東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

炬燵を出した読書メモ

館と昭和

◆『黒猫館の殺人』(綾辻行人


 ホテル火災に巻き込まれて記憶を失い、身元不明となった老人が所持していた一冊の手記。そこには、ある屋敷で起きた、奇怪な事件の顛末が詳細に綴られていた。懇意の編集者・河南を介して老人の頼みを聞いた推理作家・鹿谷は、手記に記された屋敷――中村青司が設計した“館”への強い興味も手伝って、手記について調査を始めるが、果たして、事件は本当にあったのか? そして老人はいったい何者なのか?

 『ミステリ・ジョッキー』を読んでいたら久しぶりに触れてみたくなって、物凄く久々の綾辻行人
 《館》シリーズ第6弾……なのですが、読み始めてから、《館》シリーズは過去に、『迷路館の殺人』(第3弾)までしか読んでいなかった事に気付きました! が、もう仕方がないので、そのまま読み進めました!
 物語は、虚実定かならぬ老人の手記と、その謎を調査する鹿谷&河南パートが交互に描かれる額縁小説の体裁で進み、ある“館”で発生し手記に記された事件の謎よりも、その手記と身元不明の老人、という外枠の謎の方に主眼がある、人気シリーズならではともいえそうな、変化球な作り。
 額縁の内側(手記に記された事件)の謎と、手記と老人を巡る総体の謎が交互に小出しにされていく形式は先への興味を引き、最終的に顔を出す謎について物語としてフェアネスが貫かれているのは良く出来ていて、なかなか面白かったですが、謎解きシーンがくどめな為に、「おお、そうなるのか!」といった切れ味は弱め。
 これは最終的に、物語が“探偵役が体験した出来事”ではなく、“手記に記された内容”の謎を解く形式の為なのですが、探偵役が経験ないし助手などから聞き知った出来事Aに、再構成や再解釈などを行って合理的説明Bを導き出すのではなく、「手記の文章そのままを引用して説明をつけていく」ので、ここにはこう書いてある、ここにはこう書いてある、と、いわば“地の文”に対する解説、めいた謎解きが、なんだか伏線自慢みたいになってしまう事に。
 作品の仕掛けそのものと融合しているので切り離せない要素なのですが、一般的な推理小説においては、謎が解かれた後に読者がページを戻って「ここのこれはそういう事だったのか」と読み返していくような部分を、探偵役が直接的に列挙していくのは、どうにもしつこく感じてしまいました。
 また、30年前の作品というのもありますし、旧版解説の法月綸太郎は「様式的なキャラクター」は意図的なものであろうと触れてはいますが、探偵役の仲介者となって以降、助手ポジションがほぼ役に立たずに謎解きに感心するだけの役になっているのも、今読むと不満点。
 そういえば以前も探偵役のキャラクターがあまり好きになれず(同シリーズ別作品ですが、探偵役の名前が「島田潔」は、さすがになんだかな……と思った記憶)、シリーズを離脱してしまったのを思い出し、悪くはないのだけれども、個人的にはプラスアルファが足りない、そんな作品でありました。

◆『たかが殺人じゃないか-昭和24年の推理小説-』(辻真先


 昭和24年、名古屋。進駐軍学制改革により新制高校が誕生し、旧制中学(5年制)の卒業後に「高校三年生」となった風早勝利は、部員2名の推理小説研究部の部長で、通称「カツ丼」。
 親友で同じく部員2名の映画研究部部長の「トースト」こと大杉日出夫、推研部員の「級長」こと神北礼子、映研部員の「姫」こと薬師寺弥生、そこに美貌の転校生・咲原鏡子、両部の顧問を務める女丈夫・別宮操、を加えた6人は、操の提案により向かった“修学旅行”先で、密室殺人に遭遇してしまう。

 前作にあたる『深夜の博覧会』から12年、終戦から4年が経った名古屋を舞台に、戦後間もない日本の風景を、進駐軍の押し進める男女共学制度に翻弄される青少年、の視点から描いていくのがまず面白い切り口。
 男女5人の生徒と、前作に引き続いて登場する別宮操、主要キャラクター6人も冒頭から明確に印象づけられ、エンタメ作家としての圧倒的経験値に唸らされます。
 前作が「探偵小説」と銘打たれていたのに対して、今作は「推理小説」として、物語のタッチも少々違うのですが(前作は、より活劇的、といいましょうか)……


 「推理……小説ですか?」
 「そう。こないだまで探偵小説といってたけど、当用漢字表に『偵』の字がなくってね。だから最近は推理小説と呼ばれてる」

 のも鮮やかな掴み。
 前作同様、当時の風俗や小説・映画作品のタイトルなどを縦横に散りばめながら、大人達の都合に振り回される高校生の視点を中心に戦後日本の陰影が推理小説の骨組みの中で描かれ、全体に漂う空気はどうしても重いのですが、主要メンバーの明るい振る舞いでバランスが取られている作り。
 物語としては、“作り物の華やかさ”を舞台装置とした前作の方が虚実入り交じった歴史伝奇の要素も入っていて好きで、終盤にはガツンと重い一撃も入ってくるのですが、諸々合わせて、“探偵小説の幕引き”が描かれる意図ではありましょうか。
 その辺り、作者好みのメタ的な仕掛けも組み合わさった上で、前作同様、ラストの美しさは気持ちよい一作でした。
 ミステリとしては、“あの時代”だからこそ成立したある種の大トリックが、恐らくは主題であって、まさに“昭和(史)ミステリ”として成立しているのが、お見事。
 今年、今作の更に12年後を描いたシリーズ第3弾が出版されており、続けてそちらも読みたい予定。