『電撃戦隊チェンジマン』感想・第9-10話
◆第9話「輝け!必殺の魔球」◆ (監督:長石多可男 脚本:曽田博久)
「ごめんよ。悪いけど、俺はもう、野球は辞めたんだ」
なにやらアマチュア野球界で知名度があるらしい飛竜が、パトロール中に出会った野球少年に“ドラゴンボール”をせがまれるもバイクで走り去り、必死に呼びかける少年が背後で転んでも気付かぬままにその場を後にする、というのが印象的な導入。
一方、ゴズマからは自らを悪魔の電気に変えるタコ型宇宙獣士オーズが地球に送り込まれる。本日も部下へのプレッシャーに余念がないバズーの、金色の瞳に映るギルークが作戦を語る、という変化をつけた演出で、70年代は主に助監督として、80年代~00年代まで戦隊とライダーを股に掛け、足かけ約30年に渡り東映ヒーロー物を最前線で支えてきた長石多可男監督が、戦隊初参戦。
「今度こそ必ず、地球を征服してご覧にいれます」
「その言葉、そろそろ私も聞き飽きたからな」
早い、早いですよバズー様!!
……まあバズー様は、潜在的抵抗勢力の可能性を持つギルーク司令を辺境で暴発させようという意図が見え隠れしているので、敢えて強いプレッシャーをかけている面があるのでしょうが、ゴズマ内部の駆け引きがどう転がっていくのかは引き続き楽しみです。
少年を家に送った疾風ら4人は、飛竜が高校時代に野球部のエースピッチャーであり、打者の視界から消失した後に急上昇してストライクゾーンに吸い込まれていく魔球ドラゴンボールの使い手であった事を知る。熱烈な飛竜ファンである少年の為、飛竜にうまく話を通してやると安請け合いする勇馬だが、突如、少年宅の冷蔵庫が暴走。電子レンジは火を噴き、掃除機は人間を襲い、カーンデジファーの仕業だ! じゃなかった、悪魔の電気となって電化製品を自在に操る宇宙獣士オーズが、コンセントから出現。
4人は逃げたタコ獣士を追って外へ飛び出し、四つ辻で獣士を探す4人をロングで撮ったり、道の向こうからゆったりとブーバが歩いてくるシーンが、凄く長石多可男!(堪能)
電撃を受けた4人の危機にドラゴンが駆けつけるが、オーズの回転触手ガードにより、弱点の目を攻撃する事が出来ずに逃げられてしまい、揃って野球少年の家に戻ると、気を失って譫言を繰り返す少年をソファで休ませる。
「剣さん……ドラゴンボールを……ドラゴンボール……剣さん……」
「こんなに言ってるのに……どうして投げてあげなかったの?!」
仲間達からの詰問はすぐに拷問に変わるんだぜの視線に飛竜は重い口を開き、夏の甲子園予選直前、ドラゴンボールによって親友のキャッチャーに重傷を負わせた過去を明かす。
「その時から俺は野球を辞めた。もう二度と、ドラゴンボールは投げないと誓ったんだよ」
オーズは悪魔の電気を駆使して街を大混乱に陥れ、それを追うドラゴンはチェンジソード(銃撃)が通用せずに苦戦。くるくると横回転するオーズの触手ガードがデザインを活かして面白いのですが、これは、長石監督がOP・EDを演出し、公式な監督デビュー作でもある『ザ・カゲスター』の風呂敷マント回転のセルフオマージュだったりするのかしないのか(笑)
びゅっびゅーん びゅっびゅーん カゲスター!
『ザ・カゲスター』OPは、どこからどう見ても不審者であるところのカゲスターを、なんとかヒーローらしく撮ろうという苦心惨憺が窺えるのですが、空を飛ぶ飛行機の入れ方とかが凄く長石多可男で、ファン的には見所の多いOPであったり。
本日も足止めを担当する副官ブーバの横槍によりオーズを逃がした飛竜が基地に戻ると、4人の仲間がはしゃいだ歓声をあげており、一瞬流れる気まずい空気。七並べでもやってたのかよ?!とつかつかと歩み寄った飛竜に差し出されたのは、勇馬が作成した、本物と重さも感触も寸分違わぬ爆弾入り野球ボール。
勇馬は「爆発物の専門家」を名乗り、そうか、本当に……弁当箱の中に……おむすびに偽装した爆弾が……。
「オーズの目に命中させるには、ドラゴンボールしかないと考えたの」
BGMが深刻なものに変わり、電撃戦隊にトラウマは要らない、と飛竜に迫る悪魔の策士・渚さやか。これはもう完全に、試合の映像を取り寄せて実際のドラゴンボールについて確認済みです!
「剣さん、投げて! ドラゴンボールなら、必ず命中させる事が出来る筈よ!」
「いいこと。これはタケシくんがヒントを与えてくれてたようなものなのよ。投げて。消える魔球を」
台詞に少しセイラ・マス(『機動戦士ガンダム』)入っていて、怖いよこの人……!
「みんなを助ける為に」
さやかは黙り込む飛竜に使命感という駄目押しを入れて完全に退路を断ち、地球を守る為、過去のトラウマを乗り越える事を余儀なくされた飛竜は、爆弾ボールに手を伸ばす。
そう、もはやこれは、十代の汗と涙を注いだ野球のボールではない……!
エイリアンどもをぶち殺す為の兵器なんだ……!!
…………二重三重に酷いよ、さやか。
覚悟を決めた飛竜を中心に状況を立て直したチェンジマンは、電気と化して飛び回るオーズを発見すると高圧電線にミサイルをぶちこみ、地上に叩き出されたオーズの前に立ったのは、高校時代の野球部のユニフォームに身を包んだ剣飛竜!!
過去を乗り越えようとする戦士の姿といえば姿なのですが、どちらかといえばシュールギャグに踏み外しかけた扮装なのに、至極真剣な役者さんの表情と、至って真面目に決闘の雰囲気を醸し出すカット割りにより、格好いいシーンになっているのが凄い(笑)
「馬鹿め! そんなボールで何が出来る!」
敵味方の見守る中、オーズの電撃を飛び上がってかわした飛竜は、そのまま空中でスピンし更に縦回転を加えた新投法によりドラゴンボールinアースフォースを投げつけ、オーズの眼球にストライク。
「見たか! これがドラゴンボールだ!」
かつて親友に大けがを負わせたトラウマを抱きながら投球フォームに入った飛竜だが、命の危機に咄嗟に空中に飛び上がり、体から余計な力が抜けた事でスムーズに肩を振り抜く事が可能となり、戦士の本能と球児の魂が結びついた、もはや新たな必殺魔球が誕生したのだった!
電気化能力を失ったオーズ&構成員とチェンジマンの戦いになり、絶好調のドラゴンはブーバの鎌を破壊。ズーカの個別発射でオーズの腕を破壊すると、パワーバズーカでフィニッシュ。巨大オーズのスタン攻撃を受けるチェンジロボはそもそも電気属性であり、電撃剣でオーズの腕を切り飛ばすと、スーパーサンダーボルトで勝利するのであった。
トラウマを乗り越える、というよりも、地球を救う為の殺人野球を割り切って戦士として一歩成長した飛竜は、少年の前でドラゴンボールを披露。
「ねえ、俺にも投げられるようになるかい? ドラゴンボール」
「ああ、大きくなったらな。好き嫌いしないで何でも食べて、たくましい体になったらね。その時になったら、必ず俺が教えに来よう!」
導入で少年の叫びを無視して走り去ったヒーローが、夢を夢として傷つけぬまま、少年の成長を促しエールを与えて去って行く事で、ヒーローもまたヒーローとして成長を見せ、互いの関係性において少年の道しるべとして完成する、という美しい着地。
特に、「その時になったら、必ず俺が教えに来よう!」というのは、少年の側からするといつか忘れてしまう約束であろう事を前提に含めた上でエターナルなヒーロー性が濃縮されており、その言葉と共にヒーローは“去って行く”、だが、いつだって“必ず来る”というのが絶妙でした。
キャッチャーを務めた勇馬はドラゴンボールのあまりの衝撃に気絶して地面に転がり、ミットに収まったボールがナレーション「チェンジマンは、これからも、この星を、しっかりと守り抜く事を、心に誓った」とに被せる形で地球の映像と重ねられる、というラストシーンも秀逸。
過去のトラウマ克服のくだり(に、かつての親友が影も形もない)の荒っぽさが今日的な視点で見ると惜しいところですが、ハイテンポと力技で荒馬を御して格好良く見せてしまう、というのが実に80年代戦隊作劇、という感で楽しかったです。
そして今回明かされた、飛竜はかつて高校球児だった、というのが、カラオケで『チェンジマン』を歌うとどういうわけか野球をしている、という謎映像の布石になるのか……! と長年の謎が解決(笑)
◆第10話「恐怖の無人車軍団」◆ (監督:長石多可男 脚本:藤井邦夫)
屋根に玩具の人形(機械仕掛けでシンバルを鳴らす猿など)の乗った無人の車が夜の街を進んでいくという、不気味映像からスタート。それは、凄く円谷っぽい見た目の宇宙獣士の念動力に操られたものであり、ジープ5人乗りを初披露したチェンジマンも、ジープを操られて苦戦。
念動力に操られた無人の暴走自動車は、他の車に激突したり、踏み切りに侵入して列車と衝突事故を起こしたり、自動車テロで街を恐怖に陥れ、人々は外出を避けるようになってしまう……と、ゴズマの作戦で日本経済に大打撃だ!
事態を打開すべくパトロール中だった疾風は、そんな無人の街で車に追われていた女性を助け、バイク担当として軽くバイクアクション。疾風(河合宏)は、バイクスーツ系の上下黒革の衣装を着こなしてみせるのが、ホント二枚目度高い。
助けた女性を家まで送り、コーヒーをご馳走しますと言われてやに下がる疾風だが、開いた扉の先に広がる、謎の空間に囚われてしまう!
……だってその女の人、どう見てもシーマ(笑)
女好きのキザ担当である疾風と、見た目女性幹部のシーマの因縁継続は嬉しいですが、先日シーマの変装に気付いたのは、本当に、声が太かったからだけだったのか!
シーマが早くも変装2回目なのは、女優さんに飯田道郎声で喋らせてばかりなのもな……というスタッフ側の配慮もあったりはしそうであり、視聴者には顔からシーマに見えますが、実際の劇中では、声も顔も幻術によってカモフラージュしているという事なのかもしれません、というかそう思っていないと、疾風の脳が不安ですが、疾風はどんどん、知力に問題あり疑惑が濃厚になっていきます(笑)
逆に、調子のいいコメディリリーフである勇馬が武器開発技術持ちなのは、全体のバランス取りでありましょうか。
疾風は変身不能の念動ボールに閉じ込められ、ゴズマの罠にはまった残りの4人も次々と念動ボールに閉じ込められてしまう。だがドラゴンの奮戦でチェンジマンはこの死地を脱出し、逆転劇になんの関与もできなかった疾風、キャラ回としては美人局に引っかかっただけの残念な人に。
解放後、まずは乱れた髪を櫛で直す、というキャラの掘り下げから疾風は怒りの変身。強烈な念動力で崖崩れまで起こす獣士に苦戦するチェンジマンだったが(なお、緑のマスオさんが、チェンジマンを誘き寄せる罠の一貫として初の地上戦闘で、結構な威力のビームを発射)、グリフォンズーカのカウンターから、パワーバズーカでフィニッシュ。
巨大戦ではバルカンを念動力で跳ね返されるも、チェンジロボフラッシュで目をくらませた隙に、電撃剣で一刀両断。疾風は電撃戦隊の女性隊員に花を配り、シーマに騙された事を誤魔化そうとするのであった……でつづく。