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人でもなくまだ神でもなく

仮面ライダーX』感想・第2話

◆第2話「走れクルーザー! Xライダー!!」◆ (監督:折田至 脚本:長坂秀佳
 父の死、恋人の裏切り、自身の改造……運命の急転を受け止めきれず、ひたすら爆走し続ける敬介は、手に手に武器をもった市民に追われる涼子を目撃し、思わず階段をバイクで激走。
 まだ足の傷が治っていないので前回から半日経っていないようですが、振り向いた涼子はけたたましい笑い声をあげると敬介に銃を向けて逃走し、困惑する敬介の前に再び姿を見せる、やたらスカートの短い女・霧子
 「敬介さん、あなたはもう普通の人間ではないのです。お父さんが死んだ事を悲しんだり、恋人を追いかけている余裕はない筈です」
 こちらはこちらで、淡々として感情の薄いアンドロイドめいた喋りがちょっと怖い霧子は、敬介に対して「みんなのXライダー」である事を要求し……これはもう、完全に父の差し金です。
 霧子が涼子をモデルに作られた人造人間だったと仮定した場合、前回の少々不自然だった
 〔自らも瀕死の博士が瀕死の息子を改造手術した後、JINステーションに辿り着くように息子を小舟に乗せて録音装置を仕掛け、自分はJINステーションに先回りしてカプセルの中で息絶える〕
 経緯も、神教授が力尽きた後、指示を受けていた霧子が処理をした、と考えれば辻褄は合いますし(笑)
 暴徒集団を無視して恋人を優先した行為を糾弾される形で、「公の大義」と「私の感情」の対立が織り込まれると、霧子はその名のように霧の中に姿を消す。
 赤の他人の事なんざ知ったこっちゃない、とまではやさぐれていなかった敬介は暴徒の方へと取って返すと、バイクで突っ込んでいく荒療治により人々は正気を取り戻し、着物×ツルハシの男性が、強烈なインパクト(笑)
 事情を聞くと、意識を失う前にフルートの音を聞いた、という証言が浮かび上がり……父の遺品のフルートを吹き続ける少年へと一斉に疑いの目が向けられるのが、人間、恐ろしい。
 集団心理の残酷さ、群れの仲間外れに対する排除の意識といった人間の持つ昏い側面――これが後に敬介が直面するものの暗示になっているのが非常に秀逸――があぶり出される一方、団地の状況を調べる敬介の前には、両手の平を合わせたポーズで戦闘工作員が出現。
 足の負傷から動きの鈍い敬介は、工作員が標準装備のゴッドスピアを取り出すと、携帯していた目潰しと吹き矢で反撃。……カイゾーグ基本セットに入っていませんでしたし、昨日今日身につけた技術にはとても思えず、目潰しは海の男のたしなみ或いは吹き矢は神家では当たり前の護身術。
 極道親父の格闘教育には反発を見せていた敬介ですが、なんだかんだと、倫理観とか良識とか、色々な部分のネジを緩められてしまってはいる気がしてなりません。
 辛くも工作員を撃退した敬介は、父を亡くしたばかりだというフルート少年に、自身の境遇を重ねて接近。
 「みっともなくたっていいんだ! 僕は、泣きたいから泣くんだ」
 「みっともなくなんてないさ! 俺だって同じ気持ちだよ」
 のやり取りには、従来作とは違ったタイプのヒーロー像を描きたい、という意識が見えるような気がします。
 一方、今回のゴッド総司令は鶏に憑依して怪人・パニック(怪人モチーフは、語源であるパンの模様)に指令を出し、憑依先は特に無機物にはこだわらない柔軟さ。
 日本中の人間を笛の音で殺し屋に変える一億総殺人鬼計画が進められ、パニックの鳴らす笛の音を聞いた人間は、人相が悪くなると凶暴な衝動にかられて他者を襲うようになり、団地の屋上に怪人の姿を発見した敬介はセットアップ!
 そういえば、ナレーション含めて「変身」の単語も意識的に避けたようで、この点も新機軸への意欲の窺える部分。
 工作員はライドルホイップでX字に切り裂かれると消滅し、パニックは逃走するが、殺人衝動の収まった人々が、フルート少年が怪しいと盛り上がりを強めるのが、大変70年代らしい殺伐度合い(笑)
 またここでは、凶事を未然に防ぐ為の正しい原因追及よりも、「知らない内に殺人を犯しそうになった」屈辱的状況から回復する為の生贄をこそ欲しているので、過剰な犯人探しと吊し上げに繋がっていくのが、寓意としてえぐみのある見せ方。
 人々が少年に向けて殺到していくと、当初は理性的に少年を擁護していた八百屋の男が、その流れに一人背を向けてほくそ笑むのが“悪”の描き方として印象的で、シーン変わるとパンフルートを手に鶏抱えてゴッド総司令と言葉を交わすこの八百屋こそが、怪人パニックなのであった!(元々、八百屋として地域に潜入した男がゴッド工作員だったのか、作戦の為に八百屋を殺して成り代わったのかは不明)。
 殺人音波抜きでも人々から理性の歯止めを奪う扇動が上手く運んで油断したのか、パンフルート片手に鶏抱えている姿を買い物客に怪しまれたパニックが、モブ市民を無惨に惨殺していた頃、追われる少年をかばった敬介は、突き出された出刃包丁を手の平で受け止めてひん曲げる改造人間ぶりを見せ、恐慌状態に陥った人々は一目散に逃走。
 「……俺はもう人間じゃないのか」
 己の鋼鉄の体を改めて実感した敬介は、助けた少年からも、ロボットに父親が居るものか、と嘘つき呼ばわりされて自身のアイデンティティに思い悩み……前2作を踏まえた上で、この基本設定で掘り下げるならここでは! と焦点を絞って踏み込んでくるのは、石ノ森イズムも意識した上でしょうが、『キカイダー』でも見せた、長坂さんらしい話運び。
 また、父亡き子として地域社会の中でスティグマを刻まれ疎外されるに至った少年と、改造人間として人間社会から弾き出された(他界の人間となった)敬介の立場が重ねられるのは、束の間の交流から更に外部の存在だと突きつけられるのを含めて、上手い構成。
 なお、最初の戦闘では強調されていた足の負傷が途中で全く考慮されなくなるのですが、この辺りで、敬介が負傷が治っている事に気付く「人間じゃない」要素に用いる予定が、くどくなると判断されるなり尺の都合なりでカットされた感じでしょうか。
 「来たよ……来ちまったぜ親父」
 苦悩する敬介は海底のJINステーションに飛び込むと、ファザーコンピューターに人生相談。
 「だけど親父……俺はまだ人間だろ? 神敬介で居る時は人間なんだろ?」
 「敬介、おまえは人間ではない」
 ばっさり(笑)
 ほらだってパニックの笛が効かなかったでしょ、と容赦なく証拠を突きつける父ブレインは、「人間ではない事に誇りを持て!」と敬介の尻を叩くと、「おまえは立派なカイゾーグの男なのだ!」とヒートアップ。
 恐らく生前も、自分の言葉で自分にガソリンを注いでいくタイプだったと思われる父ブレインは、ゴッド機関と戦う手助けをしようとバックアップを取ってステーションを作ったが、その存在が敬介にとっての逃げ場所となり、事あるごとに泣き言を云いに来るようでは弱い男になってしまう、と自爆を開始。
 「お、親父、俺は……」
 「敬介、おまえはやはり、一人で戦わなければならん。誰も頼らず、自分だけの力で。敬介、このJINステーションは、おまえにはあってはいけないものだったのだ」
 動揺する息子を置き去りにして父ブレインは自らを海底に葬り去るプログラムを進行し、前回に続き死後の破壊力が凄まじいですが、えー……知識だけ遺して、人格はコピーしないで良かったんじゃないかな!
 「親父……」
 「……さようなら敬介」
 庇護者かと思ったら自爆してきた父からの厳しい自立の促しを、《仮面ライダー》シリーズとしては『仮面ライダー』初期に存在し、『V3』最終回で立ち返った「孤高」のテーゼと繋げ、疑似人格とはいえようやく言葉を通して距離を近づけてくれた父親が、直後に果てしなく遠くへ突き放してくるのが大変凶悪なぶっ飛び具合。
 二度までも、騙し討ち気味に父殺し――それはすなわち、神殺しに通じる――を背負う事になった敬介の、姿形は変わっても徹底した狂気を貫く父親に取り残されて愕然とした表情が実に悲痛ですが、こちらもまた荒療治による意識の切り替えが上手く行き、父の想いを胸に前を向いた神敬介/Xライダーは、崩壊するJINステーションをクルーザーで後にする。
 「……ありがとう親父……きっと、きっと言われた通りのXライダーになってみせるぜ。見ていてくれ」
 …………ちょっと計算違いがあったら、亡き父への憎悪を世界に向けたゴッドの使者・ダークXライダーが生まれていた気はしてなりませんが、海中の閉鎖空間であるJINステーションを「クジラの腹(神話的境界の向こうにして子宮)」と見立てれば、その中へと入り、父なる創造主との対話を果たした敬介が、死の世界から浮上する事によって帰還と新生を果たすと、英雄として世界に新たな活力をもたらす神話的構造がミニマムに盛り込まれていると考えられ、ここに、真の意味でXライダーが誕生したといえるのかもしれません。
 ……つまりこの父親、最初から自爆する気満々だったのではないか。
 その頃、殺気立つ団地の住人(途中でパニックに殺された3人の失踪も理由付けに含めているのは上手い)に追い立てられるフルート少年は、ネットを被せての袋だたきから市中引き回しの刑に合うと、念押しに吹かれたパンフルートの音色により、理性のタガが外れた住民の手で血祭りにあげられかけるが、間一髪、それを食い止めたのは敬介の、吹き矢(笑)
 主人公が携帯用飛び道具(銃刀法に違反しない範囲)を所持していると何かと便利ではありますが、カジュアルに吹き矢を人の手に撃ち込む神敬介、奪ったナイフを戦闘員の目に突き刺す風見志郎先輩に負けない気概を感じます。
 「正体を見せろ! おまえはゴッドのサイボーグだろ!」
 「勝負の時が来たようだな、神啓介」
 パニックが怪人と化し、敬介がセットアップすると市民たちは逃げ出し、クライマックスバトルが開始。
 リーチのある得物を持つ事でシンプルに殺陣が映えるところはあって、ライドルスティックで工作員を殴り倒していくのは、アクション面での新風と同時に、良い爽快感があります。
 「動くな! 動くとこの子の命はないぞ!」
 フルート少年を人質に取られたXライダーは、敵の飛び道具を避けるとライドルスティック放り投げからの空中回転変則移動で……少年と全然関係ないところに着地したぞ。
 てっきり、特技を活かした華麗な空中殺法により、不意を突いて人質を救出するのかと思ったら、全くそんな事はありませんでした!
 人質を取られながらも普通に動き回るどころか、力強く殴りつけてくるXを相手に、むしろ少年を抱えて動きが鈍いパニックは形勢不利となり、再びの飛び道具で牽制。
 火花を散らすパニックバルカンをトンネルの暗がりで回避したXは、投げライドルで怪人がひるんだ隙に今度こそ人質を……救出せずに外へ飛び出すと召喚クルーザーアタックでパニックと少年をようやく引き離し、やけになったパニックが少年を盾に使わずに、本当に良かった。
 少年は無事に逃げ出し、OPでも行っている空中大回転からのクルーザーアタックで車体をぶつけるとXサインが明滅し、轢殺の瞬間はゴア映像なので、良い子は見ちゃダメ!
 パニックは溶けて死に、Xライダーの活躍で一億総殺人鬼計画は阻止されるが、狂奔する団地住人に踏みつけにされたフルートは無惨に折れ曲がってしまい……悲しむ少年の握るフルートを手にした敬介は腕力でそれを真っ直ぐに戻し、え、フルートの修理は、それでいいの??
 「……人間じゃ無いって事もいいもんさ」
 敬介は自らの境遇を前向きに言葉にし、フルートを受け取った少年は礼を言って去って行くのですが、そそくさと走り去るその姿には、敬介との間に心の繋がりが生まれた感じはあまり無く……まあ、人質の時に凄く雑な扱いを受けたので仕方ないですね!
 死と再生から更なる新生を経てひとまず、“人の皮を被った優しい獣”ぐらいの人間ポイントを確保した神敬介ですが、フルート少年がXライダーの姿を見るや「ライダー!」と笑顔で駆け寄っていったのは、物語の中で描こうとしている要素を考えると、残念だった部分。……スポンサーの意見などもあって、ここはどうしても、手を入れられなかったのかもしれませんが。
 ナレーション「敬介はこの戦いで、自信と誇りを掴んだ。ゴッドと戦える者は、自分しか居ない。ゴッドを滅ぼす事が出来るのも、また自分だけだ。涼子は一体どこにいるのか。そしてまた、霧子の正体は……行け! 神敬介。走れ! 仮面ライダーX。ゴッド機関を全滅させる日まで」
 ナレーションさんの目まぐるしい転調が凄く『キカイダー01』風味で、つづく(笑)
 第1話に続き、自ら二度目の死を迎える神教授を中心に色々と濃い第2話でしたが、シリーズとしての蓄積と、意欲的な新機軸+掘り下げのぶつかるところに狂気の花火が盛大に打ち上がり、長坂脚本としては後の『快傑ズバット』も想起させるハイテンションと濃厚さ。
 触れたい要素が多すぎて、やや羅列的な感想になってしまいましたが――なにしろ、主人公が慣れた手つきで目潰しと吹き矢を用いるだけで、エピソード一つ分の感想のタネになりそうな破壊力!――活劇重視で先輩から新人への“魂の継承”を中心とした前作とは違った方向性で、父子の関係を軸に英雄神話の構造を取り込みながらニューヒーロー誕生を描き、神啓太郎は二度死に、Xライダーは二度生まれる、といった見応えのあるパイロット版でした。