『爆上戦隊ブンブンジャー』感想・第35話
◆バクアゲ35「碧き王者」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:冨岡淳広)
かつて、
「俺は昔、ビッグバングランプリのレーサーだったんだ。でも……ある事故で、グランプリのライセンスを取り上げられて、走れなくなった」
とブンブン本人の口から語られていた、BBGライセンス剥奪の真相――それは、連戦連敗で腐っていた時期にファンから貰ったパーツを付けて出場したら、そのパーツが違法改造品と判明した為だった!
チームメイトであるビュンディーを巻き込まない為に、己一人の過失と、黙ってビュンディーの前とBBGから去ったブンブンであったが……実際にブンブン一人の過失なので、
「私の為に、ライセンス剥奪を受け入れたのか?!」
と解釈するビュンディーの、友情が重い(笑)
チームに連帯責任が及ばないように、というブンブンの心情そのものはわかるのですが、「大クラッシュで引退」と「違法パーツで処分」だったら、明らかに後者の方が不名誉なので、むしろ真相を非公開にしてブンブン個人のライセンス剥奪に留めたのは運営側の温情処置としか思えず、「非公開を条件にライセンス剥奪を受け入れた」みたいなストーリーにはならないと思うわけなのですががが。
「あたしと一緒に走らねぇか?」
立派な無職となり孤独にやさぐれるブンブンに、組織を旗揚げしたばかりと称するスピンドーが近づくと、メカニックの腕を買ってハシリヤンに引きずり込み、心の隙間に高級応接セットを並べられたブンブンは、スピンドーに言われるがままに“走れない奴が走れるようになるシステム”その他を研究開発。
『ブンブン』ロジックとしてはこれが“他人にハンドルを握られた”状態であり、ブンブンジャーと対比される“悪”としてのスピンドーは、その手管に長けた存在という扱いなのかと思われますが、そう持ってくるのなら、あのマッドレックスが心服して自分のハンドルを預けるほどの「ボス」とは何者……?! といった仕込みがもう少し欲しかったところ。
仕込みどころか匂わせだけでマッドレックスとボスの直接のやり取りも無い上に、作劇としてはディスレースの呪術から解放されたら“自分のハンドルを取り戻した”みたいに描いてしまった為に、直前の出来事にもかかわらずブンブンへとバトンが綺麗に繋がってくれません。
クルマ獣のシステムも元はブンブンの設計であり、デンテのオジキも真っ青レベルでハシリヤンの組織拡大に貢献を果たしてきた過去を打ち明けたブンブンに向けて、
「元に戻るんだから……ブンちゃんの優しさが出てるよ」
と未来が無理矢理なフォローを入れ(第1話のウェディングドレスに意識があったとすれば、ニュアンスは悪くないのですが……)、とにかく「ブンブン無罪」ありきで、真相を知ったメンバーの葛藤や分断とか描くつもりが最初から見えないので(始末屋は先日“外”扱いされたばかり)、ひたすら引っ張り続けてきたブンブンの背景を長々と説明するだけの茶番劇になっているのが、辛い。
……個人的には、「ブンブン」の愛称の時点で、元ヤクザ率90%ぐらいだと思っていた為、驚きが特にないのもありますが。
勿論、ファンと称して違法パーツを渡したところからスピンドーの手の平の上であり、その真相と、クルマ獣システムによるギャーソリン集めについて知ったブンブンは、警察にスピンドーを売って逮捕に持ち込むが、監獄惑星に囚われたスピンドーは大銀河警察とも既に繋がっており、ムショの中で悠々自適に生活しながら、ハシリヤンの勢力は今に至るも全く衰えていないのであった。
……引っ張り続ける事およそ2クール、露骨に何かありそうなのに、やたらめったら煙幕を張って視線を遮り、物語の重心の位置そのものをあやふやにし続けてきたブンブンとハシリヤンの因縁は、やっぱりありましたに落ち着き、結果的には、玄蕃が家出して帰ってくるまでを2クールかけてやったみたいな事に。
勿論こちらはロングスパンの伏線なので、途中で事情や方針が変わったりした可能性は充分ありますが、今の今まで無闇に隠していた背景を、今になって一番当たり前の形で持ち出してきておいて、衝撃の秘密のように扱われても目が点になります。
なお悪いのは、その「衝撃の秘密」について、メンバーの過半数以上が既に知っていた事であり、チーム全体にとっては驚きの真実でもなんでもなく、“一部メンバーに口裏合わせて隠されていただけ”でしかないで、せめて劇的さを引き上げるのならば、“隠されていた側”を中心に描く他ないのですが、脚本・演出ともに場をフラットに描く(ガレージ内部の撮り方が象徴的)ので、もう何がなんなのやら(笑)
“隠されていた側”にカメラを寄せすぎると、“隠していた側”の悪印象が上昇してしまうので出来ないのはわかりますが、概ね主犯である範道大也さんは画面の端っこに座ってステルスモードに入っているのが、いっそ面白い。
チームの基本メンバーを、訳知り組(赤青橙)3人と新参組2人(桃黒)に分けて、情報に対するリアクションの差を描こうとした狙いそのものはわかるのですが、基本的に後者に利がなく、話が進むほどに、前者が後者に情報を隠しているだけとなっていき、それによって生じるトラブルは、結局いつも「新参組の二人が物凄く善良」で解決してしまうので何の面白みも生まれていない上に、あらかた事情を把握していたらしき玄蕃さんに至っては、どうしてブンブンに対して「おまえさんはいい奴」で片付けられるのか、葛藤の飛躍が過ぎてもはやわけのわからない事に。
今作の方向性を踏まえると、それぞれ独立独歩したプロフェッショナル(ここから既に表現できていませんが……)なので、一つのチームとして戦っていても互いの全てをさらけ出さないのは当然、といった内に今回の件も含んでいるつもりなのかもですが、それが面白く成り立つのはメンバー各自に独自の手札があり一定の均衡が存在してこそなので、今作とにかく、成立していない前提に基づいて、物語を進めてしまうのが、大変辛い。
(この後、強引に手札を持っていた事にする為に、未来は月世界人だった! とか、阿久瀬は宇宙探査用アンドロイドだった! とかが無からにょきにょき生えてこない事を祈りたい)
「……俺、戦う。今度こそハシリヤンを叩き潰す! もう逃げないよ!」
「……おまえは逃げちゃいない。今までもずっと戦ってきた」
未来と阿久瀬に許されたブンブンは、今度は独自に打倒ハシリヤンの旗を掲げると射士郎がフォローを入れ、まあ実際、自ら物理でクルマ獣を叩きつぶしてきたわけですが、今回ディスレースに顔割れしたように、そもそも堂々と巨大ロボをやっていて良かったのかから疑問が生じ、色々ちぐはぐで綺麗に線が繋がりません。
そしてこの期に及んで、画面の端っこに座りながら、なんかうんうん頷いているだけの大也への好感度は、割と洒落にならないところまで下がっているのですが、いや君は本当に、ブンブンの気持ちは気持ちとして、君個人として未来と阿久瀬に頭を下げた方が良いと思うのですが……作り手の側が頑なに大也に“謝らせない”のは、もはや不可解なレベル。
かてて加えて、“ブンブンが元ハシリヤンだった事を受け入れる”のと“ブンブン及び大也らがそれを秘密にしていた事を許す”のは別の問題の筈なのですが、前者をOKすると後者もOKされた事になって、有耶無耶のままチームの絆が高まった! みたいにされてしまうのが、いつもの『ブンブン』ロード。
絆斗のお節介で会話を聞いていたビュンディーがディスレースらに捕まり、まさかのヒロイン化?! と思われるが、あっさり救出。
「裏切り者の発覚は、必ずや分裂を招くもの。なのに何故おまえ達は、バラバラにならない?!」
裏切り者(大也)が、不可視の物語バリヤーに守られていて手出しできないからですかね……。
ディスレースが持ち出すマフィアの理屈に対し、メンバーそれぞれが切り返してブンブンジャーの結束を示すのは、積み重ねがしっかりと描かれていれば痺れたかもですが…………劇作としては恐らく、序盤の内にブンブンの過去を明かしていたらチームが崩壊していたかもしれないが、今なら積み重ねてきた信頼感でチームの結束は固い! といった形にまとめたかったのかと思われますが、そもそも5人中3人は最初から事情をあらかた把握していた上(つくづく致命傷)、多分、未来と阿久瀬は1クール目でも「ブンちゃん(さん)は悪くない!」と言い出したと思うので、2クール分の物語が特に見当たらないのが、薄味に定評のある『ブンブン』ロード。
ブンブンを加えてのチャンピオンブンブンジャーフル名乗り、そしてOPでの戦闘シーンなど、本当は凄く盛り上がりたいのですが、家出期間の意味が水たまりに浮かぶあぶくのようなオレンジ、クビ宣告を受けてとっとと逃げ出す三下トリオ、意味も無く急に最前線に出てきたディスレース、など諸々の流れも含めて哀しいほどに虚無。
カスタマイズのアイデアは、ガジェットの使い方として面白い工夫になっていますが、ディスレースは急に弱体化するとチャンピオン精神を注入されたオレンジの斧に切り裂かれ……うーん…………これはまあ個人の好みになりますし、一応、皆の応援を受けた形にはなっていますが、これだとただの“個人の復讐を達成した人”になってしまい、家出期間を経ての玄蕃の“変化”を描くならばむしろ、映像的にもトドメはブンブンジャー全員で、とした方が象徴的になって良かったような。
そうでなければ、玄蕃の打倒ディスレースに“皆で協力する”姿に焦点を合わせたエピソードでディスレースを追い詰めた方が良かったと思うのですが、話題の焦点が“ブンブンの過去”に移ったところで、用済みになったとばかり即ゴミ処理に出されるので、話と気持ちが上手く噛み合いません。
ディスレースはプランBで巨大化すると宇宙へ逃走するが、ブンブンジャーは宇宙に爆上げでそれを追い、チャンピオンキャリアーが下駄と追加装甲となるブンブンジャーロボチャンピオンのデザインは格好いい。
「まだだぁ! まだ俺の出世の望みはあるぅぅ!」
召喚魔法で戦闘員を呼び出すも、ブンブンカー連続武装チェンジ(思想は大体、ライダー全部乗せフォーム)によって次々と薙ぎ倒されたディスレースは、ブンブンカー一斉発進ロードに轢き殺され、急に思考が浅はかになると、何をしに前に出てきたのかよくわからないまま、大爆死(スピンドーから、ブンブン抹殺を命じられた場面でもあれば話は違ったのですが……)。
「ブンドリオ……スピンドー様は、おまえを許さない! 必ず地球に来るぞぉぉ……!」
「来いスピンドー。俺はもう、逃げない!」
これまで散々、BBGとハシリヤン迎撃は別! でもハシリヤンを倒した先にBBGへの道がある! と意味のわかりにくい供述を繰り返してきた今作ですが、今度は「BBGそっちのけでハシリヤンとの因縁に決着をつける」宣言が飛び出し、そこは多少強引になっても、BBG出場に紐付けないと駄目だと思うわけなのですが。
ブンブンの中では“過去を清算”した時にこそBBGに胸を張って出場できるという理屈なのでしょうが、その動機付けが他のメンバーと共有されていないので、チームの一体感を示したいなら、本来のポイントはそこだったのではないか、と。
とにかく、物語の土台に関わる大きな真実が明らかになったのに合わせて一本の芯を通す筈が、まるで綺麗に繋がらないし、要所要所のポイントはズレまくっているしで、玄蕃復帰回を越えるカタストロフを引き起こしてきたのは、さすがに仰天。
主に細武の私情からブンブンを放置してきたISAに対して、急に射士郎がツッコミを繰り返すのも、先日の未来の「隠しごとが多い!」同様、露骨に見えている大きな穴に、先にツッコんでおく事で誤魔化そうとする感じの悪い手法であり、どうして色々こうなったのか……。
今度こそブンブンと完全に和解したビュンディーは、スピンドーが地球に来たら一緒に戦おう、と握手をかわし……ところでこの人はどうして、始末屋に落ちぶれているのでしょうか。
ビュンディーには少年時代から世話になっている恩義を感じていそうにしても、やたらとビュンディーやブンブンに気を回す先斗は、もはや別人となっていましたし、先送りと論点ずらしを繰り返した挙げ句に煙幕が晴れるとスタート地点から半歩ほど進んだだけであり、ついでに積極的に煙幕を張りまくっていた主人公への好感度が深海の底に沈んでいく、『ブンブンジャー』ここに極まれりといったエピソードでありました。
……ああ後、これだけブンブンの過去・ハシリヤンとの関係についての情報を一気に出しておきながら、ギャーソリンについては相変わらず全く説明されないのも、大変『ブンブンジャー』でした。