『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第21話
◆ドン21話「ごくラーメンどう」◆ (監督:山口恭平 脚本:井上敏樹)
「怒る!」でお馴染み剣流星こと妹尾青洸が演じる宇都宮テツを主人公とした劇中劇『極道料理人テツ』(『極料理人道テツ』?)に始まり、空想の力で縁側に犬と猫と浜を呼び出して一句詠む猿原が、些細な人助けでサルブラザーに変身したところを如何にもなチンピラ集団に拉致されて、冒頭から次々と画面が切り替わるめまぐるしい展開。
「命が惜しけりゃな、例のブツを返せ」
松井組、なる反社会的な香りのする集団に人違いでさらわれたらしい猿原は、そこにミニバンで突っ込んできた青アロハの男によって救出されるが、その男こそが、松井組に追われる当の本人・白井であった。
「あなたはいったい」
「俺は、兄さんとは縁がありましてね。兄さんの先輩、先代の、サルブラザーだったもんで」
白井の口から爆弾発言が飛び出し、以前に、はるかがドンブラザーズを脱退する事で「先代」となり、「後代」としてゲストキャラに“不幸”が継承される衝撃のエピソードがありましたが、今回は「先代」がゲストとして現役メンバーと接触するこれまた衝撃の展開(この後を見るに、厳密な意味での「先代」とは限らなそうですが)。
はるか脱退の際のように、キビポイントの使用による時空改変めいた現象が起きていないのはどうやら……
「正確に言えば、その男はドンブラザーズではない」
からのようで、“戦士の力”を得た者は、ヒトツ鬼と戦って初めてドンブラザーズの一員と認められ、それ以前に“力”の使い方を間違えた者は自動的に力を失い…………って、正式登録前なら割と簡単に脱会できるのに、「跪いて忠誠を誓え」とか言っていた人、出てこい。
誰もがヒーローの力を得られる可能性はあるが、誰もがヒーローにふさわしく行動できるわけではない、とヒーローにおける「力と心」の命題がストレートに盛り込まれ、これまで、およそ5000人がドンブラザーズとなる前に脱落していた事がマスターの口から明かされる。
「知らなかった。凄いんだな、お供たち」
タロウからの掛け値のない賞賛に照れるお供たちは、そこのマスターがやたらめったら諸事情に詳しい事について、追求の手を緩めない姿勢を諦めずに取り戻しても良いと思います!
多分今なら、写真集5冊買うごとに情報を一つ、ぐらいのペースで口を割るのではないか。
一方、久々登場の猫刑事が町でサラリーマンに牙を向け、何事かと思っているとサラリーマンの正体はアノーニ。そういえばそういう世界観だったな……と思い出したところで、川の中から飛び出してくるドン・ムラサメ。
(アノーニを助けなさい、ムラサメ)
「マザー、僕は、ムラサメは、なんのために生まれてきたんでしょう?」
(無意味な質問です。さあ、戦いなさい)
風よ、雲よ、太陽よ、心あらば教えてくれと、ちらっと出てきて暴れてはすぐに帰る己のアイデンティティに疑問を抱き始めるムラサメであったが、マザーにはもちろん人の心(比喩表現)はなく、その命ずるままに完全破壊に向かおうとしたところ、どうやら前回から酔っ払いっぱなしらしいジロウが現れ、トラボルトにチェンジ。
両者が衝突している間に猫刑事はアノーニを体内に吸い込むと満足して去って行き、《スーパー戦隊》シリーズはこれまで、ほんのちょっとずつの出番で継続して登場しながら物語の進行に関わってくるサブキャラクター(善玉サポーター除く)、といった位置づけのキャラクターは作劇としてあまり用いてこなかったので、猫刑事は割と新鮮な切り口となっています。
ムラサメがマザーの指示によりアバレキラーにアバターチェンジすると、対する銀トラはキバレンジャーにアバターチェンジ。アバレミサイルと虎の子大秘術がぶつかり合うと爆炎に紛れてムラサメは撤収し、ギミックの為のギミック、といったシーンに終わりましたが、ジロウとムラサメの接触は今後に巧く繋がってほしいところ。
「……何故だ……? 奴の悲しみが伝わってくる……」
トラジロウが剣呑な表情のまま飛び去るムラサメの光跡に首をひねり、写真集を見てニヤニヤしていたはるかがソノザの襲撃を受けていた頃、猿原はいきつけのラーメン屋で白井と再会していた。
「猿原教授、今日はどうしましょう?」
「……うーん…………しょうゆラーメン。あと、メンマ多めで」
注文から出てくるのがやたら早いな……と思ったら、演出の都合ではなく、丼の中は空だったは高等遊民の面目躍如で大爆笑(笑)
「……何をしてらっしゃるんで?」
「私は、金がない。だから空想のラーメンを食べている」
「……そんなんで腹が膨れるんで?」
「勿論だ。それが真の、空想の力だ」
空想のラーメンを美味そうにすする猿原は白井を唖然とさせ、この場面、注文を受けて空の丼を出した店主も、それを美味しくいただく猿原も、互いに超にこやかなのが、妙に好き。
そして場所を移した猿原は、白井にマスターから聞いた話を確認する。
「ええ、兄さんのおっしゃる通りで。俺は、戦士の力を、自分の為だけに使いました」
「やはりそうか」
「でも、力を得たからといって、何故、わざわざ危険を冒してまで、モンスターと戦う必要があるんですか? それよりも、力を楽しんだ方が、ずっといい」
「そう。そうかもしれない」
「…………むしろ聞きたい。なぜ、報酬もなく戦えるのか」
「……そうだなぁ、言われてみれば。自然とそうなった……といえばいいのか」
――手に入れた超越の力とどう向き合うのか?
古今東西、普遍的な命題が非常にストレートに盛り込まれ……基本的にドンブラザーズのお供たちは、“戦士の力”があるから何かを為そうとするというより、目の前の痛みや苦しみを見過ごしたくはない、ささやか善意の背中を押したのが、たまたま“戦士の力”だったメンバーなのですが、「モンスターと戦う」事さえも、何も積極的な正義の意識に基づくのではなく、まさに成り行きであり、そう考えると、召喚その他により“当事者”となった時には戦うが、基本、積極的に鬼を狩り出そうとするわけではない今作の構造(召喚システム)に、改めて納得。
その点で今作はずっと、“君は手に入れた力をどう使うか?”ではなく、“君がそこに居たら何をするのか?”の物語であるような気はします。
そしてそれは恐らく、白井と猿原の間にある問いと答のズレに繋がっていて、二人のやり取りは明瞭な言語化には繋がらないまま、ここで再会したのも何かの縁、と白井と松井の手打ちの席に、猿原は立会人として同席する事に。
一方、ソノザによってさらわれたはるかが目にしたものは……
「『初恋ヒーロー』?!」
「そうだ。俺はおまえのマンガを読んだ。妙な感じだった……胸が! ザワザワするような!」
他の二人よりもコミュニケーション能力に難がある為に、ここまでソノーズの中では控えめなポジションに落ち着き、たまに戦いに出てきてもやられ役のイメージがついていたソノザですが、ここで『初恋ヒーロー』をきっかけにはるかと接続されるのは、色々な部分で嬉しい展開。
(……気付いていないんだ。私がドンブラザーズだって)
「このザワザワの正体が知りたい。マンガの続きを書け」
ソノザは工場跡らしき場所に用意したマンガ用具一式をはるかに見せつけ……まさかの『ミザリー』展開でした(笑)
「そんなこと言われても……私、 デジタル作画だから マンガ家はもう引退して……」
「駄目だ、書け! どうしても読みたい」
海賊鬼回の宣言がようやく明確に拾われ、一度は捨てる事を決断したマンガの道であったが、超厄介なファンと化したソノザの熱気に煽られたはるかは、脳人まで感動させるマンガを描いた私ってやっぱり天才? と持ち前の自負心ちょっぴり慢心を取り戻し、鼻がスルスルと高くなる気配を見せると、続きを描きましょう! と高らかに宣言し……本当に、今こそ復讐の時は来た!
はるかが腐った漫画界に鉄槌を下し今こそ本当の夜を見せようと動き出した頃、猿原が白井と向かった松井組は、別に広域指定されている団体ではなく、「極ラーメン道」を掲げるラーメン屋だったと判明(まあ猿原の誘拐時点で立派な犯罪なので、フロント企業感は凄いですが……)。
店長もとい組長の右腕とも目されていた白井だったが、サルブラザーの力を得てからそれを好き放題に使って遊び歩いていた為に組を破門。
「女の子にもモテた。スポーツ大会では、ぶっちぎりの優勝。行列に並ぶ事もなかった」
だがそれを逆恨みした白井は、組長の宝物――宇都宮テツの直筆サインを盗んでおり、手打ちとして、その返却の代わりに、松井組秘伝のラーメンスープを受け取る事に。
「これがあれば、俺はまた、ラーメン屋として復帰できる」
「しかし、どうせなら自分の新しい味を作れば……」
「ごめんですよ。そんな面倒な」
もう完全に、楽して生きたい駄目人間だった松井だが、一舐めしたスープは真っ赤な偽物、しかし組長に渡したサインも偽物で、互いに偽物を交換していた事が発覚。
大揉めに揉める二人を落ち着かせる為に、欲望そのものを捨てよ、と猿原は空想の力を推奨し、まんまと暗示をかけられた二人は、灼熱の砂漠に放り込まれる事に。
「あの……どうでしょうか……?」
「……だーめだ! 胸が、ザワザワしない! キャラが立ってないし! 展開に無理がある!」
一方、はるかが鼻高々のまま描き上げた新作はソノザから痛烈な駄目出しを受け、一度はマンガの道を捨てたはるかが、再びペンを手に取った途端にあっさり復活すると面白くなかったので、アシスタントではなく編集に就任したソノザからばっさり斬られたのは大変良かったです(笑)
全没を食らったはるかが鬼の形相を浮かべていた頃(この世界の標準でいうと、はるかは鬼までのリミッターがだいぶ長い気がして気になるのですが、年末辺りに凄い鬼に成ってしまうのではないか)、空想の熱砂を彷徨う組長は、目の前の水一本ほど有り難いものはない、と半ば強制的に雑念を排除させられてしまう事になり、猿原の能力が、人を殺せそうで怖い(笑)
「……俺はね……実は……後悔してるんスよ。モンスターと戦ってれば、違う人生を送ってたんじゃないかってね。……教えてくれ。なぜ戦えるんだ? 怖くないのか?」
「なぜ答を求める。なぜ答は必要なのか。――その答はなにか」
走り去る組長を見送った白井は再び猿原へと問うが、その答は禅問答のようで要領を得ず、猿原のスタンスからすると、答が無くては戦えない時点で既に質問が意味を成していない、といった感覚はありそうでしょうか。
「わけがわからねぇ……そうか。答は……俺が……兄さんと戦えば……自ずと、わかる筈」
それでも、自分が、自分の人生が、変われない答(白井の側からすると、変わる為の力が失われて他人のものになっている、と見えはするわけで)を求める白井は、その執着から鎧武者風味の侍鬼となり、顔に死、胸に邪、の文字が入っている凄いデザイン。
(駄目だ……描けない。ええぃっ! どうすればいいの?! わたしーーー!!)
一方、マンガとは何か、この白い原稿にぶつける自分の魂とは何か、の答を見失い苦悩するはるかは、ソノザがマンガに夢中な内にドンブラスターによって戦場に召喚され、全員集合。
「教えてくれ答を! 答をぉ!」
「これが……答だ!!」
邪炎をまとう刀を振るう侍鬼に対してロボとなった青は、お猿のパワーナックルからその場で大合体。
「答を求める為に自らヒトツ鬼になる……その根性や、よし!」
人間大のまま侍鬼に怒濤の攻撃を浴びせ、ドンオニタイジンのフォルムと立ち回りの格好良さをストレートに見せるバトルで、鬼退治・完了。
遊び呆けて解雇されると腹いせに他人の宝物を盗んだ上に金に困ってそれを売りさばく、という非の打ち所のないクズ人間だった白井は、一度は完全に外道に堕ちるも一つの出会いによって変わり、誰もがヒーローにふさわしくはあれないかもしれないが、誰もが変われる可能性は持っているのだと、後日訪れたとある屋台で、空想のラーメンを注文する猿原の姿で、幕。
個人的にはもう一つピンと来ないエピソードでしたが、演出によって白井とはるかの苦悩が重ねて描かれた物語はラーメン道からマンガ道へと繋がっていくようで、次回――サブタイトルが大変素晴らしい(笑)