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突然の読書スイッチ

久方ぶりの読書メモ

 急にフィクション読書スイッチが入りまして、ここ一週間ほど、勢いよく小説を読んでいたので、ざっくり読書メモ。

●<狩野俊介シリーズ>『月光亭事件』『幻竜苑事件』『夜叉沼事件』『玄武塔事件』『天霧家事件』(太田忠司
 伝説の名探偵・石神法全の事務所を受け継いだ、実直な中年探偵・野上の元をある日訪れたのは、一匹の猫と一人の少年。石神の友人を名乗る若干12歳の少年――狩野俊介は、驚くべき推理力を野上に見せつける。
 今の今まで読んだ事がなかったのですが、シリーズ長編1作目~5作目までを一気読み。
 探偵役は12歳の少年ながら、厳めしい雰囲気の豪邸、そこに住まう一筋縄ではいかない家族模様、絡み合う過去の因縁、と非常にアナクロな道具立てになっており、向き合う事件も時に凄惨でありながら、良くも悪くも陰鬱になりすぎないのは、作者の持ち味でありましょうか。
 世界観は、昭和中期を更に緩くしたような感じで、探偵助手の名の下に、12歳の少年が事件の現場で捜査の一端に平気で加わりますが、そこはあまり気にしない仕様。意識的にやや古めかしい探偵冒険小説の香りを漂わせる一方で、地道な調査活動も重視されるのが、絶妙な案配。
 上手いのは、語り手であり、いわゆる名探偵的な閃きは乏しいが様々なコネクションを持ち堅実な調査能力に長ける野上と、人並み外れた洞察力・観察力・発想力を持つが、年齢もあって人の心の機微を介しきれない少年探偵・俊介の、探偵バディのバランスで、お互いを奇人変人にする事なく、それぞれの長短を補い合う関係が成立している上で、人生の先達であり後見人でもある野上と、少年らしさと探偵らしさの間で様々に揺れる俊介との関係性が物語における一つの縦軸になっているところ。
 この設定がお見事で、大時代的な探偵小説の興趣と、警察小説にも近いハードボイルドタッチの雰囲気が混ざりあっているのも、一粒で二度美味しい的な面白さを上手く構成しています。
 そんなわけでキャラクター小説としての読み味は良い一方、正直、一作目と二作目の核心のトリックはうーん……だったのですが、それらを読者に踏まえさせた上での、4作目『玄武塔事件』、そして変化球の5作目『天霧家事件』はかなり面白かったです。
 シリーズとしてのスタイル、をかなり意識的に据えて行っている仕掛けそのものが、シリーズならではの面白さに跳ねるのは、お見事でした。短編集含め、続刊も読んでいきたい予定。

●『奇談蒐集家』(〃)
 奇談求む、の募集広告に応じて語られる奇妙な体験談……奇談蒐集家を名乗る男はその物語に大いに喜ぶが、怜悧な助手が奇談の真実を解き明かすスタイルの連作短編集。不思議な話、実は……系のフォーマットなので話のパターンが限られるかと思いきや、話数を重ねるごとにむしろアイデアが冴えていき、尻上がりに面白かったです。オチも好き。

●『もっとミステリなふたり』(〃)
 妻は県警に雷名を轟かせる敏腕刑事、夫は新進気鋭のイラストレーター。妻が出会った謎めいた事件を夫に相談すると、夫が解決の糸口をスマートに閃く、短編集。オーソドックスなフォーマットのバディ安楽探偵椅子物で、ぼちぼちといった出来。

●『生まれつきの花-警視庁花人対策班-』(似鳥鶏
 「花人」と呼ばれる変種が人類の2%を占める社会で起きる事件を、社会派サスペンス×警察小説×本格ミステリ、の構造で描いた長編。趣向は悪くなかったのですが、「差別と分断」をメインテーマに据え、「花人」という大きな架空設定を除くと、かなりストレートに現代日本を風刺する内容でありながら、“この国”の問題は海の向こうには存在しない、と取れる描写は、むしろテーマに対して不誠実だったのではないか、と残念。
 勿論、テーマ性を明確にする為に、枝葉を刈り取り戯画化も含めて“この国”に要素を絞ったとも取れますが、中核のテーマを、小説としてのアプローチの仕方そのもので損ねてしまった印象。

●『目を見て話せない』(〃)
 コミュ障の大学生が、人間関係に苦労しながら、卓抜した推理力で日常の謎を解き明かしていく連作短編集。作者の一人称小説の中でもかなり内心が饒舌な主人公を、面倒に感じるか面白く感じるかで読みやすさが変わりそうですが、私としては半々ぐらい。作者の長所である脇の友人キャラの描き方の巧さが出ていて、それなりに面白かったです。ラストは好き。

 『卒業したら教室で』は無事に入手したのですが、心身が万全な時に読もう、とまだ開いていません!