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えいえんにあでゅー

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第3話

◆ドン3話「あかりどろぼう」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:井上敏樹
 (私は生まれながらの変人、らしい。自覚はないが人からよくそう言われる)
 縁側で空想の酒をたしなむのは、ドンブラのコーヒー代を俳句で払った書生崩れの青年。人呼んで、「教授」。
 (人は私を「教授」と呼ぶ。ただのあだ名だ。私は今まで一度も働いたことはない。敢えて言えば、「生きる」ことが仕事だ。)
 ……変な好感度が上がりますね!
 書生崩れどころか、どこに出しても恥ずかしくない高等遊民だった教授は、人にアドバイスを送っては手土産を貰って舌鼓を打っており、なんだか一人だけ、時代背景がズレていた。
 (こんな風に生きてきた私だが、最近……人生が変わった。……そしてあれ以来、ろくなことがない)
 たまたま拾ったスマホで「目」が揃い、呪いの青いサングラスを強制的に装着されたくだりが回想され、基本的に力強く不幸を呼び込みます。
 (しかし、運命は受け入れるしかない。雲は日々、形を変える。人生と同じだ)
 バロム仮面様とは別ベクトルで実に井上敏樹らしさを感じる教授は、散歩中にさらっとアバターチェンジして青いサルブラザーとなると子供を助け、変人だが悪人では無さそうな事が描かれると共に、前回の雉野に続き、「ヒーローの力」を個人の日常に軽く使うシーンが盛り込まれているのは、東映ヒーローとしては割と変化球でしょうか。
 教授にしろ雉野にしろ、別に「ヒーローの使命」を負っているわけでもないので(少なくとも劇中で示されてはいない)、その力をどう使おうと胸先三寸なわけですが、こういった要素がどう繋がっていくのかは興味深いところです。
 一方、宅配業者を装う窃盗犯クロクマが世間を騒がしており、その標的は、何故か、家の照明器具。
 鬼頭家に荷物を配達した際の成り行きで食器を洗っていたタロウは、はるかと同居する刑事のおばが追うクロクマの話を聞いて宅配業者として義憤を燃やし、はるかはこの縁を利用して桃井タロウ探しを行おうとタロウの配達業務に同行し、タロウの名札は、鬼頭家のリビングに転がっていた。
 「俺が運ぶのは荷物ではない。闇だ。――暗闇だ」
 配達の先々で桃井タロウとクロクマについて聞き込みを行う不審な二人は、本物の怪盗クロクマとニアミスし、その黒幕にはソノイ・ソノザと同じ雰囲気を漂わせる白づくめの女が接触
 コケティッシュな女は妖しげな色香を振りまくも詩人サイドは今回も謎だらけのまま進行し、クロクマの被害に遭っていた教授宅に照明器具を配達した際、クロクマの正体は心に闇を抱えるに至った元配達員なのではないか、と教授の推理を聞かされて、配達員に対する突っ慳貪な対応をはるかが反省するのは、地味に良かったポイント。
 ……まあ、袖すり合うも多生の縁が出来たな! で顔をばっちり覚えていた上に、荷物を渡し終えた後も所在なげに玄関口に立ち尽くしている男は、不審者扱いしても仕方ないとは思いますが!
 仕事を終えたはるかが家に戻ると無残にも家中の照明器具が盗まれており……凄く凶悪な嫌がらせですが、クロクマに取り憑いた悪しき神霊のもたらす異能は、照明器具の高速取り外しという事でいいのか。
 予告する。あんたの照明、いただくぜ!(※LED推奨)
 おばと二人暮らしに見えるはるかが、クロクマが照明器具に執着するのは「その灯りが家族団らんの象徴」だからなのではないか、という教授の言葉を意識しているのが布石に感じられつつ、暗闇の中で床に落ちていた桃井タロウの名札を見つけた翌日――タロウはとうとう、クロクマと思われる車を発見。
 ハンドルをはるかに任せると堂々とアルターチェンジでこももロボを召喚・入魂し、更にトッキュウギアの力でトッキュウこももとなると踏切クローでタイヤをかみ砕く事で強制停車させ、予想外に、正体隠匿への意識は皆無でした。
 「神輿は省略だ!」
 追い詰められたクロクマは、モノクルの意匠から恐らく怪盗鬼へと変貌し、堂々アバターチェンジするタロウ、神輿、スキップできた。
 だが直後に赤の姿が消えてしまい、はるかはやむなく黄に変身。
 恐らく、はるかはタロウの変身を目撃するが、タロウははるかの変身を目撃しない、という形にする都合かとは思いますが、やや強引な流れで改めて赤はバイクで参上し、更に犬猿雉が強制召喚。
 「その姿……可愛いわよ。自らの欲望に負けた、それがあなたの、本当の姿」
 ビルの屋上から怪盗鬼を見つめる白い女は、羽根飾りの意匠が目立つコンドール仮面へと変身し、眼下では青黄桃がトッキュウ先輩チェンジ。
 前回は、実質的な初披露という事もあり、こんな事も出来ますよ、の意味があった先輩チェンジですが、今回は、前回手に入れたギアで変身するノルマ以上でも以下でもなく(ちょっと変身して銃を撃つだけで、別に面白くもないですし……)、もう少し面白く見せる工夫は欲しいところです。
 『ディケイド』の時の白倉Pの表現を借りるならば、「カタログ」と割り切っているのかもしれず、下手に踏み込むと途端に地雷へと早変わりしかねないのがなんとも微妙な要素ですが、「カタログ」にしてもあまりに凡庸。
 サイケ人間軍団を蹴散らした家来たちは舞台をせり上げ当代無双でざっくり悪鬼成敗の寸前、乱入したコンドール仮面により受け止められてしまう必殺奥義。
 「可愛いけど……嫌い。消去する」
 その隙に逃げだそうとした快盗鬼は、コンドール仮面が二刀を繋げて作り出した弓の一撃を背中に受けると霧散。いずこともしれぬ異空間で、クロクマがキューブ状の塊に閉じ込められるとそれが砕け散る描写が入り、それと同時に、ドンブラマスターがトランプを広げるカウンターの上に転がるのは、ルパンギア。
 「……これは…………よくないなぁ」
 騎士竜鬼の時よりも明確に憑依された人間の「消去」が表現されましたが、現実と虚構が入り交じる『ドンブラ』世界で“それ”が何を意味するのかは、一つ二つのひねりがあるかもとは思わせる要素です。
 「クロクマの罪は重いといえ、元は普通の配達員だった筈。勝手に消すとは……許せん!」
 「素敵。ぜひ素顔が拝みたいわ」
 完全に時代劇調で斬りかかるドンモモの攻撃を、華麗な身のこなしでいなしたコンドル仮面は早退し、これにて一段落、とドンモモ=桃井タロウ、に意を決して跪いて忠誠を誓う黄だが…………足蹴にされた(3話連続3回目)。
 スライディング!? スライディングが足りなかったの!? と愕然とする黄に背を向けた赤は、「祭りだ祭りだ!」と家来どもに斬りかかり……これはもしかして、一度変身すると、鬼退治をしない限り興奮剤の効果が切れない呪いのヒーローブーストなのでしょうか。
 ひゃっはー! 百人斬りは最高だぜぇ! と正直者のドンモモが身内に切り込んだまま、つづく。
 巨大戦は無し、黒桃は完全に戦闘シーンのみの登場、ゲストのドラマも無し、とパイロット版に比べるとぐっと情報の詰め込みを減らして物足りなさがありましたが、中澤監督は大量の情報の整理に長けた監督なので、作品として意識的にバランスを模索中といったところでしょうか。
 ひとまず5人が一堂に会するが劇的な事は何もないのは今後に期待させるとしても思い切りが良すぎた印象ですが、作品の方向性そのものは面白いと思うので、“《戦隊》の魅力”も殺さない形での化学反応が起きる事を引き続き期待したいです。
 以下ちょっと余談で、前回の感想にいただいたコメントで気付いたのですが……
 桃井タロウ、
 ・中空なるもの(桃の入れ物)に入って
 ・現世に流れ着いた
 ・水辺の小さ子
 なので、完全に“聖なる者(神霊)”の属性を持っているのだな、と。
 勿論、下敷きとなっている『桃太郎』自体がそういうものであるわけですが、『仮面ライダーアギト』の主人公・津上翔一が“海辺に漂着した空っぽ(記憶喪失)の存在”であった事から“神の乗り物”として機能していた事と考え合わせると、より神霊に近い存在としての桃井タロウ(思えば最初に次元の裂け目――「異界」――からやってきていますし)が今後どう扱われていくのか、気になるところです。
 また、サイケ人間こと戦闘員ポジションの名称「アノーニ」に指示代名詞(連体詞)であり不特定多数の匿名の存在を意味するニュアンスが込められているとすると、それは劇中で徹底的に名前を剥奪されていた「アンノウン」とどこか通じるものも感じて、今作思った以上に『アギト』への意識があるのかもしれないな、と。
 そして、桃井タロウが神霊的性質を持った存在とするならば、家々を訪れ縁を結んだ相手に「幸福を運ぶ」のも、神輿に乗って魂振りされながら現れるのも繋がって納得度が増すのですが、神話的英雄が時に相対する怪物と同じ根から生まれた存在である事を考える時、今作が「仮面」「変身」「鬼」といったモチーフから、《平成ライダー》初期とはまた違った形で、「英雄(ヒーロー)」とは何かを描いてくれるかもしれないのは、楽しみにしたいところ。