東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

未来 約束を果たす場所

仮面ライダー剣』劇場版感想

◆『仮面ライダーブレイド MISSING ACE』◆ (監督:石田秀範 脚本:井上敏樹
 「全てのアンデッドは封印した! 残っているのはジョーカー! 君一人だ! ……俺は、できれば君とは戦いたくない!」
 「戦う事でしか、俺とおまえは語り合えない!」
 ブレイドとカリス/ジョーカーの雨中での壮絶な死闘の末、ブレイドの勝利によって全てのアンデッドが封印されてから、4年――IFエンドのその後を描く形での劇場版で、公開は、TV本編第32話(後半戦がスタートし、スカラベアンデッドが暗躍していた頃)の直前。
 石田監督が、本編17-18-19話(桐生編)を担当した後に劇場版に回る形になっているので、制作タイミングとしては、メインライター交代前ながら、井上敏樹會川昇がテコ入れに加わって、作品の立て直しでドタバタしていた頃でしょうか……?
 本編の組み立ての悪さから、土台となる素材の確固たる足場になるものが少ない事もあってか、『アギト』『龍騎』『ファイズ』と続いていた、「劇場版は物語としてパラレル」に加えて、(企画の後先はわかりませんが)本編から4年の歳月を経過させる事により、本編でも不安定な人格(剣崎)とか、本編でも立ち位置がコロコロ変わるキャラ(睦月)とか、本編でもあやふやな背景(ボード)とか、齟齬の生まれそうな箇所は全て4年の歳月の経過でねじ伏せていくスタイル。
 掴みの死闘から時間経過を挟んで、珍妙な占いシーンの後、街を襲撃するイカアンデッドに立ち向かうのは、3人の男女が携帯型のバックルから展開するベルトを用いて変身した、黄・緑・赤、のエースの戦士。
 側頭部や胴体に、エースの意匠を取りこんだデザインがスマートで格好良く、3人はさっくりとイカアンデッドを封印する……。
 売れっ子作家となって有頂天で遊蕩の限りを尽くしていた虎太郎は、姉からの電話を受け、天音の誕生日を祝う為にかつての仲間達の元を訪ね歩き、高級車を乗り回して牛乳より高級ワインでしょ、と驕慢さを隠さない虎太郎に対して、清掃員の仕事をしている剣崎から一言。
 「おまえしばらく見ない内に……やな奴になったな」
 ……剣崎は割とまあ、「じゃあ言うぞ! 天音ちゃんにおまえがライダーだって! そして何度も俺と戦っていると!」な頃の剣崎だった。
 睦月は就職活動の真っ最中で、自身の過去への忌避感から剣崎らと距離を取ろうとしていたが、そんな心情お構い無しに、しつこく声をかけようとするのが、やはり剣崎。
 「俺、変わりたいんです。……いえ……変わったんです」
 「あいつ、しばらく見ない内に、やな奴になったなぁ……」
 去って行く睦月に向けて、今度は虎太郎に言わせるのが、巧い。
 広瀬は結婚を控えており、橘は行方不明……月日の流れを象徴する、平凡な日常への帰還が描かれ、普通に撮っても面白くならないという判断だったのか、概ね過剰にデコレートされた結果、平凡な日常……? とはなりましたが、飽きさせない為の画作りとしては、わかる範囲。
 剣崎は、今の平穏を大切だとは思いながらも、かつての戦いの日々を懐かしみ、剣崎にとって、仮面ライダーとして戦っていた頃=「青春の輝き」と置かれ、アンデッド野郎どもを撃ち殺すだけで金の貰えた時代は良かったぜ……!
 虎太郎も環境の変化への戸惑いを告白していると、カテゴリーキング率いるアンデッド軍団が出現し、ひのきの棒で殴りかかる剣崎が軽く叩きのめされると、そこに黄緑赤のエース達が到着。
 「「「変身!!!!」」」
 「仮面ライダー?!」
 剣崎の、人を守る為に戦う意思を示しつつ、アンデッド大盤振る舞いでの大乱戦となり、エースのライダーたちが次々とアンデッドを封印すると、事情を聞こうとした剣崎は邪険に扱われて後日――天音の誕生日に姿を見せた睦月は先日の態度を謝罪すると、社会復帰が上手くいっていないことを明かし、完全に、戦場のPTSDに苦しむ退役兵のような扱いだった。
 そこに続けてエーストリオが現れ……虎太郎、なぜ君は、天音の誕生パーティにこのメンバーを呼んだのだ(笑)
 感じ悪いエースたちに剣崎が喧嘩腰で突っかかり、
 「おまえらいい加減にしろよ! 俺達は先輩だぞ、もっと尊敬しろ尊敬」
 から迸る初期剣崎感(笑)
 エースの3人は、先の戦いの現場で剣崎が拾ったアンデッドカードを回収すると帰って行き、誕生会そっちのけでそれを追う、ネオぽんこつトリオ(剣虎睦)。
 一方、中学生?になった天音ちゃんはなんだか荒んでいてデパートで万引き騒ぎを引き起こし、ストレートにやると感じが悪すぎるからかドタバタギャグになっていき、井上脚本はこういうところ緩めではありますが、れっきとした犯罪行為である以上、ギャグに逃げない方が良いとは思うし、逃げるぐらいなら他の見せ方を選んでほしかったところではあり。
 天音の行状を知らず、エーストリオを追ってその拠点に辿り着いた剣崎たちを待ち受けていたのは、役立た……じゃなかった、橘さん。
 「アンデッドが一体残っていたんだ。……もう一体のジョーカーがな」
 橘は、烏丸と共にカードを封印しようとしたところに“もう一体のジョーカー”の襲撃を受け、半分以上のカードが奪われて封印を解かれてしまった事を語り……この時点では全て頭から信用しきれない証言ですが、烏丸所長、劇場版で殺害された(笑)
 要素としては本編序盤の謎の文言「ダブルジョーカー」を拾った形と思われ、奪われたカードの中にスペードやクラブのエースも在った為にブレイドレンゲルのライダーシステムは使えない事から、新たなライダーシステムによってアンデッドと戦っているのが、3人のエース達。
 「よろしく。そしてさよなら」
 「いい加減にしろよ」
 劇場版の憎まれ役であり、態度悪い若者として基本的に感じ悪く描かれるエーストリオですが、終始、剣崎も同じぐらい感じ悪くて凄い。
 無事に天音ちゃんが逮捕されてぽんこつトリオは警察へと急ぎ、《平成ライダー》警察にご厄介の歴史が、まさか劇場版で本編の子役ヒロインに飛び火するとは。
 剣崎は何故か自信満々で天音ちゃんの心を開く役を買って出ると、天音が始の失踪を引きずっている事が明らかになり……まあみんな色々と大変だったろうとはいえ、誰も、天音へのフォローに気が回っていなかった……!
 「あの女が封印を解く鍵か」
 「そうだ。ジョーカーが狙っている女だ」
 アンデッド語に字幕が入ると、何故かアンデッドに狙われる天音だが、ボード(なの……?)では、凄そうなアンデッドサーチャーでこれを感知し……それにつけても橘さんは何故、我が師は伊坂、みたいなキャラ作りをしているのでしょうか(笑)
 エースの3人がバイクで駆けつけ、本編の主人公らが、変身できない・現状をよくわかっていない、で進行していくので、劇場版ライダーであるエーストリオのアクションは、とにかく強くて格好良く見せていく作り。
 しかしG軍団の出現は留まる事を知らず、追われ続ける剣崎と天音を救ったのは、こっちから戦場の匂いがするぜ……と駆けつけた睦月。ジャンピングアタックから素手のパンチでG軍団を蹴散らしていき、まあ確かにこれはなかなか、社会復帰が難しいかもしれません!(あと彼女にはフられたの?!)
 クラブのエース蜘蛛の奇襲から身を挺して天音をかばった剣崎がヒーローポイントを稼ぐと、バイクでアンデッドを轢いて復活のイニシエーションを果たしたのは、謎のキャラ作りに浸り続けるブラック橘さん。
 ……この人、割と真剣に、再び全てのアンデッドを倒すまで、俺はこの黒を背負い続ける! とか思っていそうなのがちょっと困ります。
 橘は自分だけギャレンに変身し……でも、ギャレンだからな……と思っていたらジャックフォームを発動すると、フライング小夜子ーーーゼロインパクトで蜘蛛アンデッド――クラブのエースを封印すると、ベルトと共に睦月へとパス。
 …………あれ、そのベルト、思い切り呪いのベルトだったような……?
 ……まあ、IF未来なので、呪いは既に解かれているという事なのでしょうが、多分。
 睦月は4年の歳月を超えてレンゲルへと変身すると、やはり硝煙の匂いが最高だなァとアンデッド軍団を蹴散らしていって、開始約30分で、本編ライダーも次々と登場する趣向。
 スペードのエースっぽいカブト虫アンデッドは逃走し、剣崎たちは橘から色々と追加説明を受ける事になって、どうしてこの施設の合成音声、いちいち重々しすぎる上に、なにを言っているのかわからないんですか橘さん?!
 厳重に閉ざされた施設の一室へと向かった剣崎らを待ち受けていたのは、溶液に浸けられた脳だけの姿で特別顧問を務める烏丸所長……ではなく、谷川連峰で発見された超古代のレリーフ
 ジョーカーが狙っているのはバトルファイトの勝者に与えられる古代の力であり、その鍵となるのは、4枚のキングが揃った時に生み出される、新たなカード。現状、2枚が封印され、2枚はアンデッドのままであり、協力を申し出るも後輩たちから拒絶を受けた剣崎は、睦月を戦力にした仲良しトライアングルで独自に戦うぜ、とポンコツーズの結成を宣言。
 パラレルとしても本編真っ最中に見たら、何これ、と思ったかもしれないIF未来な劇場版ですが、「戦場を離れたかつての主人公(ら)が、舞い戻った戦いの舞台で粋がった後輩(ら)と衝突する」わかりやすい構図を物語の軸に組み込んでいる事で、間を置いてから単独の作品として見た場合には、割と掴みやすい作品にはなっているな、と思うところ。
 ……まあ尺の問題などもあって、なんかいい感じの友情とか信頼関係とかは特に生まれないのですが!
 結婚目前の広瀬にはスカウトを拒絶される剣崎だが、アンデッドサーチャーのプログラムを託され……この人もこの人で、使い道は特に無いとはいえ、コピーしたデータをずっと隠し持っていたぞ(笑)
 見方によってはこれは、平凡で穏やかな日常と、命がけの過去の間の埋められない揺らぎでありますが、部屋に引きこもる天音は突如として引きはがされたその過去に囚われており……辛い、始さんアルバム、辛い。
 「始さん、私のこと守るとか言っといて、なにも言わずに、突然居なくなって……」
 天音がヒロイン力を着々とチャージしていく中、新生ポンコツトリオ(剣崎-睦月-虎太郎の組み合わせが本編とかけ離れているのは、微妙に独特の面白さが生じており)は、虎太郎の成金ルームを拠点として対アンデッドの自警団活動を始め、逃走を繰り返していた割には、さっくりレンゲルに封印されるスペードエースなカブト虫アンデッド。
 一足遅れでやってきたエーストリオが腹いせにレンゲルを殴り始めると、剣崎は封印されたばかりのエースのカードを手にやむなく変身し…………あ、あれ? そのバックルは、私物扱いなの……?(笑)
 成り行きから考えると橘さんがこっそり宅配便で贈ってくれたシーンがカットされたとかあったのかもですが、お陰で、満を持してのブレイド復活シーンが、凄く、盗品か横領みたいな空気に。
 黄エースがブレイドに殴りかかってしばらくライダー同士のバトルとなるが、二人はいきなり走ってきたクワガタキングアンデッド(後の、出来るクワガタアンデッド……?)の襲撃を受け、更にトカゲアンデッドも乱入。ブレイドは4年ぶりの電光ライダーキックでトカゲを倒し、エース黄もクワガタキングを倒し、残るキングのカードはあと1枚……。
 そう! 俺はこの日の為に、サングラスに黒ずくめでキャラ作りをしていたのだ!
 と、5人揃ったところで戦隊やろうぜー、俺、長官~、と言い出す橘さんだったが、部下の反応は大変悪かった。
 反発を強めるエース緑は、外出中に最後のカテゴリーキングに襲われると辛くも封印に成功するが、直後に不気味な霧が立ちこめ、姿を見せる白いジョーカー。キングのカードを拠点まで持ち替えるも緑の男はそこで事切れると、より強い力を求める赤の女はカードをすり替えるが、その女も何者かによって殺害されるとキングのカードを奪われ、激しい雨の打ち付ける中、事態は連続殺人事件に発展。
 ……それもこれも、橘さんが、急に戦隊やりたいとか言い出すから……!
 同時上映は『特捜戦隊デカレンジャー フルブラスト・アクション』ですよ!!
 俺たち3人の相性バッチリだから、剣崎なんて要らないんですよ!!
 果たして、霧に包まれたジョーカーの正体は誰なのか……被害者が握っていたJと4のカードに何か意味があるのでは、と考える剣崎だが、深まるばかりの謎でミステリアスな空気が加わると、再びG軍団の襲撃を受ける天音を守り、シンボルで前方の敵を蹴散らしながら変身する一工夫。
 残されたカードについて虎太郎から質問を受けた広瀬は何かに思い当たると、結婚式を投げ出して走り出し……衣装変えも多く、なんだか、TV本編より遙かにスポットが当たっています(笑)
 (※TV本編の方でも、30話台から広瀬さんの扱いが良くなってはいきますが)
 ギャレンレンゲル、黄エースも合流してG軍団との戦いになると、途中で天音を戦場から引き離した橘は、天音こそがレリーフから古代の力を引き出す鍵なのだと妙に胡散臭い雰囲気で説明するが、結局ジョーカーの正体は黄エースと判明し、
 〔何故かずっとサングラス・何故かずっと黒ずくめ・何故かずっと角度をつけて喋る・何故か剣崎らとまともな意思疎通を取らない・何故かギャレンが強い〕
 ……と繰り返されてきた、橘さんの怪しいムーヴの数々は一体なんだったの?!(笑)
 存在そのものがミスディレクションだった橘さん、おかしなキャラ作りは全て、4年の間に色々あったに違いない、と時間経過に丸投げして処理するスタイルで、まあ、烏丸所長の死亡もあり、かつての戦いで傷ついた剣崎や睦月をこれ以上巻き込みたくなかった……などは補える範囲でありますが、やたらめったら巨大な拠点を構えて堂々と活動している疑わしさの無視や、ジョーカーが人間に化けている可能性の示唆に触れるのが中盤以降と遅かったりと、途中から強調してきたミステリー的な要素に関しては、かなり雑な扱い。
 ……なお井上敏樹はTV本編の後半で、「何かが誰かに化けている」アイデアを軸にした一編を書いていますが、もしかするとこの劇場版で擬態アイデアが使い切れなかった心残りはあったのかもしれません。
 白ジョーカーだと判明した黄エースとG軍団の包囲攻撃に天音が絶体絶命に陥ったその時、黄エースの落としたジョーカーのカードをレンゲルがリモートで解放すると、復活したカリスが天音の窮地を救うのは、溜めに溜めた期待に応えて、問答無用で格好いいシーン。
 「この子に……近づくな!」
 悲しい運命の選択であったジョーカー封印を、割と軽くひっくり返してしまっている問題はありますが、ちゃんと、“ヒーローが約束を守るシーン”になっているのは、痺れます。
 一方、フュージョンジャックしたブレイドは、飛び上がった黄エースの更に頭上を取った攻撃で切り刻むが、黄エースは炎の中で白ジョーカーとなって逃走。気絶した天音を救い、人間の姿を取った始の不意をついて背後から攻撃すると天音をさらい、4枚のキングの力が発現すると、天音はカードの中に吸い込まれてしまう!
 天音救出に急ぐ4ライダーの姿でバイクのシーンが確保され、白ジョーカーは一足先にレリーフへと天音カードを生贄に捧げる事で古代の力を得ると、RPGのボスキャラめいた姿の巨大な怪物、スーパーウルトラアルティメットチャンピオンジョーカー大首領へと変貌。
 スーパーウルトラジョーカーは圧倒的な力を振るい、始と剣崎はレリーフの元へと向かうと、人間の命を求める生贄のカードの性質を利用し、天音と剣崎が入れ替わったところで剣崎を刺し殺す事で、ジョーカー大首領を弱体化させる作戦を始が立案。勿論、剣崎が呑み込まれかけたところで始が入れ替わり、自らの命を持って天音を救った始は、更に剣崎に殺される事で、もう一人のジョーカーを倒す世界の生贄になろうとする。
 「早くしろ! 人間を守るのが、おまえの仕事じゃなかったのか?!」
 本編最終盤でも使われた盛り上がるBGMで、始は剣崎を促し、冒頭を彷彿とさせる激しい雨の中、剣崎が始を貫く事で、生贄カードの力を失ったジョーカー首領は、大幅に弱体化。
 「戦うんだ、もう一度! 俺達の力で! 俺達と、始の力で!」
 画面上で決戦の雰囲気を出す為の、物凄い雨風を叩きつけられながら地面を転がっていた橘&睦月に剣崎が合流すると、3人は並んで変身し、
 〔フュージョン・ジャック〕
 〔フュージョン・ジャック〕
 〔フロート〕
 …………ふ、フロート…… が、ラストバトルのハイライト(笑)
 と、この流れで一人だけコモンカード?! みたいなのがどうしても面白く感じてしまいましたが、いただいたコメントによると、フロートはハート(カリス)カテゴリのカードとの事で、「俺達と、始の力」に繋げる意図もあったようで成る程。
 エンディングパートの天音ちゃんも含めて、「始を退場させる」のを前提とした上で、では「始が去った後に何を残すのか」――この時、始/カリスは根源的なヒーロー像そのものになっている――への意識がここにも読み取れる形に。
 3人の突撃から、ブレイドがエボリューション・キングすると白ジョーカーを一刀両断し、定番となっていた劇場版先行お披露目なのですが……本編の誕生エピソードが物凄く良かったので、そちらで見た方がお得感が高かったような気がしないでもなく。
 最終決戦に関しては、そもそも大雑把な「古代の力」を得て、それで白ジョーカーは何がしたいのか? がすっぽり抜け落ちているので、ただ凄く巨大で強いだけの空っぽな悪役になってしまい、カリスが復活して天音を助けたところが物語のテンションのピークとなって、話の盛り上がりだけ考えるなら、そのまま白ジョーカーを倒してしまうのが一番盛り上がっただろうなとは(笑)
 ただ、始/ジョーカーをそのままにしておくわけにはいかず、かといってブレイドとの戦いを繰り返してもくどいしで、最終決戦そのものが「如何に始を退場させるか」のギミックなのですが、「1時間15分程度の映画で最終回を2回入れる」事そのものに無理が出てしまい、音楽と雨風の勢いで押し切ろうとした感じの作りにならざるをえなかった印象。
 ……まあ、どだい企画そのもののハードルが高い夏の劇場版ではあり、それを、帰還兵物みたいな文脈を取り込んでどうにか成立させていたのは、技であったと思います。
 後、あくまで天音と始が意識のある状態で出会わない事を貫いたのは、美しさであったなと。
 その天音は、アンデッドに襲われて気を失っていた間、始に守られていた気がすると、果たされた約束により過去の傷を乗り越える事で少女の一回りの成長が描かれると共に、“始は死ぬが、その人間への想いは、天音を通じて生き続ける”継承が描かれ、改めて開かれた天音の誕生パーティーで、大人たちがどんちゃん騒ぎを繰り広げて――幕。
 本編のキャラクターがしっかりしていない&本編の先がまだ見えない&本編のメインライターが交代しそう(ちなみに會川昇によると、後半で中心になるにあたって日笠Pにまず頼まれたのは「ヒューマンアンデッドをなんとか位置づけてほしい」だったとの事)、な状況で作った劇場版としては、なんとかここまで形にした……といった印象になりますが、同時に、BGMの関係で本編の最終回が見たくなる劇場版でありました(笑)
 順序は逆ですが、どうしても本編の最終回を思い出すので……劇中で、カメオ出演生演奏? みたいなシーンもありましたが、改めてあの切ないメロディはTV最終回にはまったなと……また、この劇場版で用いた要素を幾つか、本編の方に組み込んでいたのだなと確認できたのは、見て良かったです。

※2/20追記
 見終えた直後の今作、総評としては上記した「どうにかこうにか形にした」印象が強かったのですが、いただいたコメントから、
 「フロート=ハートのカード」であり「今井ブレイドの決着」という視点を加えた時、
 ああ今作は、ジョーカーであった「始を退場させる為の物語ではある」が、同時に「去りゆく始が遺したもの」を描く事によって、「始をヒーローにする物語」でもあったのだなと。
 天音ちゃんと始の関係性が“寄り添い、去って行き、そしてまた助けに現れるもの”と描かれるミクロスケールと、もう一人のジョーカーに対して世界の生贄となり悪神を鎮めるマクロスケールとが重ね合わせられながら、パーソナルなヒーロー(の魂は天音に継承される)と、パブリックなヒーロー(の精神は剣崎らが背負っていく)の二つの性質と共に、一種の“祀り”の構造を通し――祟り神としてのジョーカーをもう一人のジョーカーに象徴させる事によって――ジョーカー転じた相川始に祀られた神の属性が与えられる事で、前半戦のブレイドに対して、「暴力の化身として生まれ、人と繋がり、そして去りゆく始が、一人のヒーローになる」決着がつけられ……これは、凄く、井上敏樹らしい話法と目配り。
 ここでは恐らく、ミクロスケールのヒーロー性の方が重要なのですが、始は世界から去って行くが、寄り添い、やがて忘れられるかもしれないが常にどこかから見守っている者、として天音と共にあり続ける着地は、自分の中でストンと収まる所に収まって腑に落ち、塩谷さん、Gimmickさん、ありがとうございました!