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推しがキマイラになる日

恐竜戦隊ジュウレンジャー』感想・第44話

◆第44話「女剣士!日本一」◆ (監督:坂本太郎 脚本:荒川稔久
 アイドルのコンサートシーンから開始され、これは誰の煩悩の発露なの? それとも何かの企画回なの?? と戸惑っていると、そのアイドルが赤い竜巻のようなものに飲み込まれて、ステージ上から消滅。
 更に野球、サッカーのスター選手が次々と消えていき……その背後には、子供達を絶望させる為に憧れの存在を吸い込んでいくドーラキマイラの暗躍があった!
 基本、子供を標的とするバンドーラ一味ですが、今回の作戦に関してはなんだかむしろ、仕事に疲れた社会人にも有効そうな作戦です。
 ドーラキマイラが次の標的とした剣道日本一の少女・山崎さやかもまた赤い竜巻に飲み込まれそうになるが、その寸前に竹刀を振り下ろしてキマイラの術を打ち破ると、怪物の姿にも物怖じせずに竹刀を振るい、だいぶ恐竜人類の血が濃い様子。
 そこにゴウシが飛んでくると、ジャンピングパンチを決めて窮地を救うが、キマイラは公園の謎オブジェを強烈なフリーキック
 「はは、俺は吸い取った人間の力を増幅して、備える事が出来るのだー!!」
 …………アイドル……は……?
 やむなくゴウシはさやかをつれて一時撤収するも、勝ち気な少女は「余計な事しないでよね」と礼も言わずに走り去っていき、その後に道場で子供たちに剣道を教える一幕を挟む事で、子供たちに慕われている様子と、子供達がキマイラの作戦に実際に不安を抱えている姿を共に描いてくるのが、手堅い作り。
 さやかをガードするゴウシは、雨に打たれながら道場の門前に立ち続けて傘を差し掛けられ……
 「馬鹿じゃない。何してるのよ?」
 「俺は君を守りたいんだ」
 計算通りにイベントCGを回収する、知恵の戦士ぶりを見せつける……!
 私を守ると言うのなら私より強いところを見せてみろ、とさやかはゴウシに決闘を申し込み、この終盤に来て、ゴウシにえらくおいしい正統派ロマンス回。
 前作が年間通して愛憎まみれだった事や、今作の基本的な構造(エピソードゲストは概ね小学生以下)もあってか、主に藤井×長石が定期投入していた80年代中盤以降と比べてもロマンス要素のあるエピソードが見当たらなかった今作ですが、ブライ編の好評もあって、少し背伸びしたエピソードも1本ぐらい……という意識もあったのでしょうか。
 メインゲストの年齢を引き上げつつも、子供に接する立ち位置に置き、バンドーラ側の作戦と繋げたのは、全体への目配りを感じるところです。
 年長者の余裕を見せるゴウシであったが、その夜バンドーラはさやかへと呪詛を仕掛け、一騎打ちの場に現れたさやかは、ゴウシに鋭い殺気を向ける。
 その突き出す竹刀はまるで真剣のような切れ味を発揮し、そっちがその気なら仕方ない、と飛び回し蹴りで竹刀を弾くゴウシ(笑) だが、さやかもさやかでサマーソルトキックを放ち、剣道そっちのけになってきたところでキマイラに乗り移られている事が判明。
 「目を覚ませ! 君は、操られているんだ! 頼む! 目を覚ましてくれ! 子供達が、待っているんだ! 君の大好きな子供達が、今日も待っているんだぞ!!」
 ジュウレンジャー正道を行く説得も届くに至らないが、ゴウシはさやかキマイラ必殺の一撃に対し、真剣諸手掴み。
 「さやかさん、俺は絶対に君を守る。絶対に助けてみせる! だから、だからさやかさん、君も頑張れ。頑張るんだ!」
 ゴウシ決死の説得により、さやかが精神力でキマイラの憑依を打ち破ると、怒りのゴウシがジャンピングローリングパンチを叩き込むも負傷による鈍い動きで一方的な攻撃を受けるが、そこにお邪魔虫……じゃなかった仲間達が駆けつけ、開始12分にしてようやくゴウシ以外のメンバーが登場する、思い切った構成。
 場所を移動した4人が戦っている間に、さやかに両手の怪我の治療を受けたゴウシは戦場へ向かって歩き出すが、〔ピンチを救う → 雨の中でガード → 決闘を受諾 → 説得 → 説得 → 治療イベント〕と短期間に急速に好感度を上げすぎてヒロイントリガーが引かれ、やや勢い余った形で背中抱きつきムーヴが発動。
 「行っちゃ駄目……。行っちゃ、やだ……!」
 体に回されたさやかの手に、血に染まった自分の手を重ねかけるが、思い直して拳を握ったゴウシは、決然と戦場を見据えて無言で変身し、“血に染まった手”と“それを癒やすもの”のダブルミーニングなど演出でも魅せて王道の格好良さなのですが、今作は良くも悪くも“戦士の使命”についてシビアに掘り下げてきた作品ではないので、少々、外側から文脈を接合してきてしまった感はあります。
 「ゴウシ……」
 「ありがとう、さやかさん」
 戦士の背を見送ったさやかは、その場に泣き崩れて少々古めかしいヒロインムーヴを決め、次作『ダイレンジャー』では、ロマンス要素の強いクジャク編を藤井邦夫が担当した事により、荒川さんはコメディ色強めの3バカその他の担当に回りますが(ただしアイドル回は入れた)、『ジェット』『ジュウレン』で、90年代戦隊における荒川稔久の立ち位置、がだいたい確立された感じがあるのは、今見ると面白いところ。
 ちなみに『ダイレン』のクジャク編は藤井先生とのコンビで全て坂本監督が撮っていますが、今回を見るに、割とこういった、泥くさめのロマンス描写もお好きだったりしたのか。
 一方、残り4人は吸収したスターの力を自在に操るキマイラに苦戦し……アイドル、は……?
 「ジュウレンジャーよ、 いよいよ最期の時が来たようだな! トドメだ!」
 4人まとめてキマイラの竜巻攻撃に飲み込まれて絶体絶命となるが、その死地を救ったのは、マンモスバズーカを構えて崖の上に立つゴウシ。
 「「「「ゴウシ!!」」」」
 「ドーラキマイラ! 覚悟するのは貴様の方だ!
 「なにぃ?!」
 「この一撃で貴様を倒す! この白さの、輝きにかけて!」
 凄くいいところなのに、若干、洗濯洗剤のCM感が入り込みましたが、黒は崖から飛び降りる事による落下速度を乗せたダイナミックマンモスチョップでドーラキマイラを一撃粉砕し、これが、ヒロイン力ブーストだ!!
 バンドーラ様はキマイラを巨大化し、氷雪の舞い始める中、黒が音頭を取って、大獣神召喚。
 キマイラの放つ氷のブレスによって凍結してしまった大獣神はアイスホッケー殺法で粉々にされそうになるが、その場でスピンする事によって解凍から反撃し……特に、剣道要素は活用されませんでした(笑)
 スピンに始まりスピンに終わってキマイラは雷光斬りの錆となり、一人カフェでしんみりとしていたゴウシの元に集まる仲間たち。
 ナレーション「憧れのスター達は再びみんなの前に戻った。全てを白く生まれ変わらせていく雪の中で、ゴウシとさやか、二人の瞳は、いつか来る平和な時を見つめているに違いない」
 ジュウレンジャー側ばかりではなく、降りしきる雪を道場から見つめるさやかの姿が描かれるのも綺麗な着地となり、メンバーの中ではゴウシ贔屓としては、若干の勢いの付きすぎは感じたものの、完全主役なおいしい役回りのキャラ回で良かったです。
 巨大戦から急に雪が強調されるので確認してみたら、今回が年内ラスト、放映日が丁度クリスマス当日だったようで、ロマンス度高めな内容は、その影響もあったのかもしれません。
 次回――来るか?! 忘れた頃の環境破壊ネタ!!