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恐竜戦隊ジュウレンジャー』感想・第34話

◆第34話「ブライ生きて!」◆ (監督:坂本太郎 脚本:杉村升
 ブライに残された時間は、あと13時間とちょっと……
 (ここには何も無い。これで、本当に、生きているといえるのか)
 これは非常にいい独白で、物語の必要性が先行していたブライの設定から、「人は、何をもって“生きている”といえるのか?」といったテーマが引き出されてきたのは、今後に向けた好材料
 懊悩のあまり思わず精神と時の独房を出たブライは、幼い妹の世話をする少女・理恵の姿に微笑みをこぼし、復讐のヒットマンにして大怪獣上陸をやらかした前科もあるブライの兄貴に、人の心が戻っている事を今作らしい交流の形で示してくれたのは、手堅くも鮮やかな描写。
 微笑ましい出会いも束の間、赤児である妹を乗せたベビーカーが不自然な勢いで爆走し、それを追いかけたブライは、剣を投げた。
 階段落ち寸前(なおここでベビーカーが階段から落ちていた場合、上から伸ばした手と下から止めようとした手が重なる出会いが発生して、別のイベントが発生する手筈でした)、投げつけられた剣によって急ブレーキのかかったベビーカーからサンダースリンガーの要領で赤ん坊が宙に舞うと、ブライは鮮やかにそれ空中でをキャッチし……まだちょっと、現生人類と恐竜人類の耐久力の差をわかっていないのかもしれません。
 ところが腕の中の赤ん坊が突如として強化ゴーレムに姿を変えるホラー展開で、バンドーラ一味の奇襲攻撃を受けるブライの兄貴。
 面会時間の関係で、これまであまり機会の無かった生身アクションを見せているとゲキたちが合流する一方、妹を探す理恵は森の中で糸車を紡ぐ不気味な老婆(だいぶ無理のある扮装だと思ったらラミィの変装)と出会い、誘われるままに糸車の針に触れた事で呪いの眠りに落ちてしまう。
 全てはブライの寿命を削り取ろうとするバンドーラの薄汚い謀略であり、『眠りの森の美女』を下敷きとして、ヤマト族のプリンスになれなかったブライに、メルヘンの王子様の役回りを与えているのが、バンドーラ様の性格の悪さを感じさせます(笑)
 理恵を助ける為に“茨の館”へ辿り着く事を要求されるブライだが、その寿命を心配する5人にひとまず待機を懇願され、ゲキ以外のメンバーもそれぞれ言葉に出してブライを止める事で、6人の関係性も明確に一つステップが進行。
 究極大獣神、という一つの頂に到達した事により物語全体への見通しが良くなり、これまで不足していた部分に手を伸ばせるようになったのは、ここ3話の大きな前進。
 「しかし、あの子たちは俺のせいで……!」
 苦渋の表情を浮かべるブライがベビーカーに残された小さな靴を握りしめたところでサブタイトルが入り、パレスでは、独房に戻るのも計画の内よとバンドーラ様がほくそ笑み、注目は、「泣け! 泣け泣け!」と赤ん坊を脅かしつつ、ちょっと手つきの優しいバンドーラ様(笑)
 グリフォーザに抱かれ、バンドーラ様に迫られた赤ん坊の方は、120%命の危機を感じて大泣きしておりますが!
 独房に座るブライの胸には敵味方の様々な言葉が去来し、遂に意を決して外へと出ると、理恵の声に導かれるままに怪しげな洋館に辿り着き……その中で、ベッドに眠る理恵を発見。
 …………これはもしかしなくても、作法に則り呪いを解除しようとしたところで匿名の通報を受けた警察がやってきてリアル逮捕?!
 「ははははははは……! とうとう罠にはまったねブライ。おまえは二度と 娑婆 表へは出られない。残り時間を全部使い果たし、滅びるのだ」
 という事こそ無かったものの、ブライは目覚めた理恵と共に洞穴の中に落とされ、そこで悪魔の糸車に襲われる事に。
 一方、茨の森を見つけ出したゲキたちの前には黄金夫婦が立ちはだかり、姿を見せたバンドーラが、まんまと罠にはまり既に洞穴で4時間は彷徨っているブライを実況配信。
 「何故だ兄さん!? あれだけ止めたのに、何故また出てきたんだ!」
 ジュウレンジャーはゴーレム兵と戦闘に突入し、グリフォーザが久々にバトルで見せ場。テンションの上がってきたバンドーラ様は黄金夫婦を巨大化させると一気にジュウレンジャーの殲滅を図り、いつもの負けフラグを立てるのかと思いきや……今回はそれを見越していたバンドーラ様はグリフォーザに新装備を与えており、電磁投網に捕まったティラノが行動不能に陥ってしまう。
 地上のジュウレンジャー大獣神合体不能の危機に陥っていた頃、ブライと理恵は延々と洞穴の中を彷徨っており……弱気に陥る理恵を、力強く励ますブライ。
 「大丈夫、筋肉は全てを解決するんだ」
 “道”とは、力で切り拓くものぉぉぉ、と洞穴の壁に拳を叩き込んで力の戦士らしく……解決するのは難しかったようで、大事に持っていた赤ん坊の靴を渡して「希望を捨てちゃいけない」と勇気づけ、知恵-勇気の流れに乗れなかったのは残念でしたが、終盤戦へ繋がっていくであろう、ブライの持つテーマ性を重視。
 歩みを止めずに進んだ二人は、遂に天井の一部が崩れて外からの光が差し込んでいる場所を発見。糸車に襲われて少女がマグマ転落の危機に陥るが、背中に糸車の攻撃を受けながらも懸命に少女の手を掴んだブライは、もう片方の手で天井の穴から恐竜サインを送り、その光に気付いた赤の指示により、プテラが、爆・撃。
 貴重な見せ場に張り切りすぎて、危うく死者2名が計上されてしまうところでしたが、幸い、ブライと理恵は落盤に巻き込まれる事なく洞穴から脱出に成功。
 危機的状況を知ったブライは緑に変身するとすかさずドラゴンシーザーを召喚し、ティラノを解放。一転してリタイアの危機に陥る黄金夫婦だが、バンドーラ様は魔法の糸車を増援として巨大化し、立ち向かう大獣神はそのスピードに翻弄される。
 「見るがいいジュウレンジャー。仕上げはこいつよ!」
 ここまで次々と妙手を繰り出していたバンドーラ様ですが、最後の一手として人質の赤ん坊を盤面に投入すると、何故か糸車に赤ん坊を襲わせて大獣神をフリーにしてしまう、痛恨の大失着。
 起死回生の隙を得たジュウレンジャーはブラキオンを召喚して究極合体すると、一斉砲撃で糸車を消滅させる明らかなオーバーキルで、ついでにベビーカーが、落ちた。
 「「「「「あ」」」」」
 じゃない(笑)
 80年代どころか70年代ヒーロースピリッツを発揮してしまったジュウレンジャーだが、こんな時こそ頼れる兄貴! 地上で待機していた緑が跳び上がって本日二回目の空中赤ん坊キャッチを決め、事なきを得るのであった。
 「おのれぇ、だが勝ったと思うな! ブライの時間を8時間以上使わせてやった! 残りはたったの5時間!」
 確かな爪痕を残してバンドーラ様は撤収し、残された時間を精一杯に生きようとするブライ、そのブライとゲキたちを追い詰めるバンドーラの悪辣な策謀を、明確な新怪人無しで描いたのは面白かっただけに、究極大獣神召喚の流れと後始末(緑の見せ場)が強引になってしまったのは残念だったところ。
 とはいえ、3話連続で究極大獣神を出さないで片付くのも物足りなさが出たしょうし(むしろ前回、よく巨大戦無しで通したなと)、出すタイミングそのものは悪くなかったと思うのですが、登場2回目の敵が、実質:空飛ぶ巨大なタイヤで本当に良かったのでしょうか(笑)
 「ゲキ、すまない……おまえの言葉を無視して、勝手な真似をして。でも俺は、例え残された時間があと数時間でも、おまえ達と一緒に、地球を守り、子供達を守る為に戦いたいんだ。わかってくれ」
 「兄さん……」
 ブライはゲキに、どう“生きる”かを宣言し、復讐のヒットマン・ブライから、6人目のジュウレンジャー・ブライとして、改めてヒーロー新生。
 ブライのイニシエーションのエピソードとして出来が良く(子供ゲストとの交流・既存メンバーとの関係性更新・巨大戦、まで盛り込んで1話でまとめてみせたのも秀逸)、更にナレーションで「だが、ゲキの気持ちは複雑だった」と、受け止めきれないゲキの心情を描いてその場で全て納得させない引きを作ったのも面白く、皆が赤ん坊を抱くブライを囲む中、唯一ゲキだけが距離を空けて立ち尽くすのは、印象的なラストシーンとなりました。
 …………まあ杉村さんは、前年にメインライターを務めた『特救指令ソルブレイン』終盤、おお、そこを引くのか! と面白いテーゼをクライマックスに持ち込んだものの見事に全て吹っ飛ばした前歴があるので、期待しすぎない程度に、見ていきたいとは思いますが……(笑)
 次回――この地球を抱き止める、そんなでっかい心が欲しい!