『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第34話
◆ドン34話「なつみミーツミー」◆ (監督:加藤弘之 脚本:井上敏樹)
声に出して読みたいが、他人に向けて言ってはいけない日本語。
「元気を出せ。たとえ虫けらであっても、それなりに命の価値はあるものだ」
雉野がヒトツ鬼ショックを引きずり、はるかと猿原のおでこに書かれた脳人の二文字はまだ完全に消えず、前回のどんぶら会談の余波が残る中、オペについて礼を言うタロウに向けて「大した事じゃない」で流し、あくまで黒子に徹しようとするマスターは、もしかしたら何か重大な犯罪を起こして超時空的な指名手配中の身の上なのかもしれない気もしてきました。
私の事は、どんぶらおじさんと呼んでほしい。
「さっぱりわからない事が多いが、一番気になるのは、ソノイ。何故あのような性格になったのか、という事だ」
「そうそう。まるでタロウみたいに」
「……俺に? 馬鹿を言うな。似ていない。全っ然な」
自覚、無かった。
これは驚きというか納得というか、そうか、それで正面から普通に受け止めていたのか……と理解できましたが、ひとまず似ていると仮定して心当たりを問われたタロウは、元老院の罠を思い出すも、心中かぶりを振って否定。
「……いや。似ていない。俺は唯一無二だ」
嘘はついていないが、ちょっぴり、話はずらした。
一方、ソノーズのアジトでは……
「……なに? 俺が桃井タロウに似ている、だと? 馬鹿を言うな。似ていない! 全っ然な」
こっちも、自覚、無かった。
「……似ている」
「似ていない!」
「似ている。頼むソノイ、以前のおまえに戻ってくれ」
「そうだ。前のおまえの方がずっといい」
「似ていない。俺は唯一無二だ」
もう、このくだりだけで一週間分ぐらい笑った気がするので、凄い! 凄いよ『ドンブラザーズ』!
お供のくせに生意気だ! とソノタロウが同僚にお仕置き張り手を叩き込んでいた頃、みほ=夏美、の確信を更に強めようとする犬塚はみほちゃんの手料理を雉野に頼み、手のひらに太陽をかざしてみればオケラだってアメンボだってみんなみんな生きているんだ虫けらなんだ、と太陽鬼案件からのタロウの追い打ちに深手を負いながらも雉野はこれを承諾。
公園のベンチに座り込んでいた雉野がみほに慰められて、深刻な依存ぶりが重ねて描かれる鬼畜な一幕を挟み、凄くわかりやすい地獄の番犬、出てきた。
両肩にパトランプ、顔は二枚舌のドーベルマン(今回、最も大きな嘘をついているのは誰なのか……?)モチーフの特捜鬼が、天才シェフを名乗ると次々と市民をデリートしていく現場に、ドンブラ&ソノーズが大集合して三つ巴の戦闘開始。
「「最近お供たちが妙な事を言う。俺たちが似ている、とな! 気に入らない。似ている筈がない」」
ドンモモとバロム仮面は、それぞれの唯一無二をかけて早速剣を打ち合わせ、まあソノイ、前々回、「似ているんだよ……俺とおまえは。海と空のように!」って言ってましたけどね!
……まあ、似て非なるものというニュアンスだったのはわかりますが、そうこうしている内に特捜鬼に逃げられてしまった頃、荒ジロウは誰に顧みられる事もなく、前回のムラサメ戦で負った手傷の痛みにのたうち回っていた。
苦しみに耐える荒ジロウが懐からスマホを取り出してルミちゃんとの写真を見つめると、その魂は和ジロウへと移り変わり、人に対するマイナスの存在としての荒ぶる鬼神を祀り上げて、プラスの神霊とした祭祀の象徴としてのルミちゃんが改めて明確にされるのですが、若干以上に、痛みと苦しみを和み人格にスライドした感も漂います。
生地で結んだ人の縁と、都会の殺伐とした人間関係とのギャップがもの悲しさを増しますが、一般的なヒーロー作品の文脈としては“人と人の絆”として描かれるものに、“神”“鬼”“祭”などの要素を盛り込む事で、“人と神霊”“英雄と怪異”、その源流にして原型と意図的な接続を図られている今作のアプローチがどこに帰結するのか、引き続き楽しみです。
……そういえば最近、立て続けにタロウから「何度でも人間に戻してやる」といった台詞がありましたが、“人”と“鬼(として表出される一面)”は分かちがたいものであり、人は過ちを繰り返すかもしれないが、同時に何度でも立ち上がる事が出来る、そしてその手助けを出来るのがヒーロー――またそれは、心の持ちよう一つで誰にでもなれるもの――である、というのは今作の示すヒーロー像が形を結んできたのかな、と思うところです。
その晩、犬塚は雉野家にお邪魔して手料理をごちそうになり、出てきたメニューは……
(ボンゴレビアンコと、豚肉のリンゴソース! 俺が夏美に教えた料理だ)
導火線についた火はその勢いを増して炎と化し、見せつけられた結婚式の写真アルバムが、犬塚には全て白紙に見えたらどうしよう……と戦々恐々だったのですが、ひとまずは、写真には夫婦で写っていました。
雉野がなつみの話題を持ち出し、いちゃいちゃ回想にふける犬塚が、夏美との間でよく使われていた「などと申しており」を口にすると、みほの表情が一変。
犬塚が辞去すると、やにわに雉野家を飛び出していった、みほ/夏美はその後を追いかけ、「翼!」「夏美!」の叫びと共に二人は熱く抱擁をかわし――その光景を、表情の消えた雉野が見ていた。
幽鬼のごとき雉野の姿に、夏美の手を引いた犬塚は咄嗟に逃げ出し、この後、こじれにこじれた要因の一つなのですが、知人だと思っていた存在の正体が得体の知れないクリーチャーだったと夜道で気付いた反応としては、納得はできます。
夏美を連れて犬塚が逃げ込んだのは、以前にデビル犬塚として恋のキューピッドを演じてやった男の部屋で、過去の寄り道といえる人助けが今の犬塚を助ける事になるのは因果の巡りとして良かったですが、こうやって鳥人鬼回と繋げるんだよ! と脚本家が高笑いしているような気もして、ちょっと悔しい(笑)
この1年あまりの事を問いかける犬塚だが、夏美(?)は、失踪後の空白期間などまるで無かったかのように振る舞い…………うーん、これはこれで、犬塚翼に求められた物語を紡いでいる、鶴野夏美なのでは……??
ツルの女の存在を知らない犬塚は、とにもかくにも1年以上の時を経て取り戻した恋人をぎゅっと抱きしめて一夜が明け……家に招いた男を追って飛び出していったまま朝になっても妻が帰ってこない、という普通に血の涙がアスファルトを染めそうな事態にも拘わらず、何故か雉野は朝日を浴びて朗らかな笑みを浮かべ……「雲一つ無い空……気持ちいーーーっ!」。
……あ、もう、人生に生じたシミは、バラした、後……?
ニュース速報の気になる一日は快晴で幕を開け、高級車に乗ってソノイいわく「特別な店」に向かっていたおめかしソノーズが辿り着いたのは、おでんの屋台。
「おでん?」
「この世で一番うまいもの、らしい」
暖簾をくぐると当然のごとく、タロウ・はるか・猿原とばったり遭遇し、こんな形で果たされる筈のなかったおでんの会が実現すると、ソノーズは手始めに丸・三角・四角を注文し、その味は……
「……美味い」
「そうだろう。それでいい」
「何を威張っている。おまえが作ったわけではないだろう」
「元々教えてやったのは俺だ」
酷い修羅場の合間に、待望のおでんの会が開催され、それはそれで凄く面白いので困ってきますが、ソノーズ一同が地上のおでんを食していいねボタンを押し、以前にCT-7564さんにいただいたコメントで成る程と思いましたが、全編通して食へのこだわりが妙に強いのは(井上ワールドである事が煙幕になりつつ)、果たして何かの仕掛けに繋がってくるや否や。
タロウに勧められるまま、ソノイが練り辛子をひと舐めすると、涙と共にタロウエキスがこぼれ落ち、“蒼く”輝くその瞳。
「やせ我慢をするな。涙が出てるぞ」
「……違う。おでんの力だ。私が今まで食べたものでも、上位に位置する味。初めて食べたのに、不思議と故郷を思い出すような」
「い……今の言い方。元に戻ったのか? ソノイ」
おでんのパワーで、ソノイ人格、全世界待望の復活(笑)
ソノイの故郷は、おでんからはむしろ距離があるのでは……? とか、実に出鱈目ですが、一時的かもしれなくても元の人格に戻った事がまず嬉しいですし、本当にただ辛さでこぼれた涙なのか、或いは“食”に関わる何かなのか、どちらに転んでも今作らしくはある上で、辛子をつける前、最初に卵を口にした時に目の端が赤く輝いたのは、真面目な伏線なのかなんなのやら。
「なんの話だ? 私はずっと……私のままだが」
「戻った!」
ソノイリターンズに、ソノニとソノザは思わず歓喜の抱擁を行い、全体的にソノニさん、おめかしの勢いで可愛げ増幅キャンペーン(なおヒロインレースはソノニの遠く彼方をみほちゃんが独走し、振り向くと遙か後方には…………なんか、黄色くて、角が生えているのが見えますね)。
「故郷か……青年、いい事言うねぇ。ポエムだねぇ」
タロウたちが状況の急変に目を白黒させている内に、ソノイはサービスで追加された大根を満足げに口に運び、ドンブラザーズ、思わぬ劣勢!
「負けてるよ、タロウ。タロウも何かいいこと言ったら?」
「おう……」
こんな時、不滅の牙先輩なら即座に オヤジくさい 名言を口にするところですが、猿原の俳句は店主にかき消され、はるかにせっつかれたタロウはもごもごと言葉を探り……
「ここのおでんは……」
桃井タロウは、いいことを閃いた!
「32点だ」
この瞬間、ほのぼの系BGMが途切れるタイミングが絶妙でしたが、もしかしてタロウ、30点以上は、褒めてるつもりなのか……?
「32点だ!」
店主の愕然とした表情に、あれ、間違えた? とやや躊躇いつつも、正直者なので、浮かんだ相手に追撃の空中コンボを叩き込んだ結果、その評価に激昂した店主は特捜鬼にエマージェンシー。
百鬼夜行をぶった切る、おでんは殺しのライセンス! レベルが低い舌の客はジャッジメント! と特捜鬼が暴れ出すとドンブラ召喚され、イヌ、まだ埋められてはいなかった。
再びソノーズも参戦し、編集長は、「甘えるな! 戦いは戦いだ!」と公私を切り分ける70年代ヒーロースタイルをオニに突きつけ……こういった理由付けが明確に示されるのは、当初の情緒不安定気味な狂戦士系キャラからソノザにだいぶ変化が見えるところですが、気がつくとなんだかんだそんなに嫌いでもない奴になっているのは実に、粘らせて味を出す井上マジック。
タロウエキスが減少したもののミラクルバロム仮面は特に弱体化はしていないようで、ドンモモと互角の勝負を見せるとヒトツ鬼退治の勝負を持ちかけ、ドンモモは御神輿フェニックスでパーリィタイム。
「どうだ……百点だろう」
「口上のうるさい奴め!」
同感。
前回に続いてゴールデンコンドルフィーバーという事で、某ルパン先輩ばりにブラスターをクルクル回す金モモと、バロム仮面、それにおまけの特捜鬼が三つ巴のバトルを展開。
高速モモ移動(エフェクト格好いい)は見切られる金モモだったが、外道焼身モモクリスタルを発動してバロム仮面と特捜鬼をまとめて閉じ込めると、抱腹絶桃フェスティバルエンドでドンブラコ。バロム仮面は爆発の寸前にクリスタルから脱出するが、特捜鬼は黄金の矢に貫かれていーー気持ちで浄化され、どちらかというと《プリキュア》などに寄っている気はしますが、今作における人-鬼の関係を考えると、元々は爆殺よりもこういった表現で鬼退治をしていきたかったのかも、とは思わせます。
……個人的な好みでいうと、奇声をあげるより花火ではじけ飛んでくれた方が好きですが(笑)
「やはり、俺こそオンリーワンだ」
特捜鬼が巨大化するとソノーズは撤収し、やはり、メカソノイ! メカソノニ! メカソノザ! によるモモタイジンの登場が待たれます。
金モモは新たな力により、第四の化身・ドラゴンコンドル! ……ならぬ御神輿大合体を発動し、分離変形した御神輿フェニックスがオニタイジンの胸アーマーと巨大武器&シールドとなり、新しい顔パーツが貼り付くシンプルな強化合体によりゴールドオニタイジン(顔はどことなく旋風神似)が誕生し、衝撃の、サルとキジの前が見えない(笑)
強化の為に大事なコンセプトを破壊してきたゴールドオニタイジンは、圧倒的なパワーで巨大特捜鬼を蹴り飛ばすと、トドメはフェニックスピアーを突き出すドンブラユートピアで、えんやらや!
SupercoolでPerfectに鬼退治は完了し、おでん屋の店主も元に戻って、めでたしめでしたし…………メガロポリスはドンブラコ~ ドンブラコ~ どんどんゆらり揺れ……と幕は下りずに、オープンカフェで向かい合う、犬塚と雉野。
「それでですね、折り入ってお願いがありまして…………そろそろみほちゃんを返してくれませんか?」
妙にテンションの高い雉野は、そのまま笑顔で切り出し、受け入れがたい現実は全て消去して、以前のデータからロードする気満々だった。
「……はっきり言う。みほは夏美だ。倉持夏美。俺の彼女だ。ずっと前から」
「……そんな馬鹿なぁ。ありえませんヨソンナ事ォ! いったいみほちゃんに何をしたんですか?!」
穏やかな様子から一転、感情をあらわにした雉野は犬塚に詰め寄り、この1年間、「夏美」に何があったのかを探るつもりだと返す犬塚の胸ぐらを掴み、魂からの声を振り絞る。
「話をはぐらかさないで下さい! 返して下さいみほちゃんを今すぐ! みほちゃんは! 僕の! 命なんだ!」
「雉野! ……気持ちはわかる。同情もする! おまえは悪くない! ……だが……みほは居ない! ……存在しないんだ。……元々な」
獣人に関する背後関係と正体はまだベールに覆われたまま、「コピー」についての情報を持たない現状の犬塚解釈としては、謎の存在にさらわれた夏美が、どういう手段でか人格を塗り替えられて、この1年を「雉野みほ」として過ごしていた、という事になっている模様。
……『鳥人戦隊ジェットマン』をそのまま引き写した構造となりますが、すると、雉野が、ラディゲポジションなのか(笑)
「…………馬鹿なこと言うなぁぁぁ!!」
雉野が絶叫した直後、周囲に潜んでいた警官隊により、犬塚翼、逮捕。
「離せ! 俺は無実だ!!」
もがく犬塚に背を向けていた雉野の口角がつり上がると、喉の奥から笑い声がもれ……
「いえ――有罪ですよ」
三日月に開いた口のアップが、実に不気味。
「おまえ、売ったな俺をぉぉ!」
まあちょっと、逃亡犯としては慢心していましたよね、犬塚翼……。
犬塚は警官隊に引きずられていき、雉野がカフェで場を設けて犬塚に真っ正面からみほちゃんの事をお願いするのは、密やかな狂気の表現かと思いきやそればかりではなく、善良な一市民として警察示と示し合わせていたから、だったのは鮮やかな接続。
「雉野ぉぉぉぉぉぉ!!」
雉野は満面の笑みで犬塚を見送り……ドンブラコ! ドンブラコ! シミ一つ無い人生……気持ちいーーーっ!
犬塚の身柄は取調室に運ばれ、雉野の笑顔で終わった方がインパクトあったのでは……と思っていたら、その取り調べを担当するのは、はるかのオバ・ゆり子、と新たな人間関係が繋がって、つづく。
序盤から膨らみに膨らませていた風船が、とうとうドカンと大爆発しましたが、タロウ-ソノイ問題で笑わせ、泥沼の修羅場を挟み、おでん劇場で充分楽しませてくれた上で(鬼退治への接続もスムーズ)、愛にすがるが故に凶行に走る、壊れかけの雉野の姿がそれら全てを真っ黒に塗りつぶしていくのが、実にお見事でした。
序盤から器用な芝居を見せていた雉野役の鈴木浩文さん、ここまでの使い方から、雉野なら行ける、という判断もあったのでしょうが、静から激へ、激から陰へ、目まぐるしく移り変わる雉野の精神を巧みに表し、引っ張りに引っ張ってだいぶハードルが上がっていた、雉野-みほ/夏美-犬塚問題の破裂に安っぽくならない説得力を与えてくれて、素晴らしかったです。
特に「みほちゃんは! 僕の! 命なんだ!」は迫真でした。
ヒーロー作品ではとかく便利なマジックワードに使われがちな「愛」を、善悪から切り離して物語に取りこむのは井上敏樹の一貫した作家性といえますが、ここに来て、モモ・オニ・サル・キジの4人とイヌは互いの正体を知らないので、雉野が犬塚を陥れても、キジとイヌが共に戦う事は成立可能、という今作がこだわってきた構造が、カチッとはまったのは実にワンダフル。
次回――いよいよ、折り紙の秘密に迫る?