『仮面ライダーウィザード』簡易構成分析
演出と脚本の担当本数は、以下。
◇演出
諸田敏〔4.5.10.11.18.19.26.27.36.37.42.43.48.49〕:14本
中澤祥次郎〔1.2.3.8.9.16.17.22.23.28.29.50.51〕:13本
舞原賢三〔6.7.14.15.24.25.34.35.40.41.46.47〕:12本
石田秀範〔20.21.32.33.38.39.44.45.52.53〕:10本
田崎竜太〔12.13〕:2本
柴崎貴行〔30.31〕:2本
合計53本と話数が多い事もあって、4人の監督が二桁を担当し、年間でローテに入った諸田監督が僅差で最多。
1エピソードずつの田崎・柴崎を除き、各監督で一番印象深いエピソードを上げますと、諸田監督は……ダイバー(笑) の直球変態怪人路線の見せ方は、今作において諸田監督のセンスが一番面白く出たところな印象ですが、一話完結だったビースト初登場を経てのビースト本格登場編となった第18-19話は、後編におけるビースト/仁藤の格好良さも劇的で、秀逸回でありました。
パイロット版-劇場版を担当し、本編最終話を締めた中澤監督は、新フォーム登場編としてはシリーズでもハイレベルな出来だったフレイムドラゴン誕生の第8-9話。後は終盤で印象が強いのもありますが、ラスト2話は中澤監督らしい巧さの光る回だったなと。
舞原監督も担当ラストの第46-47話が印象深く、クライマックスに向けてコヨミの可愛げにブーストをかけつつ、メデューサ/ミサに丁寧な結末をつけたのは、実に今作における舞原監督の集大成でありました。
石田監督は正直、あまり作品と合っていなのでは……と不満の多い出来だったのですが、第44-45話は、しっかりとバランスの取れた演出に脚本の出来も加わって、非常に良いエピソードでありました。
◇脚本
きだつよし〔1.2.3.4.5.10.11.16.17.18.19.22.23.26.27.30.31.34.35.38.39.42.43.48.49.50.51〕:27本(※連名2本)
香村純子〔2.3.6.7.8.9.12.13.14.15.20.21.24.25.28.29.40.41.44.45.46.47〕:22本(※連名2本)
石橋大助〔32.33.36.37〕:4本
會川昇〔52.53〕:2本
きだ・香村の二人が20本を越えておよそ半分ずつを担当し、香村さんが劇場版を担当している間に、石橋さんがスポット参加して、會川さんが特別編を担当。
当時、きださんが他の仕事も抱えていたとの事ですが、一人の脚本家の連続執筆本数は最高5本(うち2本は連名)に留まり、2話1セットを基本とした、かなり明確な分業体制。
2年前の『W』において、三上陸・長谷川圭一のダブルメイン体制が上手く回っていた点は意識があったのではと思われますが、最初から最後までこの形を貫いたのは、脚本家それぞれのカラーを出しつつ、クオリティの安定に繋がっていた印象。
きださんと香村さんの作風やヒーロー観には差があるように思えますし、実際に最終盤になってそれが大きな断層に繋がる部分もありましたが、両者ともに、実際どうだったかはともかく「そんなボール投げてくるの?!」といった動揺や困惑はそれほど作品からは感じられず(敢えて言えば、サッカー回に不満があったのか、終盤、香村さんが自分なりに晴人像を補強していった節はありますが……)、スタッフワークとしては、かなり上手くコントロールされた作品であったかなと。
結果的には、最後の最後で主人公の言行に致命的な大穴が空く事にはなるのですが、2号ライダーの位置づけも綺麗に収まって、道中の穴や波がほとんど見えない点では、堅実な出来となりました。
裏を返せばそれが類似のパターンを繰り返しながらの進行によるマンネリの印象に繋がる部分もあったようですが、“物語”としては、基本フォーマットを繰り返す一方で「ファントムとは何か」を少しずつ掘り広げていく事で、情報をオーバーフローさせないようにしながら「ヒーローと怪人」という今作の大きな主題を着実に掘り進めており、個人的に今作の構成において最も好きなポイントはここかもしれません。
どの鉱脈を掘るのか、をしっかりと決めて真っ直ぐに掘り続けた作品であったなと。
主なイベントは、以下。
第9話 フレイムドラゴン発動
第12話 ハリケーンドラゴン発動
第15話 ウォータードラゴン発動
第17話 ビースト登場
第18話 ソラ登場
第19話 ランドドラゴン発動
第21話 ドラゴタイム発動
第23話 オールドラゴン発動/フェニックス退場
第26話 真由初登場
第29話 ビーストハイパー発動
第31話 インフィニティ発動
第38話 笛木初登場
第40話 真由ザード登場
第47話 メデューサ退場
第50話 笛木死亡/コヨミ消滅
第51話 ソラ退場
序盤の強化要素は、「半年ほどの実戦経験があり、既に使いこなしている4つのフォームを順番に活躍させる」形でウィザードのヒーロー性と繋げて詰め込み過ぎない感を出すと、第9話が初めての明確な強化回。
このフレイムドラゴン回の出来が非常に良かったのは大きな貯金となり、その後のオールドラゴン回もインフィニティ回も、パワーアップ回としてはあまり出来がよろしくないのですが、割とFDW発動回の貯金で食べていけたなと(笑)
フレイムドラゴンの後は、だいたい3話ごとに基本フォームの上位バージョンとしてのドラゴン形態が登場し、ビースト登場を挟んで、オールドラゴンが前半クライマックスとなって、フェニックスを撃破。
終わってみると、幹部クラスの敵の途中退場はフェニックスだけとなり、テーマの一つして悪役サイドを丁寧に描いていた作品らしい構成となりました。
中盤~後半までの起伏、という点ではそこが少し弱くなった部分はありますが、後半早々にはビーストHとインフィニティが立て続けに登場。以後、インフィニティ強すぎ問題が作劇をやや苦しくしますが、残り1クール半の時点で最強フォームが登場するのは、なかなか厄介だなと。
起伏、といえば今作で一つ欠点を挙げるとすると、「ファントムの強弱に説得力が薄い」のはちょっと気になったところで、シンプルに物語の都合により、後半に行くほど厄介なファントムが出てきて通常フォームでは苦戦するようになるのですが、ファントム、強い弱いでミッションを与えられるわけでもなければ、ファントム自体に強化の理屈も存在しないので、「何故か物語の後半ほど都合良く強いファントムが生き残っていた」形になってしまったのは、もう一工夫欲しかったなと思う部分。
スポット参加の石橋さんはここをちょっと気にしたのか、搦め手で攻めてくるファントム(幽霊と九官鳥)を出して、結果的にはスタンド使いみたいな事になっていましたが、究極的にはファントムが“停滞した存在”である事がちょっと難しい点であったのかもしれません(この点ユウゴ/フェニックスは、複数の意味で例外的)。
あと個人的には、ドラゴンと晴人の関係性はもう少し掘り下げが欲しかったですが、インフィニティ発動後はドラゴンの性格が変わってしまい、そのまま通されたのはちょっと残念だった点(笑)
第51話のドラゴンの使い方は凄く良かったですが!
……書いていると色々、あれもこれもと出てくる作品で、もうちょっと何か書くかもしれませんが、ひとまず今回はここまでとしまして、おまけとして、今作の好きな部分……仮面を被りヒーローを“演じる”が故の主人公の気取った台詞回しの中でも特に、“間に合う”ヒーローの象徴として印象の強い、ファントムと晴人のやり取りの中から、お気に入りを幾つか。
「指輪の魔法使い! どこまで邪魔する気ですか!」
「……どこまでもに、決まってるだろ」
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「ホント迷惑な出しゃばり野郎だ」
「ああ。それが俺のキャッチフレーズだ」
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「甘いもの食べたかったら――店で買え」
「ご親切にどうもぉ!」
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「今度こそ、心おきなく遊べそうだぜ!」
「ああ。だがお前と遊ぶのは、今日で終わりだ」
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「また邪魔者か?!」
「ファントムの邪魔すんのが趣味なんでね」
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「少し遅かったようですね」
「いいや……まだ答は出ちゃいない」
特に序盤は各キャラクターの好感度への配慮も行き届いて、細かな台詞回しへの気遣いも光る作品でした。
さりげないところで、いい奴だな、とか根は真面目そうだな、とか感じさせるのが上手かったなと(まあ瞬平だけ妙に割を食いましたが……)。
ヒーローのキャッチフレーズや、そこからバトル中の決め台詞への繋がりも良かったですが、劇中で一番好きな台詞はやはりこれ。
「俺は暴れるしか脳がないんじゃない! 暴れたいだけだ!」
けだし名言でありました。