『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第40話
◆ドン40話「キケンなあいのり」◆ (監督:山口恭平 脚本:井上敏樹)
「離れていても離れていない。理屈に合わないその確信はなんだ? 私は“愛”が知りたい。犬塚翼の、“愛”が」
ソノニが犬塚翼の語る“愛”への執着を冒頭モノローグで強める一方、人の感情をマンガから吸収したソノザは、ムラサメを手に剣の練習に打ち込んでいた。
練習用の藁人形に、ドンモモはともかくオニシスターの顔イラストが貼り付けてあるのが容赦無い編集長ですが、突然、自ら封印を破ってムラサメが飛翔。
「どうした、ムラサメ?!
「もうあなたから学ぶ事はありません」
用済みになって、ポイ捨てされました。
「力が溢れています、マザー。戦いを望みます」
(それはいい事です。敵を探しましょうっ)
朗らかに反応する、能登さんの声が怖すぎます(笑)
ソノザが飛び去っていくムラサメを溜息をついて見送っていた頃、担当マンガ家は、路上教習に出ようとしていた。
一ヶ月前、おばに自動車免許の取得を勧められたはるかは、「人生助手席がいい」と抵抗を試みるも家主の意向には逆らえず、しぶしぶ通い始めた教習所で……教官クラッシャーとして伝説を築く珍走の数々を回想で描写。
一方、ビルの屋上に佇み、獣人の森で何が起きたかを知る為に狭山との再戦を意識していた犬塚は、なんだかもう、ただのバトルジャンキーなのではないかという気もしてきたマザーの指示を受けたムラサメの強襲を受け、アバターチェンジするもパワーを増すムラサメに圧倒されると、ビルから転落してしまう。
そこに通りがかったソノニがトドメを刺そうとするが、貴重なサンプルを抹殺する事を躊躇している内に目を覚ました犬塚は、頭を強く打った事により一時的に視力をほとんど失っており、いちゃいちゃ走馬灯からの流れでソノニを夏美と勘違いする、実に井上脚本らしい展開。
そこに近づく紫色の抹殺者ドンキラー、じゃなかった、ドン・ムラサメを目にしたソノニは咄嗟にその状況を利用する事を閃くと、自ら「夏美」を名乗って犬塚と二人で愛の逃避行へ突入し、倉持夏美、貴様のヒロイン力をいただいていく……!
一方、ヒロイン力とはすっかり縁遠くなったリアクション芸担当のはるかは、ちょっと濃いめの教官(妙に作った風貌といい、やたら連発する「OK!」といい、何か元ネタあり……?)と路上に繰り出し、“愛”を知ろうとするソノニの画策によるシリアスな逃避行と、はるかとOK教官の完全にコメディに振った教習シーンとが交互に描かれ、後者の極端さは少々、『ドライブ』時代の山口監督を思い出す演出。
獣人の森からどうやって脱出したのかについてはソノニが「わからない」と誤魔化すと、「俺と同じだ」で犬塚が納得してしまうのは地味に上手い接続となり、障害物を乱暴にどかしながら二人に迫る追跡者・ムラサメの姿が、ムラサメの悪役顔も効果的にはまって、良い雰囲気を出してくれました(前回とちょっとかぶりましたが……)。
ムラサメの追跡による吊り橋ブーストを受けながら、極限状態の恋人同士を装う事で犬塚の“愛”に近づこうとするソノニは、元はドン家製のムラサメは普通の人間を戦闘に巻き込まない筈、と犬塚と共にレストランに入り込み…………前回、そのドン家製のドンキラーが、高層ビルに目からビームを打ち込みましたね!!
まそれはさておき、
「翼……聞きたい事があるの。私の事、どうして好きになったの?」
「それは……理由はない」
「理由が、ない?」
「ああ。理由とはなんだ? おまえが、優しいからか? 綺麗だからか?」
犬塚翼劇場が始まる中、二人の座るテーブルに向けて放たれるニーミサイル! ……じゃなかった、レストランの床下に潜ったムラサメジョーズの刃が迫るのは、定番ながら効果的な描写に。
「じゃあ、優しさが消えたら、綺麗じゃなくなったら……? だからといって俺はおまえを嫌いにならない。好きでいられる。そういう事だ」
(こうしているだけで、感じる。おまえの想いを。これがおまえの愛の力、か)
満足げに情報をインプットしたソノニが、背後に忍び寄っていたムラサメにざっくり斬られた直後、レストランを狭山ネコが強襲し、肉ーーー! 高級な、肉ーーーーー!!
“非常識な出来事”をどう見せ伝えるのか、というのは色々と工夫のしどころであると思いますが、今作における、(生)肉を手づかみで貪り食うというのは、シンプルにして効果的であったな、と。
また考えてみるとこれも「食事」に関わる要素であり、獣人が、「料理」という過程を必要としない(蔑ろにする)存在とすれば、そこに「自然/文化」の対立項を見る事もできるのかも……と考えると、レヴィ=ストロース著『神話論理』の中の「生のものと火を通したもの」に繋がりえるのか(解説書経由でしか知らないですが、採集したアメリカ神話の構造分析から、神話の中における「料理」が自然→文化の移行を示す要素である、と唱えた書)。
まあ、鶴野みほは料理をするので、ネコ獣人の基本特性といえますが、今作端々でスポットが当たってきた事を考えると、「料理とは人間(の文化)的行為である」のが一つ作品を貫く思想となってはいるのかも。
狭山ネコは犬塚へと襲いかかり、咄嗟にかばったソノニが傷を負うと、続けてムラサメと戦闘開始。犬塚とソノニがレストランを逃げ出していた頃、犬塚からの再アプローチが気が気でない雉野は、みほに仕事に行かずなるべく外出も避けてほしいと頼み込み、
「みほちゃんには、僕だけを見て、僕だけの為に生きてほしいんだ」
と、だいぶ危ない事を言い出していた。
直接的な原因は犬塚ショックでありますが、みほに対する依存と執着が完全にマイナスの形で描かれており、雉野に関しては、ここからの巣立ちこそが肯定的に描かれる事になっていくのかもしれません。
雉野の場合、自分の存在を許し認めてくれるのはみほだけ、という思い(込み)が根深くあるようですが、仲間たちの存在や、職場の人間関係の好転など、必ずしもそうではない事への“気づき”が本当の「変身」をもたらす――そしてその時、雉野は「みほ」以外の為にも翼を広げ、誰かにそこに居ていいと伝えられる縁と円を結ぶ存在になれる――事もありそうでしょうか。
……犬塚と雉野、まとめて真・夏美に捨てられて、「……俺たち、強く生きようぜ」エンドかもですが!(笑)
雉野の求めを不承不承みほが受け入れていた頃、路上に出たはるかは走り屋の魂に本能覚醒するとフルスロットルで昨日の自分をオーバーテイクしようとしており、激しさを増す雷雨の中を逃げていた犬塚は、命の瀬戸際でソノニを強く抱きしめて……抱き心地で、別人だと気付いた。
思わずソノニを突き飛ばすと共に視力が回復してきた犬塚は、雨に打たれるソノニを目の当たりにすると、大切なものを汚されて激怒。
「なぜ夏美のふりを……ふざけるなぁっ!!」
一度はそのまま背を向けた犬塚だが、ソノニが傷を負っている事に気付くと足を止め、迫り来るムラサメの姿を見ると、ソノニに肩を貸して二人の逃避行を再開。
「おまえ、なぜ、夏美のふりを?!」
「すまなかった。だが、どうしても知りたかった!」
そんな二人の眼前に立ちはだかる、ドン・ムラサメ・フォー・ジャスティス。
紫色が必要以上にJP味を出すムラサメですが、まあ、本家JPさんもだいたいこういう感じですからね!
きびすを返す二人の後を、剣を構えて追うムラサメだったが――
どぐしゃぁっ!!
横から突っ込んできた教習車に凄くいい音で轢かれ、この繋げ方はちょっと、衝撃的でした(笑)
「なんじゃーーーーーーー?!」
ムラサメを轢き、教官が絶叫する横で、何故か、やり遂げた女の顔をしているはるか。
そう、悪を轢くのは、東映ヒーロー伝統のイニシエーション。
だから、免許が必要だったのですね、ゆり子おばさん!!
ヒーローとして大きなステップアップを果たしたはるかは、そのまま運転席でオニシスターなると、ムラサメめがけてDa! Da! Dash! アクセル全開、遙かな眠りの旅を捧げようと突っ込んでいき――18歳。人生で一番美しい時。そのパワーは、 最高の力を発揮するんだ、とジロウの中の妖精おじさんが言っています。
そのまま、オニシスター@教習車vsドンムラサメの変則的なカーアクションに突入すると、教習所で見せた後方への激走も伏線となってドアアタックの一撃を叩き込み、オニシスター史上最大の強さを発揮。
これ以上このペースに巻き込まれてはいけない、と充電に帰ろうとしたムラサメだが、なんと飛行中に狭山ネコにキャッチされてしまい、狭山×ムラサメという妙に格好良くも凶悪な組み合わせが誕生。
逃走中の犬塚とソノニは不幸にもこの狭山と出くわして犬塚がアバターチェンジする一方、はるかのドライビングについていけなくなったOK教官が、俺の明日はどっちだ、と半ば錯乱のあまり時計モチーフの鬼へと変貌。
教習所の名前でアピールしていた未来鬼、今作歴代でもトップクラスにおまけ扱いの出現となりましたが、井上敏樹が原典『タイムレンジャー』に2本だけ参加した内の1本(CaseFile.14「デッドヒート」(監督:諸田敏))が、タイムブルー/アヤセが教習所で講習を受けるエピソードだったので、メタ的には原典と繋がりの強い鬼だったといえるかもしれません。
ここまで出番皆無だった赤青金も召喚されて未来鬼との戦いが始まり、物語中に帰郷を宣言し、本当に帰郷したまま戦闘以外の出番が消えて無くなる追加戦士、まあ、90年代的といえば90年代的。
一人ネコ狭山に立ち向かうイヌは、狭山ネコがのけぞったタイミングでその腹に飛び込もうとするが、はじき返されて変身も解除。
振り下ろされたムラサメの一撃で絶体絶命のその時、コンドール仮面の矢がはじき飛ばしたムラサメを掴むと勢いのままに犬塚は狭山ネコを横一閃し、絶叫をあげて狭山をコピーしていたネコ獣人は消滅…………て、知らぬ事とはいえ、狭山刑事、死んだ……?!
現段階ではあくまで鶴野みほ情報だけなので真偽は定かではなく、さすがにこれで本体死亡だと寝覚めが悪いというか、こういった、キャラクターが知らない間に殺人(に類する行為)に関わっていました、みたいな要素は、後で突きつけられるにしても突きつけられないにしてもあまり好みではないので、物語の今後の展開にもよりますが、出来れば救済措置があってほしいところ(後ムラサメが単独で、バスガイドも斬っている筈ですし)。
これで退場かもしれない狭山ネコは、思わぬキャラの継続登場から不気味な演技で強いインパクトを刻み、好キャラでありました。そういった貢献度の点でも、無事に戻ってきた狭山さんの姿を見たくはあるわけですが。
未来鬼の方はさっくりと退治されると巨大化し、犬塚は大合体によりいきなり足として召喚され、時間を巻き戻す能力で合体を強制解除しようとする巨大未来鬼だったが、「だが効かぁん!」で無効化されるとドンブラファンタジアの露と消え、果てしなく雑な扱い。
「僕は、あなたのものになります。あなたは、獣人の手に渡った僕を、救ってくれました」
「は?」
(駄目です! その者は敵ですよ、ムラサメ!)
密かにハードボイルドに憧れていたのかムラサメは犬塚に懐いてマザーを慌てさせ、犬塚翼は、罪状の増えそうなアイテムをてにいれた!
「一つ、教えよう。ムラサメだけが、獣人を倒す事ができる。――獣人の夏美を倒せ。そうすれば、本当の夏美は帰ってくる」
犬塚を焚き付けて去って行くソノニの横顔が影に沈むと爛々と輝く蒼い瞳が異質の存在を強調し……ソノニが獣人についてどこまで把握しているかは不明なのですが、果たしてその言葉に含まれた毒は何をもたらすか。
今回この最終的な行動を見るに、ソノニには犬塚への思慕が発生しているというよりも、あくまでも“愛”のサンプルとして色々な犬塚翼を観察しようとしており、「自らの手で愛を断ち切った時の犬塚翼の絶望した顔が見たい!」といった感じに見えますが(個人的にはその方が納得度は高い)、ここしばらくの今作は、しっかりした脚本をベースに演出が個々の解釈を加えているというよりも、物語の先が見えない中でどっちつかずの描写でお茶を濁しているような雰囲気がそこかしこにあって、前回今回は特に、その辺りの不明瞭さが出た印象は有り。
そういったラフな部分で生じた互いのフィードバックが時に見事な化合を果たして快作を生み出す事があるのは東映ヒーロー作品の強みではありますが、そろそろ残り話数も見えてきた(一桁台に入ってきた?)ところで、終幕へ向けて丁寧な加速が欲しいところではあります。
犬塚とムラサメが思わぬ形で繋がる一方、裏で如何なる手段を用いたのか、鬼頭はるかは免許を取得。
今回ここでやっと顔が出たタロウと猿原、そして雉野をドライブに誘うが、その背後で既に廃車同然の姿を見せている乗用車を目にした3人は全力で逃げ出し、その背後にバック転ならぬバック走で迫り来るアクセルモンスター、「道路に飛び出すと、危ないぞ!」でつづく。