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ろんげのトリコ

仮面ライダーウィザード』感想・第35話

◆第35話「空の向こう側」◆ (監督:舞原賢三 脚本:きだつよし)
 「いいのかい……? ファントムなんか、助けちゃって」
 「……わかんねぇよ……俺にも。なんとなく放っておけなかっただけだ」
 アルゴスに切られて湖に落ちたソラを拾った晴人さん、一線は引いた警戒のポーズなのでしょうが、焚き火を挟んでそっぽを向いているのが微妙に、格好つけているように見えて困ります。
 ソラが妙にこだわる帽子を探して一緒に湖をさらっている間に、株式会社ワイズマンがファントム増やしにこだわっているのは、本来は日食の日にしか起こせないサバトを、増員したファントムの魔力を用いて強引に行おうとしている為だと遂に明らかになり……そのプロジェクトを発足して以降、ファントム、減っている一方なのでは(笑)
 どう考えても上場廃止に向けて負の連鎖に陥っている株式会社ワイズマンですが、怒りを見せる晴人に対し、ソラはコヨミの存在にも言及。
 「コヨミは人形じゃない。人間だ! コヨミはファントムを生んで、抜け殻になったゲートなんだ!」
 「……それは変だね」
 「え?」
 「ファントムを生み出して、体が残るなんてありえないよ」
 コヨミの特異性――不自然さがソラの口から指摘され、サバト当時、事情を全く把握できていない晴人の解釈としては何も間違っていないのですが、コヨミを抱えて運んできたのが白い魔法使いなのが、胡散臭さのワゴンセール状態。
 「これからもファントムとして、人を襲うのか?」
 「だから、ファントムじゃないってば。僕はソラ。今も昔も、そしてこれからもね」
 帽子を諦めたソラは、情報提供はレスキューのお礼と告げると晴人に背中を向け、端から聞いていると、明らかにだいぶヤバい事を言っているのですが、当事者性と、「ファントムこそが人間を襲う邪悪」という先入観ゆえに、晴人が思考を順序立てて整理できていないのは、やむをえない範囲ではありましょうか。
 ミステリ的には、ソラのこの台詞を数話前に言わせておいて、真相が判明した時に、そういえばあれは……となると美しかったですが、特撮TVシリーズとしては、ロングスパンの迂遠な伏線にするのは、避けた感じに。
 一方、繰り返しファントムに襲われながらも仕事にこだわるゲート・千明の撮影中に、再びアルゴスが出現し、目玉使い魔の小道具は、前回今回と面白くなりました。
 「撮り直すなら、俺に任せろ」
 壁になったマネージャーさんが宙を舞った後、乗り気で無いがビースト参上。
 「さあ、仕事の時間だ」
 態度と表情ばかりでなく台詞回しでも気が乗らないのをアピールするのは上手く、アルゴスにイルカ曲芸ストライクをぶつけるビーストだったが押し切れず、乱数は今日も残酷。
 その間に、物陰に隠れていた千明にソラが近づくと、親切めかして連れ去ってしまい、気を取られている内にアルゴスビームで吹き飛ばされて地面を転がるビースト……ビースト……(涙)
 ソラの真意を掴もうとする晴人は滝川・空のアパートを訪れ、そこに人間としての生活の痕跡を確かに見るが、凛子と木崎から緊急の連絡を受けて向かった国安0課で、恐るべき真相を突きつけられる。
 「まさか……奴はファントムんなる前から……人を襲ってたって事か」
 前回の木崎の動きを伏線とした警察の追跡捜査により、滝川・空の周囲で多数の行方不明者が出ている事・そのいずれもが、長い黒髪の持ち主であり、失踪当日は白い服を着ていた事・そしてそれは、空がファントムとなる前から発生していた事――が明らかになり、前回今回の流れから、ある程度は読める展開を見越してか、カメラを逆側に回すと、ホワイトボード3面に並んだ失踪者の数が、なかなかに強烈。

 ――「僕はソラ。今も昔も、そしてこれからもね」

 滝川・ソラは、ファントムだから邪悪なのではなく、邪悪な人間の心を残したままファントムとなったのであり、助けを装って連れ去られた千明に迫る危機。
 「君が捨てられたように、僕も捨てられたんだ。……大切な人にね」
 千明が仕事にこだわるのは、失踪した父に自分の存在を伝えたいからだと明らかになると同時に、滝川・空が恋人(?)に捨てられたのをきっかけに、狂気を秘めた殺人者へと変貌した事が示唆され、かなり際どいシリアルキラーの投入ですが、寓意としては、大切な人に捨てられて絶望したその時に、滝川・空の心はファントムになっていたといえるのかもしれません。
 2010年代前半の《平成ライダー》は、10年を越えた《平成ライダー》がどこへ進んでいくのか? に際して、シリーズ従来作への意識を強く持ちながら「仮面ライダーとは何か?」を改めて組み立てようとしている印象が強く――これが10年代中盤以降になると、良くも悪くもメタ前提に変わっていく事に――、今作の場合、改造人間テーゼへのストレートな本歌取りを行いながら、ファントムの描写には“相容れない人外”として『クウガ』のグロンギを思わせるところが多分にあったのですが、その寓意的表現を越えて、ここで人間の抱える怪物(怪人)性をハッキリと押し出してくるのは、『アギト』『龍騎』辺りのアプローチへの視線を感じるところ。
 そしてそれは今作における、設定とはまた別の、「ファントムはどこから来たのか?」への一つの回答なのかもしれないな、と。
 「けど僕は……捨てられたりしない。捨てるのは――僕の方だ」
 人中の邪悪であったソラは、自分を捨てた存在の象徴として、白い服と長い黒髪の取り合わせに異常な殺意を燃やすと千明の黒髪にバッサリとハサミを入れ、露わになるその歪んだ執着。
 「……丁度いい! 死の恐怖で絶望してよ。それでファントム生まれれば、一石二鳥だからさァははハはハは! アははハハ! フははは」
 狂気を宿した瞳で千明に迫るソラだが、そこに二人の魔法使いが駆けつけて窮地を救い、更にアルゴス闖入。
 マネージャーから千明の抱える事情を聞いていた仁藤は千明の手を引いて先に逃げ、ここでやる気を取り戻した男の顔になる仁藤は大変格好良く、挽回のチャンスがあってホッとしました(笑)
 「千明ちゃんがお父さんと会えるまで、俺が絶対に守り抜く」
 ……なんというか、ビーストにはともかく、仁藤には配慮があるな、と(笑)
 気っ風が良く、感情表現がストレートなので描きやすい、というのはあるのでしょうが、晴人が「格好悪さを隠そうとするタイプ(時々、女性の前で弱音を吐く(笑))」なのに対して、仁藤が「格好悪さを格好良さに変えるタイプ」として、ダブルライダーのヒーロー像を配置しているのは、上手い組み合わせになっています。
 アルゴスと対峙しての台詞が、
 「さあ、仕事の時間だ!」
 まんまなのは、ん? となりましたが。
 ……むしろ「食事」「ランチタイム」の方が、仁藤らしい“本気”に聞こえたかなと思うのですが、これ自体が魔法使いとしての仁藤のスタンス変化という事なのかどうなのか。
 そして、改めてソラと向かい合う晴人。
 「全ては自分であの子を手にかける為か」
 「……ふふっ、僕のこと、ようやくわかってくれたんだ」
 は、特に隠していたわけではないが、誤解は放置していたソラらしくて好きな台詞。
 「人の命を弄んで……おまえは絶対許さない」
 「今の僕は人じゃない。君と同じで」
 「俺は違う!」
 「そう。君とは仲良くできると思ったのに」
 「…………悪いが断る」
 赤ザードとグレムリンがぶつかり合う一方、本気のビーストはハイパー化から百目ファンネルを連続射撃で撃ち落とし、大口ブラスターでごっつぁんです。
 ソラの隠しサロンを舞台美術のように背景に使いながら、グレムリンと剣を打ち合わせるウィザードはインフィニティすると、太腿に溜まったマジカルパワーによる高速移動でグレムリンを凌駕し、筋肉こそ魔法の真理ぃぃぃと振り回した巨大アックスで叩っ切ろうとするが、それを回避したグレムリンは、あっさり撤収を選択。
 「次は僕が、“賢者の石”を手に入れた時に」
 きっちりと意味ありげな単語を伝えて両陣営に嫌がらせを行ってグレムリンは姿を消し、後日、面影堂では千明がショートカットを披露。
 付き人もとい瞬平への対応も柔らかくなると、失踪していた父親からは手紙が届き、海外からの仕事のオファーも舞い込んで、ひとまず一件落着。
 一方、ソラを助けた湖のほとりで反省していた晴人は凛子に励まされ、そこにコヨミがやってくるが……果たしてコヨミは本当に、ファントムを生んで抜け殻となったゲートなのか? 晴人の心に忍び込んだ隙間風のように寒風が鳴り、映像は明るいが効果音の暗いトーンが何かの予兆のように響いて、つづく。
 これまで、他のファントムとは一線を画す人間心理への理解度を示していたソラは、実は人間の心をそのまま残していたが、しかしその心は歪んだ連続殺人鬼のものだった……と衝撃の正体が明かされる事となった前後編、ソラの正体にはインパクトがありましたし、これまでの言行からも説得力はあったのですが、そのソラを特に葛藤なくウィザードがぶった切りに行ったのは、物足りなかったところ。
 まあ本人から「今の僕は人じゃない」と自己申告させてはいるのですが、劇中に人間の連続殺人鬼を登場させてまでソラに「人の心」を持たせたのならば、
 “これまでと異質の敵に晴人がどう向き合うのか”
 を描くところまでやってこそだと思ったのですが、一度は、ソラの自称する「人の心」に判断を迷わせた晴人が、その「人の心」が殺人鬼のものだと知ると「おまえは絶対許さない」の実行に至るのは割り切りが飛躍しすぎて、「連続殺人鬼がファントムになっていたのをいい事にヒーローが私刑を行う」ような構図になってしまったのは、だいぶ引っかかりました。
 人間である事に留まろうとする晴人と、人間である事に頓着しないソラとの間にある明確な一線を「俺は違う!」で宣言したとはいえるのですが、たとえそれが斬るべき邪悪であり、最終的な行動は同じだとしても、
 “魔法使いが「人の心」を斬っていいのか”
 について最低限の時間は割いて、晴人の葛藤と選択は描いて欲しかったなと(これはまあ私の、よく気にするポイントでありますが)。
 合わせて、器はファントムでも心は人であり、少なくとも人間の時点から罪を犯している存在の始末を、これといった問答の無いまま木崎と凛子がウィザードに放り投げたような構図になってしまったのも引っかかったところで、少なくとも折角出てきた木崎さんが現場に立ち合おうとするくだりはなんとかねじ込んでほしかったなと(木崎にしろ凛子にしろ、そういう責任を他者に押しつけたくないし、任せざるをえない事が歯がゆいタイプなわけですし)。
 実際に現場で役に立つ訳ではない、など色々ややこしくなるので、仁藤からの緊急連絡という筋立てを利用して故意にスキップした雰囲気もありましたが、こうなると以後、ソラの存在はファントムとして割り切った扱いをされそうですし、「もはや怪物」と断じる一歩手前で、晴人や凛子が「人の罪」「人の邪悪」と向き合った上で決断する流れは、欲しかった場面です。
 そうでないと、ソラの「人の心」がワイズマン側を引っかき回してウィザード側に都合良く情報を流すギミックとしての面が大きくなりすぎてしまうので、もう一歩、操真晴人というヒーローの掘り下げに踏み込んで使って欲しかったな、と。
 次回――とうとう、魔法使いとワイズマンご対面。そして……クビ? それから、「ゲートの方が犯罪者?」でお届けします。