東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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ざっくり読書メモ

途切れ途切れの読書スイッチ

●『マローン殺し』(クレイグ・ライス)


 いつものように二日酔いが残っていようと、ブロンド美人が待っているというのにズボンのポケットに五ドルしか入ってなかろうと、マローンにとって人生はすばらしいものなのだ。
 酒と博打と美女に目が無く常に素寒貧、服はヨレヨレで頭髪も薄くなりかけて風采の上がらぬ小男だが、頭の冴えと弁護の腕は超一級、の<弁護士マローン>物の短編集。
 初クレイグ・ライスでしたが、洒落たユーモア・ミステリで面白かったです。
 謎解きミステリとしては、今日読むと、2時間サスペンスみたいなトリックが主でしたが、主人公マローンの造形と、語り口が絶妙。
 特に、依頼人と自身の利益の為には、多少の捜査攪乱や証拠隠滅も辞さないが、それは必ずしも犯罪そのものの隠蔽を目的としているのではなく、依頼人の無実を証明する為に独自に真犯人を捜査する事で結果的には警察に協力し、仮に依頼人こそが真犯人だった場合は、依頼人の弁護を買って出る(そして比類無き法廷戦術で無罪を勝ち取る)、自己完結ぶりが鮮やか(笑)
 それでも今日読むと(作品の発表は1940~50年代が主)、倫理的にそれはどうなのか……という箇所はありますが、そこは皮肉の効いたユーモア小説の範疇で収まる出来になっており、秀逸な短編集でした。

●『時計は三時に止まる』(〃)
 人気バンドのマネージャーを勤めるジェイクは、バンドのリーダー、ディックの駆け落ちに立ち合う事になるのだが、よりにもよって駆け落ち当日、相手の令嬢ホリーが伯母殺しの容疑で逮捕されてしまう! しかもホリーは、午前三時に屋敷の時計が一斉に止まったと不可解な供述を行っており、困り果てたジェイクは、旧友の弁護士マローンに助けを求める事に……。
 <弁護士マローン>物の長編第1作。
 まだ上記の短編集ほどにはキャラクターが固まっておらず、特にマローンが今作時点では“語り手の友人で、頭は切れるが説明不足、何を考えているか掴みきれない探偵役”の立ち位置であり、不可解な謎とその解決の体裁は取っているものの、どちらかといえば語り手たちが事件を引っかき回すドタバタコメディ色が強めでした。
 他のシリーズ長編を読んでみたいところではあり。

●『花村遠野の恋と恋』(織守きょうや)
 『黒野葉月は鳥籠で眠らない』以下、弁護士物のシリーズが面白い作者の長編。
 吸血鬼×殺人事件×恋愛、を題材として、出来は平凡。
 好感を持てるキャラクターの描写は上手く、悪くはないが、特にキレも無いといった感じでありました。

●『まるで名探偵のような』(久青玩具堂
 語り手の高校生が雨宿りに入った喫茶店で出会ったのは同年配の少女。父親の店を手伝う少女は、およそ愛想というものに欠けて感情もほとんど見せないが、店のカウンターで語られた謎に、“無責任に”筋道を付けてみせる。喫茶店の常連となった少年と、まるで名探偵のような少女、そして喫茶店の入った雑居ビルに集う人々の織り成す連作短編集。
 何かを探している語り手の少年と、変わり者の探偵役、青春ドラマの構造に、謎解きに関係する大人達の物語が加わって各エピソードに陰影をつけており、いわゆる“日常の謎”から、江戸時代の記録に残されていた殺人事件に飛躍するなどエピソードのバラエティも富んでいて、なかなか面白かったです。
 途中のエピソードにおけるある台詞が、最後にちょっと効くのも、巧妙でした。

●『魔眼の匣の殺人』(今村昌弘)
 前作『屍人荘の殺人』は、いまいちピンと来なくて、続編に改めて挑戦したのですが……うーん……探偵役と助手役のやり取りは面白いし、キャラクターは魅力的だし、文章や構成も上手くて出来は良いのですが、ちょっと一点、引っかかるところがあり、何故そこが引っかかるのだろうと考えていたら、どうも私の中の、物語に期待するヒロイズムに抵触しているようで、“そういう物語”といえばそれまでなのですが、残念ながらどうもちょっと、根っこのところで作者と合わないのかもしれません。
 探偵役と助手のコンビは好きなだけに、惜しい。