の手段を練る青は、とにかく端からヒャッハーしようとする赤と桃を一喝。
 「行動だけでは! どうにもならない敵もいるんだ」
 「なにか……考えがあるんだな」
 前回、行動するだけ行動して周囲にフォロー丸投げしたのを「最高の仲間だから(なんとかしてくれると)信じていた」と宣ったコウが、メルトの話を「聞く/聞かない」の基準がどうにもよくわからないのですが、とにかく本人は自分のやりたい事をやりたいので、壁破壊を止められて仲違いした際に本気で背を向けて怒られると「全然そんなつもりじゃなかったのに」と慌てる、の延長線上にしか見えないのが困ったところ。
 今回のコウはいわば“大きな悪ガキ”として描かれており、それでも周囲が助けてしまう、助けられると笑顔で「最高の仲間だ!」という姿にほだされてしまう、というところに“天然の人たらし”なり“いい意味でのガキ大将気質”なりというキャラ造形の狙いは覗け、7-8話の見せ方からも、コウの無邪気さ・天真爛漫さをどうキャラクターとして表現していくかに一定の指針が定まってきたように思われますが……個人的にこの、“ガキ大将気質”というのは作り手のノスタルジーに思え、果たして、そのノスタルジーは的を射ているのだろうか、というのは考えるところです。
 まあそもそも、私は的ではないので、これが時代感覚を掴んでいるのならそれはそれで良いのですけれども、なんとなく、“こんな理想のガキ大将”が一人歩きしているのが、今作における「ヒーローとしての」足場固めの不足に繋がっているような気はしてならず。
 それと基本的なところでは“人たらし”をあまり巧く描けているようには思えないのですが、同じ人たらしならば“天然のガキ大将系”よりも、“人間的圧力の強いカリスマ型”に説得力を感じるのは、趣味嗜好の問題ではありましょうか。
 そう考えると、前年『ルパパト』のルパンレッド/夜野魁利の「作り笑顔で他人の心に潜り込む」というのは、W戦隊構造ならではの“人たらし”像であり、そこから翻って“他者と正面から向き合う事ができない”キャラクター性と繋げていったのは改めてお見事でした。そして振り返ってその系譜を辿っていくと行き着く、ボウケンブルーの闇が果てしなく深い。
 トワがぐっすりと寝っ転がる中、3人のリュウソウジャーはメルトの指示で巨大マイナソー×2を囲む、三方に位置。
 「これ大丈夫?! 誰かやられたら、成立しないんでしょ!」
 「大丈夫だ! おまえらを…………信じているからな!」
 「よーし! 俺達の騎士道、見せてやる!」
 マスター・ブルー(を通した自己の内面?)との対話を経て、自分自身を信じる事で、仲間を信じる自分自身を信じる、という集約はオーソドックスながら悪くなかったのですが、なまじ200歳超え設定にしてしまった為、幾ら実戦経験が無かったとはいえ、3人の関係は200年経ってそこなの? という疑問は付きまとわざるを得ず、オーソドックスな「若き戦士達の未熟さと成長」をべースにしたプロットと、変則的な自称209歳が正面衝突し、本当に必要だったのか、自称209歳(リュウソウ族の年齢の数え方は、人類と違う、というしょうもないオチを危惧中)。
 騎士竜を呼び出したリュウソウジャーは、三方同時攻撃から青主体のリュウソウ合体で、人相悪めの騎士竜王青となり、同時ストライク。そして、異空間が“宝箱の中”である事に気付いた青により、虚空に隠された鍵穴を内側から開く事で、宝探しワールドからの脱出に成功する。
 だが異空間を体内に持つ宝箱マイナソーは未だ健在……その時、ドルイドン兵を薙ぎ倒して盗まれた小箱を手にした黒が姿を見せる。マイナソーの素体は人間ではなく、付喪神と化した古い箱だったのだ!
 「この箱庭は、骨董品屋でずっと眠っていたんだ。誰にも開けられずにいたマイナスな感情が、マイナソーを生み出した。よって――」
 リュウソウブラックは、放り投げたその箱を一刀両断。
 「これで一件落着だ」
 ら、落着……?
 物 < 人命、なのは普通の人間としては当然の判断基準なのですが、これはヒーローフィクションなので、「マイナソーを生み出すほどの感情を有する」事を認めた上で、箱をあっさり破壊――物語的にはもはや斬殺――するブラックと、それを笑顔で受け入れるリュウソウジャーの姿は、120%大事故。
 前回、増えソウルで増やした騎士竜を囮として平然と爆殺していた事からも、物質に価値を見出さない価値観が一貫しているといえば一貫してはいますが(とはいえリュウソウ族はむしろ、物質が魂を宿す事を受け入れそうなわけですが……)、そこで“箱の感情”に想いを馳せてこそ生じるヒーロー性を窓外放擲し、3-6話で繰り返したテーゼもドブに投げ捨て、事故を起こさずには居られないのか『リュウソウジャー』。
 今作、「省略してはいけない部分の判断」に問題があるのではないか、という事は繰り返し書いていますが、「常識と非常識の持ち出し方」にも問題を感じ、いつどこで何をする事でヒーローはヒーローたりえるのか、という確固たる指針――いっそ、信念、といってもよい――が見えてこないのが、私が今作に入り込めずにいる要因の一つであるやもしれません。
 ホントいっそ、マイナソー抹殺すべし、という血に飢えた戦士集団だったリュウソウジャーが、Youtuberらとの出会いを通じて“人の心”を得ていく物語、とかの方が個人的にはすんなり楽しめたかも(笑)
 一同揃っての帰路、宝箱を開けなかった事をからかわれたメルト(メルトもあっさり罠にはまっていた場合、焼き肉を食べ続けて死んでいた可能性が高い事を全く自覚していない風のアスナが脳天気と呼ぶにはだいぶ辛い……)は足を止め、握りしめていた手を開く。そこにあったのは、宝箱の底で見つけた、 自信が付くブレスレット かつてメルトが、マスター・ブルーに渡したお守り。
 「宝箱にこれがあったという事は…………あのマスター・ブルーは本当に……」
 幽霊だった。
 ……いや、メルトが自分の意志で宝箱を開けていたのかどうかも含め、真相が明確にされない幻想的なオチ自体は好きなのですが、今作の世界観だと、青ソウルに宿っているマスターの霊魂がマイナソーの能力を利用して亡霊として登場した、という解釈に一定の筋が通ってしまう為、一周回ってファンタジー感薄れるのが、困ります(笑)
 回想シーンのメルトの、子役は使わないながらも恐らく今よりもかなり若い頃の設定だと思われる純朴そうな笑顔、はマスターへの敬意と合わせてメルトの隠れていた一面を引き出して、良かったですが。
 その後、脳まで豚カルビな2人組に、「考えすぎじゃない?」「行動が大事でしょ」「一人じゃ何もできない癖にー」と蔑みソウルされまくっていたら、それは顔面表情筋も活動を最小限にしていくわけです。
 脚本・監督ともに初見でしたが、初期ノルマを片付けようやくスタンダードなキャラ回にあたって、改めて騎士竜王のバージョン違いを見せる都合から赤青桃の3人中心で展開。異世界を彩る奇怪なオブジェ群のデザインセンスが良く、軽妙なテンポで映像的な楽しさを優先した宝探しワールドの見せ方は良かったですが、話そのものはこれといって特筆すべき巧さは無し。
 巧いシナリオだと、「マイナソーの素体は小箱の想いでした」という真相と「宝箱の底に残っていたマスターブルーの残滓」から逆算して、“物と人の想い”という要素を序盤から散りばめてエピソードを貫く芯にするぐらいは見せてくれるわけですが、そういう面ではラストの箱破壊は、単独の事故という以上の無神経さも感じてしまうところです。
 とはいえ、書けるところまでメイン一人で行くつもりなのでは……という悪夢も脳裏をよぎっていたので、無理に5騎士に持ち込まなくていいなど要素を削ってまとめやすそうなエピソードで、という初参戦ライターへの配慮を感じる点も含め、早めに別の脚本家が入った事は前向きに捉えたい点。
 一方、初期3人中心というオーダーかつ、メインライターが書いていないので手出しのしようもない、という事情はありそうですが、相も変わらず、青桃と黒緑の距離感が一切不明のままの悪夢的状況で、とにかくエピソードの内容が騎士竜王のスケジュール中心に組まれているのは仕方ないのですが、それならそれで、メルトに黒緑を絡ませる努力はしなくて本当に良かったのか、というのは今作の構成全体に関する根深い疑問。
 監督が既に5人目、というのがこれに拍車を掛けていると思われ、1クール目に6人の監督が入った結果、立ち上がりに演出面での人間関係の掘り下げで大きく後れを取った『ゴセイジャー』を思い出してしまうのですが、試運転かつ安全運転で『リュウソウジャー』としてのハードルは越えたものの、新しい驚き、といえるのが回想シーンのメルトの笑顔ぐらい、という点は、残念でした。
 次回――素体のドラマ再びで、果たしてどう転ぶのか。