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ウルトラマンブレーザー』感想・第7-8話

◆第7話「虹が出た(前編)」◆ (監督:中川和博 脚本:山崎太基)
 元地球防衛大学教授にして怪獣研究の第一人者――横峯万象(よこみね・かずのり)。
 その著書をゲントが読んでいると、アンリとのやり取りに入ってきた副隊長の方が熱く語り出し、机の上には著書がズラリと並んでいる事で、キャラの愛嬌を生みつつ横峰の存在を物語に落とし込むのが、巧い見せ方(小道具の本のそれっぽさがまたいい)。
 ゲントの恩師でもある横峰が、七色の腕環を山中の湖に浸したその時、空に逆さまの虹が浮かび――それに端を発して、7日にわたって消える事のない虹が日本各地で観測される。かつて横峰が口にしていた逆さ虹の目撃談を思い出したゲントは、横峰に接触し、少年時代に横峰が体験した、雨乞いにまつわる存在について話を聞く。
 「それは……怪獣ですか?」
 「敢えて言うなら、自然そのものだ。畏れ、敬うべきもの。……または……神。呼び名は幾らでもある。昔はそういうものが世界中にいたのさ……今じゃ誰も信じようとはしないがね。まさに……不遜の極みだ」
 遠雷の轟く中、富士の樹海内部にあった湖が陥没すると、そこから巨大怪獣(?)が出現。ミサイルもアースガロンの攻撃も全く通用しないその存在は、周囲の空気を吸い込む事で巨大な低気圧を発生させると、雨を呼ぶ――。
 「……天に数多の虹が輝く時、それは現れる」
 「――ニジカガチ」
 雷雲をバックに遠景のカットで怪獣名クレジットが入るのは格好良く、前後編にふさわしいスケール感の大きい怪獣として盛り上げてきます。
 「……ヒルマゲント、君にとって怪獣とは何かね? 駆除すべき相手か?」
 ニジカガチが日本各地に雨を降らせていく中、ゲントは再び横峰に接触し、そもそもメタ的な「怪獣」とは、「時に既存の人類文明と衝突せざるをえない非現実的な巨大存在」に対する便宜的な総称、幻想としての固有名詞であり、その内部には単純に未知なるものから、人の抱えた業の寓意、自然の持つ一面の具象化から、それと繋がりの深い神話や伝承のなぞらえ、などなど多様なものを含むわけですが、その「怪獣」の定義について一定の学術的検証が行われている事が明らかになった『ブレーザー』世界において、その定義づけに一役買った人物自らが「怪獣とは何か?」を問いかけてくるのは、シリーズの中で時に形骸化してしまうメタ前提としての「怪獣」に踏み込む、面白い切り口。
 またここでは、メタ的な「怪獣」を構成する要素の中から「大自然の寓意」を抽出する事によって、怪獣概念の解体行為が行われており、後編で巧くまとまるかはわかりませんが、強い意欲は感じる展開。
 「我々の日常が脅かされるなら、そうすべきです」
 「……私もそう思っていた。――以前はな」
 本来、畏れ、敬い、共生すべき存在に対して、“「怪獣」と名付ける”事によって“排除していいもの”とみなす事で、世界の調和を崩して好きに暴れているのは人類の方ではないか、と持論を口にした横峰の左手には、虹を思わせる7色の腕環と、蛇が巻き付いたようなアザが浮かんでおり、洪水神話と結びつけた文明のリセットと大地の再生を告げる。
 「……初めてです。先生の講義が面白くなかったのは」
 怪獣と人類の関係について相容れない師弟の訣別が描かれ、大量の熱帯低気圧を生み出すニジカガチを止めるべく、再び立ち向かうアースガロンだが、怪獣の頭部から放たれたレインボースパークの直撃を受け、一撃で沈黙。
 ゲントはブレーザーに変身し、「ほっっぱーーー! ほっぱほっぱほっぱー!」と猛然と殴りかかるも有効打を与えられず、全力投球したウルトラの槍もレインボー光線により相殺されると、第7話にして初の完敗。
 「……ようやくだ。ニジカガチ。新たな世界が始まる」
 陶然と呟く横峰博士が、実に90年代的な環境テロリストであるのに対して、迷わず「人類も地球の営みの一部」と切り返す隊長は、既に青春の蹉跌を乗り越えた地位も責任もある30代でありましたが、2023年の《ウルトラ》で、このテーマをどう着地させてくるのか、期待半分・不安半分で、後編につづく。

◆第8話「虹が出た(後編)」◆ (監督:中川和博 脚本:山崎太基)
 (……俺は……死んだのか……? …………誰だ? 君は……)
 ニジカガチに完敗し、山中に倒れたゲントは、自分の中に存在する(?)光のうにゃうにゃを見たところで意識を取り戻し、ニジカガチの生み出した7つの台風が日本列島を覆い尽くし、更にそれが一つになろうとしている事を知る。
 強烈な暴風の影響で航空部隊や精密誘導弾が使用不能、とアースガロンが切り札になる理屈を付けつつ、横峰教授の存在を明かすゲントは、教授を倒せば怪獣を止められるかもしれない、と推測。
 「一人の命を犠牲に、大勢を救う」
 「いや! そんな事は……」
 「あくまで最終手段だ。だが教授は、人類を犠牲にして、地球の調和を取り戻そうとしている。俺たちにもそれなりの覚悟が必要って事だ」
 は、互いが天秤に乗せているものを誤魔化さず明解に示して、好きなやり取り。
 額のレインボービーム発射口をピンポイント攻撃する為、ニジカガチには新装備のアースガロンを送り込む事になり、テルアキ副隊長は教授の説得役を買って出る。
 「だが最悪の場合、教授の命を奪う事になる。君にそれが出来るか?」
 「あなたになら出来るんですか」
 と隊長と副隊長が無言で視線をぶつけ合うのは緊張感のある良いシーンとなって、メイン回のスキップされた副隊長にも見せ場のある目配り。
 作戦が開始されると、台風の目の中にアースガロンの噴射煙が突き抜けていくのは格好いい映像となり、前回今回は、画角を広く使ったスケール感の大きな映像が目を引きます。
 新たな装備を搭載し、結局デスマーチで仕上げたアースガロンMod.2だが、肝心のレールガンはゴールポストを越えて遙か彼方に宇宙開発し、今回は会話でユーモアを挟む余地が無かった為か、このくだりをややコミカルに描写。
 ……最初は、テストもせずに実戦投入とか勝機の沙汰じゃない! 守れ健全な労働環境! と渋っていたヤスノブが、新アースガロンを動かしている内に段々テンションが高くなっていくのも面白かったです(笑)
 レールガンを外したヤスノブのテンションが落ち着く一方、テルアキは横峰と対峙すると、熱いファン解釈を公式にぶつけていた。
 「人という種族と、あなたほど真摯に向き合った人を僕は他に知りません。確かに人類は革めるべきです。そこは賛同します。でも……他の生き物はどうなるんです? 草木や、虫や、動物たち。そして怪獣すら洗い流そうというんですか? 僕はこの世界でもっと生きたい! 他の生き物だって! 生きたいと思う気持ちこそ、全ての生物が持つ絶対に奪ってはいけない、一番大切なものなんじゃないんですか?!」
 「…………正しいな、それは。まさに真理だよ。…………だが同時に二つの正解はありえない! 君か、私か、間違った方が淘汰され、正しいものが生き残る!」
 人類文明のリセットの為に他の生命を奪うならば、それもまた、“人類の傲慢”ではないか、と突きつけられた教授は精神抵抗に失敗すると蛇ビームを放って暴力で解決しようとするが、一瞬早く、テルアキの銃弾が腕輪を破壊。
 スキップされた分の見せ場、どころか後編は完全にテルアキ回で、出来る男ぶりを見せるテルアキだったが、ニジカガチは動きを止めるどころか砕け散った腕輪のエネルギーを吸収し、光線の一撃がかすったアースガロンはメインシステムがダウン。
 搭乗員が機体の外に出る理由を最初に作っておいたのは巧い設定で、外部から非常装置でアースガロンを再起動させたゲントは、ブレーザーに変身し、らっせせーらっせっせ!
 本日は、狩猟の前に奉納の舞いが出て、ブレーザーさんは本気です。
 激しい攻防の中、ピンチをチャンスに変えるアースガロンの伏せ撃ちによるレールガンの銃弾が、ニジカガチのクリスタルを破壊。咆哮する怪獣の額からエネルギーが漏れ出すと、ブレーザーさん、飛んだ!
 そして、虹を掴んだ!
 (ブレーザー、頼む。力を貸してくれ!)
 初めてのバトル中主題歌、そして初めての隊長からブレーザーへの呼びかけが描かれると、握りしめた虹が新たなメダルへと姿を変え、隊長はそれをセット。
 その力によってブレーザーは巨大な八つ裂き虹輪を生み出すとニジカガチをぶった切り、これが、神をも狩る焔だ!
 近作のパターンだと、突然の先輩パワーで新フォームとかやってしまいそうなところを、敵のエネルギーを奪って新必殺技に変換するのに留めたのは不自然さが少なくスッキリとした流れで、エピソード内容と絡めた虹輪の映像も格好良かったです。
 商業的には、こ、この作りで、大丈夫なの……? と余計な心配をしてしまいますが、シリーズにおける毎度メタ前提になっている先輩パワーを引っ張り出してくるのがあまり好きでなかった身としては、見やすい作り。
 ニジカガチが消滅すると日本列島を覆っていた台風は姿を消し、教授は嫌疑不十分で釈放……まあ、因果関係を証明するの、難しそうなので納得。
 第5話以降、やたらとネタにされてきたテルアキの実家に隊長がお邪魔すると、どこかの川で釣り糸を垂らす教授は天に怪獣の咆哮を聞いて笑顔を浮かべ、つづく。
 前編で描かれた「怪獣概念の解体行為」に関しての掘り下げは進められず、後編は人類の世代交代――世界各地の神話に存在するモチーフであり、つまりここで教授は、自らを“神”になぞらえようとしてしまっているので、必然的にテルアキに否定される――を目論む教授の暴走の方に焦点が当たってしまったのは少々残念でしたが、『ブレーザー』としてもう一段階のアプローチがあると嬉しい要素。
 上述したように、スキップされたと思ったら実は副隊長回でした、は良かった一方、前編から期待された隊長の掘り下げがほとんど無いままだったのは肩すかしの部分も出ましたが、ブリーフィングの際に左腕に視線を落としながら
 「これは……俺の勘だが、腕輪がある種の媒介になって、ニジカガチと教授を繋げてるかもしれん」
 と、教授-ニジカガチの関係と、ゲント-ブレーザーの関係に類似性を匂わせるなど、ゲント/ブレーザーについては布石を進めたので、今後、パーソナルな部分の掘り下げと巧く合わさって跳ねてほしいところです。