東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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はじまりはじまり

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第1話

◆ドン1話「あばたろう」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹
 スライディング跪いて忠誠を誓う×2は、とても面白かったです(笑)
 21年前――謎の時空の裂け目から落ちてきて、どんぶらこーどんぶらこーと川に浮かぶ巨大な桃、の絵が冒頭からシュール。
 ランニング中だった男が、開いた桃の中に元気に泣きじゃくる赤ん坊を発見し、そして現在……モノローグで最初から裏表を示す女子高生漫画家・鬼頭はるか、謎の怪物に襲われたはるかを救う全身メタリックブルーのスーツを身につけた通りすがりのバイク乗り、全体的にやたらに芝居がかった台詞回し、と予想以上に井上敏樹ゼンカイ。
 「なぜ花を散らす? 花は風に散るもの。或いは人知れず落ちるもの」
 (なに? 詩人? ここで……詩人か?)
 「散るのは――おまえだ」
 青い男は仮面の戦士に変身すると謎の怪物を一蹴して風のように去って行き、劇中最初に「変身」を見せるのが(恐らくは)敵方、と良くも悪くも掴みからひねりを入れてきます。
 (もしかして……リアル初恋ヒーロー?)
 男の後ろ姿を見送るはるかだが……学校ではクラスメイトの元卓球部員よっぴーが、なにやらおかしな様子でラケットに釘を打ち付け続け、フォロワー数の増加をニヤニヤ見ていたスマホの画面は突如としてスロットマシンに切り替わり、そのリールに「目」のマークが三つ揃った時、何も無い虚空に生じた黄のサングラスが強制装着されると、サングラス越しに奇妙な世界が浮かび上がる、ゼイリブ』展開(もはや古典という事でいいのでしょうか)。
 一瞬前まで日常だった風景が極彩色のノイズがちらつくような異様な景色に変貌し、同じ人間だと思っていた存在の中にサイケデリックな模様の怪人(なんとなく『超人バロム・1』のアントマンを思い出す)が紛れている事に気付いたはるかは、サイケ人間たちに襲われ逃げ惑っている内に、サングラスと同じく虚空に出現した銃の力で、黄色の戦士・オニシスターに、強制変身。
 その力でなんとか逃げ延びるはるかだが、突如としてマンガに盗作疑惑がかかり、打ち切りと単行本の回収が一方的に決定。学校でも級友たちに一斉に手のひらを返されてボーイフレンドも失い、栄光の絶頂から一瞬での理不尽な転落は、今後の行動の動機付けとしては納得度の高いものに。
 「こいつか……こいつのせいか」
 全てのきっかけと思われるサングラスを放り捨てるはるかだが、既に呪いのアイテムとして装備欄に登録済みだったサングラスは強制的にはるかの顔面へと舞い戻り、制作者の顔が見てみたい!
 「君は戦士に選ばれた」
 「私が……戦士?」
 「君には、4人の仲間が居るが……まずは桃井タロウを探す事だ。彼の前で跪き、忠誠を誓え」
 今度は謎の空間に投げ出されたはるかは、恐らく21年前に桃の中から赤ん坊を拾ったと思われる男に出会い、決して嘘をつかない男・桃井タロウに導かれる事で、失ったものを取り戻せる、と告げられる。
 さらっと物凄い条件を出されているのにそれについては完全スルーな辺り、創作者としての名誉と栄光を取り戻せるのなら、プライドなんてチリ紙のようなもの、という魂が窺えます(笑)
 元の場所に戻って佇むはるかは、宅配便の青年とぶつかり……
 「縁が出来たなぁ」
 (……なに? こわっ)
 すかさず背中を向けた為に、青年の胸に輝く「桃井タロウ」の名札に気付かないのであった……と見せたかったのでしょうが、そこからカット切り替えて
 (桃井タロウ……あの人だ)
 と頷くので、視線がまるで去っていった宅配便の青年を追っているように見えて、???となってしまい、台詞と繋ぎがちょっと悪かったかな、と。
 その頃、凶暴化して卓球選手を襲い続けるクラスメイトの行為はエスカレートを続けて金メダリストへと牙を剥き、ついには怪物化。
 青いスーツの詩人こそ桃井タロウではないか、と考えて自転車を走らせていたはるかは、再びオニシスターと化すとその場に強制転移させられ、どこまでが現実でどこまでが虚構なのか、はるかの主観と認識が視聴者に見せているものさえ信用していいのだろうか、と物語世界の土台から執拗にこんがらがらせてきます。
 「おまえも己の欲望に負け、この世の静寂を乱す者か」
 そこに現れた詩人は、スライディング服従してきたオニシスターを足蹴にすると、卓球怪物を一刀両断。続けてサイケ人間を黄にけしかけてくるが、そこに新たな背広姿の男@桃色サングラスが現れると、桃色の戦士・キジブラザーへとアバターチェンジ。
 「何者か知らんが、貴様達も消去する」
 戦闘態勢を取る詩人仮面様だが、まだまだ混沌は終わりを告げず、酉を飾るのは、天女の先導で、神輿に担がれた、バイクの上にまたがる赤い戦士@チョンマゲ。
 ……て、前作ラストのチョンマゲトピアってこの伏線だったの?!
 「やあやあやあ! 祭りだ祭りだ! 袖振り合うも多生の縁! つまずく石も縁の端くれ! 共に踊れば繋がる縁! この世は楽園! 悩みなんざ吹っ飛ばせ! 笑え笑え!」
 赤い戦士は扇子を片手に場を賑やかし、色々と事情はあったのかと思いますが、インパクトとしては『ゼンカイ』で中途半端に先行登場させなかった方が面白かったな、とは正直。
 作劇の変化に次ぐ変化、混乱に次ぐ混乱の末に炸裂して場をさらっていく爆弾、と位置づけるにしては破壊力が足りず、この後、ドンモモ大暴れによる勢いで持って行こうとするテンポの切り替えにも、上手く乗っていく事が出来ませんでした。
 赤い戦士に斬りかかられた青い仮面は、地面に倒れていた金メダリストを怪物化すると
 「これ以上は我が剣のけがれ」
 と、悪役スキル《我、美学によって早退す》を発動し、とりあえず「欲望」がキーワードのようですが、今回限りでは行動原理はちんぷんかんぷん。
 呪いのバックルから取り出した呪いのゼンカイザーギアを呪いの銃にはめこんで発動した赤は、ゼンカイザーそのものの姿に変身すると、秘密の銃は正義の雄叫び。俺たちの絆は血に濡れた銃弾だ! と全開ハッピートリガーで桃と黄を援護し、残る卓球ナイトを縁・円・怨・厭・えーーーん! と、相手の腹に刃を押し当て、零距離から発動するえぐい必殺剣でバッサリ成敗。
 卓球ナイトの念が猿面の鬼のような姿に変貌巨大化するとサイケ空間が都市情報にスライドして展開し、巨大鬼がそこで暴れると、それにリンクして足下のビルが吹き飛び、その瓦礫から一般市民を桃と黄が守ったのが、今回ほぼ唯一のヒーローらしい活動でしょうか。
 赤がバイクでサイケ空間に飛び込んでゆくと、地上では謎の黒いゼンカイザーが16バーンのギアを発動し、それに合わせてドンバイクと呪いのジュランらしきものが守護霊ゼンカイザーに導かれながら前作と全く一緒のギミックでドン・全開合体し、コックピットもほぼ一緒の、ドン・ゼンカイオーが誕生。
 ……先ほどから、ドン、ドン、と続いて、いつドン・ゴッドイヤー(ハカセ)が飛び出してくるか気が気でありませんが……は?! 名前にドン・服が赤い・サイケ空間における扉を開くと別の場所へ飛ぶギミック・『宇宙刑事ギャバン』誕生40周年……つまり、ドン・モモタロウは、暴虐なる宇宙刑事の手を逃れる為に桃型スペースカプセルに乗せられて別の時空へと脱出させられたドン・ホラーの忘れ形見、と考えれば特に辻褄は合わない。
 巨大戦は、一部のアップ以外のアクションはフルCGな関係でか、コックピットの中で赤が派手に動き回る趣向。
 映像としてはこれといった面白さは感じませんでしたが、2022年に巨大ロボットバトルを描くならば、こういった形の方が受け入れられやすい、という事なのでありましょうか。
 ドン全開王のぶったぎた巨大怪物が43バーンのギアとなると、地上のゼンカイザー黒がそれを回収して「まずは一つ」と空っぽのバックルに収め、今回の卓球騎士は、『リュウソウジャー』モチーフだった模様(「欲望」も、本編ストーリーを意識か)。
 世界が修正を施されると、詳しい事情を聞く暇なく、赤と桃は立て続けに消失。金メダリストは怪物の中から解放されるが、詩人仮面様の宣告通りに消滅したよっぴーは戻らずに呪いの卓球ラケットだけが残り……失ったものを取り戻す為に、はるかは桃井タロウ探しの決意を強くするのであった――で、つづく。
 前作『ゼンカイ』が、具材に大きな変化を入れた一方で味付けそのものは伝統の味だったのと比べると、主人公ポジションの赤ではなく、紅一点の黄が物語を主導する狂言回しポジションな事に始まって、味付けそのものからかなり手を入れてきましたが、今回に関しては、「変化」そのものが目的化してしまって、それが「新しい面白さ」まで辿り着けなかった印象。
 新機軸を目指した結果、引っ込めた定番の面白さを上回るものを出せずじまいに終わってしまうパターンに陥らない事を祈りたいですが、この変化と、もつれあった糸が「絵」を描き出すまでは、しばらくかかりそうな雰囲気もあり。
 ・はるかを襲う理不尽に次ぐ理不尽
 ・世界の在り方そのものから信用していいのかわからない
 ・怪物を斬り殺したり作り出したり行動の一貫性が見えてこない詩人仮面様
 ・目的も理由も不明の戦い
 ・戦士メンバーの意思疎通ゼロのまま
 と、ひたすらややこしい状況を次に一旦は整理するのか、当面は混沌としたまま転がし続けるのかでも変わってきますが、「戦士たちの意識差」や「仮面による情報の錯綜」など、井上敏樹の得意技が活きる仕掛けは面白そうだけに、その面白さが、戦隊としての物足りなさを早めに上回ってきてくれる事を期待。勿論、〔仕掛けの面白さ×戦隊の面白さ〕になってくれるのが理想ですが。
 第1話の構成としては、新奇さとややこしさの釣瓶打ちを、ドンモモ登場と共に思い切り吹き飛ばし、派手なバトルで笑え笑え! と爽快に締める見込みだったと思うのですが、個人的にはむしろ、そこから先にノれなくなってしまったのは、残念でした。
 それと、「世界の虚実」と「本音と建て前を使い分ける人々」と「決して嘘をつかない男」は当然リンクしていると思うのですが、肝心の「決して嘘をつかない男」が謎の男による説明だけで本編でそう表現されて見えなかったのも、残念だった点。
 ……今ふと思いつきましたが、もしかすると、主観人物をローテしてくる可能性もあるか……?
 後は、
 変身アイテムのギミックが前作と同じ・前作主人公への変身・おもむろに登場する黒いゼンカイザーが巨大合体を主導・どうやら怪人モチーフが過去戦隊・回収される戦隊ギアが重要アイテムと思われる
 と、『ゼンカイ』からの継続要素を含めて過去作品に関係する要素が前作よりも存在感を強くしており、『ディケイド』しかり『ジオウ』しかり、過去作要素を前面に押し出した白倉P作品とは、だいたい相性が最悪に近いので(個人的には、なんの説明もなく戦隊ギアが重要アイテム扱いで出てくる時点で「うっ……」となります)、そこは今後の不安点。
 それこそ過去作要素が皆無なら、今年はこういう路線で来るのか……ぐらいの気持ちで見られたと思うので個人的にはほぼノイズなのですが、あまりアレルギーが出ない形を祈りたい。
 ところで、サブタイトルは久々の5文字路線? と思ったら次回いきなり7文字でしたが、もしかして、「5・7・5(・7・7)」?