東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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ぼくたちと、ヒーローの間。

仮面ライダー響鬼』感想・第40話

◆四十之巻「迫るオロチ」◆ (監督:金田治 脚本:井上敏樹
 明日夢くんは早速、ヒビキさんに名前で呼んでもらったぜーーーー!! とひとみに自慢げに報告し……まあ、ひとみは以前から“あだ名”で呼ばれてますけどね!!
 「今までずっと少年だったもんね」
 にっこり笑顔で刺してくるひとみから、京介が「安達くんと友達になれるかもしれない」と言っていたと聞いた明日夢は、学校を欠席した京介の家に見舞いへ。そこでヒビキに弟子入りを断られた件を聞くと、胸に抱えたもやもやをあきらに相談し、イブキと顔を合わせる事を避け、学校も休んでいるというあきら、明日夢くんから電話を貰って会ってくれたのかと思うと、基本的にいい子ではあります(作劇としては“いい子”にしすぎていたわけではありますが)。
 「お母さん的にはさ、明日夢が、やりたい事をやってくれればそれでいいのよ」
 悩める明日夢は、母親に背中を押される形でたちばなにドーンと突撃するが、タイミング悪くヒビキは外出中。ランニングしていたヒビキを見つけて声をかけようとする寸前、ヒビキの前に飛び出した京介のジャンピング土下座により出鼻をくじかれるのは、障害物の配置の仕方として面白かったです。
 「ちょっとちょっと、なんの真似だよ?!」
 路上で高校生男子を土下座させる31歳甘味処手伝い、という事案発生の危機に、ヒビキ・狼狽。
 「もう一度お願いします! 弟子にして下さい!」
 プライドは高いが目的の為なら嘘でも頭を下げられる京介、それと同時に「俺は優秀です」と言ってしまうのがアンバランスな人間性――京介の抱える歪さの発露――として描かれ、ロジックとは無縁なヒビキさんは、説得に四苦八苦。
 「だから、そういう問題じゃなくて……あのとにかく、あの、駄目なもんは駄目なの、わかる?」
 「わかりません! お願いします!」
 困り果てたヒビキは、京介が頭を下げている間に一目散に逃走し、序盤からなり手不足の問題は言及されてきましたが、いざ貴重な志望者が現れると、組織としての受け皿や育成システムが用意されていない問題が露呈。
 フィーリング任せの徒弟制に寄りかかっていた節が窺え、京介はまず、事務方から猛士に潜り込んで、鬼の組織改革から手をつけた方が良いのかもしれません。
 勢い任せにどーんとぶつかるタイミングを致命的に逸した明日夢は、その後、ヒビキさんにそれとなく水を向けてみるが……
 「少年はさ、少年のままでいいんだよ」
 (……少年……)
 ヒビキさんの無神経バスターが少年の心を抉り、31歳歴戦の鬼に、思春期男子の心はわからぬ。
 一方、生きている森が人を呑み込む事例が発生し、調査に向かったトドロキの前に現れる謎の木人。響鬼威吹鬼が応援に駆けつけるが、アームド拡声をまたも無効化されて撤収を余儀なくされ、登場当初から戦力強化の無いまま連戦連敗を繰り返す威吹鬼轟鬼の扱いがとにかく悲惨(ここから強化展開は無さそうですし……)。
 「大変なんスねぇ……弟子を取ると、色々と」
 「…………あのさぁ。……実はさ、俺もちょっと、困ってる事があって……」
 たちばなで今後の対策を検討している内に、人生相談コンボが遂にヒビキさんに波及し、弟子入り志願に困っているとこぼすと、いやそもそも貴方のキャリアで弟子を取らない方が問題でしょ、と藪を突いて蛇がうじゃうじゃ。
 「弟子を育てる事も、鬼として大事な仕事だと思うんですよ。弟子を取って、自分自身が悩む事も。ヒビキさん……もしかして、どっかで逃げてるんじゃないですか?」
 いつになく険しい表情のイブキから放たれる、逆説教バズーカが、ヒビキさんの顔面にクリーンヒット!
 「怖いんじゃないですか? 弟子を取って、深く関わっていくのが」
 あきらとの師弟関係に悩む(そして先日、目の前の男になんか言われた気がする)イブキさんは、先輩だから大目に見てきたけど、どの口で言うのそれ? とブレーキを踏まずに追撃を仕掛け……実際のところヒビキさん、何かを“手にする”事を避けている節が見え隠れしていたので、人間として一皮むけようとしている途中のイブキさんが、大変いいところをストレートに突いてきました。
 “無欠の鬼”としてのヒビキさんの、“人間としての欠落”を掘り下げていくのも後期スタイルといえますが、
 ――「少年はさ、少年のままでいいんだよ」
 は、つまるところ、ヒビキさんにとっての“心地のいい関係”であり(それは、ヒビキさんの欲として、否定されるものではないですが)、実質的な前期フィナーレといえる第27話における
 ――「少年には、男として、何かを伝えられたらいいなって。そう思ってるんですよ」
 は、煎じ詰めれば


 「ねえ、俺にも投げられるようになるかい? ドラゴンボール
 「ああ、大きくなったらな。好き嫌いしないで何でも食べて、たくましい体になったらね。その時になったら、必ず俺が教えに来よう!」

(『電撃戦隊チェンジマン』第9話「輝け!必殺の魔球」(監督:長石多可男 脚本:曽田博久))

 に至る“ヒーローと子供”の関係性の延長線上にあって、メタ的には“ヒーローテーゼの化身”であるヒビキさんは、「少年少女のある時期に寄り添い、転んだ時に側に居てくれて、そして去って行く――だけどいつだって求められれば必ず駆けつける」存在であるわけですが、実はそれは、ヒーローにとっても都合のいい関係性なのかもしれない、とヒーローと他者の関わり方を問い直す構造が浮上。
 実際のところ、今作における“鬼”は、命懸けで魔化魍と殺し合うお仕事なので、気軽に弟子入りの可能性をそそのかしてくる猛士関係者の皆さんの方が色々とマヒしているというか、親しい少年をそんな修羅の世界に引き込みたくないヒビキさんの反応の方がむしろまともなのですが、かといって少年を完全に引き離そうとはせず、自身にとっても都合のいい距離感をキープし続けていた中途半端なところがヒビキさんにもあって、そこに「人間」ヒビキとその「我欲」を見ようとするのは、井上敏樹らしい切り口かなと。
 恐らくは多くの鬼が「健康で存命な内に自身の技や志を後代に伝える」為に弟子を取る慣習があるのに対して、ある種のヒーローテーゼヒーローテーゼの化身としては「去って行く」事で完成するのを宿命づけられているヒビキさんにはどこか、「戦って戦って、ある日、ひょいっと消えてしまう存在」として自身を捉えているのではないか、と感じられる節があるのですが、物語としてもメタ領域としても、果たしてそれがヒーローとしてのふさわしい在り方なのか? が問われる事に。
 仮に相手の人間性などに問題を感じるならば、それをただすのも残念ながらヒーローの使命であり、実は明日夢よりも、ヒビキさんにとってより心地よかった互いの距離感に対して、明日夢くんが「変化」に向けて一歩を踏み出し、いわば

 ――「ヒーローと少年」の関係性の更新――

 が求められたその時、その「変化」への対処から逃げているのはヒビキ(ヒーロー)の方なのでは? と突きつけるのが、自身の不足を認めて「変化」しようとしているイブキさんというのは納得がいく転がし方で、言葉を濁すヒビキと突っかかるイブキの間を、トドロキが三下ムーヴで取りなして、その場はお開き。
 あきらの様子を知ろうと学校を訪れたイブキは、京介から不躾な弟子入り志願をされて断り、鬼のみなさんが京介の考え方に対して正面切って説教するわけではない――そこまでする義理はない――のが、ある意味シビア。
 トドロキとザンキは謎の森の監視に向かうが、その目の前で巨大な森が陽炎のように姿を消すのは面白い映像で、森が消えると背後に巨大なドーム(人工物)が姿を見せる事で、幽世と現世が鮮明に交錯するロケーションも良かったです。
 「……消えた。間違いない。コダマの森だ」
 「まずい事になったわね。……どうするつもり?」
 「森の出現は前兆に過ぎない。オロチが近づいている。我々の力では、どうする事もできない」
 森の存在は、これまで暗躍を続けていた和服の男女にとっても想定外の存在らしく、クライマックスに向けた大きな謎に。
 「まさか……コダマの森?」
 トドロキ組から報告を受けた勢地郎が顔色を変え、心当たりの古文書を探りに地下へ下りていくと、懲りないめげない京介は、今度はトドロキに弟子入りアタック。
 頭を下げる戦法が効果を発し、「先生」と言われてのぼせあがるトドロキは、ザンキさんの咳払いにより正気に復帰(笑)
 明日夢はあきらに弟子入り失敗の話を相談し、ひとみが鬼関連の話を知らないので女子2人の役割が分担される事になっていますが、あきらはそろそろ、こいつ面倒くさいな……と思っても許されると思いますし、ひとみは現場を目撃したら明日夢くんに雷電激震しても無罪だと思います。
 そこに現れた京介は、なんとあきらに弟子入りを志願する執念を見せ、なりふり構わないその姿勢と意外な根性……京介に一番ふさわしい師匠は、裁鬼さんなのでは??
 だが京介は裁鬼さんの存在を知らず、あきらが話を受け入れると、売り言葉に買い言葉で、明日夢もなんか鬼を目指すみたいな事を言い出し……本人の知らないところで増殖していく、イブキさんの孫弟子(笑)
 巡り巡っていよいよ“鬼”への道を己の意思表示で歩み出した明日夢ですが、長い積み重ねの末に……と受け止めるには強引な印象が強く、これは、魔化魍の巣で餌になる寸前の窮地を脱した末にヒビキの勝利に貢献した事によるランナーズハイの産物なのでは。
 これは前期からの問題点なのですが、「物語内部で明日夢に提示される選択肢が少ない」のはだいぶアンフェアだと思っていまして、音楽関係の掘り下げ不足に加えて、ヒビキの手助けをするのに何も「鬼の弟子」という究極の選択を採らずとも、情報屋とか走り屋とか調達屋とか、猛士として鬼を助けられる仕事は色々とありそうなものですが、そういった可能性が全く提示されずに、「鬼になるか、距離を取るか」の実質二択みたいなまま話が進んでしまったのは、残念なところ。
 例えば、社会に出て本業と二足のわらじを履きながら、猛士の活動を手伝うような道も示された上で「それでも鬼になりたい」なら飲み込めたのですが、本来なら「何者にもなれる」筈と置かれていた明日夢の進める道をむしろ狭め続けていった末に「鬼になるか、何者にもなれないか」の二択に追い詰めるような形になったのは、劇的さも欠くように感じたところ……だいたい鬼、どう見ても音楽的な資質よりも、肉体的な強靱さの方が求められていますし(笑)
 まあ、ヒビキさんに認められたわけではないので、まだ一悶着あるとは思われますが。
 その頃、響鬼威吹鬼はコダマの森に突入していたが、周囲全てが敵意を持つ森に絡め採られ、日菜佳から緊急連絡を受けたあきらが威吹鬼の危機に鬼に?! で、つづく。