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今年ここまでの最お薦め

<名探偵の証明>シリーズ(市川哲也)、読了

 「Calling。意味は使命。オレたちはなぜ事件と縁が切れないのか。それは使命だからだ。オレにしか、探偵にしか解けない事件がある。そんな事件を解決する使命を、オレたちは与えられているんだ」

◇『名探偵の証明』(市川哲也


 かつて、快刀乱麻の活躍で一世を風靡した伝説の名探偵・屋敷啓次郎。その全盛期から十数年が過ぎ去り……とある事情から表舞台を退き、今ではひっそりと暮らす老いた名探偵の元を、かつての相棒・武富竜人が訪れ、現役バリバリのアイドル名探偵・蜜柑花子との対決を持ちかける――。
◇『名探偵の証明-密室館殺人事件-』(〃)
名探偵の証明 密室館殺人事件

名探偵の証明 密室館殺人事件


 伝説の名探偵・屋敷啓次郎に心酔するミステリ作家・拝島登美恵によって監禁された男女8名。拝島は、自身の作品をモデルに建築したその館――密室館において、自ら考案したトリックにより実際の殺人を行うと宣言。解放の条件は、拝島の殺人トリックを、論理的に解明し、拝島を納得させる事。果たして、8人は生きて館を脱出する事は出来るのか……。
◇『名探偵の証明-蜜柑花子の栄光-』(〃)
名探偵の証明 蜜柑花子の栄光

名探偵の証明 蜜柑花子の栄光


 6日の内に指定した4つの未解決事件の真相を解き明かさなければ、人質を殺す――その要求に従い、日本各地を車で移動しながらの推理行脚を強いられる名探偵・蜜柑花子。迫るタイムリミット、積み重なる疲労、追い詰められていく花子は、全ての謎を解き明かして人質を救う事が出来るのか……?!
 社会的に“名探偵”という存在が認知され、その事が少なからず社会に影響を及ぼしている世界で、新旧の名探偵が交錯する第1作、密室×デスゲームを通して探偵と事件関係者という存在を掘り下げていく第2作、タイムリミットサスペンスの構造を取り入れながら、探偵をどこまでも追い詰めていく第3作……いずれも、実のところ一作一作がミステリ的に凄く面白い、という程では無かったのですが(相応に面白いですが)、三部作のシリーズ作品として大変見事な出来映えで、特に3作目のクライマックス、ある登場人物が立ち向かっていたものの正体が明かされるシーンが非情に素晴らしく、私と似た趣味嗜好の方には、手放しでお薦め。
 つまり今作は○○○○○なのですが、お薦めの肝であるそれを明かしてしまうと、あまりにも読み方にバイアスをかけてしまいそうなので明かせないのがもどかしいのですが、つまり○○○○○なんですよ!(という伏せ字から何となく伝わってしまう気がしないでもないですが)
 このところ、何故か立て続けにそういう作品にあたっていますが、劇中の名探偵・屋敷啓次郎が自伝小説『名探偵の証明』を出してベストセラーになっているなど、「ミステリ小説における名探偵」のメタファーが、実際に存在して認知されている社会、というIFに基づいた世界観になっており、後期クイーン的問題を正面から視野に入れ、登場人物を通して積極的に語る事で“物語”の要素として取り込んでいくメタ構造。
 この辺りは好き嫌いの出るところでしょうし、特に2作目は実在の作家や作品名からフィクションの名探偵の名前までが次々と登場し、鮎川哲也賞の宣伝を始めたのはさすがにやり過ぎだと苦笑いしましたが(シリーズ第1作は、第23回鮎川哲也賞受賞作)、最終盤の仕掛けが面白かったので、まあ良し。
 そしてとにかく、1-2作目を踏まえての3作目のクライマックスが素晴らしく、長編3作目のラストが素晴らしい!という勧め方は我ながらどうかと思うものの、非常にお薦め(2-3作目も文庫化されないものか)。
 “名探偵の使命”というのがシリーズ通して一つ大きなテーゼになっているのですが、それに対して○○○○○○が出てきて、○○○○○という、もう完全に○○○○○として素晴らしく、この男は何を言っているんだ、という感じですが、趣味嗜好に突き刺さる、満足度の高いシリーズでした。

◇『屋上の名探偵』(〃)


 最愛の姉の水着が盗まれた! 怒りに震える俺・中葉悠介は現場に残された証拠品から有力な容疑者に辿り着くが、その人物には完璧なアリバイが。困った俺は藁をも掴む思いで、抜群の推理力を持つと噂される転校生に会いに行くが、口数少なく、独り屋上で弁当をつつく彼女は、何故か推理を口にする事を拒むのであった……。
◇『放課後の名探偵』(〃)

 中葉の落とし物が思わぬトラブルを招き、ミステリ研究会の部長は理想のダイイング・メッセージを実現しようとし、蜜柑にはクラスメイトの悪意が向けられる……3年に進級した中葉と蜜柑の周囲で起きる、4つの事件の結末に見える景色は――。
 そして、蜜柑花子の高校時代を描く連作短編集が2冊。こちらは学園青春ミステリ×日常の謎×ラブコメ少々、と長編シリーズよりソフトな内容になっているのですが(シビアな部分もありますが)、この2冊目のラストがまた素晴らしいのです。
 探偵が最後に真相に辿り着いた理由が会心で、○○○○○として最高の着地。
 『放課後』は連作短編集としての出来もよく、なんなら、長編第1作→『屋上』→『放課後』のルートもありかと思うのですが、とにかく長編『名探偵の証明』を踏まえた上で、『放課後』のラストに辿り着いていただきたい、そんなお薦めのシリーズ。
 大変良かった。