東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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久方ぶりの読書メモ

 ここしばらく切れていた読書スイッチがようやく少し入ってまりましたが、前回に引き続き、『本格ミステリ・フラッシュバック 1957-1987』を参考に。今回も全て初読の作家で、遂に、初・鮎川哲也&初・山田風太郎

髭と密室と断頭台

◆『ひげのある男たち』(結城昌治
 アパートの一室で女性の変死体が発見され、直前に部屋を訪れた髭を生やした男性が怪しいと目されるが、捜査線上に浮かぶのは、無精髭の自称探偵、薄く髭を生やしたアウトロー、事件当日に髭を剃った営業マン……その事件を担当するのはこれまた立派な髭を生やした警部で……と事件の方は至極シリアスに展開しながら、文体にユーモアタッチを意識した長編ミステリ。
 怪しい犯人候補を絞って読者に目星をつけさせながら、“意外な犯人”を意識したと思わせる作品でしたが、フェアかアンフェアかでいうと、個人的にはアンフェア寄り。

◆『消えた奇術師』(鮎川哲也
 「赤」「青」「白」の密室に「黄色い悪魔」「消えた奇術師」「妖塔記」の3編を加え、名探偵・星影龍三が活躍する作品を集めた短編集。
 本邦ミステリ界における超有名作家の超有名作品を今更ながらに読んだのですが、密室状態の解剖室で若い女性のバラバラ死体が発見される、実に猟奇的で本格趣味な「赤い密室」は、成る程このアイデアか、と、今読むと、その後の作品への影響が見えて面白かったです。
 後、「黄色い悪魔」はなかなか面白かったです。
 印象に残ったのはとにかく、探偵の感じが悪い事で、古今東西、奇矯な性格の探偵というのは数多く居ますが、貿易商を営む素人探偵で、懇意の警部の要請に対して協力的ではあるが、いざ事件現場を見て真相に辿り着くと、思わせぶりな発言を繰り返した挙げ句、ここまで言ったらわかるでしょ? え? わかんないの? うっそー! と警察の着眼点を嘲ってはばからず、とにかく凄まじい感じの悪さ。
 作者の付記によると、意図して感じの悪いキャラに造形したとの事ですが、それにじても、驚くべき感じ悪さでした(笑)

◆『明治断頭台』(山田風太郎
 時に明治2年――樹立して間もない新政府内に、役人の不正を調査・糾弾する部署として弾正台が設置される。元を辿れば奈良朝時代、律令制度に基づいて設けられたこの古めかしい名を持つ組織に属す一人の大巡察、その名を香月経四郎。
 時代がかった平安朝風の装束に身を包む一方、フランスから国内にギロチンを持ち込んだ経四郎は、「政府というものは、正義の政府でなければならない」と情熱を燃やしながら、同僚の川路利良、手下の邏卒、フランスから来た美女エスメラルダと共に、様々な怪事件の謎を解いていく……。
 文明開化の世相に逆行するかのような異装の主人公、血塗られた断頭台、謎めいたフランス人美女、と派手なデコレートを施しつつ、弾正台そのものを始めとする史実の出来事や、実在の歴史上の人物を至る所に散りばめた明治伝奇小説にして、螺旋階段の下で犯人不在のまま両断された死体、車夫の足跡がないのに夜道を走った人力車……など多彩な不可能犯罪に真っ正面から挑む本格ミステリでもある、連作短編集。
 本格ミステリの形式を存分に活かし、それぞれ趣向を凝らした各エピソードの謎に、ゲストかと思われた人物の意外な再登場などで“明治史の一幕”が紡がれていき、ミステリとしては、そこはそれでいいのか……? といった部分を始め、道中の不自然な点が収まるところにきちっと収まる最終章は連作として鮮やか。
 そしてその収斂と共に、虚実入り乱れる伝奇歴史小説としてのエンタメ的面白さが爆発するクライマックスの疾走感が凄まじく、おおこれが、山田風太郎……と唸らされる一作でした。