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2021年を振り返る:読書編

2021年を振り返る:読書編

 カテゴリを振り返ってみたところ、例年通り、ミステリと民俗学系の本に偏っていましたが、今年のトピックとしてはまず、今更ながらの、初・山口雅也
 これまでなんとなく手を出していなかったのですが、国産ミステリのオールタイム・ベストに名を挙げられる事が多い『生ける屍の死』は、評判に違わぬ面白さでした。
 そして、その流れで読んだ同作者のキッド・ピストルズ》シリーズが大変ツボにはまり、パラレル英国(と宣言されている)を舞台に、パンクな刑事コンビがマザー・グースの童謡を彷彿とさせる奇っ怪な事件の数々に挑む物語が、論理を重視したパズラーとしてもさる事ながら、異世界ファンタジーとして抜群の面白さ。
 どちらの作品も、現実を少し歪めた世界で巻き起こる奇妙な事件を、正調の論理パズルとして解き明かしていきつつ、最初は、ん……? と思った主人公に、気がつくと好感を抱くようになっている作りが巧み。


 「犯人は、ある意味で狂っていたんじゃろう」
 「――そうか、結構だ。おいらは、犯人は狂ってました、って結論でもいっこう構わない。しかし、その<ある意味で>というやつが知りたいんだ。人はわけのわからない事件に出合うと、みな、狂人のやったことでしょう、で済ませてしまう。おいらが知りたいのはその先だ」
(「神なき塔」『キッド・ピストルズの妄想』)
 キッド・ピストルズは、非常にお気に入りの探偵となりました(一人称「おいら」がまた、実に絶妙)。
 同様の手法でパラレル日本を舞台にした『日本殺人事件』も、パラレル世界の描写が実に冴えていて、面白かったです。
 続いて今年の伏兵として、全く初見かつ不案内なジャンルを題材にしながら意表を突く面白さだったのが、格闘技界を舞台にしたミステリ『誰もわたしを倒せない』(伯方雪日)。
 エピローグまで到達して、物語を貫く情念が明らかになった時、それが非常に丁寧に各エピソードの中に織り込まれていた事が浮かび上がってくる、連作短編としての構成が鮮やかでした。
 同じく連作短編(中編)の形式で面白かったのが、一人の天才刑事を中心に、時代を遡りながら描かれる香港警察クロニクル『13・67』(陳浩基)。同作者では長編『世界を売った男』が、分量もほどよく読みやすくてお薦め。
 それから、久方ぶりに小野不由美を読んで面白かったのが、黒祠の島。毎度ながらのスロースタートながら、ミステリ・サスペンス・ホラーの要素を巧みに組み合わせてぐいぐい面白くしてくるのが、さすがの筆力でした。強烈な印象、という点では、今年はこれが一番。
 そしてそして、5年ぶりとなる《市立高校》シリーズ最新作『卒業したら教室で』似鳥鶏)が無事に発売され、きっちり柳瀬さん卒業編を書いてくれて、良かったです。
 えー……発売から8ヶ月以上経ったので書いてしまうと、あの表紙はミステリとしては大変どうかと思いますし、伊神さん周りの(追加)設定は探偵としての伊神さんの面白さを削いでしまったような気がするなどちょくちょく不満はあるのですが(“探偵”としての伊神さんの面白さは何より、「境界」を平然と超えてくるところにあったと思うので、その「境界」を超える理由、を劇中で設定されてしまったのは、個人的には残念)、短編集『まもなく電車が出現します』所収「今日から彼氏」への意識が見える心憎い構成など、シリーズ一つの集大成としては相応に満足できる内容でした。
 秋口から読書スイッチが切れたり『真・女神転生5』を始めたりで、さして本を読んでいないのですが、読み始めるも強烈な物量に読み切れていない『熱帯』(森見登美彦)を、年末年始に読めればなと、皮算用中。
 今年のマイベストは、着地の美しい粒ぞろいの中編が並んだ、キッド・ピストルズの妄想』山口雅也