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双子は無職になりたくない

仮面ライダーガヴ』感想・第9話

◆第9話「トリック オア ダンス!」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:金子香緒里)
 はぴぱれでは、仮装に身を包んだショウマと幸果が、グーグ○マップで星一つ付けないで下さい!! と事務所を訪れる子供達にお菓子を配っており、《スーパー戦隊》では『ジュウオウジャー』辺りより季節イベントとして取り込まれているハロウィンを題材に扱ったのは、“お菓子のライダー”として納得。
 「もう俺の噂が広まってる……やっぱ……正体は隠すべきだな……」
 ネットの情報をチェックしていた絆斗は、顔バレなんてした日には昔のヤンチャを曝されて大炎上してしまう……と、正体秘匿の決意を新たにしており、ここまで、現代的な情報ツールとしてのSNSを、情報伝達の小道具と共に、“ヒーローに対する大衆の反応”を示す装置として用いている今作ですが、できれば序盤の仕掛けのみならずに、その存在を物語の中で上手く使っていってほしいところ。
 付け加えると、絆斗や亡き塩谷は、従来的なマスコミとSNSの中間的立ち位置といえそうですが……シリーズ過去作でいうと『龍騎』のOREジャーナル(ネットメディア)がこれに近いでしょうか。
 思えば後続の作品における類例があまり思い浮かばない、今もって異色のアプローチであり(ややこしくなりがちだからな面はあるでしょうが)。
 目指せいつかはSHIOKARAジャーナル創業、と本日もグラニュート事件を追おうとする絆斗は、近くでダンスの練習をしていた少女たちが「怪物」の噂話をしているのを耳にすると割と不用意に声をかけ、いきなり防犯ブザー……の洗礼は浴びなかったものの、大変、警戒されまくっているのが当世風。
 え、なんだかんだ、俺って格好いいお兄さん枠でしょ? と慢心を感じる絆斗は、慌てて名刺を取り出そうとして、あ、鳴らされた。
 120%言い訳のきかない声かけ事案を発生させた自称ジャーナリストの男は、誤解を解こうと逃げる少女の一人を追いかけ(駄目すぎる対応)、今、事案は音速を超えて、事件になろうとしていた。
 栄光の逮捕者列伝の一員として《仮面ライダー》史に名を刻み、「デリート許可」の6文字に向けて真っ赤なパトランプが背後に迫る絆斗は、カボチャ怪人と化してお菓子をせびり歩くショウマ(ハロウィンの趣旨を少し勘違いしている)とすれ違ったりしつつ、道路に飛び出して車に轢かれそうになった少女を救うマッチポンプ人助けで最低限の好感度をゲット!
 ……から、直後に、俺1000%不審者でしたごめんなさい、と反省して謝罪する事により、刺激的な出来事の勢いで上書きせずに因果のバランスを調整するのはキャラクターと話運びへの好感に繋がり、サブライター一番手となった金子さん、こういった部分での大外しはしない印象。
 怪物について「死ぬほど大嫌い」とこぼす絆斗の表情に何かを感じたのか、少女・きらりは情報提供を承諾し……ここまでにAパートの半分ほどを要しており、ある意味、2020年代のコンプライアンスに正面から組み合ってみたようにも見て取れますが、子供から情報一つ聞き出すのにここまでの段取りを組まないといけないとなれば、それは子供ゲストは使いにくくはなるわけで……ただ、子供が見る番組だからこそ、知らない大人に話しかけられてほいほいと受け答えする姿などおいそれとは描けない事には非常に納得がいき、今回ここに大きな尺を割いたのも、最新型『仮面ライダー(令和)』としての意識的なアプローチの一貫であるのかもしれません。
 一昔前なら、トラブルがあってもドタバタコメディとして処理できたのでしょうが、そういうわけにもいかない様子も窺え(ショウマとすれ違うシーンに名残あり)、ではどうするのか、という方法論の模索など、だいぶメタ寄りの解釈ではありますが、興味深い一連のシーンでありました。
 “怪物”の噂のあるトンネルについて情報を得た絆斗は、行方不明を噂される少女が、きらりと同じダンススクールに通っていたと知ると見学を願い出、
 (こん中に、グラニュートが紛れてるとしたら……)
 お腹の気になる、お年頃だった。
 レッスン後、絆斗は落ち込んでいる様子のきらりに声をかけ、アイドルを目指して歌やダンスを頑張っているが思い通りにならず、自信を失っている少女の悩みに頷いてみせる。
 「あー…………まあわかるけどね。自分だけうまくいかなくてやんなる感じ」
 「……わかるんだ」
 ここの、なんだかちょっと周囲の大人と違う事を言う人と出会った、といった少女の表情は、絆斗ときらりの距離感が縮まる大きなきっかけとして説得力があり良い芝居でした。
 ドロップアウト経験もある絆斗、20代(?)の一般的青年として、積極的に他人に寄り添おうとか導こうとかは特に考えていないと思われるので「命懸けで生きろ!」とか「こっちが好きだって言ってるんだもの、そっちだって好きにならないわけないさ」とかは言い出しませんが、自身が塩谷に救われた経験からか、俺には関係ねぇ、と年少者の悩みをバッサリと無視もできない辺りに人の好さや歩んできた人生が窺えて、少女ゲストとの絡みは、なかなか面白い間合い。
 「……いいんじゃない。夢くらい諦めても」
 道理を説くでも優しく励ますでもない絆斗のやや突き放したような物言いに、自分の中の「上手くなりたい」を再確認したきらりは立ち直り、練習の成果を見に来るよう約束をかわす羽目になった絆斗は、挙動不審のダンス教師を追跡。
 一方、ハロウィン終了を知ってベンチに転がっていたショウマだが、持ち前の腹筋の強さで起き上がると、ペロペロキャンディに大喜び。重量級の新たな眷属を出産して固めの杯をかわしていたら、背後からバイクで走ってきたエージェントが…………お菓子を盗んでいった(笑)
 確かに有効だけど!
 格好良く走ってきたのに!
 と、妙に面白かったです。
 ショウマの追跡シーンでバイクの出番が確保され、徒歩でダンス教師を追っていた絆斗は思いあまって飛びかかるが、教師が膨らみ加減の腹を押さえていたのは腹の具合が悪くて腹巻き+ホッカイロを装備していた為と判明し、場合によっては再び「デリート許可」が下りかねないところでしたが、宇宙警察はいつでも待機している!
 ダンス教師は、トンネル付近で起きている怪事件の噂を聞いて生徒の安全を心配していた善良な人物だったと誤誘導のオチがついたのも束の間、丁度トンネルから出てきた少年がマドレーヌを頬張るとベロに巻きつかれ、背後の闇から忍び寄るベロのCGは大変不気味で良かったです。
 「噂の怪物の正体はおまえか……――変身!」
 「おまえ、赤ガヴの仲間か! 狩り場を嗅ぎつけられるとはなァ!」
 銃撃でプレッシングを阻止した絆斗は、少年を逃がすと変身し、トンネルの闇に潜んでいたヤドカリグラニュートと激突。
 一方、途中からダッシュに変わったエージェントを追い詰めるショウマだったが、それはランゴに最後のチャンスを与えられ、首の皮一枚で無職を回避した双子による罠。
 「俺を消しに来たんだろうけど、俺だって許すつもりはないよ!
 「ふははは! そんな口聞けるのは……今だけよ」
 双子はニエルブから受け取った装置でショウマをレーザー攻撃し、これは多分……ニエルブが本社ビルから取り外してきた、東映特撮名物:過剰気味のセキュリティ。
 ガヴは初手からチョコガンマンになると、クイックドロウで装置を破壊しようとするが、背後に仕掛けられていたもう一機の攻撃を受け、チョコ溶けた。続けてマシュマロも……溶けた。
 「「あはははは! 赤ガヴ、ここがおまえの墓場だ!!」
 全般的に熱線に弱い、という弱点をガヴは突かれ、遠隔からリモコンでレーザー撃ってるだけで勝ち誇る双子。
 ……まあ、並んで台詞や仕草をユニゾンさせるだけでちょっと面白みが出るのは、双子キャラの強みではあります。
 「ここを通る人間を襲ってたのか?!」
 「俺の仕事はそんな、雑じゃねエ。大事なのは質だァ……おまえに用は無いッ」
 ヴァレンとヤドカリはトンネルの中で死闘を繰り広げており、メタル系歌手っぽい(雑なイメージ)というか、ヤドカリの語尾をかすれさせる言い回しが、妙に印象的な格好良さ。
 ヤドカリパンチとヴァレンの喧嘩殺法が激突し、銃は積極的に、殴打に使っていくスタイルです。
 迫力ある至近距離でのド突き合いから、投げを食らったヴァレンは地面で即座に体勢を立て直すと、足を絡めて……撃った。狭いトンネル内で、壁を利用した攻防の末、ヴァレンの銃弾を甲羅で跳ね返したヤドカリは逃走。
 判定勝ちしたヴァレンは、少年が落としていったお菓子の包み紙からグラニュートの正体が焼き菓子屋だと気付いて店に向かうが、あった筈の店は何故か忽然と消え失せており……まさしくヤドカリ。
 絆斗が地面に残った、何かを引きずったような跡に気付く一方、ガヴはグミのスピードでもセキュリティを突破できずに苦戦中。
 残機の減り続けるガヴは、一番固くて溶けにくいものをと考えて新入りのグルグルキャンディーをセットすると、無数のキャンディが全身を覆う外骨格を形成して二回りほど大きくなったその姿……もはや、メカガヴ。
 なんかもう、これなに……? なメカガヴですが、フォームチェンジ後、一旦、双子とエージェントの方にカメラを切り替える事で、ズシンズシンと出てくるメカガヴに対する感想を、TVの中と外で、え、これなに……? とシンクロさせてくるのが妙味のある好演出でした。
 「デカくなった……」
 メカガヴは、超合金C装甲によりセキュリティレーザーをはじき返すと、4輪バギーが殺意を満載したキャンディガトリングへと変形し、乱れ打ち。
 燃費の悪いガトリングだが、メカアッパーカットでエージェントをたたき伏せている間に砲身の冷却が終わると、これがキャンディの、命の重み!! と周囲を薙ぎ払い、エージェントとセキュリティを沈黙させるのであった。
 「どうしようシータ……最後の作戦が……!」
 ……双子、とことん駄目だな、双子(笑)
 コケティッシュで幻想的、道化のようで実は牙を隠し持っているタイプかと思っていたら、本格的にただの下っ端だった事になりそうな双子は捨て台詞も残さずに去っていき、そろそろ来年の初日の出を拝めるのか不安な時期になって参りましたが、個人的には、〔双子の片方が退場し、生き残った方はしばらく地下に潜った後、復讐鬼に変貌して再登場。勿論ことあるごとに形見のアイテムに話しかける〕とかが好みです。
 今回はガヴとヴァレンの戦いが同時進行で別々に描かれる形となり、罠を切り抜けて飴を口にするショウマと、手がかりを見失って立ち尽くす絆斗……そんな中、友達から貰っていた問題のマドレーヌを口にしてしまったきらりの背後にグラニュートの舌が迫って、つづく。
 ……少女ゲストなので、さすがにバキィッとかベキイッとか工場送りとかは無いと思いたいですが(とはいえ、世界観としては同年代の被害も出てはいる筈であり……)、絆斗メインといっていいエピソードで、師匠退場エピソードと近似の引きを行う、スタッフは本当に鬼(笑)
 果たして絆斗は、奪われる未来を取り返し、運命に抗う事が出来るのか――
 次回――「俺の菓子で幸せにしてやったんだ」「何が幸せだ……」
 そういえば絆斗はまだ、幸せが人間スパイスをより美味にする事については知らない?? これを知ると、母親の一件がより重くのしかかると共に、なぜ塩谷が狙われたのか? について疑念を抱く端緒になりそうですが、ガヴを活躍させつつ絆斗の掘り下げをどう行っていくのか、楽しみです。
 そんなわけで、香村さんの消耗を抑える、という観点からは、そろそろサブライターを入れて欲しいかな……というタイミングで、過去に戦隊で『ルパパト』『キラメイ』に参加している金子さんが初登板(個人的には『キラメイ』以来となりますが、かなり評価しています)。
 エピソードとして上手くまとまるか――絆斗と少女の関係性をどう使ってくるか――は、後半を見ないとなんともでありますが、今回時点では不用意なところのない丁寧な出来でしたし、全体が“よく見えている”タイプであり、劇中要素の拾い合わせ方や不足への目配り、それらに基づいて話運びに説得力を持たせていくスタイルは香村メイン体制とは相性が良いように思うので、期待。
 (※過去の参加作では『ルパパト』#36「爆弾を撃て」、『キラメイ』エピソード15「きけ、宝路の声」・エピソード34「青と黄の熱情」といった辺りが、金子さんの持ち味が活きた秀逸回)。