『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第10話
◆ドン10話「オニがみたにじ」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹)
――何かを得るためには、何かを捨てなきゃ。俺、あんた達を捨てるよ。
「皆の衆、苦しゅうない苦しゅうない」
『初恋ヒーロー』に続き、新作『失恋ヒーロー』でも日本マンガアワードを受賞した現役高校生漫画家・鬼頭はるか。栄誉も、名声も、印税も、取り巻きも、学園の王子も、全てをこの手に掴み取り、我ーが世の、春が来たぁッ!(※ギム・ギンガナム風に)。
(これは夢ではない。私の本来の人生だ。私はもう戦士ではない。何故、こうなったかというと……)
衝撃のアバンタイトルから、OPには一足早くロボブラザーズと謎の巨大ロボ(CMも前回辺りから既に流れ出しており、一昔前の宣伝スタイルに)が登場し――物語は数日前に遡る。
「いったいどういう事ですか?! なぜ、マスターがチェンジを。きっっちり説明願います!」
はるかの詰問を受けたマスターは、そんな事より、キビポイントが沢山たまってるよ、と露骨に話題を逸らし、以前に囚人が口にした、ドンブラザーズ契約解除の問題が早々と再浮上。
入り乱れる謎と錯綜する人間関係、不穏な情報に奇抜な展開が目白押しの今作ですが、意識的なものかと思いますが個々の要素の活用が割と早いので、宙ぶらりんのまま消化不良になるものが少ないのは、上手い作り。
「どうする? このポイントを使えば、失った人生を取り戻す事が出来るけど」
どこか悪魔じみた笑みを浮かべるマスタードンブラこと管理人に対し、はるかはポイントの使用を迷わず即断し、本当によろしいですか? 今ドンブラザーズを継続すればこんな特典が! 本当によろしいですか? お客様はこれまでドンブラザーズとしてこれだけ社会に貢献しています! 本当によろしいですか? 今ならキビポイントをゴールドポイントともこうか(以下略)。
かくして若干引き気味の表情を浮かべたマスターに対してクリック連打でドンブラザーズ脱退を果たし、盗作騒動も、呪いのサングラス拾得も、オニシスターとしての戦いも無かった事になったはるかは、握手会で出会った不審な女性ファンに尾行されている事に気付き通りすがりの男に助けを求めるが、その男の正体は、人気漫画家を次々と取りこんでその才能を奪い取ろうとする海賊鬼。
「げぇーーーっ!(超・展・開!)」
急に第四の壁を越えてきたはるかがコケ芸を炸裂させたその時、はるかの危機を救ったのは、不審者だとばかり思っていた女。
「アバターチェンジ!」
女性はドンブラスターを構えるとオニシスターに変身し、劇中設定において代替え可能なヒーローが、なんらかのトラブル抜きに本当に代替えされると、正規メンバーそのままの変身を行って、うーん……凄い事してきます(笑)
白倉×井上タッグとしては『仮面ライダー555』において、変身アイテム(ベルト)を軸に置き、変身者と変身ヒーローを分断しつつ、その意味を逆転させる、という事をやってきていますが、ここまでのところ、井上敏樹がその持てるテクニックと扱ってきたギミック・テーマ性を大盤振る舞いで盛り込んできている今作が、《スーパー戦隊》としてどう完成するのか、とても楽しみです。
はるかが超・超・超・展開に愕然とする中、赤青黒桃が召喚されると、黄はコマンド→スライディングせずに跪いて忠誠を誓う。
(跪くのかぁ……)
今回のドンモモはそれを受け入れ、はるか、大ショック(笑)
しかも、残りメンバーも華麗な連携を決めて、ドンモモは黄へのカバーリングまで行い、ちょっと見ない間にチームの絆ゲージが急上昇していて、イエス! ドンブラ!
海賊鬼は逃走し、脱退した古巣の状況が気になって仕方ないはるかは、新たなオニシスター――前田真利菜にドンブラザーズの取材を持ちかけて接触し、タロウの攻略手段は……餌付けだった。
そういえば烈車鬼の女性も餌付けしていたので納得ですが、タロウと打ち解けてシロクマ宅配便でアイドル扱いを受け、猿原の世話をしてはドンブラザーズの要と評される真利菜に対し、私なの?! 私の存在がドンブラザーズのガンだったの?! もしかして皆でL○NEのグループとか作って週一で飲み会とかしているの?! と対抗意識を燃やすはるかだが、元々コケ芸の達者である為かドジっ子属性を覚醒させた上に真利菜からは優しくフォローを入れられ、人としての器の違いをひたすら突きつけられる。
(く……屈辱……)
ところが真利菜は、レストランの壁にかかっていた一葉の写真を目に留めるや、態度が激変。
「この写真はパクリよ! 元は私が撮ったものなの!」
血相を変えると写真にナイフを突き刺し、はるかは真利菜がカメラマンだった事を知る。
「ある日、戦士になり、同時に全てを失った。私の作品を、盗作呼ばわりする者が現れて」
(同じだ……あたしと)
今回限りだとまだ詳細はハッキリしませんが(今回まるごと、マスターによる仮想体験版ぽさもありますし……)、推測としてキビポイントによる事象の改変は、“キャスティングの交代”をともなう(ないし、それによって成り立つ)ようで、どこまで巡っても「どこかの誰かが盗作騒動で全てを失い、戦士となる」のは避けえないようですが……このポイント交換システムの設計者の血は何色なのか。
「知ってました? 虹の写真を狙うには、雨が止む前から準備しないといけないんですよ。……雨があがった時、奇跡みたいな瞬間はきっとやってくる」
はるかは真利菜から、父親の意志を継いだ虹への想いを聞かされ、なにか、今作の行く先を示しているようで、好きな台詞。
「……今はもう、撮れなくなってしまいましたけど」
だが盗作騒動のトラウマから、カメラに触ると手が震えるようになってしまった事を真利菜は告白。
「今の私は、ドンブラザーズとして人々を守る。だから……いいんです」
(それって、私の代わりに真利菜さんがドンブラザーズになったから……)
ポイントの使用により、他の誰かの人生を台無しにしてしまったのではないか……とその代償を目の前に突きつけられたはるかを狙い、海賊鬼が再出現。
ドンブラと戦闘員が揃って戦いとなると、怪盗鬼以来となるコンドール仮面が参戦し、その矢の一撃はドンモモがインターセプト。乱戦中、手の震えから銃を取り落とした黄の姿に、真利菜がまだ、捨てたと言ったカメラを持っているに違いない、写真への想いを捨てたわけではない事を知るはるか。
(あたしのせいだ……ん? あたしのせいなのか?)
まるで自分の身代わりのようにオニシスターになった満里奈だが、そもそも『初恋ヒーロー』の盗作騒動が不条理なものであり、悪いのは…………たぶん囚人と管理人だと思いますが、いずれ鈍器で一発殴るのは動かぬ証拠を掴んでからにするとして、ここではるかがすぐに自己犠牲の精神を発揮するのではなく、内心の葛藤に思い悩むのが良かったところで、何が欲しいのか、その為に何を捨てられるのか、千々に乱れるはるかの元に、編集者からの電話が入る。
(決めなきゃ……私が決めなきゃ!)
果たして、はるかが掴み取るものは――
「……すいません! 今までお世話になりました。私…………漫画家やめます!」
漫画家としての道を捨てたはるかは、喫茶どんぶらに駆け込むと、管理者権限でドンブラザーズ脱退を撤回させ、オニシスターに復帰……するといきなり、ごつい金棒を握って戦闘の真っ最中で、
「オニシスター・はるか! 見参!」
とりあえずアイデンティティの確認の為に、名乗ってみた。
「んなこたぁわかっている! 今更なにを言っているんだ!」
誰も、付き合ってはくれなかった。
「こっちは色々あったんだぁ!!」
自らの決断に対する迷いを恐らく抱え、鬱憤を爆発させたオニシスターは振り上げた金棒をドンモモ……ではなく海賊鬼へと振り下ろすと、ロボタロウギアを使用して、超唐突にロボチェンジ。
オニロボタロウ(みんなタロウなのか……)となると金棒ミサイルパーティーを発射して戦闘力が格段にアップし、その勢いに流されるまま、総員が超唐突にロボチェンジ。
……まあこれまでも、呪いのバックルに勝手に増殖していく呪いのギアの使用に関しては、適当極まりましたが、さすがにもう少し気配りのほしかったところ(笑)
「真利菜さん! あなたは自分の人生を! こっちは、私がぁぁぁ!」
ロボタロウ軍団が挿入歌に乗って戦闘員を壊滅させると、「どこかの誰かが盗作騒動で全てを失い、戦士となる」運命を背負う事を決めたはるかオニが、海賊鬼を野球のパワーでホームランし、はるかは“自らの意志で運命に立ち向かってくもの”――それはすなわち“ヒーロー”である事を、その手に、握りしめる。
トドメは、前人未桃・打ち上げロボタロウ(ロケット変身……?!)を発動し、とにかく強化は雑だが技はど派手だ路線で、俺は打ち上げ花火のように生きたいんだ小夜子ーーーーー! ドン! ドン! ドンブラザーズ!
海賊鬼が浄化されると、取りこまれていた漫画家たちも無事に解放され、一件落着。
強化展開は、雑……! の一言に尽きますが、マスターが海賊ギアを手にしたところで流れ出し、気分良さそうに笑うその視線が向かった先に、すっからかんになったはるかのキビポイントが表示されている場面で丁度「目指すは どんな ハッピーエンド?」がかかる、EDテーマの使い方が最高に良かったのでOKです!
そのままEDに乗せて真利菜が受賞した写真芸術大賞贈呈式の様子が描かれ、交わってく縁と縁 吹くは新しい風。
背に受けりゃ百人力、と学校では再び級友から無視される生活に戻ったはるかだが、晴れ晴れとした気持ちで空にかかった鮮やかな虹を見上げ、目指すはめでたしドーンとハッピーエンド!
実は私、このEDを公式PVで聞いて初めて、劇中のドンモモの「笑え笑え!」が腑に落ちまして、それ以来、とにかく大好きなEDテーマ。
前作で大きく扱われた事もあってか、海賊鬼はさらっと登場した上に鬼そのものは小物でしたが、モチーフ要素としては、はるかと海賊戦隊の親和性が高かったのは面白かったところ。
欲しい物を手に入れ(ようとし)た時にそれが誰かの犠牲の上に成り立つものだったらどうするのか?
今回、漫画家としての栄光を取り戻す事よりも、その為に誰かを犠牲にしない事を選んだはるかですが、かつて、自らの創作物に恥じない存在である為に戦士であろうとしたように、はるかが究極的に何を掴んだのかといえば、それは、誇りなのかな、と。
実際のところ、ドンブラザーズの仕様を考えると、はるか自身が誰かの身代わりとしてオニシスターとされていた可能性も多分にあるのですが、それでもはるかは、目の前で誰かを犠牲にするとわかって、自分だけの欲望を手にできない。
それならば、自分がその運命を背負い立ち向かうのが、はるかの在り方――人としての“誇り”、それはある意味で“自分だけのお宝”――であり、これはモチーフ元の海賊たちと通じる魂を感じるところであります。
なおこれは、大切な存在の為なら他者の犠牲をいとわない雉野と、一種正反対の選択をしたともいえるのですが、雉野にとっては、大切な存在の為ならなんでも出来るのが一つの“誇り”といえるのが、やや複雑。
精神的に対照的な面を持つこの二人の対決は、いずれ期待したいところです(なお今回、第1話はニアミスで、はるかはキジブラザー=雉野と認識していない事が発覚)。
ちょっと気になるのは、真利菜オニ世界でマンガの道を捨てたはるかですが、あれは真利菜オニ世界における決断の為で、今後は再びオニシスターをしながら漫画家復帰を目指すのか、それとも目的が再設定されるのかどうか。
前回発生した観光バスの乗客乗員消失事件については、背後に獣人の存在を感じ取ったソノイが、乗客たちは生きている、と言及。
そして、被害者の一人だった筈の元刑事が、獣のように肉をむさぼりラーメン屋で暴れ出すと何故か一心に折り紙を始め、その様子はまるで何者かに憑依されているようだが……次回――犬がトラブルに陥ると勢揃いする仕様のドンブラザーズ。
新たな脅威の影が世界を脅かす中、「このままでは全てが滅ぶ……人間界も、我々、脳人の世界も」と獣人を危険視するソノーズはなんと囚人に接触(?)し、次回も盛りだくさんそうで楽しみです。