『爆上戦隊ブンブンジャー』感想・第1話
◆バクアゲ1「届け屋のハンドル」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:冨岡淳広)
真っ赤な車で教会に乗り付け、式の真っ最中に花嫁をさらう、謎の男。
「誰?!」
「――届け屋さ」
……のっけから話が逸れて恐縮ですが、このシーンを見て、
「貴様、何者だーーーーっ?!」
「“護り屋”、楯雁人――!」
を思い出したのは、日本で私一人だけではないと思いたい。
……『ジーザス』&『闇のイージス』(及び後継作品)は私にとってバイブル的作品なので、また例の発作が始まったぞ、と思っておいていただければ幸いですが、「運び屋」ではなく敢えて「届け屋」と独自名称を設定するところに通じるものを感じるというか、この名称は作品の掴みとして好きなポイント。
困ったボンボンと強引に結婚させられる寸前だった花嫁をさらい、その恋人からの依頼で空港まで送ろうとする届け屋だが、背後にはヤクザっぽい花婿一家が大挙して迫り……と思ったら、それを踏みつぶして現れる謎の暴走車……と、宇宙人?
(※アオリファミリーには是非、この後も定期的に問題を起こしては、定期的にハシリヤンに踏みつぶされてほしい)
「俺達この星、一番乗りだ~!」
「間違いない。こいつらハシリヤンだ!」
「ハシリヤン……そうか、遂に地球にお出ましか」
アジトでしれっとカレーを煮込んでいる、どこぞの総司令みたいな見た目の機械生命体と言葉をかわした届け屋は、宇宙的カスタマイズによるジェット噴射でこの窮地を切り抜けると、ブラックカードでブティックを丸ごと購入し、敵組織の名称が「走り屋+エイリアン」は、わかりやすい&スマートで割と好き。
ハシリヤンに目を付けられたドレスから花嫁を着替えさせる届け屋だが、なんらかの思い入れから花嫁がこだわって抱えていたドレスにハシリヤンの女がキーを差し込みイグニッションすると、ドレスから走り屋怪人・ウェディングドレスグルマーが誕生してしまう。
怪人の口から吐き出されたドレスを浴びた人々は次々とウェディングドレス姿になり…………今のところ、迷惑は迷惑だけど、被害程度のカウントが難しいな!
「もっとギャーギャー叫べ! お前達の恐怖の叫びは俺達のパぅワぁー! ギャーソリンとなるのだァ」
と思ったら、ただの愉快犯ではなく、他種族の恐怖をエネルギー源として集める、かなり悪質なタイプと判明。
「今日からこの星は、ハシリヤンの縄張りよ」
白い女幹部・イターシャがネジをばらまくとそこから戦闘員が生み出され、ネジ頭の目にエンジンのコイル風?の頭部、で全体として子鬼っぽさを出しつつ、それぞれバイクのハンドル状の武器を持っているのは面白いデザイン。
「あたしのドレス!」
「あれがクルマ獣ってやつだな……ドレスがそんなに大事か?」
「当たり前じゃない! お祖母ちゃんの大事な形見だもん!」
「…………そっか。完全にハンドルを手放したわけじゃないんだな」
荷物の言葉に微笑を浮かべた届け屋は、基地の機械生命体――ブンブンに連絡を取って、クルマ獣を倒せば素体にされたドレスが元に戻る事を確認すると、サービスでウェディングドレスを取り戻すと宣言。
「――自分のハンドルを握るっていうのはこういう事」
届け屋の男が通信機として腕にはめていたメーター状の装備のスイッチを押すと、
「ブンブンチェンジ!」
の声も高らかにバクアゲファイヤーでその姿を変え……怪奇タイヤ男に。
「タイヤ人間?!」
あ、劇中でツッコませた(笑)
最初に発表されたデザインを見た時から、ホイールモチーフのマスクというよりも、これは異形のタイヤ頭だな……と思ってはいたのですが、作っている方も思っていたのか、劇中人物からツッコミが入った事で、以後、メタ視点のツッコミは封じられてしまいました。
でも正直、ブンレッドよりも、タイヤレッドの方がしっくり来ると思います。
赤いタイヤ頭は、足のタイヤを駆使した高速移動や壁面移動で縦横無尽に駆け回ると、ハンドル剣&銃で戦闘員を蹴散らしていき、怪人のウェディングミサイルは背中のタイヤでガードから反撃。
相棒の背広の男がやってきて積み荷の花嫁を確保すると、赤が戦っている間に空港へと連れて行こうとするが……当初から、結婚も不満だが、恋人と海外逃亡するのもどこかスッキリしない様子を見せていた積み荷は、届け屋の言動に色々と思うところがあったのか、
「あーもう! 決めた!」
と迷いを振り切ると、車を逆加速させて戦場に舞い戻り、「あたしも戦う」宣言。
「あんたみたいに、自分のハンドルは自分で握る。あたしはあたし自身を、あたしの思うところに届ける!」
今のところ人物としての出自や背景がわからないので、だいぶ素っ頓狂な感じにはなりましたが、「届ける」のキーワードの使い方の巧さで説得力を乗せると共に、「自分のハンドルを握る」象徴として「変身」を意味づけ――故にここで口にされる「戦う」は、目の前のハシリヤンと戦う以外の意味も持つことになりますが、今後の物語の中で上手く使っていってほしい要素であると同時に、当然計算されていると思うのは、期待度の上がる部分。
「…………ふっ、最高の爆上げだな!」
直前に「届ける」を巧く使った分、むしろ現状、タイトルに冠された「爆上げ」の方がどこから出てきたのかわからない事になっていますが、積み荷の発言にテンションの上がった赤は車の中から変身アイテムを取りだし、余っていて良かった。
ここで、「……あ、無かった」とならなくて、本当に良かった。
「……ハッ、いつもこれだ。勝手にしろ」
機嫌を損ねた背広の人が歩き出したので、あ? 帰っちゃう?と思ったら一緒に変身してくれて、早くも、いい人、の予感。
背広の人は無表情に、鬱屈の溜まる日々から神秘体験を経て目覚めてしまったみたいな積み荷の人は満面の笑みを浮かべ、二人並んでブンブンチェンジ。
「3人揃って、爆上げだーーー!!」
アジトでは総司令が声を張り上げ……「爆上げ」を広めようとしているのは、この超ロボット生命体か。
「大也、アレやって! アーレ」
「ああ。行くぞ!」
「……やっぱりやるのか」
個人的にはここは、変に理由つけなくてもいい派なのですが、『ゼンカイ』『ドンブラ』以後の作品としては必要だと判断されたのか、名乗りは総司令のリクエストという事にされ……
「ブーーン・レッド!」
「ブーーン・ブルー!」
「ブーーン・ピンク!」
レッドはキザにくるっと回り、ブルーは嫌々ながらもオーバーにならない範囲の身振りで格好つけ、状況に戸惑いつつも素っ頓狂なピンクはテンション高くジャンプを交えて派手なポーズを決め……
「気分ブンブン、ブン回せ! 爆上戦隊!」
「「「ブンブンジャー!!!」」」
その場でこのノリに適応して、決めポーズも取ってみせるピンクが、とにかく素っ頓狂(笑)
「「「……ブンブンジャー?」」」
そしてそれを物陰から見つめる走り屋の人たちは、この事態についてこれといって理解していなかった。
剣・銃・レンチ的な打撃武器、とハンドル武装3モードを見せる戦闘シーンから、3人同時攻撃・爆上げハンドリングドライブでクルマ獣は爆散。
ところが、弾け飛んだクルマ獣から放出されたギャーソリンに興奮状態となった走り屋の車ヤルカーが、ギャーソリンを食べて巨大化しながらハイウェイ空間へと突入し、移動手段+マスコット+巨大化担当の便利ポジションで、マシン空間光に乗ってヤイヤイ・ヤルカー飛んでくる~。
このままでは倒したクルマ獣が巨大化されてしまう、と走り屋連中よりも事情を把握しているらしいブンブン総司令が追撃の為にブンブンカーを出動させ、初回から、手持ちの追加武装がこれからドンドン出てきますよ、と見せてワクワク感に繋げてくるスタイル。
総司令自らもトレーラーに変形すると、炎神キャスト風なミニカーを用いてブンブンジャー3人はそれぞれの車に転送され、ハイウェイ空間でのカーチェイスが長めの尺で展開。
ハンドル操作やシフトチェンジといった運転要素が細かめに描写され、メインモチーフである車要素をウリとして強調すると、ピンクが卓越したドライピング技術を披露。ハイウェイ空間から弾き出されたヤルカーは通常空間で巨大ウェディングドレスグルマーを吐き出し、ブンブンジャーはそれに立ち向かうべく、この先、爆上合体。
直立して人型となったブンブントレーラーの左右の腕に、それぞれ武器に変形した青桃の車が接続され、今、ブンブンジャーロボが走り出す!
……これはもう、実質的に、ただ巨大化したブンブン総司令なのでは……?(笑)
ここから主題歌をバックに、市街地での巨大戦が展開し、巨大クルマ獣とぶつかって吹き飛ぶのが建設中のビル、なのは今日風の配慮でありましょうか……まあ、周囲で数台の車が宙を舞ってはいますが(笑)
ブルー主導による右手のドライバーによる敵装備の瞬間解体から、ピンク主導でその残骸を利用したウェディングケーキ牢獄に怪人を閉じ込め、冒頭で置かれていた桃の境遇を考えるとやけに重い……!
そして、ルックスがどこかリュウソウピンク/アスナと同系統だな……と思っていたら、同じくパワー系ピンクなのでしょうか(笑)
身動き取れないクルマ獣を、ブンブンジャー初めての共同作業としてケーキ入刀で一刀両断し、シリーズ史上でも結構えげつない巨大ロボのデビュー戦になったような気がします。
ウェディンググルマーが消し飛ぶと、人々を拘束していたドレスは消滅。素体とされていた形見のドレスが青空をバックに宙を舞う映像が美しく、それを胸に抱えて空港へ届けられた元花嫁は……
「ごめん! 行かない」
「え?」
「あたし、ブンブンジャーになる!」
「……え?」
荷物を揃えて待っていた恋人にもハンドルは渡さない事を宣言し……彼氏、これで依頼料はしっかり取られるのだとすると、踏んだり蹴ったりすぎるな、彼氏(笑)
「……俺は認めない」
「仕事は完了。届け先変更、ブンブンジャーってね」
届け屋がキザに呟いて、つづく。
車モチーフという事もあってか、スピード感を重視した説明控えめの導入から、そのまま勢いオンリーで進行するのかと思ったら、必要な情報をテンポ良く出していく流れは、情報整理の巧い中澤監督×キャリアのある脚本家の腕を感じさせ、尻上がりに引き込まれていく第1話で、面白かったです!
〔届け屋×物質を怪人化する敵×怪人を倒せば元に戻る〕
の組み合わせにより、届け屋がハシリヤンと敵対する流れと、そこにゲストのドラマを盛り込む導線がスムーズに組み立てられており、第1話として必要な事をやると同時に、既に使い勝手の良い基本フォーマットが組み立てられている、のは実にお見事。
「――届け屋さ」に始まり、
「あたしはあたし自身を、あたしの思うところに届ける!」を挟んで、
「仕事は完了。届け先変更、ブンブンジャーってね」で締める、
キーワードの使い方も大変上手く、タイトルでありキャッチフレーズでもある「爆上げ」一本に拘らず、もう一つのキーワード「届け(る)」を用いて統一感を出したのも、鮮やか。
上述したように、逆にメインの筈の「爆上げ」の方がちょっと浮く事にはなりましたが、近年ではルパンレッド/魁利が居るものの、戦隊レッドとしては珍しいキザ路線の主人公と、ブンブン総司令や「爆上げ」との関係、「自分のハンドル」へのこだわりがどう繋がっていくのかも、楽しみが広がります。
チーム物としては、なし崩しにせずに、次回は、青桃の話をやってくれそうなのも、好印象。
……ところで、ブンブン総司令のフルネーム、「ブンドリオ・ブンデラス」は、どちらかというと敵のボスっぽいというか、頭に浮かんだのが、センスが「ドグラニオ・ヤーブン」に近い……だったのですが、マフィアのボスが思い浮かんだのは、アントニオ・バンデラスのもじり(……何故?)は明白なものの、音の印象から菅原文太を思わせるからなのかもしれず、つまり総司令の正体は、仁義なき宇宙のトラック野郎なのでは?!
後、第1話で個人的に気に入った部分として、登場人物による補強も入れましたが、なぜ敵を前にしてポーズを決めるのかといえば、
劇的で格好いいからだ
であって究極それ以上でも以下でもなく、嘘っぽかろうが無意味だろうが、それは荒唐無稽なヒーローアクションとしての《スーパー戦隊》の揺るぎない魅力ではないか、という点を堂々と押し出してきてくれたのは、嬉しかったところ。
“《スーパー戦隊》の面白さ”とはなんだ? について、ここ数作でだいぶ試行錯誤がありましたが(それはそれで必要な部分はあったと思いますし今後の今作の中にも出てくるかもですが)、それとはまた別の路線で、もう一度、これまで40年以上の積み重ねを肯定しながら、アクション・ガジェット・ヒーロー、の魅力を押し出そうとする意識を強く感じ、
ここ数年のシリーズ作品が「“《スーパー戦隊》の面白さ”とはなんだ?」から始まったとすれば、
「これが“《スーパー戦隊》の面白さ”だ!」
から始まった今作のハンドル捌きの先に期待したいです。