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ここ5年で読んで特に面白かった本

リハビリ企画:ここ5年で読んで特に面白かった本

 現在、大変読書脳なので、読書関係からちょっと出力機構を回復しようという試みに、2017~2021年までの日記を遡り、読後しばらく経っても(現時点でも)印象に強く残っている本をリストアップしてみました。

●『柳生十兵衛秘剣考・水月之抄』(高井忍)
 ある時は謎めいた老武芸者の正体を、ある時は水鏡に映った者を斬る秘剣の真実を、またある時は盗賊十二人斬りの真相を……漂泊の剣豪・柳生十兵衛が鮮やかに解き明かす、時代小説×伝奇小説×ミステリ、が見事に絡み合った傑作短編集。
 ジャンルミックス的作品なのですが、剣豪小説とミステリの文法の融合、どころか、剣豪小説を読んでいたらいつの間にか本格ミステリになっていた、という筆者の話運びが極めて上手く、こういう事やってみたかった! を、鮮やかに見せつけられたシリーズ。
 著者の他作品は、蘊蓄部分が多すぎて“小説”としてさほど面白くなくなってしまう傾向があるのですが、今作は、「柳生十兵衛」というキャラクターの力もあって(相棒となる男装の女武芸者・毛利玄達とのやり取りも非常に面白い)、剣豪小説としても面白く読めるのがポイントで、非常に気に入った2作。

●《名探偵の証明》シリーズ(市川哲也
 長編3冊+短編集2冊になるのですが、ミステリとヒーロー物好き(つまり私だ)には、お勧めの5冊。別に、作中にヒーロー物ネタがあるわけではなく、ヒーロー作品的世界を舞台にした探偵物、というわけでも全くないのですが、スピリット、スピリットがそこにあるというか私が見えてしまっただけで、何を言っているのか、と思われるだけかもしれませんが、長編3作目のラストと、短編集2作目のラストが大変良いのです。とても良いのです。

●『仔羊たちの巡礼』(西澤保彦
 匠千暁シリーズ長編第3作。この5年間で一番のトラウマ作品。未だに思い出すとちょっと気持ち悪いのですが、その気持ち悪さがミステリとしては極めて美しく着地しているのが、強烈でありました。

●『さよならの次にくる<卒業式編>・<入学式編>』(似鳥鶏
 <市立高校>シリーズ2-3作目(前後編)。シリーズ1作目は、佳作、といったぐらいの出来だったのですが、この2-3作目が学園ミステリとして非常に良い出来で、この5年間、割と読んできた似鳥作品の中では、未だにこの2作が一番好き。
 タイトル通りに、学園ミステリとして一つの世界と“終わり”と“始まり”を描きつつ、それがもう一つの“終わり”と“始まり”に重なって爽やかな決着に辿り着くのが、気持ちよかったです。

●『水魑の如き沈むもの』(三津田信三
 民俗学×ホラー×ミステリを融合した、刀城言耶シリーズの中で、一番好きな長編。文章の落ち着き、民俗学要素と謎解きのバランス、謎解きそのものの面白さがシリーズでも屈指の傑作かなと。個人的に、良くも悪くも三津田作品の指標が今作になってしまっているところがあります。

●『偽書東日流外三郡誌」事件』(斉藤光政)
 後に「内容はともかく量的には史上最大の偽書」と言われる事になる『外三郡誌』の審議を巡る裁判の顛末を追いかけ続けた作者によるノンフィクション。
 『東日流外三群誌』が世に出たのが1975年、裁判が1990年代、本書の刊行が2006年となるのですが、SNSにおけるデマや、陰謀論など、2022年現在でも頻繁に目の当たりにする問題とダイレクトに繋がっているのが今読むと、むしろ、それらの可視化の進んだ今読んでこそ肌身でわかる部分もあって、大変興味深い一冊。
 割と最近もニュースで、史実ではなく「虚構」としてハッキリとしたものが、それでも“地元の誇り”としてあたかも真実であるかのように語り継がれていて……みたいなものを見かけましたが、普遍的な社会問題について、色々と考えさせられて面白かったです。

●『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也
 力道山の卑劣なブック破りによって屈辱的な惨敗を喫し、講道館史観によって古巣の柔道界からもその存在を抹殺同然にされた“史上最強の柔道家木村政彦――木村政彦は負けたわけではなく、木村政彦こそが最強なのだ! を、その生い立ちから遡り、戦前戦後の日本柔道界の姿からプロレス草創期の歴史ドキュメンタリーに達人伝説と昭和無頼伝を交えて語られる評伝……の体裁を取った、信仰の書。
 この5年間で読んだ本の中ではぶっちぎりのインパクトが未だに色あせないのですが、木村政彦最強伝説を説得力をもって語るべく、膨大な資料と関係者への取材を重ねて丹念に伝道と巡礼の旅を続けてきた著者が、いよいよ辿り着いた約束の地において、信仰の揺らぎに直面し苦悩するのがノンフィクションとして強烈にドラマチックになり、物凄い読み味でした。

 あと、短編だとアンソロジーで読んだジェミニィ・クリケット事件」(クリスチアナ・ブランド)が強烈でした。ブランドは他にも読んでみたいのですが、翻訳が古めかしいものが多いのが、ちょっと辛い。