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きみのこころに

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第44話

◆ドン44話「しろバレ、くろバレ」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹
 (出来た……だが、いつからだったろう……絵が描けるようになったのは)
 キャンパスに向かうソノイは一枚の絵を鮮やかに描き上げ、はるかの原稿に向き合うソノザは新作マンガに自然な涙と笑いをこぼし……ソノニの姿だけ描かれない事により、時制が入れ替わっている可能性を含めて興味を引くフックになっているのは、上手い導入(まあ、終わってみればそこに仕掛けはなかったのですが)。
 その頃、タロウらは犬塚から獣人の事を聞き出そうとしていたが、互いに(素人が)と鼻で笑っている事もあり、収穫はほぼゼロ。
 「なにあれ……素人って。素人のくせに」
 「ヒーローにでもなったつもり、かな?」
 互いの認識のズレから、同じ悪罵を投げつけるのは会話の妙味として面白く、正直今回、終幕への流れとしてはテンションの下がる出来だったのですが、こういった会話劇の面白さは、『ドンブラ』の大きな長所。
 このチームにおける極めて危うい自分の立場(いてもいなくてもおんなじ)がわかってないジロウは、またも里帰りの予定を申告するとタロウを誘い、舎弟の育ての親である寺崎の叔父貴に一度挨拶ぐらいはしておくのが筋だろう、とタロウは同行を承諾。
 ことのほかニヤニヤするジロウはスマホの写真を雉野に見せ…………ルミちゃん、居なかった。
 以前に、みほちゃんが雉野以外には「みほちゃん」に見えてなかったらどうしよう……と与太を書いた事はありましたが、え? そそそ、そっち?!
 ルミちゃんといい寺崎さんといい、思わぬコマが存在を印象付けをした後で盤面の中央に飛び込んで参りましたが、40話過ぎになて、自称彼女がエア彼女だった事が判明するジロウ、こと「追加戦士」というカテゴリで考えると、見知らぬ荒野を切り拓きまくってまだ見ぬ地平に向けて全力でダッシュしていますが、いかんせんジロウへの好感度が低すぎて割とどうなっても構わない為、もう少し、積極的に、ジロウの好感度は上げておいても良かったと思います(笑)
 弁当の夢の話とか、部分部分いいところはありましたが、そういった要素をバネにして既存メンバーに接近していくのかと思えばそんな事はなく、割と冷たい断絶の感じられるまま最終盤に入ってきたのがどう出るか……。
 次回予告から予測される展開を考えると、正直イラッとする時はあるし、積極的に交流を深めようとも思わないけれど、でも、目の前で困ったり苦しんでいるのを見たら当たり前に手を伸ばす、という『ドンブラ』的人間関係がジロウを救う、みたいな流れもあるかもですが。
 果たしてジロウは、不憫枠から這い上がり、《スーパー戦隊》追加戦士の歴史に爪痕を残す事が出来るのかに注目が集まる中、雉野に黙って仕事に復帰しようとするみほをロックオンしたソノニは犬塚を焚き付け、
 「夏美を取り戻せ。おまえの力で」
 が、“夏美の顔をしたものを斬れるだろうか”と、迷える犬塚のツボにクリティカルヒット
 そう、俺は賤しき東京砂漠を征く、誇り高き孤高の犬士――。
 「返してもらうぞ、夏美を」
 「凄い殺気だな、犬塚翼。どうするつもりだ?」
 階段下からソノニがひっそりと見つめる中、イヌブラザーは鶴野みほに激しい銃撃を浴びせると、正体を見せたツル獣人に対し、不意打ちでムラサメの一撃を浴びせる事に成功。
 深手を負った獣人はみほの姿で壁際へと這いずり、犬塚は目をぎゅっと閉じて獣人殺しの妖刀を振り上げる――
 ――「優しさが消えたら、綺麗じゃなくなったら……だからといって俺はおまえを嫌いにならない。好きでいられる、そういう事だ」
 倉持夏美の生死を分かつ一刀が振り下ろされたその瞬間、咄嗟に飛び出したソノニが鶴野みほを突き飛ばして代わりに刃を受け、犬塚が混乱している間に、鶴野みほは逃走。重傷を負ったソノニは犬塚に、獣人に関する嘘を告白する。
 「獣人を倒せば、本物の夏美も……死ぬ」
 「……何故だ。……何故そんな嘘を」
 息も絶え絶えに何かを口にしようとしたソノニだが、ソノイとソノザが現れると犬塚を追い払い、処刑を宣告。
 「ソノニ……おまえはドン家と同じだ。ドン家は人間を愛した。そして、イデオンの世界を放棄し、人間界での脳人と人間の共存を唱えた。それは、脳人の堕落を意味する。だからドン家の者は処刑された! ……人間に想いを寄せた者は! 処刑される! それが、脳人の掟だ!!」
 ドン家と人間界の関係について、第13話以来で触れられ、ドンブラシステムとか、獣人とか、ドンキラーとか、色々胡散臭かったドン家には改めて軟着陸の気配が漂い、まあ、あくまで「家」単位でしか語られていないので、革命派とか家畜派とか共存派とか歴代に色々あったのかとは思われます。
 脳人にとってのタブーを踏み越えた事を認め、処刑を受け入れようとするソノニ……個人的には、ソノニが結局、犬塚に対して男女間の恋愛感情を芽生えさせていたが、入力が初めてだったので出力が過激に歪んでいただけだった、のは、もっと色々とドロドロした方向性を期待していたのでちょっと残念だったのですが、誰か、教授にも愛を!
 愛を求め、愛を知った者に、脳人の断罪が下されようとするが、ソノイは剣を振り下ろす事が出来ず、代わりに進み出たソノザの槍も止まり、両者もまた、ただの資源を越えて、人間を、その生きる世界をいつしか愛してしまっていた事を認める。
 「……おまえと同じだ。私たちも」
 人間の心の生み出した料理(多分これが大きい)、芸術、他者への想い……その文化に触れ、気がつけば慣れ親しみ、理解を果たしたソノーズの「変化」が明言され、それ自体は嬉しいのですが、正直これまで散々馴れ合ってきて、ソノーズの使命にともなう緊張感はほぼ消滅していた後なので、物語における大きな「変化」としては、著しく劇的さに欠けてしまったのは残念。
 ソノーズに与えてきた愛嬌などからも妥当といえる方向性だからこそ、もっと反対方向への強烈な抵抗があった上でそれを乗り越えて欲しかったのですが、そこに充当するであろう「脳人の掟」や「戦士の使命」といった要素が道中において薄められる一方で霞のようになってしまい、抵抗として機能せず。
 一応、ドンブラと出会えば戦ってはいたのですが、それ自体が「言い訳」めいてしまっていたわけで、こうなってみるとソノシを一発ネタのように消費したのは大きな失着であったのでは、と惜しまれます(次回ネオソノーズとして再登場しそうですが、どうなる事やら)。
 少し余談に逸れますが、


「わかった……わかったぞ。飛行機があれだけ高く飛べるのは……すさまじいばかりの、空気の抵抗があるからこそなのだ!!」

不屈闘志逆境ナイン』/島本和彦

 は、創作論にも通じる名シーンだと思う次第。
 ソノイとソノザが、愛のために傷つき血を流し、よろめきながら歩み去って行くソノニを見送る一方、タロウは深手を負った鶴野みほを目撃。
 「人間になってみてわかった。人間は、小さなことで、笑い、泣き、そして、手が届かぬと知りながら、時に、遠くの星を、見る」
 「……どういうことだ?」
 「おまえより、私の方が人間をわかっているという事だ」
 たまたま出くわしたタロウに厭味を飛ばした鶴野みほは、マンションに辿り着くと雉野に発見され、犬塚翼がみほを害した事を知って豹変した雉野は、マスターに言付けをして、犬塚と直接対決。
 「おまえがやったんだな……みほちゃんを。おまえが……」
 「ああ。だがアレはみほではない。獣人だ!」
 「おまえは! 絶対に許さない! うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 絶叫と共に犬塚に相撲を挑んだ雉野は、投げ飛ばされると子供のようなジタバタキックから、キジブラザーへと変身。再びのぶちかましを受けた犬塚は、驚く間もなく空中でイヌブラザーへと変身し、キジとイヌ、体格差のありすぎるCG同士での殴り合いは、ならではの画ではあるものの、映像としてはいまいち面白くならず。
 「おまえだけは……許さない! 許さなぁい!!」
 そんな映像上の都合も感じる銃撃戦に移行すると、キジの乱射を受けたイヌの変身が解け、生身となった犬塚に一瞬の躊躇もなくドンドンチャージ全開でドンぶっ殺してシミ一つ無い人生きっもちいーーー! しようとするキジだったが、飛び込んできたソノニが今度は犬塚の代わりに直撃弾を受けて地面を転がり、怨恨と無関係の人間を撃ってしまうと、我に返る雉野。
 そこに、他人から褒められる事に執着する超電子鬼が現れると、タロウらもやってきて、本作初の、6人並んでアバターチェンジ(あっさり)。
 「祭だ!」
 作風と言えば作風ですが、イヌブラザーの正体バレから全員集合アバターチェンジまでどさくさ紛れで処理してしまい、「反転」や「裏切り」を重視する今作にしても、“奇をてらう”事が目的化しすぎて、視聴者に与える快感をおざなりにしたまま情報量で押し流していく作りにしてしまったのは、第1話と同じ失敗になった印象。
 ここまで来たら、長期の積み重ねに対するリターンは素直に払ってほしかったのですが、ソノーズの「変化」にしろ、ドンブラザーズ全員集合にしろ、まだ中途にしても、大変物足りない見せ方になってしまいました。
 超電子鬼は、全員集合記念・アバター乱舞Wでざっくり撃破し、大爆発。
 犬塚には斬られ、雉野には撃たれ、トドメに階段落ちを披露したソノニは、雪の中に倒れ伏していたところを犬塚に抱き起こされ、その手の中で永遠の眠りにつ……くかと思ったその時、マスターが現れ、ぽちっとな。
 「……翼?」
 随分と溜め込まれていた犬塚翼のキビポイントにより、ここまでやっておいてソノニ、ワンクリックで復活。
 「翼!」
 「よせ! 話すな……来るな……俺を見るな。……二度と、おまえには会いたくない!」
 犬塚はソノニに背を向けて去って行き、獣人に関する嘘を告白したシーンにおけるソノニの「私を……」の後に続いたのは「見て」に類する言葉だと思われ、井上ワールドにおいて最も熱烈な感情を示す「私を見てほしい」に対して、「俺を見るな」が痛烈極まりない拒絶として突きつけられて、つづく。
 ちなみに最初、「来るな」が「クズが」に聞こえて、気持ちはわかるけど、幾らなんでも言葉のチョイスに容赦なさすぎでは、と思ったので「来るな」でちょっとホッとしました(笑)
 イヌブラザー=犬塚翼に関しては、はるかが布団に入ってから脳に認識が染みこんで絶叫するオチとなり、衝撃映像連発の予告から期待感のハードルが上がっていたエピソードで、実際に衝撃の情報は色々と飛び交ったのですが、期待感と衝撃度ほど面白かったか、といえば……うーん……割と、ここまでの今作でも出来の悪かった方だったかな、と。
 特にこの局面で、おふざけみたいなヒトツ鬼が出てきて筋にはほとんど作用しないのはしらけるばかりでしたし、「型」としての鬼退治へのこだわり・全戦隊モチーフコンプリートに向けた(?)都合、などはわかるものの、怪人ノルマが物語の足を引っ張る、という80年代頃の負の側面をなぞる事になったのはガックリ。
 そこは、踏襲しなくていいところだと思うのですが。
 見終わってしばらくしてから、素体と上司がモンスターとドクターマンのコスプレ(後、そこまでではないもののファラっぽい女性社員も)であったと気づいたのですが、世界観のリアリティラインを大きく破壊しており、最初、お笑い芸人の特別出演とかでやむなくなのかと思ったぐらいの完全に悪い方向の内輪ウケになっていて、今作の田崎監督は出来の良し悪しが激しいというか、ところどころで凄く小手先の演出で誤魔化す傾向があったのは残念です(ラスト2話も担当か……?)。
 ソノニに関してはこのまま退場だと、死因の半分が犬塚、はどうにも後味が悪すぎるので、リタイア回避に関しては頷ける点はあり、物語の中に持ち込んでしまったキビポイントへの責任も取ろうとする思惑が見えるのですが、そのキビポイントが“どうすれば貯まるのかわからない”ので「キビポイントの価値が不明瞭」な為に、「“奇跡の代償”の価値も不明瞭」になってしまったのは、ここも劇的さを削いでしまったように思います。
 あまりにも何でもありすぎるキビポイント、もう少しあっけらかんとメタ的に捉えるならば、「他者の為に善行を積んだヒーローが報われてもいいでしょ」という想いを体現したエネルギーであり、その正体は、望みの為に世界の因果に干渉するというよりも、摂理を殴って不幸を否定するシステムなのかな、という気もしてきていますが。
 そのキビポイントがメンバー最小だった雉野は、とうとう、直接的な殺人行為にアバターチェンジを用いるとファウルラインを半歩どころか5歩ぐらい踏み越えてきましたが、そこに焦点が合わされずに、いつものドタバタで流されてしまったのは、さすがに不満。
 どうにも、演し物過剰で見所が分散しすぎて、それが綺麗に円を結べず、この辺りも第1話の失敗を繰り返してしまったような印象を強めました。
 人間関係のもつれが、解きほぐされるどころか、むしろ悪化しながら最終章へ突入しており、上述した「長期の積み重ねに対するリターンは素直に払ってほしかった」に繋がるのですが、そろそろ「まとめに入ってからの面白さ」を見たいところで“食べたかったもの”と“皿に乗って出てきたもの”のギャップが今までになく大きかったのは、不満であると同時に、不安。
 2月いっぱい4話使えれば、物語の方はどうにでもなるところはありますが、前回-今回に強調された要素を考えると(鶴野みほが口にした「遠くの星」=「夢」でしょうし)、タロウの「変化」こそが最終的な焦点になりそうでしょうか。
 その過程で、祟り神と化したタロウがラスボスになる事はあるのかどうか……最強のヒーローを突き詰めていくともはやボスキャラになるのは、黄金バットイチロー兄さんやジャンパーソンなど、歴史が証明しているわけですが!