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爆上げたい少年

仮面ライダー響鬼』感想・第29話

◆二十九之巻「輝く少年」◆ (監督:金田治 脚本:大石真司
 冒頭から、前回のつづきによる明日夢くん滑落の図でピンチ感を煽るのですが、120%ヒビキさんのやらかしなので、印象はとてもよろしくありません。
 一方、威吹鬼轟鬼は武者童子と姫に苦戦中。
 「強いっスね」
 「まず、どちらかを協力して倒しましょう」
 合流からの連係攻撃で反撃に転じると、情け無用の雷電激震で鎧姫を葬るが、武者童子とG級ツチグモは逃走。
 明日夢は無事に助けられていたが、山の斜面ですりむいて膝から血も滲んでいる状態で、治療よりバチの素材捜しを優先しているヒビキさん……“導く大人”としてのヒビキの存在を強調したい筈の前後編で、よりにもよって、ヒビキさんの悪いところがまとめて出ている感じなのですが、一般人は傷口から菌が入った場合、鍛えた筋肉で体外に排出とか出来ないんですよヒビキさん!!
 どうして前回終わりぐらいから、猛士基準で山に入ったら全て自己責任! みたいなノリなのですか。
 山中という異界に踏み込んだ事で、何か、鬼のスイッチが入ってしまったのですか。
 強化装甲を纏ったG級ツチグモの脅威が里に近づいていく中、山の天気が崩れ出すのは良いサスペンスとなり、鋭鬼さんは川下で拾われて無事だと連絡が入り、テントに戻った明日夢くんはようやく膝の手当てがされていて真面目にホッとしました。
 「……ヒビキさん、さっきは、すいませんでした」
 「さっきって?」
 「あの、滑って落っこちちゃって」
 「……助かったんだから、気にすんなよ」
 いやあの、全面的に、ヒビキさんが謝る案件だと思うのですが?
 「少年さ……そんな風に考えてたらキリないだろ」
 ネガティブ思考に入る明日夢くんを諭すヒビキさんですが、未成年を預かって山に入った身として、ヒビキさんは自分の何が悪かったのか、しっかり見つめ直して反省した方がいいのではないでしょうか。
 明らかに山歩きに慣れてもいるわけでもない高校生を連れている状況で、急斜面に踏み込むと後ろを振り返りもせずに自分のペースでぐんぐん進んでいき、途中でようやくロープを投げるとか、引率者の行動としてはだいぶ最低だと思うのですが、真剣に、どうしてそんな描写にしてしまったのか。
 「晴れの日もありゃさ、雨の日だってあるよ。少年はさ……携帯なくしたよな。俺は……帽子をなくした。でもさ……生きてるって事はさ……なくす事ばっかりじゃないぜ」
 俺は今いいことを言った! 風に話を盛大にズラしていますが、そもそも命の代わりに別のものをなくす羽目に追い込まれたの、ヒビキさんの準備と配慮不足によるものなので、今ここに必要なのは、香須実さんの言葉のモーニングスター
 万引き少年の一件を蒸し返す前回の導入に始まり、さすがにちょっと、言いたい事を言わせる為の状況作りが露骨に過ぎるので、かえって言葉の厚みが失われている感。
 そこから少し間を空けて、遅い夕食の支度をしながら問題の事件に触れ、
 「少年はさ、なんにも悪い事したわけじゃないから、今凄く辛いと思うんだ。でもね……凄く辛くても、それが現実なんだよ。正しく生きてても、傷つけられたり、踏みにじられたりする。けどね……少年の人生は、少年のもんなんだよ。もし今……凄く辛いと思うなら……これからは、辛くならないようにすればいい」
 「…………鍛えるって事ですか?」
 「……まあ生きてりゃさ、何度も転んで、そのたんびに、傷を作ったり、痣を作ったりすると思うんだよね。でもそんな時……心だけは強く鍛えておかないと、自分に負けちゃうじゃないか。……――自分が信じた事を信じて、生きていってほしいなーと、思うんだ」
 うーん……なんかこう、「心の問題」と「比喩表現」と「実際の肉体的ダメージ」がヒビキ発言の中で混濁しているというか、後段は明らかに比喩なのですが、前段はどうもそこが曖昧な上、ヒビキさんの普段やっている事って「正しく生きてても、傷つけられたり、踏みにじられたりする」事を減らす為の暴力の行使なので、つまり、
 「指で相手の耳を引きちぎれるようになればいいわけですか?(鍛えるって事ですか?)」
 となってしまうのを避ける為に、後段で慌てて「ヒーローの保有する暴力性」(ここに踏み込むと多重のテーマ性を持って処理しきれなくなる事もあって)から目を逸らそうとして、なにやら切れ味の悪い言い回しに。
 最後の「自分が信じた事を信じて、生きていってほしい」は、ヒビキさんの明日夢に対する信頼と期待が感じられて良かったのですが……が、しかしヒーローには、誰かが誰かを理不尽に傷つける世界には、「ふざけるな」と言ってほしかったのです。
 別に劇中で、万引き少年に物理で制裁を加えてほしいわけではないのですが、「現実にはそういう事もあるけど、負けないように心を鍛えようぜ」は間違ってはいないけれど個人的には響いてこないというか、出来れば、「ふざけるな」で始まって、少年がどうしたいのかを聞き、その上で一緒に考えていくヒビキさんぐらいは見せてほしかったところで、結局ここでも、〔一方的に語るヒビキとそれを聞き入れる明日夢〕の構図に終始してしまうのが、今作の陥った限界ではあり、少年の大きなステップアップのきっかけと位置づけるには、説得力の物足りなさを感じてしまいました。
 根本的なところでは、明日夢少年の人生の蹉跌は、あくまで心理的なもの(ダメージ自体が明日夢の気の持ちように由来するもの)に留めるのが無難で、万引き少年の再来による「心身両面のダメージ」としてしまったのは、話の組み立てとして失敗であったようには思えます。
 一夜が明けると、早起きして一人で火をおこす姿で明日夢の前進が描かれる一方、たちばなを明日夢母が訪れ、明日夢に対する母親視点も書いておきたかったのかもしれませんが、正直、変な間合い(周囲だいたい初対面)で、ヒビキと似たような言葉を繰り返す、制作サイドのエゴさえ滲み出るくどいだけの場面になった印象(『クウガ』で神崎先生に長々と語らせていたエピソードとか思い出す感じ)。
 「昨日の夜からさ、全然連絡取れてないから、悪いけど急いで山下りるよ」
 新たなバチを完成させたヒビキはキャンプの撤収作業を進め、連絡手段:同行している高校生の携帯電話だけ、に改めて色々問題を感じますね!
 武者童子と再戦した威吹鬼轟鬼は連携攻撃で追い詰めるも、地中からG級ツチグモの奇襲を受けて轟鬼が挟まれるが、なんとそこに、鋭鬼さん、復帰。
 「轟鬼、大丈夫かよ」
 鋭鬼は轟鬼を救出し、やたらと声が格好いい。
 「ふぅー、俺は一晩寝て、英気を養ったから、大丈夫」
 「えぇ?!」
 と駄洒落(持ちネタ?)を飛ばす余裕も見せ、やたら破格の扱いなのですが、クレジットは無いものの中の人がスペシャルゲストとかだったりしたのでしょうか(或いは、映画関連ネタ?)。
 威吹鬼轟鬼・鋭鬼はトリオ音撃を仕掛けるも力任せに弾き飛ばされ、ツチグモは逃走。立ちはだかる武者童子は3人のコンビネーション攻撃で一蹴するが、ツチグモは早くも隣の山へと入り込み、魔化魍の気配を感じ取るヒビキ。
 「少年……走れ」
 「は?」
 「走れ!」
 ところが、日に日に強まるアクシデント体質、明日夢が逃げた方向にツチグモが現れるアンラッキー。明日夢をかばって噛みつかれる響鬼だが、全身発火で強引に逃れると紅し、新たなバチで音セイバーを発動した構えが、もはや完全に宇宙戦争(笑)
 連続攻撃でツチグモの脚を粉砕した響鬼は、懐に飛び込んでの爆裂真紅の型を打ち込むも一度は弾き飛ばされるが、足腰も鍛えてますから、と再び飛び込むと固く大地を踏みしめた連打から渾身の一撃を叩き込み、G級ツチグモは吹き飛ぶのであった。
 隣山から走ってきた威吹鬼たちへ勝利のポーズを決めた響鬼は少年の方に歩いて行き、それを眩しそうに見つめる明日夢……前日から、命の危機×2を乗り越えた末に、響鬼紅による魔化魍撃破を目の当たりにし、これはもう完全に、法悦の境地に到達してしまったのでは。
 ……ヒーローフィクション的には、ステップアップ後と位置づけられた後の魔化魍との遭遇が、尻餅ついているだけで終わってしまったのは不満で、もう少しどうにかならなかったのかとは思うところでありますが。
 たちばなに戻ると、店に居た母親とひとみに対し、極めて珍しく明日夢くんの方から積極的に山での出来事を語り、色濃い神秘体験の影響が窺える中、それを微笑ましく見つめるヒビキの「少年第一歩だな」でオチとなり、まあだいぶ、長すぎた一歩目でありました……(しかも多分これ、前倒しっぽいわけで……)。
 今回までが『響鬼』第一期(高寺プロデューサー)体制となり、次回からはプロデューサー&メインライター交代となるようで、とにかく明日夢くんについて最低限の一区切りをつけたい、というエピソードでしたが、上述したように、万引き少年再びは、失策だった印象。
 痛々しさがわかりやすくなるにしても、ショック効果狙いの小手先感がありますし、見ている側としては気分が良いものではない上に、その問題についての根本的解決が描かれるわけでもなく、それなら部活で上手くいかなくて陰にこもり始めた明日夢をヒビキが気に懸けて……ぐらいの方がスムーズに飲み込めたし、比喩表現も普通に収まったし、前回女性陣による無理矢理な明日夢上げもいらなかったし……いや明日夢くん、たちばなを除けば、それぐらいはまだウジウジしている認識なのですが(笑)
 後やはり、理不尽な暴力に対して劇中の人々が、それも現実とか、強い子だから乗り越えられるとか、大人としてのリアルな反応に終始しているのは不満で、誰か一人ぐらい、見つけ出してぶん殴ってやる、ぐらいの、理不尽に対する怒りを見せても良かったのではないか、と思いました(時間が数日経過しているからそういう反応、であるにしても)。
 ……ああ、今やっとなんか腑に落ちましたが、別にそれを失っているわけではないし、秘め隠して囚われない事こそが「鬼」となれる条件の一つ(或いは鬼の姿そのものが、それを示しているニュアンス)なのかもしれませんが、私が今作に感じていたヒーローフィクションとしての物足りなさの要因の一つは、「怒り」の欠落であったのかもしれません。
 余裕があれば、前半戦を軽く振り返ってみたくはありますが、ひとまず次回――色々激震。