『仮面ライダーウィザード』感想・第39-40話
◆第39話「ピッチの忘れ物」◆ (監督:石田秀範 脚本:きだつよし)
「おまえの行動一つに、多くの人々の命がかかっている」
「…………脅迫するつもりか」
ずぶ濡れで面影堂を訪れた晴人とコヨミの姿を見て以来、テンションとフィーリングに任せて指輪を作ってしまう駄目な大人はもう卒業した、と指輪制作を拒否した輪島に対し、結果的に晴人の為になる、と強引に魔宝石を置いて謎の男――笛木が面影堂を立ち去っていた頃、ゲートに迫るバハムーーートカァッタァーー! が炸裂寸前、ビーストHが割って入って攻撃を妨げ、実弾が効かないなら光学兵器。
その隙にウィザードはバインドから多重分身かつ火遁×土遁の術による目くらましを用いて和也らを連れて逃走し、こういう小技を交えた戦い方なら初期フォームの活用にも説得力が高まるのですが……ウィザードがなんだかんだ攻めたがりなので、能力を“守り”に活かす状況設定が少ない事や、後半の苦戦パターンとして変則的な動きのファントムに一方的に翻弄される事が多いのは、勿体なく感じるところ。
「和也は全力で俺が守る。……それが魔法使いになった今の俺に出来る、たった一つの事なんだ」
和也を助けるどころか和也に助けられているじゃないのこのしなびたドーナッツ! と直美に罵倒を受けながらも晴人は己を貫こうとし、そんな晴人の為に、直美の説得を試みる凛子と瞬平。
怪しい輝きを放つ紫色の魔法石を前に輪島が思い悩む中、病院に入り込んだバハムートを身代わりの術で迎撃した晴人は、ビーストとタッグを組んでなんとか撤退させ……前回に引き続きですが、「キャラクターの感情」と「変身するフォーム」が噛み合わないのが、物語の盛り上がりとしてかなり致命的。
今回いきなりインフィニティすると、それはそれで他の回とのバランスが崩れかねない問題があるにしても、なんといっても「約3クール引っ張ってきた“晴人自身”の過去の物語」であると思えば、今作全体における話の軽重として、持てる最高の手札を出し続けても良かったのではないかな、と。
それによって今後のハードルを上げすぎると、最終盤で思い切り転ぶパターンもあるので、ハードルの高さ調節も確かに必要ではありますが、制作側にここまで露骨にハードルを下げられると、水を差される感覚が強くなります。
これはもう、全く以て個人的な嗜好でありますが、(前回&)今回の『ウィザード』に私が欲しかったのは、「かつての友を守る為、全力で挑むウィザードに匹敵する力を持つ難敵バハムート! 死闘の中、過去と向き合った晴人が掴む逆転勝利! ……いやこれ最終決戦、どうやってこれ以上に盛り上げるの?!」だったのだなと(笑)
インフィニティに関してはもしかすると、カタログスペック的なものを損ねられないメタ的な事情があったのかもですし、重ねて、最終盤に上げたハードルに脛をぶつけて地面を転がるパターンもあるのですが、それでもやはり今回については、後先よりも“今そこにある戦い”を全力で盛り上げようとしてほしいエピソードでありました(勿論、視聴者には全て使ったように見せて、スタッフは既に次の手札を用意しているのが理想)。
究極的には「どうやってこれ以上に盛り上げるの?!」からの、「うわ、ハードルを越えてきた!!」こそが見たいわけなのでありますが、特にヒーロー物はセオリーが強固であるからこそ、「そんな手があったのか!」を見せて貰えると、凄く好き(故にここには、定番中の定番を滅茶苦茶格好良く仕掛けてくる、も含まれます)であるのに対して、どうにも前回今回は、最終盤を控えての守りの姿勢が見えてしまう作りだったのが一つ、インフィニティ問題を軸とした物足りなさの正体だったのだなと個人的に納得。
バハムートの襲撃を退けてから一夜が明け、目を覚ました和也に仁藤は晴人の想いを伝え、晴人と和也が面と向かって話をする機会の無いまま周囲のキャラクターがドンドン外堀を埋めていくのですが、これはまあ、和也の前から姿を消した後、“魔法使いとしての晴人が得てきた絆”の証明でありましょうか。
直美の居ないところで、つい悪口めいた事を言ってしまい、バッタリ出会って慌てて口を噤むも、立ち去り際には、
「……あんがとな。晴人の身代わり作戦に協力してくれて」
と正面から声をかけて直美だけを悪者にしない立ち回りも見せて、異常にマイペースなマヨラーだったのが嘘のように、仁藤株、脅威の上げ幅(笑)
その頃、指輪の受け取りに面影堂を訪れた笛木(不自然なほど露骨にコヨミと会わせないようにしてますが、さて……)だが、輪島が完成させた指輪はバイトのゴーレムが勝手に外へと持ち出しており、責任問題で面影堂・大炎上(物理)の危機。
幸い、ケルベロスに導かれて笛木が店を出て行った一方、病院を抜け出した和也は晴人との思い出のピッチに立っており、いっけん物静かですが、ことサッカーが関係すると割と周囲の迷惑お構い無しに自己主張する困ったタイプで、直美の和也に対する口やかましさの理由の一端が垣間見えます(笑)
「今でも持ち続けてるんだな、俺たちの夢」
「当たり前だ」
晴人と和也はグランドの上で向かい合い、プロを目指し続けると宣言する和也に対し、晴人もまた、かつての夢から逃げ続けてきた日々は既に終わりを告げた事を語る。
「魔法使いになったお陰で、また夢が持てた。形は変わったけど、サッカーやってた時と同じ気持ちで、誰かの希望になるって夢を」
……個人的に、晴人の魔法使い活動は代替行為の部分が大きいというか、失った「私」を埋める為に飛びついた「仮面」の意味合いが大きいのではと捉えていたのですが、かなり前向きにやっている事が明言され、前回の個人的解釈はだいぶ的外れだった事になりましたが、この点に関しては引っかかりがあって後述。
「もう戻るつもりはないのか?」
「…………今を受け入れて前に進む。それが魔法使いとして生きる、俺の道だ」
互いの間にあったわだかまりが完全に消え、ピッチの忘れ物を片付けた晴人と和也だが、そこに現れる筋骨隆々のお邪魔虫。
「楽しそうだな。ボール遊びなら、俺も仲間に入れてくれよ」
「お遊びはお断りだ。真剣勝負なら受けて立つぜ」
和也が背後で見守る中、怒濤の連続攻撃を仕掛けるウィザードは、殲滅ファイヤーもファントムアーツの前に打ち破られると、ようやくインフィニティ。
挿入歌と共に高速移動でファントムアーツを圧倒すると、空中アックスコンボにより発動から40秒足らずで無傷完封を納め……狙いとしては、旧友とのわだかまりを解消した晴人が満を持しての最強フォームで快勝、といったものだったのでしょうが、旧友との関係とインフィニティにならない事の間に因果関係が全く成立していない――むしろ心情的には、即インフィニティの方が納得できる――ので見せかけだけの劇的さにしかなっておらず、上辺のセオリーだけで作ったような組み立てになってしまったのは、つくづく残念。
インフィニティの使い方がこれしか無かったなら無かったなりに、心情と戦闘を繋げて劇的にする工夫が欲しかったところです。
とにもかくにも絶望拳ファントムアーツの使い手を撃破した晴人の元へ、親切のつもりで無断で指輪を持ち出したゴーレムがとてとて走ってくると、折角なので指にはめてみる晴人。
……まあ晴人の場合、指輪は基本的にウィザード用に輪島のおっちゃんが作ってくれるものですし、ゴーレムがその使いだと理解するのは自然ではあるのですが、そうやってろくに出処を確認せずにノリで使ってみるか、を先輩たちが積み重ねてきた結果、デンジャラスゾンビ事件が生まれるんですよ!!
幸い、読み込みエラーを起こした指輪の作用で、海老反りで吹っ飛ぶ事も魔法使いゲージが1になる事もなかった晴人だが、使用不能だった指輪は、使い魔ケルベロスに奪い取られて、謎の男・笛木の手中に。
「その指輪はおまえでは使えない。……これは私の指輪だ」
笛木がトレンチコートを翻すと、下から出てきたのは、赤い縁取りの握手ドライバー。
「――変身」
紫の月の指輪を用い、晴人の前で姿を変えたのは、劇中随一の胡散臭さでお馴染みの、白い魔法使い。
「素晴らしい出来だ。確かに受け取ったと、輪島に伝えてくれ」
状況の飲み込めない晴人に向けて、
「きたるべき時に備え、その身を大事にしておけ。おまえが……最後の希望だ」
と一方的に伝えた白い魔法使いはテレポートで姿を消し、去り際にキャッチコピーを投げつけてくるのがだいぶいやらしいですが、胡散臭さ更に倍で、つづく。
3クール目の締めとして、魔法使いになる前の晴人が何をしていたのかと失われた親友との絆の回復、それによって新たな夢を掲げる事になんのわだかまりも無くなった、“魔法使い・操真晴人”の完成(?)が描かれたのですが……個人的にはウィザード、あまりにも責任を抱え込みすぎかつ滅私の姿勢が強すぎて、それが「サッカーやってた時と同じ気持ち」の新しい夢であり、「私」と同一化していると語られるのは、ちょっと納得しがたいというのが正直。
やっている内に「私」と「仮面」が一つになる事はあるでしょうし、凛子や瞬平、仁藤との出会いも含めて、何もかも一人で背負い込む必要も無くなった現在、「そう言えるようになった」ニュアンスも含んでいるのかもしれませんが、晴人の過剰な芝居っ気が繰り返し描写されていたように、ウィザード、“演じられている”ヒーロー(だからこそ、徹底した滅私の姿勢も貫ける)だと認識していたので、その「裏表」が描かれるのかと思ったら、既に「裏も表もない自分自身だった」に帰着したのは、待っていたところにボールが来なかった感。
……まあ勿論これは、私が勝手に私好みのところでボールを待っていたというだけの話ではありますが、10話前の時点では、
「あの、晴人さんの夢ってなんですか?」
「……今は…………ファントムを倒す事」
と、どこかぶっきらぼうな様子を見せていた事を思うと、そこからの穴埋めも積み上げも無いまま飛躍した印象が強く、過去の開示と共に「私/仮面」をどう描くのかと思って待ち構えていたら、それはとっくに一体化して“公のヒーロー性そのものが今の晴人の私”であると明言されたのは、個人的好みのツボからはズレてしまいました。
これがまだ、当初は代替行為だったけど、様々な出会いなどを経て、和也との再会も乗り越え、「今では胸を張って夢と言えるようになった」と段取りを踏んで今回のクライマックスとして(ここまでの物語の集約として)到達するならまた印象は違ったのですが……コヨミ・凛子・瞬平らの存在には触れられない上、和也とのやり取りのニュアンスだと、もっと以前から夢が更新されていたように取れたのが、ちょっとピンと来ず。
残り話数で一つ二つひねりが入る可能性はまだありますが、今回示された晴人/ウィザードのヒーロー性は、
「私の体は、普通の人間の血は流れていない。たった一つ残っているのは、元の姿で残っているのは、頭脳だけだ!」
(『仮面ライダーV3』)
----
「敬介さん、あなたはもう普通の人間ではないのです。お父さんが死んだ事を悲しんだり、恋人を追いかけている余裕はない筈です」
(『仮面ライダーX』)
に近いものを感じさせ、00年代《平成ライダー》のアップデートを踏まえた上で、昭和ライダー的なヒーロー性を再構築しようとする事こそがウィザードというヒーローの狙いであったのかもしれないな、とは。
次回――Iが止まらない。
◆第40話「自転車に乗りたい」◆ (監督:舞原賢三 脚本:香村純子)
紫の指輪の一件について反省した輪島は、最初に笛木から指輪制作を依頼された一年前の出来事を回想し、今頃ようやく明らかになる、晴人&コヨミと輪島を結びつけた、ウィザードの指輪誕生の秘密。
正直、こんなに引っ張る要素では無かったと思うのですが(お陰で輪島がずっと、微妙によくわからない立ち位置の人に)、笛木のポジションに誰がどう収まるのか決まっておらず、この終盤まで描けなかった感じでしょうか……晴人やコヨミを居候させている輪島は別に裕福でない描写が増えているので、どうやら二人の生活費は、指輪制作の依頼料として札束を積んだ白い魔法使いが、間接的に支払っていました(笑)
その頃、ミサが新たなゲートを発見し、絶望ミッションに送り込まれる西川くん(変態)。
自転車を手に入れる事でステータスの強化された仁藤は変身もせずにグールを蹴散らし、バイクならぬ自転車アクションで華麗に走り回るとビースト変身。ビーストも自転車スタントアタックを決め、ハ、ハイパーよりも、強いのでは……。
珍妙な動きの青いファントムが撤収すると、ゲートの少年・飯島譲(中学生ぐらい?)は、ビーストに弟子入りを志願……自転車の。
「僕に、自転車の乗り方を教えて下さい!」
譲少年は、数年前の自転車事故が原因で疎遠になってしまった年上の幼馴染み・倉田朱里が引っ越す事を知り、離ればなれになる前に自転車に乗れる所を見せたいと仁藤に特訓を頼み込み、綺麗なお姉さんに男を見せたい思春期の少年の為に意気投合する野郎トリオは、今作ここまでに無かったテイストが上手い目のつけどころで、今回の好きなポイント(笑)
瞬平が自転車を提供し、晴人は笛木の情報を得るためにひとまず凛子と共に木崎の元を訪れ、テンションの上がった仁藤は少年と修行に励み……大丈夫? ファントムの事、忘れていない?
映像的な派手さを優先してか、仁藤がややカゲキな修行を少年に課すのは一歩間違えるとイメージの悪くなるところですが、少年が派手に転ぶ時に見せる心配そうな表情と、少年が立ち上がる度にぐっと自分を抑える姿で逆に好感度を上げており、仁藤回りの好感度コントロールは、本当に上手く目配りが利いています。
……テント生活でのマヨネーズ押しつけもスキップされましたし(撮影時点ではあったかもですが)。
燃えよ明日を変える為に激しい修行を重ね、山道を突っ走る少年は風に乗ってスーパージャンプを決められるまでに成長し……久方ぶりの香村ファントムが、既にえげつない仕込み(笑)
凛子と晴人が徹夜で笛木のモンタージュを写真を完成させていた頃、いよいよ朱里の前で自転車のトラウマ克服を披露する譲だが、最後の最後で自転車が不自然に宙を舞うと、譲は空中で投げ出され、自転車の直撃を受けた朱里が昏倒する、新たなトラウマを生み出してしまう。
「おまえらのボーイズトーク、風に乗ってて筒抜けなんだね~~」
風を操る事で譲をスーパージャンプで調子に乗せ、ここぞのところでそれを凶器に変えて絶望に陥れようとしたのは、風を操る青いファントム・シルフィー。
「……ったく趣味のわりい野郎だぜ。男の純情弄びやがって。ぶっ倒さなきゃ気が済まねぇ。――へんーーーしん!」
怒りの仁藤はビースト変身するも風ファントムの珍妙な動きに翻弄され、国安を出て仁藤たちの元へ向かおうとした晴人の前にはメデューサが立ちふさがって、ロケーションの良い橋上バトル。
「さあ絶望しろ! 大好きな人を傷つけちゃった自分に。ひはははははは!」
「こんな……こんな……」
「譲! 駄目だ!」
少年の体がピキピキに覆われる一方、増殖しようとしていたウィザードはメデューサの髪に捕らえられて魔力を吸われると、橋から転落の危機。昭和ヒーローばりのダイブを決めろと追い打ちの一撃が迫ったその時、メデューサに襲いかかったのは、白いガルーダ。
そして現れたのは、白い魔法使いにスカウトされて姿を消していた少女――稲森真由。
「久しぶりね、メデューサ」
「真由……わざわざ死ぬ為に戻ってきたの?」
わざわざ一度、お姉さんの姿に戻るのが、大変性格悪くて+10ポイント。
「いいえ。あなたを葬る為よ」
「なに?」
ドライバーオンした真由は指輪の力で新たな魔法使いへと変身し、父よ母よ双子の姉よ、風の唸りに血が叫び、魔法使いぶいすりゃぁぁぁ!!
双子の妹設定は、再登場させる場合にキャスティングの手配に悩まなくていい事情はあったのかと思いますが、帰ってきた真由をきっちりと変身させてきたのは、ちょっと驚き。
とはいえ、さすがにこの話数で既存ライダーに匹敵する新たな魔法使い現る! といった雰囲気までは無く、簡素なローブ、みたいなイメージと思われる茶系のボディの地味な配色から感じる印象は、『555』のライオトルーパー(笑)
また、巨大な宝石を模し指輪の爪部分を強調した頭部と、トゲ付きの肩アーマーの組み合わせにより、物凄く戦闘員感が漂います(笑)
……背後で糸引くプロデューサーが白い魔法使いだと思うと、困った事に妙な納得はあるのですが!
「この手で倒してみせる。お姉ちゃんの命を、奪った貴方を!」
戦う力を得た真由ザードがメデューサに宣戦布告したところで、つづく。
OPクレジットで再登場がわかるといえばわかるのですが、ラストの台詞まで入れてしまったのは、さすがに予告見せすぎ案件だったのでは。
次回――いやホントあの白い魔法使い、凄く胡散臭いのでは? と、ようやく改めて検討会。