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まっかなすきやき

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第42話

◆ドン42話「ドンびきかぞく」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹
 「私たちの戦いに、クリスマスも年末も関係ない。そして、ドンブラザーズ、史上最大の戦いが始まろうとしていた!」
 猿原の家に荷物を配達したタロウだが、出てきたギャルギャルしい少女ははるか、皺だらけの父親は雉野にそっくりで、事態が飲み込めずに、しゃっくりを一つ。
 「鬼と、猿と、雉は……家族なのか……?」
 喫茶どんぶらに赴き、妙に弱々しく問いかけると、マスターから帰ってきた答は、
 「そうだよ」
 目を開き、泳ぎ、激しくまばたきしたタロウが、しゃっくりしながら踵を返す一方、猿原家ではどう見ても女装した雉野が一家にうどんを振る舞い、机を囲む中には異彩を放つ修験者姿の男が一人。
 (この男は、亀田勉。詐欺師である)
 そう、タロウが目撃した嘘だらけの奇天烈家族――劇団サルブラザー――の目的は、悪質な偽霊能者の手口を掴み、懲らしめる事だったのである。
 外観は立派な猿原の家が偽霊能力者に目を付けられるのは一定の納得がいき、各人の妙な扮装と状況設定にもそれなり合理的な理由が存在し、キャストに普段とは違う芝居をさせる面白さも生じ、と狙いはわかる、狙いはわかるのですが……雉野の女装(というよりも、それを受け入れてしまう詐欺師)はさすがにリアリティラインを破壊しすぎて、うーん……そこが別の立ち位置なら、もっと素直に楽しめたのですが。
 タロウは「嘘がつけない」ので、マスターに口裏を合わせてもらって作戦から外したのも筋が通り、喫茶どんぶらで作戦会議をしていた猿鬼雉だが、そこに亀田がやってきた事で、たまたま店を訪れた犬塚も「はるかの彼氏」として巻き込む事に。
 その頃、前回はちょっとシリアスを失いすぎた! と訓練に励んでいたソノーズは、ムラサメの動きについて頭を悩ませ、ひっそりと笑うソノニが大変いい表情。
 劇団サルブラザーが詐欺師のお祓いに付き合っていると、田舎から送られてきた野菜を持って更なる問題児――ジロウ――が絡み、はるか、二人目の彼氏、誕生。
 「は?」
 「はぁ?!」
 雉野の女装は、関係者にツッコませる事でそれを誤魔化す為に否応なく巻き込む仕掛けとして機能しているのですが、コメディかつ基本的に安っぽい詐欺師としても、悪役のレベルを下げすぎるとヒーローが輝かない理論により、面白さを削いでしまっているのは残念。
 どうにか「云々かんぬん」でジロウも劇団に引きずり込み、割と楽しそうに彼氏を演じるジロウは、折角エピソードの筋に絡んだのだから、もう少し普段と違う芝居をさせても良かったような……まあジロウの場合、ひっきりなしに二つの人格を行き来しているとはいえますが。
 (こいつ……なんかウザいな。無視しよう)
 そんなジロウをばっさり視界から外す詐欺師、選択としては正しいけど酷いよ詐欺師!
 まさかのゲストからも雑な扱いを受けるジロウが、それでも珍しくメンバーに迎え入れられる中、そこへ恐る恐る様子を窺いにくるタロウが凄く面白かったです……!(笑)
 「タロウさん! じゃ、じゃじゃタロウ兄さん……!」
 「おまえは、黙れぇ……ッ」
 猿原、渾身の一撃。
 シロクマの所長に貰った肉をみんなで食おうと持ってきたタロウだが、嘘をつけないタロウは詐欺師を騙す仕掛けの中では招かれざる客であり、肉だけ貰って追い返そうとする猿原、それは酷いぞ、猿原。
 「断る。俺も一緒に食う」
 当然そのまま家に上がり込んだタロウは、この状況をタロウなりに受け止めようと改めて周囲を冷静に確認し……
 (まさか?! 女装した雉野にそっくりな……母親?)
 どうやら、いやいやそんなまさか、と正直に指摘するのを押さえ込もうとするとしゃっくりが出るようで、しゃっくりが止まらなくなったタロウは詐欺師の勧めで鼻をつまんで水を飲み、
 (タロウ、ひょっとして……この状況についてこようとしている? ……ごめん、タロウ)
 はるかがそんなタロウを気にするのは良い目配り。
 劇団サルブラザー一同に詐欺師を加えてすき焼きパーティが始まると、詐欺師は、それぞれに憑いた悪いものを払う為に、一番大切なものを捧げる事が必要、とお決まりのパターンに持ち込むが、俳句を詠むヤツ、みほちゃん(死んだ娘設定)に執着するヤツ、初めて貰ったラブレターをスマホに保存しているヤツ、と使えないヤツばかりであった。
 タロウを気にするはるかは、追加の肉を取りに行った際に、「実は云々かんぬんで」と事情を説明し、
 「まあ、云々かんぬんなら仕方がない。だが――俺なら大丈夫だ。進化している」
 と、人の世に馴染もうとする意識は持っているタロウ(ちょっとした泣かせどころであります)がいい笑顔を浮かべて、馬鹿騒ぎだけではない奥行きが生まれるのが、物語の積み重ねも活きて上手いところ。
 「しかし、お兄さんにもよく見ると、いろいろなものが、憑いていますな。怪物のような、妖怪のような……」
 「――それでいい。それが、俺というものなのだろう」
 (……な、なんだこいつは?! まるで壁だ。なにを言っても弾き返されるような……)
 兄設定で戻ってきたタロウに対し、偶然にもいいところを突いた詐欺師だが、タロウに圧倒されて退散を決め込むと、その夜、日中に鍵を外しておいた窓から猿原邸に侵入。てっとりばやく空き巣行為を試みるが……そこで目にしたのは、
 金目の物が全く無い居間(日常)
 死んだ娘と真剣に電話している母(雉野)
 ウーロン茶で泥酔している指名手配犯(犬塚)
 寝ぼけて異形に変身する娘(はるか)
 手斧を握った危険人物(ジロウ)
 のホラーハウスであった。
 悲鳴をあげて逃げ出した詐欺師は、お手洗いから出てきたタロウとバッタリ遭遇。
 「君! なんだこの家は?! どうなっている?! だいたい君は、本当にお兄さんなのか?!」
 「ああ。俺は…………お、れは……お、ォ……」
 タロウ、死んだ(笑)
 「……し、死んでる……」
 倒れたタロウの脈を取った詐欺師はそのままへたりこみ、タロウの特性が、エスカレートしていく恐怖体験の頂点としてきっちり機能したところで、灯りを付けて、猿、参上。
 「インチキ霊能力者、亀田勉。君の詐欺の手口、しっかり見せてもらった」
 ここで流れ出す主題歌インストアレンジがばっちり決まり、ある視点では当たり前の光景が別の視点を通すと「恐怖」に転じる仕掛けが、昼の馬鹿騒ぎとの対比を含めて古典的ながら鮮やかにはまった上で、あれこれ無茶をやってきたけれど、その理由として社会悪を退治する話になっているのも気持ちの良かった部分。
 猿原と、蘇生したタロウに挟まれて一目散に逃げ出した詐欺師は、理解不能な恐怖に直面したあまり鬼と成り、なぜ虹を背負っているのか……と思ったら、ドンブラとの戦いで、爆弾・ブーメラン・弓矢・鞭を次々と繰り出し、年内ラスト回ではありますが、あっさりと秘密鬼を使ってくるのは、今作らしいといえばらしい。
 多彩な攻撃で思わぬ強さを見せる秘密鬼だったが、先輩チェンジで極ニンニンジャーとなったドンモモが空蝉の術の駆使からフェスティバルエンドで、最近一緒に必殺攻撃をする係になっている金と共にフィニッシュして、25点。
 巨大秘密鬼は5体に分身すると大掃除ハリケーンを放ち、ヒトツ鬼の描写において、いちはやくセルフパロディ路線を押し進めたのは渡辺監督ですが、基本的に表面上のパロディに終始して内輪ウケめいたもの以上の広がりがないのは、残念なところ。
 ギア回収シーンがオミットされて以後は、そうでもしないと折角のモチーフがわかりにくいというのはありますし、序盤に見えた鬼モチーフ作品の要素を“お題”のように組み込んでエピソードを作っていくのにはやはり限界があったようなので、そこは作品の取捨選択として切り捨てて割り切った部分(なのでパロディ路線に舵を切って埋めた)、とはなるのでしょうが、今作の明らかなウィークポイントにはなってしまいました。
 正直、今回ぐらいの長い尺を使ってゴレンジャーハリケーンのパロディを見せられても面白い事は特になく(秘密鬼だったからこそ、ではあるのかもですが)……トラドラゴンジンのフォローでボール爆弾を奪い取ったオニタイジンは、リフティングで一人オニタイジンハリケーンを放つと、トドメはドンブラファンタジア極で、究極大勝利。
 恐怖の一夜を過ごした偽霊能者・亀田は警察に出頭し、劇団サルブラザーによる詐欺師退治は一件落着。
 「でもさ、ごめんね、タロウ。途中まで仲間外れにしちゃって。もしかして……さみしかった?」
 「……ああ。さみしかった」
 正直にポロリと応えたところでEDテーマが入るのは素晴らしく、慌てて「……らしい」と付け加えたタロウは、しゃっくりを一つ。
 引っかかるところは幾つかあったものの、年内ラストを意識した笑い収めのバラエティ回としては意外と悪くなかったな……というところから、タロウの本音をはるかが引きずり出す事で、タロウは決して人の輪に加わりたくないわけではなく、むしろ人と縁を結び幸せをもたらしたいのだが、鬼子としてそれを果たせずにいた為に今ではすっかり他人との距離感がよくわからなくなっているのだ(現在進化中)、という点が改めて浮かび上がり、桃井タロウとは如何なる男なのか、が年の瀬に強く示されたのは、大変良かったです。
 タロウがマスターに教わったしゃっくり停止法を試す中、猿と雉は、ハードボイルドを愛する犬塚にらしくない真似をさせてしまった、と言及するが……その犬塚は猿原家の前でふと足を止めると一時の「家族」に笑みをこぼし、So, let's get the party started!
 今は薄汚れた街を歩く孤高の騎士もとい指名手配犯だが、かつては夏美と家庭を持ちたいと指輪も渡していた犬塚が心の底で望んでいるもの、が仄めかされるちょっといい話に着地して、年明けに向けて不穏な爆弾を置いていくのではなく、ドタバタ騒ぎの末に、キャラクターの柔らかい部分をチラリと見せる美しいオチで綺麗に一つ跳ね、そうそう、こういう『ドンブラ』芸が見たかった! と最後に満足度の上がるエピソードでした。
 次回――うさぎ年の始まりに跳ぶウサギの頭。