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君(貴方)は俺(私)の希望

仮面ライダーウィザード』感想・第50話

◆第50話「大切なものは」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:きだつよし)
 「俺がきっと見つけてみせる。コヨミを救い出す方法を!」
 ……まあ、救い出すもなにも、実体は既に死んでいるわけなので、感情的な整理は難しく理屈を越えた関係性ではあるのですが、そこにこだわる事そのものが「怪物――白い魔法使い――への第一歩」になってしまっているのは、最終回目前の主人公の姿としては引き続き苦しい。
 何も昭和のごとく割り切ってほしいわけではありませんが、どうしてもこの展開をやりたかったのなら、1クール……とまではいいませんが、ちゃぶ台返しによる晴人の実質的絶望のターンに前後編、そこから再起して白Pとあれこれやりつつコヨミ奪還作戦からサバトを乗り越えるまでに6話ぐらいは使っても良かったのではないかと思うところ。
 要するに、失点を取り戻すヒーロー復権のターンに少なくとも3倍の話数は必要かなという見立てですが、加えて、コヨミの真実を知ってから、「救い出す別の方法」を考えるにも一定の話数が無いと、発言にどうしても説得力が弱く、信じたくても信じにくいな、と。
 そこはもう、理屈ではない部分で突っ切りたいのかとは思うのですが、理屈でない部分を応援する気持ちにさせるには、前回の足踏みがあまりにも致命傷。
 「そんな戯れ言に付き合っている暇は無い」
 振り向きざまにいきなりエクスプロージョンされる晴人だが、炎を吸い込むように変身するとフレイムドラゴン。
 「俺はおまえを止める。そして、コヨミも絶対に救う!」
 表面上は、東京壊滅級の計画を止めてヒロインを救う宣言なのですが、重ねて今ひとつ晴人における「コヨミを救う」の位置づけがわからないというか、たぶん晴人にもわからなくなっているという意図ではあるのでしょうが、前回のどん底モードから今回冒頭までの間で晴人が切り替わっている要素って「東京全域の犠牲はNG(犠牲の多寡)」ぐらいしかないので、どうもこの発言を額面通りにヒロイックに受け止めにくいところでもあり。
 今作の場合、開始時点でハッキリと「取り戻せない死」を背負っている物語であり、だからこそ「二度と喪失を起こさせない為に“間に合う”ヒーロー」を描き続けてきた(それがウィザードの魅力の一つだった)わけですが、その「取り戻せない死」の起点であったコヨミを救う、すなわち「取り戻せない死を特例でひっくり返そうとする」事に関して、主人公の心情が整理されないまま突っ走っているのは、どうにも引っかかる部分。
 なんというか、その段階から運命をひっくり返すのであれば、コヨミ以外のサバト犠牲者たちも取り戻そうとしなければ、筋が通らなくなってしまうかな、と(この点に関しては、この後、ちょっと手が入りますが)。
 白PとFDWが正面から切り結び、前回のビースト戦に続き、真っ向勝負のアクションを尺を使って見せてくるのは今作らしいスタイル。増殖タイムを発動するウィザードだが、白Pも分裂して対抗し、ウィザードの魔法を読み切った白Pの前に、増殖ドラゴン隊は完敗。
 「おまえではコヨミは救えん」
 白Pがコヨミを連れてテレポートで姿を消した後、晴人はその後を追い、変身能力を失った仁藤は、解放された人柱の面々と合流。
 コヨミについて山本が「助ける必要あるのかその子」と当然の言及をして波紋を投げかける事により、倫理と感情の狭間に一旦ブレーキがかけられると、実際のところ凛子たちが助けたいのは“1年を共に過ごした人形のコヨミ”であって、白い魔法使いが蘇生を望む“笛木コヨミ”とそれは、微妙に食い違うものである事が、視聴者に向けて整理されたのは良かったところ。
 これによって、「笛木コヨミを蘇らせたい」のは倫理的な問題が多々あるが、「この1年を共に過ごしたコヨミを助けたい」のは動機として呑み込みやすくなり(劇中人物も同様の線引きを自覚しているのかは、今回範囲ではなんともですが)、重犯罪者である白Pと目的がぴったり一致する事も回避。
 家庭人である山本は、もう強制スクワットはまっぴらごめんだ、と去って行き、譲と真由も、手にしてしまった魔法に対してそれぞれの岐路に立たされ……真由は凛子に対し、もう魔法は使わないと宣言。
 「結局私も一緒だった。ワイズマンを信じて裏切られた、メデューサと。私も、白い魔法使いの道具でしか無かったんだって」
 「……そっか。でも……忘れないで。その指輪は、まやかしの希望で作られたものだったかもしれない。でも……その指輪で、絶望から救われた人も居るってことを」
 例え“魔法使い”というヒーローが、白Pの作り出した偽りの存在だったとしても、その過程で救われた人々が居た事は本物だ……と、今回も凛子さんにやたらといい台詞が回ってきて、どちらかというと晴人にぶつけてほしかった台詞になっていますが、晴人から受け取った指輪のアップになる辺り、ここでは真由が晴人代理にされている意図もあったのかもしれません。
 ……まあ凛子さんも凛子さんで、そもそも真由にとっては白Pこそが姉を殺した実行犯であり、魔法も指輪も希望どころか呪いの象徴めいたものである点については半ば無視してしまってはいるのですが、この問題に関しては晴人株の関係で基本的に触れない事にしつつ、間接的に晴人へ向けた台詞なのでそういう形になってしまった感じ。
 その頃、「必ずお父さんが救ってみせる」と、生前のコヨミとの約束を頑なに守ろうとする笛木に対し、
 「私はこのままでいい」
 とコヨミが拒絶を叩きつけると、笛木の口からもあくまでその心は「人形のコヨミ」にしか過ぎない点に触れられるが、コヨミが本当に笛木の語るようなコヨミならば、こんな所業は喜ばない筈だ、と人形コヨミは熱弁。
 「私は…………コヨミはもう、死んでるのよ」
 生前コヨミと人形コヨミの姿を重ねた笛木がショックを受けているところに、狙い澄まして背後からハローーーするグレムリンだが、物理学者なのか魔法使いなのか武術家なのかもはやよくわからない存在になっている白木@物事の基本は体力、は気配を察知すると咄嗟に荷物でガード。
 笛木が白Pに変身してグレムリンと戸外での戦闘になだれ込むと、コヨミはぶちまけられた荷物の中身からインフィニティの指輪を発見し、やたらめったら強い白Pがグレムリンを重力磔からぐっさりピン留めをしている間に、コヨミを探し回っていた晴人と、白いブランコのある湖畔で再会。
 「私が消えて、賢者の石が残ったら、絶対に誰にも渡さないで! ……この石がある限り、きっと悪い事が起こる。だからお願い!」
 コヨミは充電を拒否するとインフィニティの指輪を晴人に託し、ファントムが自然発生しうるものなのかは判然としませんが、白Pとの決着が付いた後に、晴人の行動指針になるものをどう設定するのかと思っていたら、ここでコヨミとの間に新たな「約束」が交わされて動機付けとされるのは、成る程。
 ……まあこういう、「呪い」スレスレ(時にそのもの)の「約束」は、個人的な好物です(笑)
 「コヨミ……」
 「……このまま静かに眠らせて。……それが私の――希望」
 精一杯の笑顔を浮かべてコヨミは“最後の希望”を告げるが、それを阻もうとする妄執の白い魔法使い。
 「コヨミは……コヨミは俺が必ず助けてみせる。――変身」
 「その姿は……」
 「コヨミが取り戻してくれた、俺の力だ」
 晴人がインフィニティすると、二人の魔法使いは湖畔で激しく筋肉をぶつけ合い、ここまで来て最強の魔法使いvs最強のフォームの決戦がステゴロの格闘戦になるのは(オマージュもあるかもですが)、今作にふさわしい説得力(笑)
 インフィニティマッスルに苦戦する白Pの火炎放射を受けたウィザードはドラゴンソードを召喚するも、白Pの僧帽筋で受け止められると、膝蹴りと肘打ちからエクスプロージョン連打のコンボで吹き飛ばされ、互いの死力を尽くした戦いの末に飛び蹴りがぶつかり合うと、激しい閃光と爆発が発生し、ダブルノックアウトで転がる二人。
 「コヨミを救えるのは、私だけだ」
 先に起き上がった晴人に膝蹴りを叩き込むとコヨミに手を伸ばす笛木だが、捨て身の作戦で白い魔法使いソードDXを奪うのが目的だったグレムリンの奇襲攻撃を受け、大量殺人犯とはいえ、ヒーローに始末させにくい“人間の悪”は、グレムリンが斬殺。
 生前のコヨミを想いながら、人形のコヨミの頭に手を伸ばす笛木だが、果たせずに崩れ去って消え、笛木/白い魔法使い/ワイズマンは、自らの目的の為に生み出して道具として使っていたファントムにより死を与えられる因果を迎え、最後にコヨミの頭に手が届かなかったのは、笛木への最低限のケジメとして、納得のいくバランスでありました。
 ここで、コヨミの頭を撫でて消えていい人物ではなかったと思うので。
 「これで……やっと……」
 賢者の石に干渉可能な白い魔法使いソードDXを手に入れたグレムリンは、コヨミに向かって剣を一閃し、その内部から賢者の石を入手。
 「これで……僕は……人間になれる!!」
 満身創痍ながらも賢者の石を握りしめたグレムリンは姿を消し、倒れるコヨミに駆け寄る晴人。
 「……いいのよ。これで……」
 「駄目だよこんなの。こんな……」
 色々とありましたが、ここの晴人の嘆きは、理屈を越えた感情が絞り出されていて、“素”の晴人の叫びが出た感じも含め、良いお芝居でありました。
 また、己の存在によって生まれてしまった罪業を受け止めつつ、精一杯、コヨミが晴人を救おうとしている――ここで再び、生と死の境界である水辺において、晴人とコヨミが互いを世界に繋ぎ止める為の鎖の環であろうとしている――のは、最初のサバト後のリフレイン(と同時に二人の立場が逆)になりつつ、両者の関係性を強く示していて良かったところ。
 そう、最も身近な観客を喪った時、操真晴人は誰の為に“魔法使い”を演じればいい?
 「晴人だってわかってる筈。私は本当は死んでる。一度失った命は取り戻せない。ううん……取り戻しちゃいけないの」
 「……でも……だけど俺は……」
 「私は幸せだった。晴人が……輪島のおじさんが……凛子が……瞬平が……仁藤さんが……みんなが私を受け入れてくれた」
 「まだこれからだ。……これからも、俺達と一緒に……」
 「ありがとう、晴人」
 「……待って、待ってくれコヨミ!」
 「賢者の石をお願い……晴人が、最後の、希望……」
 だから人形のコヨミは、願い、祈り、告げる。
 一つの舞台は終わった。
 けれど、世界は“希望”をもたらす魔法使いを必要とし続けているのだと。
 直接的な責任は無いものの、大量殺人の遠因となったコヨミに関してはサバト事件の巡る因果として片を付けつつ、作品としてのキーワードがひたすら使い切られ、実質的なダブルメインライター体制で進んできた今作、終盤に入ってどうも、両者の間にあるズレが、きだウィザードと香村ウィザードを生み出すような状況になっていましたが、きだウィザードはいうなれば、公のヒーローのつもりだった主人公が仮面を引きはがされて空洞になった後、私の暴走を挟んで、再び公のヒーローとなる理由を与えられて甦る物語になったのかな、と。
 で、香村ウィザードの方は、主演の仮面を引きはがされた時に、誰かに与えられた舞台ではなく、“自分自身の舞台”を既に手に入れていたと気付く事で、私ー公を結びつける物語、とでもいいましょうか(その為に熊谷回では、本編より一足早いIFとして、晴人と白い魔法使いの同質化を描く必要があったのかなと)。
 使っている基本要素は一緒ですし、“最も身近な観客”としてのコヨミの存在は共通しているのですが(ここはコヨミの位置づけとして、両者が互いの脚本を拾った感じであり)、最終的に辿り着いた場所には両ライター(そして担当監督)の“ウィザードというヒーロー”観の微妙な違いが生じているように思え、ただ作品としては良くも悪くも、その双方を映像化してしまい、すり合わせるよりもどちらも形にする事を選んだ感じに。
 約束は時に人を縛って呪い、時に人を明日へと救う――それもまた繋がる環の裏と表であり、晴人の腕の中でコヨミが消失すると、朽ち果てたブランコが背後に映っているのが印象的で、遺されたエンゲージの指輪を拾い上げた晴人が絶叫して、つづく。
 次回――白Pがここまでやった後だと、ラスボスとしてのハッタリが弱そうで心配だったグレムリンが、それなりに風格を出すモデルチェンジをしてくれるようなのは良かった。
 あと、発言内容は真っ当なものの物語の展開の関係で感じ悪く描かれた山本さんが、予告に居たのでフォロー入ってくれそうなのも、一安心。
 前回、物語の心臓部分に大きな穴が空く大失点はありましたが、前半からかなり好きだった事もあり、やはり嫌いにはなれない今作……果たして、今を生きる魔法使いは、絶望を希望に変えられるのか――。
 Life is SHOW TIME.
 そこに君が居なくても、舞台の幕は再び上がる。