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ZAIAルーペは壊れない

仮面ライダーゼロワン』感想・第17話

◆第17話「ワタシこそが社長で仮面ライダー」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:高橋悠也
 「あなたの頭脳は、1000%――」
 第1話冒頭をなぞる形で、ZAIAエンタープライズジャパンの新製品、人工知能と同等の思考能力を人間に与える次世代インターフェース・ZAIASPECのCMが流れ、天津社長の囁くような声の破壊力もプラスして、キャッチコピーが大変面白かったです(笑)
 自分主演のCMを見てニコニコしているのも、合わせ技でおいしい。
 「お陰様でZAIAスペックは、計画比724%の売れ行きです」
 「1000%じゃ、ないんですね」
 対するアルトの返しも秀逸で面白かったのですが、秀逸すぎてアルトでないように見える、のがちょっと困ったところ(笑) 基本的に切れ味が悪いのがアイデンティティの主人公、はなかなか難しい。
 一本取られた形の天津はアルトに対し、ZAIASPECとヒューマギア、どちらがより優秀かを直接対決で決めようと持ちかけ……そして始まる、お仕事5番勝負!
 第一番のお題「生け花」に対し、アルトは花屋ヒューマギア、天津は名門華道家をそれぞれ選出。
 作品の特性としての“お仕事”要素へのこだわりに対し、そのフォーカスが本筋の流れと馴染みきらなかった第1部の問題点を意識してか、“お仕事”要素の必然性をストーリー展開に接続してきたのですが、結果として「特に求められていない分野にラーニングで強引に突撃するヒューマギア」の図が誕生してしまい(それも含めて天津の「シナリオ通り」かもしれませんが)、「拡張した人類」vs「高度な人工知能(ロボット)」の対決に盛り上がるというよりも、最初に曲がる角を間違えたまま、じわじわと目的地から離れた方向に歩き出しているのではないかという据わりの悪さが続きます。
 またここで見せようとしているのは「ヒューマギアの可能性」なわけですが、「即席ラーニングで専門家相手に生け花勝負で勝つヒューマギア(の可能性)」を見せられて嬉しいのか? という割と致命的な問題が生じており、そこで「ヒューマギアの可能性」を「良きこと」として受け手に感じさせる為の仕込みが大きく不足。
 第1部における、大雑把にいえば、物分かりの悪い人達に新たな価値を理解してもらうという構図においては、「可能性の拡張=善」はわかりやすく接続できたのですが、お仕事勝負という直接対決の構図においては、「ヒューマギアの勝利」と「人間の敗北」がセットになるわけであり、今回でいえば先に華道家の背景を描いて(まあ、感じ悪そうな描写はされているのですが)「この華道家にはヒューマギアが勝ってほしい」という状況を設定しておかないと、「ヒューマギアを応援する理由が特に見つからない」事になってしまっています。
 勿論このお仕事勝負は、アルト(飛電)vs天津(ZAIA)の代理闘争ではあるのですが、それは“裏側の事情”であるので“表側の物語”として、「ヒューマギア(の可能性)の勝利」→「視聴者の喜び」を繋げる為の回路が空白になってしまったのは、大失策。
 「主人公が嬉しい」と「受け手も嬉しい」筈だ、というのは往々にして作り手の思い込みであって、ここに来て、その部分の丁寧さが著しく欠落してしまったのは、新展開の一歩目だけに、今後への不安を感じさせます。
 いつでもどこでも出現して戦闘に持ち込めるのが便利な野良マギアには、ベルトもキーも無いという一幕が挟まれて生け花対決が始まる一方、A.I.M.S.では再起動した滅に銃を突きつける不破が、滅の行動=アークの意志とはそもそも、人間によるラーニングの結果であると告げられる。
 「人間の悪意が、12年前、我々を立ち上がらせたのだ」
 生け花対決は華道家の勝利に終わるが、何やら不正行為のあった事が匂わされ、突然キレた花屋ギアが、絶滅マギアへと変貌。その暴走を止めようとするアルトはお久しぶりのかっ飛びファルコンに変身するが、そこに天津が姿を見せる。
 「この時を待っていた……ゼロワン」
 天津が手にするのは、新たなドライバー。
 「サウザンドライバーはZAIAの芸術作品」
 自らベルトを腰に巻いた天津は、絶滅キーとプログライズキーを左右に同時装着。どちらにも対応しています、とアピールしてくるほどこの両者の違いはよくわからないのですが、ドライバーから左右に翼が生えたようになるデザインは格好いい。
 「その強さはゼロワンドライバーの1000%……――変身」
 社長の大好きな「1000%」が「01の1000倍」という形でベルトと繋がり、サイとカブトムシ、二つのキーの力を同時発動した天津は、ゴーグル部分は紫色の吊り目でポイズン似、金ベースで黒ラインの、presented by ZAIA な新たな仮面ライダーへと変身する。その名を――
 「世界の王者! 仮面ライダーザワールド!」
 ……じゃなかった、
 仮面ライダーサウザー……私の強さは、桁外れだ」
 マギアそっちのけでゼロワンに殴りかかるサウザーだが、マギアに攻撃を受けると標的を切り替え、お注射ソードでゼロワンドライバーからファルコンキーのエネルギーを採血。地球にお手当、と空飛ぶマギアをヒーリングッバイし、必殺技の書き文字に、コピーライトマークでZAIAエンタープライズ、はズルい!!(笑)
 「これで心置きなく、戦えます」
 金色ボディに五本角の鋭い顔立ちからはドラゴン系とも思えるサウザーは再びゼロワンに襲いかかると、やむにやまれず発動されたシャイニングホッパーの先読み高速機動さえ読み切るレベルの違いを見せつけ、1000%止まらない連続空中キックを叩き込んで、ゼロワンに完全勝利を収める衝撃のデビューを飾る。
 何が凄いって、ここまでなるべく安易なライダーバトルを避けていた(第12話でやってしまいましたが)今作において、顔見知りの相手を這いつくばって立ち上がれない状態まで叩きのめせるメンタルが凄い。
 「遂に飛電是之助が遺したゼロワンを越えた……」
 「……爺ちゃん……爺ちゃんを知っているのか」
 「ええ。……彼は私の憧れだった。人工知能テクノロジーに目をつけた彼には、先見の明があった。しかし、ヒューマギア開発に依存したばかりに、飛電インテリジェンスは凋落した。挙げ句の果て、後継者に選んだのは、無能な孫。見るに堪えなかった。――しかし今、私は満足している。こうしてゼロワンを越えた今、私の方が正しかった事が証明されたからね。……悔しかったらいつでもかかってきなさい。ま、あなたには1000%勝ち目がないと思いますが」
 なにやら、先代飛電社長に対するこじれた愛と執着を感じさせる天津ですが、ゼロワン越えの証明手段が殴り合って勝つという大変バーバリアン脳である事も判明し、世界を変えるのに必要なのは、財力よりも筋力。
 一方、生け花対決の司会進行役をつつがなく勤め上げた唯阿の元に、プログライズキーが盗まれたとの連絡が入り、キーとドライバーを手に路地裏をよろよろと歩くフードの影は何者なのか? どっちもこっちも警備がゆるゆるだ! で、つづく。
 新展開一発目、お仕事対決に関する当面の疑問は上述した通りですが、飛電に対するZAIAの「買収」が物語に組み込まれた事で改めて引っかかってくるのが、「ZAIAにうちの会社は渡さないよ」というアルトの宣言が、会社や社員の事を考えた上での発言とあまり感じられないい点。
 アルトの「ヒューマギアへの思い入れ」は強く描かれている一方、「会社への思い入れ」はほぼ描かれていない点を補う為に、前回ラスト、天津のヒューマギア廃棄宣言によりアルトの強い動機を作ったのですが、結果として、アルトが買収に抵抗するのは「社員の為よりもヒューマギア廃棄を阻止する為」という意味合いが強くなってしまい、わかりやすくはあるのですが、会社や社員への視線はますます希薄に感じてしまう事に。
 丁度、前回の感想記事にいただいたひらりぃさんのコメントへのレスで触れましたが、アルトと接触する人間の一般社員が、憎まれ役&コメディリリーフとしての副社長派だけだったのは、物語全体にじわじわと悪影響を及ぼしてしまっており、前々回の昴的なリアクションの人間社員キャラが居ればな……と思うところ。
 そこに関しては潔くオミットするので考えないで下さい、としたいのでしょうが、そこで「社長」という要素をおざなりに扱ってしまうと、物語の中で扱う“お仕事”に対する誠実さにも疑念が生じてしまうわけであり、その上で幾ら条件的に有利な可能性があっても社運を独断でお仕事対決に賭けてしまうのでは、もう一度、解任動議を発議されても仕方ないような。
 また、ZAIAに戻って天津の下で動く唯阿に対し、
 「大変だな~、会社の都合でいろんな仕事させられて」
 と厭味を飛ばすのですが、アルト自身がその「いろんな仕事させる」側、である事にさすがに自覚がなさ過ぎて、全体的に台詞回しのデリカシーは低くない作品なのに、「社長」要素絡みになると、どうしてここまで低くなってしまうのか。「会社」とか「お仕事」の話はあくまで小道具の扱いなら構わないのですが、買収にまつわるお仕事対決、として本筋にがっちり繋げた以上は、色々と配慮のレベルを上げてほしいところです。