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5月の読書メモ

初夏の北山猛邦

 『猫柳十一弦の後悔』が面白かったので、どさっと北山猛邦を読んでみました。

◇『踊るジョーカー』


 ミステリ作家・白瀬は、事務所の一部屋に、大学時代からの友人を居候させている。その居候こそ、白瀬の小説に登場する探偵のモデルにして、警察関係者も一目置く、本物の名探偵・音野順。だが音野は事件に関わるどころか外出さえ嫌がり、放っておくと暗い部屋でひたすらドミノを並べている、極度に気弱で人見知りなのであった……。
 引きこもり気質の探偵と、そんな探偵に日の当たる場所で才能を発揮してほしいと願う相棒による、名探偵音野順の事件簿シリーズ1。
 探偵コンビのキャラクター性で引っ張っていくタイプの短編集で、各短編の出来はそこそこといった具合でしたが、時計だけが盗まれる怪事件から、雪だるまが犯人の殺人事件? などバリエーションが豊富なのは楽しく読めました。
 名探偵らしからぬ人物を名探偵に据え、“運命を変える力を持つ者”としての名探偵を、前向きに捉える語り手(白瀬)と、それは恐ろしい事なのではないかという惑いを抱える探偵(音野)の対比から、“名探偵とは何か”というテーゼにアプローチしているのは、『猫柳十一弦の後悔』にも見えた要素なので、作者の一つのテーマ性なのかもしれません。
 或いはこれは、後期クイーン問題、そしてポスト新本格におけるメタ的なミステリ認識における、共時的なテーマ性、といえるのかもですが。

◇『密室から黒猫を取り出す方法』
 名探偵音野順の事件簿シリーズ2。
 密室に闖入してしまった黒猫により完全犯罪計画が破綻する犯人の焦りを描く表題作の他、停電の夜の殺人計画に生じた思わぬ綻びを犯人視点で描く一編など、今作もバリエーションが豊富。作品のタッチはユーモア調ですが、ミステリとしては正攻法の内容で、ぼちぼち面白かったです。

◇『猫柳十一弦の失敗』


 「成人までに娘が結婚しなければ、一族を追放する」――山深い村に住む旧家の令嬢に村の因習にまつわる脅迫状が届き、相談を受けた探偵助手見習いの君橋と月々はこれを無事に解決……した筈だったが、詳細を知った名探偵・猫柳は、殺人事件が起きる可能性を指摘し、それを止める為に村へと向かう!
 猫柳十一弦シリーズ2。
 前回が「絶海の孤島」なら今回は「奇怪な伝説の残る山村」だ! という事で、定番の状況設定そのものが作品としての仕掛けになっており、そこに触れると割とネタバレしてしまうので内容に言及しにくいのですが、タッチは軽妙ながら、テーマ的にはだいぶゴテゴテしたメタ・ミステリ。
 前作で提示された要素を押し進めた結果、かなりややこしい事になっておりつつ、その当然の帰結を如何にして物語として面白く読ませるか、というところに作者の挑戦的意図があるように思え、メタ的な構造やテーマ性を、あくまでも“物語”として描こうとするのは、好きな部分。
 また、なんだかんだ私はキャラクターが気に入るとそこで読めるので、前作から引き続き、語り手と探偵のキャラと関係性に好感が持てて面白く読めました。
 今作の刊行が2013年で、2019年5月現在、シリーズ続刊は出ていないようですが、第3弾が出れば読みたいシリーズ。

◇『私たちが星座を盗んだ理由』


 片思いに悩む女子高生、妖精の学校で目を覚ました少年、他人の携帯電話を拾った男、石となった幼なじみを救おうとする青年、夜空から星座を一つ盗んだ少年……現代ものからファンタジーまで、謎めいたお伽噺を集めた短編集。
 なにぶん、文庫のあらすじ部分に「驚愕のどんでん返しが待つ」「ラストの数行で残酷に反転する衝撃は、快感ですらある」と力強く銘打って読む側のハードルを上げてくるのですが、やはり“そういう物語”だと思うとある程度持っていく方向は見えるし、身構えた分、それを乗り越えられたかどうかの心理的判定も厳しくなるので、性格にもよるとは思いますが、あまり煽りすぎるのもどうなのだろう……と思った次第。
 コンセプト的に、あまり好みではなさそうかなぁと思ったら、やはり好みではありませんでした。

◇『先生、大事なものが盗まれました』


 灯台守・御盾・黒印……それぞれ特徴を持つ三つの高校を有する凪島で存在を囁かれる、伝説の大快盗・フェレス。形のないものさえ盗んでしまうというフェレスが犯行を宣言したカードがアートギャラリーに残され、灯台守高校に入学した雪子は、幼なじみ2人と共に、フェレスが“何を盗んだのか”の謎解きに挑む……。
 現在をベースにしつつ、どこかファンタジックな要素を持った世界で、物質以外のものさえ盗んでしまう快盗が、いったい何を盗んだのかの謎を追うミステリー。ファンタジー設定の使い方が巧く、独特の世界をベースに独特のルールに挑む独特の謎解き、が成立しており、第1話の後半はまさかの○○○○○○物になってしまうのですが、その流れも鮮やかで楽しく読めました。
 『猫柳十一弦』もでしたが、人間関係における距離感の描き方が気持ち良く、そこはかなり好み。
 残念なのは、思い切り「続く。」と銘打たれているのに、3年経った現在、続刊が出ていない事。

 なかなか面白かったので、次はデビュー作を含む《城》シリーズを読んでみたいと思います。