東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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久方ぶりの読書メモ

 ここ一ヶ月以上、極端な〔ゲーム↑読書↓〕だったのですが、この一週間は急に〔ゲーム↓読書↑〕に逆転。

今夏の出物

◇『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)

柳生十兵衛秘剣考 (創元推理文庫)

柳生十兵衛秘剣考 (創元推理文庫)

◇『柳生十兵衛秘剣考 水月之抄』(〃)

柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 (創元推理文庫)

柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 (創元推理文庫)


 時に徳川幕府三代将軍・家光の治世――廻国修行中の武芸者・毛利玄達は、乗り合わせた渡し船で横暴な振る舞いに及ぶ牢人者を、鮮やかな機転でやりこめる老武芸者を目の当たりにする。老人名乗っていわく、「無手勝流、土佐の卜伝――」。浪々の旅の途中で度々出会い、腐れ縁ともいえる青年剣士・柳生十兵衛にこの顛末を語って聞かせると興味を持つが、剣聖・塚原卜伝はとうに亡く、果たしてこの「卜伝」とは何者か……。
 ある時は謎めいた老武芸者の正体を、ある時は水鏡に映った者を斬る秘剣の真実を、またある時は盗賊十二人斬りの真相を……漂泊の剣豪・柳生十兵衛が鮮やかに解き明かす、時代小説×伝奇小説×ミステリ、が見事に絡み合った傑作短編集!
 江戸表を追放され、流浪の旅を続ける柳生十兵衛を探偵役にした時代ミステリーで、主人公が柳生十兵衛だけあって剣豪小説の趣が強い上で、剣豪小説の世界へのミステリの文法の融合、そして同時に、剣豪小説としても十分に楽しめるという筆致が実に鮮やか。
 特に秀逸なのが、“足跡のない殺人”を題材にした「深甚流“水鏡”」と、“密室殺人”を題材にした「新陰流“水月”」の2編で、共にミステリ小説としては定番の題材を剣豪小説と組み合わせているのですが、ジャンルの定番を舞台を過去に移し替えて行うというばかりではなく、剣豪小説を読んでいたらいつの間にか本格ミステリになっていた、という話運びが極めて巧み。
 また、人を食ったような性格ながら剣の腕も頭も切れる精悍な流浪の剣士・柳生十兵衛と、行く先々で十兵衛と出会ってはそのペースに乗せられてしまう生真面目な男装の女武芸者・毛利玄達のコンビも非常に良く、この二人のやり取りだけでも面白く読ませます。大変好み。
 なおこの毛利玄達は、柳生十兵衛と好勝負を繰り広げる講談の人気キャラクターを元に、女性として描いているそうで、史実をベースにした作者の発想に加えて、講談や奇説の類をところどころに織り込む事で、虚実の合間を縫う伝奇小説の面白さも取り込んでいるのが、謎解きと絡み合ってこれまた巧妙。
 シリーズ2作品、ともに粒ぞろいの出来で、非常に面白い短編集でした。作者の他作品も、チェックしていきたい。