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鋼の鼓動、背負うは魂

仮面ライダーV3』感想・第44話

◆第44話「V3対ライダーマン」◆ (監督:内田一作 脚本:伊上勝
 子カメ爆弾に囲まれ、デストロンガスを浴びて絶体絶命のライダーマンはV3によって救出されるが、執拗に二人を追うカマクビカメ。
 「私に任せて、逃げろ!」
 「断る。おまえこそ逃げろ」
 「馬鹿な! 今は個人の目的で、戦う場合か。行け!」
 デストロンという巨大な悪と戦う為に私情にかまけるな、と先輩ヒーローとして心構えを語るV3だがライダーマン聞く耳を持たず、背後からロープを伸ばしてV3の足を引っかける、タチの悪い嫌がらせ。
 「待て! ヨロイ元帥は俺の力で、倒す!」
 復讐にこだわるライダーマンだが、屋外緊急手術による実験装備を用いた部分改造ではスペック不足は否めず、体当たりを軽くはじき返されたところを、逆に伸びる首の噛みつき攻撃を受けて大ピンチ。
 ニューヒーロー誕生の文脈で登場したライダーマンですが、私情を優先して公の大義の為に戦う事をしない精神性と、その為にはV3の邪魔をも辞さない立ち位置により、デザインから明確に仮面ライダー未満”の存在として一線が引かれると共に、主役ヒーローを決して脅かさない戦闘力を宿命づけられているのは、なかなか因果な生まれ。
 助けに入ったV3は、ひっくり返したカメの首にキックを見舞う荒っぽい残虐プレイを見せるも、なにぶんV3キックなのでさしたるダメージは与えられず、二人は別々に逃走。
 「なんだと? ライダーマンになった結城丈二が、ライダーV3の邪魔をしたというのか」
 この顛末を知った首領は、ライダーマンを上手く利用してV3を倒せ、とヨロイ元帥に指示を出し、命令を受けた鎌首カメは子カメ爆弾で団地に毒ガス攻撃をかける。
 久方ぶりに少年ライダー隊が友達の家に遊びに来てこの現場に居合わせ、
 「あ! 倒れてる! 死んでいるぞ! 団地が全滅だ!」
 が淡々とした棒読みの為に、変な破壊力(笑)
 ライダーマンの行動に困惑を深めていた志郎が団地全滅の報告を受けて現場へと向かうと、すわデストロン絡みの事件に違いない、と結城はその後を追い、誕生時点からバックアップに恵まれていたV3に対して、復讐のみに生きようとするライダーマン組織力を持たない一匹狼ポジションとして一種の原点回帰を孕むのが妙味。
 団地の惨状を確認した志郎は足跡に気付いて身を隠すと、後からやってきた結城が、生き残った赤ん坊の泣き声に気付いてあやしてみせる姿に、ますます困惑。
 (いったい何者なんだあいつは)
 ……まあ、割と最近まで、デストロンのカ学班でぶいぶい言わせていた極悪人なんですけどね!!
 (毒ガスの匂いに混じって、デストロンの匂いもするぞ)
 救出した赤ん坊を背負って病院へ向かおうとする結城は、自分の事は棚に上げると、腐ったデストロンどもの匂いがプンプンするぜーーーと言い出し、その結城に襲いかかる戦闘員。
 「泣くなよな。すぐ片付けるからな」
 徒手空拳で戦闘員に立ち向かう結城だが、急速にその動きが鈍り……なんと背負った赤ん坊は、体重1トン近い鎌首カメの化けた姿だったという、子泣き爺アクションで、デストロンが妖怪から離れられません。
 「待っていたぞ、結城丈二!」
 「ライダーマンとして戦うまでだ」
 デストロンの科学力によりマスクを召喚できるようになった結城はライダーマンへとメットオンし、タイミングを図って格好良く高笑いしながら現れる為なら割とどんな所にでも潜んでみせる男・風見志郎が、高い所からそれを見ていた。
 ライダーマンはロープアームで団地の屋上へと退避して体勢を整え直そうとするが、とにかく先回り能力の高いカメがまたも屋上に待ち構えていたところで、更に高い所から満を持して現れるV3!
 「待て! 罪も無い人々を、何人殺せば気がすむのだ!」
 「地上の人間全てだ!」
 だが、繰り出したV3キックは空中でライダーマンのロープに阻まれ、「猪突猛進」の四字熟語が似合う男だったライダーマンが、場を物凄い勢いで引っかき回していきます(笑)
 「ライダーマン、ライダーV3と、どっちが戦う?!」
 「もちろん私だ!」
 割と頭脳回路の優秀なカメの巧みな挑発にまんまと乗せられたライダーマンは、V3の制止を受けるが、「デストロン」の単語にますますヒートアップ。
 カメに掴みかかっていくライダーマン、それを止め、かばいながらの戦いを余儀なくされるV3は、首領の思惑通りに100%の戦闘力を発揮できず、バランスを損ねると結城が本当にただの嫌な奴になってしまいますが、二人のライダーが並びつつ、私情優先でスムーズに共闘できないもどかしさは、下降線を辿っていた今作が浮上する面白いスパイスとなって、カメの攻撃で落下ダメージを受けた二人は、一時撤収。
 戦場を離脱した結城丈二は、兄の墓に手を合わせる片桐妹の姿を遠くから見つめ、墓参りのシチュエーションも、意図的に第2話をなぞったところでしょうか。
 「僕が生きていられるのはみんな君たちのお陰だ……だが、君たちはもうこの世の中には居ない……。ヨロイ元帥め……!」
 ……片桐兄の墓の横に、他の助手の墓も並んでいるのが、凄く、東映名物:勝手にお墓感はありますが、結城の復讐心を、身内の裏切りで排除されそうになった自身の事のみならず、命がけで結城を助けた3人の助手たちの為にもとしたのは非常に巧く、赤ん坊を助け出そうとした事を含め、ただただ私利私欲の為に動く人物ではない事を見せていくと共に、前回の「結城さーーん!」「我々の仇をー!」も効いています。
 「ヨロイ元帥め……僕は、僕の手で貴様を、倒してやる!」
 右手に新たな重みを乗せて、復讐の炎をたぎらせる回想から我に返った結城の横には、いつの間にやら風見志郎が立っており、互いの正体を突きつけ合う二人。
 「君もデストロンと戦っている。一緒に力を合わせて――」
 「協力は断る!」
 「断る?」
 「僕はデストロンの為に、僕のこの手でヨロイ元帥を倒す。……僕はデストロンを信じていた。ヨロイ元帥は悪い奴だが、仲間だと思っていた。それを奴らは……僕を死刑にしようとした。死刑にだ! 信じていたものに裏切られた哀しみが、どんなものか、あなたにはわかるまい」
 結城は、あくまでもデストロンの一員として、デストロン内部の健全化の為にヨロイ元帥を排除しようとする立場を貫き、流用脚本4本の中では比較的面白かった第41話における、「正義を信じてデストロンに与していた志郎友人」の存在が、結城の言動に説得力を与える思わぬ布石に(これを狙ってやっていたのならば前後3本の流用脚本にも、もっと気を配るでしょうから、奇蹟的なシンクロぽくありますが……)。
 「見ろこれを! これは僕の哀しみの姿だ! こうしてしか生きられなかった、憎しみの姿だ!」
 結城は取り外した右腕を志郎へと突きつけ、アップを多用した激しいやり取りの中で、押しも押されぬ切れ長の美形である風見志郎/宮内洋の向こうを張って見劣りしない、知性派の二枚目としての結城丈二/山口暁が、実に好キャスティング。
 「結城くん……君のような男が、この世の中にただ一人だと思うな!」
 鉄に変わった右腕ごと、哀しみと憎しみに魂を支配された結城丈二に向け、志郎は自らがデストロンによって受けた傷跡を明かす。
 「俺は両親を……そしてたった一人の妹まで、デストロンに殺されてしまった。……見せてやる。……俺の今ひとつの姿を……変身――V3!」
 格好良く手袋を投げ捨てた志郎はV3へと変身し、抑えたBGMで墓地を背後に立つ勇壮さゼロの変身が、デストロンの生み出し続ける墓標を背負いながら戦う異形の戦士の姿を鮮烈に描き出し、ライダーマンと対比する事により、その原点となった情念を始め「仮面ライダーV3とは何者なのか?」を改めて強調する事が出来たのは、実に見事な連動となりました。
 V3の資料映像や身内の改造人間ぐらいは日常的に見ていそうなものですが、その気迫に押されたのか、或いは(や、殺られる……?)と感じたのか、V3の姿にたじろぐ結城は、後ずさり。
 「私の体は、普通の人間の血は流れていない。たった一つ残っているのは、元の姿で残っているのは、頭脳だけだ! 結城くん! 改造人間としての、この苦しみ、悩みは君にもわかるはず。個人の復讐は忘れるんだ!」
 デストロンに運命を狂わされた改造人間同士、私情は捨て公の正義の為に手を取り合って戦うべし、という志郎の理屈は結城からすると飛躍もいいところですが、つまるところこれは、志郎にとっての裸の付き合いというか、全てをさらけ出す行為というか、緩いようで意外と他者に正体を明かしたがらない風見志郎の抱える、本質的な忌避感(時代的には、「親に貰った体」観念も強そうであり)が垣間見えるところ。
 その忌避感を明らかにしてでも、同志として手を伸ばそうとする、志郎から結城への対応は率直にだいぶ甘いのですが(現状、デストロン時代の所業を反省しているわけではなく、それこそヨロイ元帥を倒してデストロンに返り咲いた暁には、デストロンの大幹部・テツワン教授とかになりそうな人なわけで)、ここにもまた、救えなかった親友の一件が心に影を落としているのかもしれません。
 「……わからない。僕には、わからない。わからない……!」
 慟哭する結城が鋼鉄の右腕を地面に繰り返し叩きつける姿を目にしながらV3がその場を後にすると、墓地の入り口には黙然と藤兵衛がたたずんでおり、
 「……志郎」
 「オヤジさん」
 「辛い役目を押しつけてしまったな」
 「いやぁ……別に俺はなんとも思ってませんよ」
 心配そうな藤兵衛に向け、あるか無しかの微笑を浮かべた志郎が無理に軽い調子で答えると、藤兵衛が黙って肩に手を置くのが渋い見せ方で、墓前から一連のシーンは、普段と少々タッチの違う演出が、二人のライダーの邂逅を引き立ててくれました。
 「ただねオヤジさん、あいつが、俺のあの姿を見て……もっと大きな事に目覚めてくれればね」
 今作における“公の正義”の場所が改めて位置づけられると、志郎の抱える忌避感を理解している藤兵衛は、片桐妹を送っていったシゲルの事に話題を変え、志郎と結城の対峙も良かったですが、今回の白眉は、墓地の入り口で藤兵衛が志郎を待っていた事で、それにより、志郎の抱える重い屈託の存在を明確にすると共に、最初期からそれを受け止めていた相手としての藤兵衛が、まさにオヤジにして伝説級ヒロインである事が裏付けられ、この物語における、立花藤兵衛とは何者なのか? まで確認されたのが、お見事。
 2週連続出番の無い姉さんがヒロイングランプリから蹴落とされそうな分、自分が存在感を発揮せねば……と張り切っていたシゲルだが、明らかにどこかで見た悪い顔のタクシー運転手に片桐妹をさらわれ、緊急連絡。
 急ぎバイクを走らせる志郎だが、結城もこの通信を耳にしており、志郎は結城の暴走を止めようと懸命にバイクで競りかける。
 「わからないのか! ライダーマンとしての能力で、カマクビカメに勝てると思っているのか?!」
 割と、身も蓋もないこと、言われた。
 「ライダーマンは勝つ! 邪魔するな!」
 「馬鹿!」
 かくなる上は実力行使、と志郎へと躍りかかる結城だが、志郎はその攻撃を平然と受け止め、いなし、頭を冷やせと反撃すると、結城が動けなくなっている内に、高いところに跳び上がって変身。
 「結城くん! デストロンは私がやる!」
 片桐妹が運び込まれたデストロンの処刑室へと急ぐと、戦闘員に化けて妹を救出しようとするV3だが途中でカメに気付かれ、ホント優秀だな、カメ。
 「カマクビカメ! ライダーマンもいる!」
 「貴様、邪魔をしに……!」
 殴り飛ばした筈のライダーマンが天井に姿を見せると、今回は格好良く共闘……どころかV3の方が露骨に舌打ちし、本気で嫌そう(笑)
 だが、V3が先にカメに殴りかかると、ライダーマンは人質の救出を優先し、戦いは処刑室の外へ。片桐妹を守りながら戦闘員と戦うライダーマンはロープアームによってV3の援護も見せ、V3パンチを放つも甲羅の中に引きずり込まれたV3だが、V3脱出パワーにより内部からカメを爆砕し、強敵怪人を打ち破るのであった。
 やっぱり一発殴ったのが良かったんだな! と昭和体育会系マインドでライダーマンに手を差し出すV3だが、その手を払ったライダーマンは背を向けて去って行き、この際、アップで捉えた口元をひくっと動かすのが、マスクの特徴を活かした良い見せ方となりました。
 「ライダーV3と、ライダーマンの対立は、いつまで続くのであろうか」
 ナレーションさんも心配だ!
 今はまだ自らの持つデストロンへの信念に基づいて行動する結城丈二と、裏切り無罪でノーサイド精神を発揮してなし崩し気味に手を結ぶのはさすがに早いのでは、と思ったら無事に回避され、恩義ある片桐妹を救う為ならライダーマンの人質救出優先も、行動として納得できる範囲。
 今作開幕時のモチーフの再利用とはいえるライダーマン誕生前後編でしたが、立ち上がりではあっさりスキップされた(仮面ライダーの後継者ヒーローでは描きにくかった)、“私情”と“大義”の葛藤にニューヒーローを用いて再びスポットを当てると共に、“生まれたてのヒーロー未満”といえるライダーマンを、“立派な先輩ライダー”となったV3が導こうとする構図になっているのが、3クールの蓄積が活かされて上手いところ。
 またそれにより、かつてのダブルライダー先輩と近い立ち位置になったV3に、これまでとは違った角度からスポットが当たるのも作品の鮮度を甦らせ、ライダーマンの投入により作品全体の見通しがグッと良くなりました。
 なおこの、主人公ヒーローが物語後半になって、ヒーロー未満の新キャラに対するメンター的立ち位置にスライドするのは同期の『キカイダー01』と重なるところがあり(ドラマの着目点はだいぶ異なりますが)、『仮面ライダー』直系の『V3』と、意識的に差別化を図っていた傍系の『キカイダー』シリーズにおいて、作品を越えて伊上脚本と長坂脚本が共鳴を見せているのは、面白いところです。
 そして今回の軸となった、“私”を捨てて“大きな正義”の為に尽くす事は、後に伊上勝の息子・井上敏樹がヒーロー作品のフィールドにおいて深く掘り下げていく事になりますが、それはまた時代のだいぶ進んでからとなりまして……次回――ブ、ブラックサンタ……炎の黙示録……ううっ、志郎、あなた、疲れているのよ……。