『仮面ライダーカブト』感想・第12話
(※サブタイトルは本編中に存在しない為、筆者が趣味で勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆12「花と風と太陽」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹)
ビストロで配られたスクラッチではずれを引き、若干ひきつりながら
「……俺は……こういう次元で生きていない」
と弁解する天道総司は、大変面白かったです(笑)
以前ひよりに電話を叩き切られた際もでしたが、完璧を自認する天道をちょっと崩す時の表情や仕草をどう演じるのか、にだいぶ気を遣っている感じは芝居に好感の持てるところで、今回の好きなシーンの一つ。
ザビーと入れ替わるように現れた3人目は射撃系ライダーとなり……銃の威力は、なんだか微妙だった。
「まさかおまえも選ばれしものだったとはな」
「……別に私が望んだわけじゃないですけどね」
変身を解いた天道と風見は面と向かって名乗り合うと、天道は加賀美と共に逃げたワームを追うが擬態によって出し抜かれ、前回-今回の天道は、これまでに比べると幾分ワームに翻弄され加減。
「この男が、ドレイクの資格者……」
トンボのライダー=ドレイク(トンボ → ドラゴンフライ → ドラゴン → ドレイク、の模様)が誕生すると、加賀美父はみっしーから風間大介に関する資料を受け取っており、住所不定の風来坊ではあるものの、フリーランスのメイキャップアーティストとしてれっきとした手に職を持っているのはシリーズでも珍しい印象で、過去作で言えば『龍騎』の北岡弁護士が一番近いでしょうか。
事務所を持たずに流しでやっている北岡(笑)
少女ゴンは記憶喪失で、三ヶ月前から風間と行動を共にしているとわかり、それを目にして浮かべる「ん……ちょっとだけ面白い」の邪悪な表情が、実にベテランの貫禄。
「ドレイクは、ZECTのものです。そうならなかった場合は、やはり……」
どうやら今回もゼクターを制御できていない様子のZECTですが、どうも、「マスクドライダーを作り出してワームを殲滅しようとしている」というより「ゼクターという形で具象化された“天の意志”(的な何か)を恣にしようとしている」雰囲気が漂い始め、言ってみれば資格者とは“ゼクターの檻”なのかもしれず、だとすれば、組織に都合の悪い資格者は、都合のいい資格者に当たるまでどんどんデリート! という方針にもちょっと納得。
そんな上層部の蠢動など知る由もなく、下っ端の加賀美くんは風間をZECTにスカウトしていたが、迷惑、の二文字でバッサリ拒絶されていた。
「迷惑……でも選ばれた君には戦う義務がある。人々を救う義務がある。違うか?」
「それが迷惑だと言ってるんです。私は花から花へ渡る風。誰も風を捕まえる事はできません」
どういうわけか上から目線で、ゼクターに選ばれた者は“公”の為に戦う義務を負って当然、と言い切る加賀美に対し、戦士の押しつけ断固拒否、と風間は冷たい反応を示し、井上作品としては『鳥人戦隊ジェットマン』の変奏曲を思わせますが、ここではゼクターと“天から降り注いだバードニックウェーブ”とが類似の関係に置かれ、“公”のヒーロー理念を押しつけてくる加賀美に対して、選ばれてしまった運命を受け入れる気のない“私”として風間が反発する形に。
上層部のヤクザぶりを伝えようとする加賀美が、風間のアルティメットメイクを受けて精神判定に失敗し、朦朧状態に陥っていた頃、岬さんはみっしーに
「みんな抹殺するおつもりですか?! ばかげてます!」
と直球をぶつけており、みっしー意外とカジュアルに面会してくれるの? と思っていたら、田所のカシラの名前でアポを取っていました。社会人として駄目な行為でした。明らかに後輩の影響です。
加賀美くんは罰として本家の庭を隅々まで掃除するように。
「これが私の食事だ。私には味覚というものがなくてね。サプリメントで済ませている」
岬に鋭い視線を向けるみっしーだが、腕時計のアラームが鳴ると岬を無視して大量の錠剤を飲み下し、ZECTの暗部を象徴するようなインテリ眼鏡として、思わせぶりな登場を繰り返してきた三島にここで、明確に天道の裏返しとなる要素が与えられる事に。
岬さんは当然のように部屋を追い出されると立ち食い蕎麦を物凄い勢いでかきこみ、人命の軽すぎる組織と口数の少なすぎる上司とブレーキのなさ過ぎる後輩と取り扱いの面倒すぎる無職に囲まれて大変そうですが、いずれ良いスポットが当たっていただきたい。
一方、馬は合わないが縁はある天道と風間(&ゴン)は、ビストロでばったり出会うと器の小さい小競り合いの末に
「ケリを付けましょうか。どっちが女性にモテるか」
に辿りつき、今! ここに必要なのは! 矢車さん!
切実に、今この混沌に、パーフェクト・ハーモニーをもたらしてほしい……!!
…………まあ、売り言葉に買い言葉でナンパ対決に巻き込まれそうな気もしますが、その場合、しれっと口説きまくるのか、(俺には無理だ……!)となるのかで、激しい解釈の攻防戦が発生しそうです。
私としては、どちらでもおいしくいただけます。
風間は女子短大に乗り込むとアルティメットメイクを繰り出してまたも素っ頓狂な流れを生みし、「パーフェクト」「アルティメット」と来たので次があれば「エクセレント」辺りでしょうか、というのがちょっと気になります。
矢車さんが転落した隙にアルティメット時空を拡大して天の道さえ飲み込もうとする風間、天道に負けず劣らずの自意識の強さにくどい演出を伴いますが、ゴンの手を引いて歩いているだけで、最低限の人間性と好感度が確保されているのは凄い(笑)
これは天道における樹花の存在と近似の手法とはいえますが、ゴンにしろ樹花にしろ、アクの強いヒーローにフックとなる愛嬌と好感を与える存在に関しては、ひとまずオーソドックスで掴みやすい味付けにする一方で、メインヒロイン枠となるひよりは尖った造型にする事で全体のバランスが取られており、突飛なようで割と計算はされているのが今作ここまでの、物語に入っていきやすい部分。
天道と加賀美はひたすらスクラッチを削り続け、客観的には物凄く迷惑な客になっていますが、この奇天烈な力の入れどころも2話目になると慣れてきて、井上脚本に毒されている自分を感じます(笑)
そして遂に……当たった。
満足して支払いを終えた天道がナンパ対決の場に堂々と一人で乗り込んでいくと、その姿を見るや風間が連れてきた女性陣が揃って天道に鞍替えし、やはり、地元で有名な名士の道楽息子なのかもしれません。
「全ての女性は花。そして花は知っている。太陽のもとで花開く事を」
ここまで色々ありましたが、風間が口にしてきた「花」と天道の代名詞でもある「太陽」を結びつけてくるのは、さすがの手並み。
「だが、量より質です」
「「「「「「はぁ?」」」」」「「「「「なんなの?」」」」」
「化けの皮が剥がれたな。女は比べるもんじゃない。お婆ちゃんが言っていた。全ての女性は等しく美しいと」
本当に色々ありましたが、形勢不利になって知人女性・ゆかりの美しさに勝負のお題をずらそうとする風間に対し、女性の美しさを比べようとする事そのものが間違いだと言ってのける天道が凄く格好良く見えるので私の敗北(笑)
またここでも、ストレートに天道の言葉にするとキザすぎて嫌な感じも出てしまいかねない台詞に、お婆ちゃんクッションを挟んで消化しやすくする手法が、効果的に機能しています。
そして天道が、香水の違いからゆかりがワームだと指摘すると、正体を現すワームと共に幼虫ワームが集団で出現。
カブトとトンボが飛んできて、まさかのナンパ対決から二人並んで変身となりましたが、前回はワームを見ると悲鳴をあげていた風間が、顧客がワームの犠牲になった事で躊躇なく変身するのは良かったところ。
物陰から対決の行方を見守っていた加賀美は、幼虫ワームに襲われるとカブトに助けを求めるが……
「加賀美。友情を言い訳にして俺を頼るな。おまえはなんの為にZECTに入ったんだ?」
その姿勢にカブトから疑問を突きつけられると、いつの間にかカブトに頼るのを当たり前だと考えていた自身の不甲斐なさに気付き、そうやワイは、ワーム野郎どもを皆殺しにするまで止まるわけにはいかんのじゃ! と銃を手に再起。
第10話ラストの、カブトvs加賀ビーがいまいちピンとこなかったと書きましたが、どうやら天道的には、俺は俺の道を進む、加賀美は加賀美の道を進め、カブトとザビーとしてぶつかり合う時が来るならそれはそれで仕方ない、互いに全力で突き進み続けるだけだし俺はおまえの全力でも死にはしないから、ついてこれるならついてきな!
……みたいな気持ちを伝えたつもりで全力スティンガーを打ってきた事に満足していたら、加賀美が何か違う解釈をしてザビーを捨ててしまった、といった顛末に再整理される事となり、なんにせよ、加賀美変身 → 資格喪失、までが急ぎ足だった煽りで加賀美の心の動きが激しすぎる引っかかりはありますが、加賀美を加賀美の道に戻す為に、天道が割とお節介を焼いている感じは天道と加賀美の距離感として、友情パンチよりはしっくり。
「天道……ようやくわかった。俺とおまえは、友達じゃない」
「そうだ。友達じゃない。……今度うちに遊びに来い。とびきり美味いものを食わせてやる」
加賀美が己のやるべき事を取り戻すと、「友達じゃない」からすかさず「遊びに来い」が鮮やかで、台詞に合わせてカブトに桜吹雪がかかる演出もバッチリ決まって、メイクアップとかスクラッチとか色々ありましたが、気がつけばいつの間にか、天道格好いい話になったぞ……?!
乱戦の中、ドレイクがキャストオフしてライダーモードを披露し、羽根モチーフのマスクが横に広がっている関係でカブトやザビーのような縦方向にスッとした格好良さではないですが、トンボの羽をモチーフにした左右非対称の大胆な胸アーマーが、射手のイメージも取り込んでインパクトのあるデザイン。
華麗なガンファイトで幼虫軍団を蹴散らしていくドレイクだが、成虫ワームにゆかりの記憶で語りかけられると思わず銃を下ろしてしまい、危機に陥ったその時、カブトがキャストオフからクロックアップ。
空中を舞う桜の花びらがゆっくりと動く演出で、花吹雪の中で炸裂するライダーキックがワームを粉砕。
「ワームは人間の姿を利用し、心の弱さにつけこんでくる。――惑わされるな」
だがドレイクの怒りはカブトに向かい……
「おまえの言うことは正しい。だが……気に食わない!」
鉄拳がカブトを襲って、つづく。
ナンパ対決の勝利から加賀美との関係修復まで天道が怒濤の勢いで持っていったので、ワームへのトドメは初キャストオフのドレイクでも良かったのではと思いましたが、既に死者とはいえ知人の面影を躊躇無く粉砕してみせたカブトに怒りを向けるのも納得の流れで、ライダーバトルへの持ち込み方として、高い説得力でした。
そしてここでは、神仏の代行者的ヒーローであるカブトに対して、正しい事でも簡単に割り切ることはできない人間的ヒーローとしてドレイクがカウンターにぶつけられており、時代におけるヒーロー像の変遷が衝突している、というのは面白い見せ方。
前回時点ではどうなる事かと思った後編、天道格好いい話に着地する事で『カブト』らしくまとめてきましたが、次回――影山左遷? そして矢車さん早くも再登場で、これは楽しみ。
…………それはそれとして、次回以降の監督が、風間の演出に頭を抱えているような気はしてなりません。