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走り出す少年たち

仮面ライダー響鬼』感想・第31話

◆三十一之巻「超える父」◆ (監督:諸田敏 脚本:井上敏樹
 注目は、風邪っぴきが二人で寝込んでいる部屋で、生菓子の箱詰めをしているヒビキさん。
 親子2人が同じ部屋で寝かされているのも画の都合ではありましたが、そこに更なる画の都合を加える事で、大変不安を感じる映像になってしまいました(笑)
 たちばな、保健所が入ると、そのまま警察案件に直行しそうなのですけど、隠し通路のセキュリティはどこまで信用できるのでしょうか!
 前回ラストでは、京介の父が鬼だった強烈な血の因縁が生じるぐらいやるのかと思いましたが、前半から匂わされているあきらと被るのでか避けられ(あきら、今の流れだと、焦点を合わせている余裕はあるのか、あきら……)、魔化魍の火の輪攻撃に突っ込んでいく響鬼の姿に、かつて逃げ遅れた子供を救う為、炎の中に飛び込んでいった消防士の父の面影を見た、という形になり……いずれにせよ、
 ・「ヒビキに(恐らく無意識に)父性を感じている明日夢
 と
 ・「響鬼に明確に父の面影を見た京介」
 がクッキリとした対比に置かれる事で、桐矢京介という強烈なスポットライトの設置により、明日夢くんの抱える諸々について、君のそれはなんなのだ! と半ば力尽くで突きつけてくる構造。
 響鬼が落としたバチを拾って投げるアシストを見せる明日夢だが、バチで叩かれた火車は逃走すると、猛士の面々はそれを追いかけていき、あれこの状況、僕がフォローしないといけないの……? と目撃者について実質丸投げをされる少年よ。
 猛士緊急マニュアル:「目撃者を消す方法」は、36ページだ!
 「俺が君に何か聞けば、君は何か答えてくれるのか?」
 察しの良い京介は、怯えや恐れ以上に強い決意を視線に宿しながら、怪物の存在についてみだりに口外しない事を約束。
 「そんな事より、君に謝りたい事がある」
 「え?」
 「君のことつまらない奴だって言った事さ。……俺の勘違いだったみたいだ。どうやら……長い付き合いになりそうだ、君とは」
 言われた明日夢としては、そんなことを急に言われてもですが……世間一般からすればだいぶ特異な立場に居る――既に境界線を踏み越えている――事を外部から指摘するキャラが登場して鋭いワンツーが叩き込まれ、メタ的に少し穿った見方をすれば、明日夢は特異な立場に居ながら「フィクションにおける役割を果たしていない」という厳しい糾弾で、それを“敢えて”やらなかったのが『響鬼』であるわけですが、前期『響鬼』と後期『響鬼』が激しく衝突。
 京介は早速、ひとみや明日夢母に接触すると、明日夢とヒビキについて情報収集。 
 「どうやら、君にはなんの秘密も無いようだな」
 ……だいたい事実だけど、酷い(笑)
 ヒビキと自称親しいが、別に魔化魍退治を手伝っているわけでない明日夢の姿勢を「中途半端なんだ、君は」とバッサリ切り捨て、基本的には他人の距離感や歩調を頭ごなしに否定する外野からの勝手な言い分でありますが、正直、「理不尽な暴力」よりは余程、明日夢くんが立ち向かわないといけない“現実”の象徴としては説得力があり、前期を踏まえた上での、明日夢くんに全力でぶつかってくるアンチテーゼとして、良く出来たキャラクター。
 「俺の父親は、俺が子供の頃に死んだ。……俺はそれが悔しいんだ。俺は永遠に父親を乗り越える事が出来ないから」
 京介がやたらと勝ち負けにこだわるのは、自尊心を満たす手段であると同時に、“どうすれば父親を乗り越えられるのかわからない”京介なりの煩悶の産物である事が示唆され、つまりそこに降って湧いた、疑似――乗り越える父親、それがヒビキだとロックオン。
 ……文字にまとめると、はた迷惑この上ないですが、この京介のねじれてしまった部分をヒビキさんがどうにかしていってくれるのかも、興味深いところです。
 「男は、父親を越える事で、強くなるもんだろ。逃げてるんじゃないのか、君は? そんな奴が、ヒビキさんに近づける筈がない」
 京介は更に、実父と距離を置いている明日夢の態度に不満を向け、自分ルールで他人にずかずか踏み込んでくる、だいぶ嫌な奴ではあるのですが、とにかく主要人物が“可愛い明日夢くん”で固まっていた――固まりすぎていた今作における異分子として、明日夢の周囲に不足していたピース(作風として必ずしも必要では無かったかもしれないが、他があまりに偏りすぎていた)を埋め、作品をぐいぐい動かしていく動力源になっている為、嫌いになれません。
 言葉に詰まるも思うところはあったのか、夕飯の席で父親の現住所を母から聞いた明日夢は、ヒビキにも相談。
 「少年はさ、まあ、おふくろさんの気持ちを盾にして、オヤジさんに会うのを、んー、さけてきた……そんなとこかな。……まこれは、俺の勘だけどね」
 「…………そうかもしれないです。……よくわかんないんですけど」
 ヒビキは意外や京介にも一理あると認め、さすがに急ピッチすぎる、と思うところではありますが、京介という劇薬の投入を後押しにして、ヒビキさんと明日夢くんがとうとう、明日夢少年の半笑いの殻に切り込む、恐らくは大きな転換点。
 身なりの良い男女が更なる実験を続ける中、京介はたちばなを訪れると、ヒビキさんに真っ正面から勝負を持ちかけるもかわされ、実父の家を訪ねた明日夢は一足遅れのすれ違いを繰り返し……この人割と駄目なオトナでは? と、成り行きでたちばなの手伝いを申し出る京介と、図らずも父の一日を追って回る事になった明日夢の姿が交互に描かれ、あきらからの救援要請を受け、火車退治に飛び出していったヒビキの後をタクシーで追う京介……この流れだと、タクシーの運転手さんも、戦いを見るのでは(笑)
 京介の存在に気付かぬまま、響鬼火車へと戦いを挑み、前期の今作ならもう少しフォローを入れたと思うのですが、前回今回と、一方的に火車に打ち負けるだけの威吹鬼王子の扱いは、ちょっと酷い。
 「よし……気分爽快」
 響鬼は灼熱真紅の型を叩き込んで火車を粉砕し、仕事のストレスを、魔化魍にぶつけていた(笑)
 やはり人の力を最大限に引き出すのは、復讐の炎なのか。
 一方、レストランで新しい家族と食事をする父親の姿を遠目に見つめ、直接会うのを躊躇った明日夢は、父親が作りかけだった隣の家の犬小屋を完成させ……帰り道、明日夢の前にスッと停まってドアを開く一台のタクシー。
 「よっ、送ってくよ。タダでいいからさ」
 その運転手は、笑顔を浮かべるお母さん、はとても良かったです。
 「…………どう、会えた?」
 「……会えなかった」
 「そうなんだ」
 「…………会えなかったけど……会えたっていうか」
 「そうなんだ」
 父親とニアミスを繰り返しながら後を追う明日夢のシーンは、やや間延びというか、良くも悪くも前期『響鬼』の間合いで、前回~今回の怒濤の流れの中ではテンポが悪く感じたのですが、ここでそれが、少年が父親の足跡を追う旅路になっていた(ある意味、ED映像の変形だった)とわかるのは、痺れるやり取りでした。
 「……ねえ母さん」
 「ん?」
 「俺、父さんのこと、好きでいていいのかな?」
 「……あったりまえでしょー。あたしが惚れた男なんだからねー」
 そして、図らずも父親の背を追って、その人となりを知った明日夢は、そんな実父が嫌いではない自らと向き合うと、母親もそんな明日夢くんの気持ちを笑顔で肯定し(内心はともかく子供にそれを向けられる“格好いい大人”として描かれ)、これまで、じわじわと描かれていた安達家の母子関係でしたが、その気持ちの繋がりと距離の更新を、1話でビシッと決めてみせ、脱帽の手さばき。
 京介の投入で明日夢サイドの大手術を執刀しながら、ここまで外縁の布石になっていたものを繋ぎ合わせ、今作のテーゼそのものといえるEDテーマ「少年よ」と部分的に重ねて、母子の物語を収めてみせたのは、実にお見事でした。
 ダッシュと力技と劇薬が急ピッチで飛び交う中で、敢えて一度ペースを緩め、父の足跡を追い、自らの証を残した少年が母親と語らう構成は、脚本・演出ともに、前期『響鬼』へのはなむけの意識もあったのでは、と思うところですが(「別れた夫」にどのぐらいのメタファーを見るかは視聴者次第として)、決して「悪意」とぶつかったわけでなくても、実父の“新しい家族”の姿を目にする「苦み」や「痛み」を呑み込んでいく事で、少年が明日へと向けた確かな一歩を踏み出してみせるのは、鮮やかな着地となって良かったです。
 「響鬼か……おまえはいずれ、俺のものになる。……必ず」
 戦いの場をそっと離れた京介は、薄暗い情念を瞳に点らせ、前作『ブレイド』における睦月っぽさを出すのですが……まあでも京介は、根本的な部分でそんなに悪い事は出来なさそう(笑)
 次回――投入される追加装備から迸る、色々となりふり構っていられない空気!!