東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

銀の仮面に黒マフラー

仮面ライダーX』感想・第1話

◆第1話「X.X.Xライダー誕生!」◆ (監督:折田至 脚本:長坂秀佳
 富士をバックのタイトルコールから、ひたすらバイクで走り続け、特に爆発しないOP。歌手は主人公ではなく水木一郎となり、X! X! X!
 「余はゴッド総司令。ネプチューン行け。計画は既に動き出している。おまえは今日から、海の大王となるのだ」
 奇妙な像から声が響くと、黒服の男が三叉槍を手にした異形の姿へと変わり、新たな悪の怪人組織が蠢動を始めていた頃、東京では、石田お笑いモブみたいな黒服の男たちが、神教授の息子・神敬介を捕らえようと取り囲んでいた。
 沖縄帰りの青年・敬介が、掴みのアクションで高い格闘能力を見せると、黒服の男たちは、全身黒ずくめに真っ赤な裏地の黒マント、同じく真っ赤な手袋に、ベレー帽とスキーゴーグルを付けた姿へと変身し、戦闘員には元よりそういう面はありますが、不気味というよりは、ちょっとコミカルなデザイン。
 自ら、人間ではない、と称する戦闘員たちは敬介への包囲を狭め、普通にピストル撃ってくるのは、ありそうで無かったかもしれません。
 どんな悪の組織も、大っぴらに動き始めた当初は、予算が潤沢なものなのです。
 逃走を図るも遂に撃たれた敬介は東京湾に転落し……「おまえは大切な人質」じゃなかったの……?!
 「馬鹿な男よ。ネプチューンの生贄になって死ぬのだ」
 抵抗されたのでやむを得ず射殺しました、とロボット刑事Kばりの言い訳で戦闘員たちが開き直ると、海面に浮上してくる怪人ネプチューンの姿は、なかなかのインパクト。
 名前からも古代の海神をモチーフにしているのでしょうが、ギリシャ・ローマ風の石像と生物的デザインを左右で合わせた姿は、デストロン怪人とは違う切り口も明確にして、良い感じ。
 泳いで逃げる敬介をネプチューン泡が追い、いや無事だったのならネプチューンに改めて捕まえてもらえばいいのでは? と、開始3分で、ゴッドの命令系統には不安が募ります。
 そして敬介は……場面変わると、ごく普通に逃げ切って城北大学に辿り着いていた。
 この後、敬介の《水泳》スキルの高さは沖縄の水産大学に通って船乗りを目指している為、格闘能力の高さは幼少期より父に鍛えられていた為、と理由は付けられるのですが、大丈夫なのかゴッド!
 ちゃんと仕事してゴッド!
 敬介の父である神教授は、大学ではなく、海岸線の洞穴の中に隠れ家的な施設を作って研究に勤しんでおり、点滅を始めるレッドランプ。
 助手らしき女性の案内で敬介が施設を訪れると、暗闇に潜んでいた父はいきなり木刀で息子へと打ちかかり、点灯が止まらなくなるレッドランプ。
 「ちぇっ、相変わらずだな、親父」
 「敬介、その腕じゃまだまだだぞ。これからの科学者は、腕っ節も強くなくちゃつとまらん」
 「よしてくれよ。俺は科学者になるなんて言った覚えはないぜ」
 素手で木刀をへし折った敬介がそっぽを向くと、やにわに襟首を掴んだ教授は背負い投げで息子を床にたたきつけ、点灯したまま回転を始めるレッドランプ。
 薄暗くて狭っ苦しい研究施設の中で親子が本格的な取っ組み合いを始めそうになると、助手の女・涼子が止めに入り、父と息子、原始的コミュニケーションに走りがちな面倒くさい男同士の関係が描かれ、全身から暗黒駄メンターの匂いをぷんぷんと漂わせる神教授は、真っ赤なちゃんちゃんこを息子に渡す。
 「啓介、今日からこれを着てろ」
 典型的な、自分の頭の中だけでドンドン物事を進め、頻繁に言葉を端折り、他者に説明する意識の欠けている教授は高圧的に命じると、波止場で敬介を襲った謎の存在を把握している事を示唆。
 「あの頑固親父め、一体何考えてんだかさっぱりわからん」
 「お父様はね、あなたと一緒に仕事がしたいのよ」
 「まっぴらだ。狭っこい部屋に閉じこもって人間工学の研究だなんて……俺はね涼子さん、七つの海を駆け巡る世界一の船乗りになるんだ」
 敬介は教授の身の安全を真っ先に確認しにいく程度に嫌ってはいないが、言葉足らずで身勝手な面に反発はしており、男親とその息子の、互いの照れと不器用さも含めてこじれ加減の親子関係から主人公を肉付けしていくのは、なかなか面白いアプローチ。
 息子以外に対しても偏屈らしい神教授は大学で孤立しており、涼子を除けば「周りはお父様の事をキチガイ扱いにする人ばかりですもの」と相当よろしくない評判だがしかし、社会適応能力に欠けても得がたい人材を狙う組織はいつの世にもあるのだ。
 「――ゴッドは神教授の頭脳を必要としている。誘いを拒否すると、死ぬとな」
 電話を受けた涼子が席を外している間に、いつの間にやら足下にあった漆黒の招き猫からゴッド総司令のメッセージが響き、ウェイターに扮装して小間使いの役割を果たしたネプチューンはその夜、タンカーを轟沈させて能力をアピール。
 ナレーション「ゴッド機関とは、世界の対立する大国同士が密かに手を握り、改造人間を使って、日本全滅を狙う、恐怖の秘密組織である」
 いや何故?!感が物凄いですが、この時代に「対立する大国同士」って、もはや米ソしか選択肢が無いのでは(笑)
 冷戦構造の中、密かに手を結んだ米ソが日本を怪人兵器の実験場にしている世界観疑惑が浮上してくる中、敬介は、海岸に流れ着いたタンカーの残骸を調査する父に手を貸し、互いにぶっきらぼうな男親とその息子の面倒くさい距離感が重ねて示されると、教授は突然、敬介を銃撃。
 だがそれは、無理に押しつけた真っ赤なちゃんちゃんこが完全防弾チョッキである事を体感させる芝居だったのだ! と芝居に協力した涼子と一緒に大笑いするキチガイぶりを見せつけ、教授唯一の味方を称する涼子は、単純に教授と感性が似たレベルのキチガイなだけなのでは……!
 極道親父と心配したりされたりを確認し合ってしまった敬介は、ぶつくさ呟きながらベッドに入るが、ゴッド機関の魔手は既に神教授の間近に迫っており、セキュリティ管理が甘く、レーザーも自爆装置も仕掛けていなかった教授のアジトは、ネプチューンの侵入を易々と許してしまう。
 敬介もまた、侵入者によって大事な防弾ちゃんちゃんこを台無しにされ、追いかけた工作員の覆面を剥ぐと、その下の素顔は涼子?!
 問い詰めようとしたその時、天使の像からゴッド総司令の声が響くと矢が放たれて爆発を起こし、ゴッド総司令が色々な像を通して話しかけてくるのは面白いアイデア
 父の元へ急いだ敬介は、海岸線に倒れていた神教授を発見するが、それは敬介を釣り出す為の非道な罠でもあり、ゴッドの工作員銃口を向けられる。
 「おまえ達は、ゴッド」
 「俺達の名は、ゴッド戦闘工作員
 「親子仲良くくたばれ」
 何か譲れない矜持があったのか、名前にこだわるゴッド戦闘工作員のピストルが火を噴くと、防弾ちゃんちゃんこを失っていた敬介はあえなく銃弾の雨に倒れ、血の海へ。戦闘工作員が去った後、虫の息ながらもまだ生きていた教授は、瀕死の息子を隠れ家へと運び込み、手術台へと横たわらせる。
 「おまえを生かすには、この方法しかないのだ。……許してくれ」
 息も絶え絶えな教授は、最後の力を振り絞って敬介をサイボーグに変える改造手術を施し…………何故か大海原を進む小舟の上で目を覚ました敬介に向けて、仕掛けられたレコーダーから流れ出す、父からのメッセージ(笑)
 「聞け、敬介。私は、いつかこんな日の来る事を見越していた。敬介、おまえの体は、もう人間ではない」
 「え?」
 「おまえの命を救うにはこの方法しか無かった、許してくれ。おまえは改造人間・カイゾーグとなったのだ」
 「カイゾーグ……」
 「おまえの体は、一万メートルの海底の水圧に耐える、強さを持っている。おまえの名は、仮面ライダーX」
 「……仮面ライダー、エックス」
 死と再生のイニシエーションを経た神敬介は、父より「仮面ライダーX」の名を(強制的に)与えられ、わざわざ「改造人間・カイゾーグ」と造語が当てられているのは、Xにギリシャ文字のΧ(カイ)も掛けられているのでしょうか。
 自動操縦らしい船は、小島に向かって進んでいき……
 「見ろ敬介。あの島は、私が作った島だ」
 ええっ?!
 「あの島は、私自身だ」
 ええーーーっ?!
 「島全体が、大コンピューターになっている。私の、全人格・全知識が、中にある」
 またもレッドランプが高速回転を初めて無限を描いて飛び回る中、小舟の辿り着いた島で敬介が目にしたのは、巨大なコンピュータールームと、カプセルに収められた父の姿。
 「科学者・神ケイタロウは、ここに生きている。敬介、これは私の、JINステーション」
 ゴッド機関との戦いで不測の事態が起きた時に備え、自らの頭脳と精神のバックアップを取っていたお父さん、肉体を失い、自身が人間の枠組みを越えている事に既に順応している「島は私自身」発言が強烈なインパクトですが、主人公ヒーローのみならず、その後援者(なのか……?)ポジションもまた、第1話において死と再生を経験して人間を辞める二段構えの構造で、なんかちょっともう、ゴッド機関どころではなくなって来つつあります(笑)
 「敬介、私はいつもここに居る。今後おまえが私を必要とする時、私は、ここで待っている」
 神コンピューターはやたらと父性をアピールしてくると、海面に出ていた島の崩壊と共に、中枢部が海底に着地。Xライダー用のバイクであるクルーザーに続き、武器であるライドル、セットアップに用いるパーフェクターとレッドアイザーが啓介に与えられ、前2作では体内から生じ、改造人間そして“仮面ライダー”の象徴であったベルトは、装備一式を身につける為の収納ツールに過ぎない、大胆なモデルチェンジ。
 「敬介、最後の頼みがある。Cスイッチを入れてくれ」
 言われるがままに敬介が壁のスイッチを押すと、途端、父の収まったカプセルが海中に発射されたー!!
 そして、爆・発したーーーーー!!
 OPの歌詞に「父の叫びは波の音」と唄われているように“父性”を大いなる海に象徴させ、主人公の夢など海にまつわる要素を散りばめている今作だけに、意味づけとしては水葬の変形なのでしょうが、既に物言わぬ遺体だったとはいえ、実の息子に不意打ちで自らの亡骸を抹殺させる事により、人間として後戻りできない場所まで強制的に背中を押す滅茶苦茶なキマリぶりの衝撃から、敬介幼少期の父子の姿を挟んで、爆発により発生した水柱に重ねられる、やりきった笑顔の神教授。
 …………やりきった、やりきりましたよ……!
 「泣くな敬介。私はここに居る。このJINステーションが私自身なのだ! 行け、Xライダー! 悪の組織ゴッドを倒せ! ゆけ! Xライダー!!」
 「……ああ。見ていてくれ親父。――セットアップ!」
 神コンピューターより、念押しで「Xライダー」を連呼された敬介は、レッドアイザー(マスク全体部分)とパーフェクター(留め金部分)を用いてXライダーにセットアップ。
 右手を前に突き出すポーズを決めたところでOPインストが流れ出すとクルーザーに乗って出撃するシーンは条件反射も含めて盛り上がるのですが、ここまで、19分47秒(配信表示)は、ちょっと長くはあったかも。
 海中から飛び出したXは、浜辺でゴッド戦闘工作員と遭遇すると、ライドルスティックを手にジャンプ。
 「貴様は何者だ?」
 「Xライダー!」
 怪傑ゾロばりにXの文字を宙に描き、前作から「V」を引き継ぎつつ、VとV(ローマ数字の5でもあり)でX! は成る程のネーミング。
 長さ1.5メートル程度の棒を振り回す杖使い、というのは面白いアクションで、工作員を蹴散らしたXは、雷鳴と共に姿を見せたネプチューンと激突。ライドル空中回転を見せるも槍で足を潰されるが、投げライドルで体勢を崩したところにXキックを叩き込み、Xの名を冠する者は、空中でXポーズを決めなくてはならない宿命なのか。
 ネプチューン最後のあがきと放たれた生首爆弾も回避し、豆鉄砲ではないキックでデビュー戦を勝利するも、足に傷を負った敬介の前に姿を現したのは、涼子と瓜二つの容貌にして、改造された敬介の肉体について把握する、謎の女・霧子。
 果たしてその正体は何者か、そして恋人・涼子はゴッドの手先だったのか……?! といった辺りは、『キカイダー』で光子→ジローを推し進めていた長坂さんらしいロマンス要素でありましょうか。
 ナレーション「負けるな、敬介。走れ、Xライダー! ゴッドとの戦いは、まだ始まったばかりなのだ!」
 敬介はバイクで砂浜をぶっ飛ばし、日本滅亡を目論む悪の組織に立ち向かうニューヒーローが誕生して、つづく。
 『人造人間キカイダー』中盤以降と続編『キカイダー01』でメインライターを務めた長坂さんが、いよいよ《仮面ライダー》に起用され、棒状の打撃武器を標準装備・ベルトは付属品・主人公の恋人を巡るサスペンス、など、設計面でもストーリー面でも新機軸が色々と盛り込まれた、シリーズ第3作(4年目)。
 いわゆる昭和ライダーの中では一番好きなデザインなのですが、本編を見ると、真っ赤な胸アーマーがどうしても、壊された防弾ちゃんちゃんこと銃殺シーンの鮮血を思い起こさせてなりません(笑)
 ちゃんちゃんこと胸アーマーの色が同じ真っ赤なのは神教授のセンスという事なのでありましょうが。
 前作がV3誕生までをダブルライダー先輩の存在感で引っ張れたのと比べると、ニューヒーロー登場まで約20分かかり、そこまでを父子のドラマ主軸で進めていくのは活劇としての起伏が不足する面はありましたが、個人的には、きちんと順を追ってエスカレートしていく神教授の狂気でだいぶ満足してしまいました(笑)
 海岸線に隠れ家を作っている(ちょっとおかしいが『イナズマン』でも似たような事はあった) → いきなり木刀で打ちかかってくる(ちょっとおかしいが不審者と間違えたのかもしれない) → 固い床に息子を背負い投げで叩き付ける(割とおかしいが物事の基本は体力) → 息子を銃で撃つ一芝居(だいぶおかしいが息子に迫り来る危機を伝える親心かもしれない) → 瀕死の息子を改造手術(事前の段取りがだいぶおかしいが命を救う為なのでやむをえない) → 「あの島は、私自身だ」(とてもおかしい) → 息子に自らの遺体爆破を行わせる(おかしい! おかしいですよ父さん!!)
 の、多段噴射ぶりは素晴らしかったです。
 まあお陰で、ゴッド機関よりも神教授のヤバさの方が印象的になってしまいましたが……敬介の改造手術そのものは不測の出来事だったにしても、いざ事があった場合に息子の精神を追い込む為に用意されていた仕込みが念入りすぎて、恐怖を覚えるレベル。
 ……それにしても、事の次第だけを追うと、
 〔自らも瀕死の博士が瀕死の息子を改造手術した後、JINステーションに辿り着くように息子を小舟に乗せて録音装置を仕掛け、自分はJINステーションに先回りしてカプセルの中で息絶える〕
 のがだいぶ不自然なのですが、大体、目撃者の前でこれ見よがしに死体を爆破してみせるのは偽装トリックと相場が決まっており、X級暗黒駄メンター誕生の可能性に胸を膨らませながら、次回――「ある日突然、団地の住人達が、集団殺人鬼と化した」にセットァーッ!。