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長石多可男の帰還

超力戦隊オーレンジャー』感想・第31-32話

◆第31話「宅配ダイエット」◆ (監督:東條昭平 脚本:上原正三
 上原大先生が3連投となり、見所は、肉屋の店員に右ストレートを叩き込む斉藤暁さん(笑)
 バラノイア新開発の液状金属で作り出されたバラジャグチがお披露目され、冒頭から「戻って参りました」「あの時の……」と意味不明なやり取りがかわされるので確認してみたところ、劇場版に登場した怪人の再利用の模様。
 飽食に明け暮れる人間どもに一泡吹かせるのだ、と地球に送り込まれたバラ蛇口は究極のダイエットドリンク・月の虹を営業して回り、怪人はハイテンションでコミカルに喋り倒す系(人間体と声を演じるのは、『ウインスペクター』のバイクル役だった篠田薫さん)の一方、作戦名は妙に詩的。
 「月の虹……月からの挑戦状というわけか」
 前世の恨みとランニング中の桃を強襲した事で、バラノイアと巷で噂のダイエットドリンクが繋がると、浄水設備の警備に向かうオーレンジャーだが空振り。しらみつぶしのローラー作戦を展開した結果、バラ蛇口が水道管を利用して自在に街中を動き回っている事が判明し、水道インフラへの攻撃は結構な脅威なのですが、地球人類がバラノイアの訪問営業を善意に受け取り始めていて困ります。
 水道管からバラ蛇口を追い出せ、と作戦が開始される一方、月の虹を飲んだ人々が食欲を押さえきれずに性格も凶暴になっていく様子が定番のホラー風演出で描かれ、すっかり暴徒と化した人々に襲われる、精肉店
 「弱肉強食……そうか! バラノイアの目的はこれだ!」
 ハングリー事件の被害者一家もこの狂乱に巻き込まれ、セミレギュラーという程ではないものの、以前のエピソードで登場したゲストを再登場させる手法は、今作のちょっと面白いアプローチ(バラデビル回の少年が、ボクシング回と剣玉回に出てきたり)。
 今作としてハッキリとした狙いがあるというよりは、そういった作劇が継続的に可能かの実験的アプローチにも見えますが、《スーパー戦隊》シリーズとしては実を結ばなかったものの、高寺P関係作品としては、後の『クウガ』に繋がっていく要素といえるかもしれません(余談ですが、この時期、ゲストの再登場・再々登場……を上手く使って作品世界の奥行きを広げる事に成功した特撮ヒーロー作品といえば、『ウルトラマンガイア』が光ります)。
 「おほほほほ! 遂に人間どもは野獣となり果てたわ」
 「あのダイエットドリンクを飲み続ければ、物事を知的に考えられなくなり、ただ食うだけの生き物になるのさ」
 バラノイアがすっかりご近所に忍び寄る悪の組織と化してきているが、地球を救えるのは君たちしか居ない! と、超力戦隊にドリンとリキも参加しての、水道管封鎖作戦スタート。
 誘導したバラ蛇口を排出するも液体ボディで逃げられかけるがキング先輩が先回りして主題歌バトルに突入し、今作がしばしば見せる、長回しでのノンストップバトルは好物です。
 バラ蛇口の水流攻撃に苦しめられるオーレンジャーだが、隊長が液体窒素のパイプに気付くと、ロープアクションからのパイプ破壊でバラ蛇口を凍らせ、トドメはビクトリーフラッシュ。
 巨大蛇口に対してはいきなりの無慈悲なバトルフォーメーションが発動し、
 「な、なんだこのデカいのは?!」
 と驚愕の言葉を遺し、巨大蛇口、巨大化から約一分(うち50秒はロボバンク)で、何もしないまま圧死(笑)
 「でも、どうしてうちにばっか来るのかしら……バラノイアのマシン獣」
 「うちは、日本一運の悪い家族かもしれないな、ははは……」
 「二度ある事は三度ある。負けないぞー!」
 被害一家はダイエットの為にランニングに励み、不吉な予言が為されて、つづく。

◆第32話「学校の怖い悪夢」◆ (監督:長石多可男 脚本:杉村升
 桃はこのところ、小学校時代の友達・真由美の出てくる悪夢を繰り返し見ており、うなされて跳ね起きると(隊服姿なので、基地の仮眠室……?)、枕元に「LE GRAND BLEU」のポスターが貼ってあるのがとても長石多可男……そう、長石多可男監督、『地球戦隊ファイブマン』第46話以来、5年ぶりの《スーパー戦隊》シリーズ帰還!
 どうしてもこの夢が気になって仕方がない桃は休暇を申請するが、あらやだ丸尾さん、そんな理由で休暇を取るだなんて隊の規律を乱すんじゃありませんこと? と裕司と昌平から否定的な視線を向けられ、休暇一つも自由に取れない、それが地球防衛の為のジャスティス。
 だが桃は、真由美が助けを求めている気がしてならない、と譲らず、11年前――桃が都会に転校した後に真由美が不可解な失踪を遂げており、その後も1年に一人程度のペースで地元では女子児童の行方不明事件が起きていると事情を聞いた三浦は調査任務としての帰郷を承認。
 どうにもおぞましい臭気の漂う背景から、桃の回想により情感たっぷりなあの夏の日々が描かれるのは、いきなり凄く長石多可男です。
 真由美母から話を聞いた後、小学校を訪れた桃は不気味な覆面男(演:岡本美登さんなのも、監督の復帰合わせでありましょうか)の襲撃を受け、謎の電極を張り付けられて昏睡。覚めない眠りに落ちながら、学校の怪談モチーフの悪夢の中を彷徨う桃の前に現れたのは、一連の事件の犯人であると名乗る覆面男。
 「ここは俺の作りだした夢の世界。つまり本当は、おまえは今、眠っているというわけだ。俺の楽しみは誰にも邪魔させん。おまえはここで死ぬのだ」
 覆面男と行方不明になった少女たちは、直球で誘拐犯とその被害者であると明らかになり……「怪談」の形で語り伝えられているものが過去に起きた犯罪をモチーフにしている場合もあれば、ヒーロー作品の寓話性の中にそういった要素が存在している面はあるにしても、想起させる犯罪の性質が性質だけに、「犯人がマシン獣」ならそれでいいのか、と題材と内容の接続がストレートかつグロテスクになりすぎた印象。
 覆面男の正体は、かつてバッカスフンドに逆らって死刑にされそうになり、いちはやく地球に辿り着いていた流れ者、剥き出しの脳髄のような頭部を持ったマシン獣・バラナイトメア。
 肉切り包丁を手に迫るバラナイトメアの精神攻撃を受けて現実世界の桃が苦悶すると、参謀長の凄い科学力によって脳波を同調させた隊長らが悪夢の中へと突入する一方、悪夢の中を彷徨い続ける桃は、体操着姿の小学生女子たちがバスケットのゴールに向けてシュートを放ち続ける光景を目の当たりにし、
 「よくも俺の秘密の夢を見たな」
 と激怒するバラナイトメアへの、コメントに困ります……。
 剥き出しのグロテスクと、サイコ犯罪者vsヒーローの構図は、どちらかといえば後の《牙狼》シリーズを先取りしているみたいな事になっていますが。
 桃の窮地に駆けつけた隊長の超力ライザーが一閃すると夢の世界は崩壊し、桃は昏睡状態から回復。悪夢の中に登場した小学校へと急行すると、夢の中で見た通りに地下へと通じる階段が発見され、そこでは覚めない悪夢を見続ける少女たちが戸板に乗せて天井から吊り下げられているのが、物凄い狂気。
 「ナイトメア! よくも11年間も真由美ちゃんを苦しめてくれたわね! 許さない!」
 標本箱のように、誘拐した少女達の写真コレクションを抱えていたバラナイトメアと超力戦隊は激突し、幻覚攻撃に苦しめられる5人だが気合いの超力でそれを打ち破ると、超力ダイナマイトアタックが炸裂。
 「これで最後だ!」
 流れ者のナイトメアが巨大化されることないまま弾け飛ぶと、悪夢の時間は終わりを告げ……校舎の玄関に灯りが点ると、時間を止められていた少女達が名乗りながら次々と歩いて出てくるの……完全にホラーですよ!!
 解放された少女たちの笑顔と明るい音楽で無理矢理いいシーンみたいにしており、まあともかく確かに命は助かったのですが、脚本も演出もだいぶブッ飛んだ一本。
 真由美ちゃんは小4設定にしては随分と大人びた感じだと思っていたのですが、ラストシーンを見るに、桃と並べた時に身長差が出過ぎない――11年の差を感じさせすぎない――狙いがあったのかとは思われます。
 ……脚本時点でかなり過激だったのか、演出で色づけしている間にとんでもない事になってしまったのか、もしくは、脚本が現実に接近しすぎていたのでファンタジーを加えて距離を作ろうとしたら別の意味でホラーになってしまったのか……なんにせよ、はぐれマシン獣の行為が醜悪な犯罪行為をあまりにもダイレクトに想起させすぎて、ヒーローアクションの面白さよりも現実的なグロテスクさが勝ってしまう一本でした(これは見ている私が年齢を重ねているが故に、という面もあるでしょうが)。
 正直、題材の時点で考え直した方が良かったのでは、と思う内容でしたが、80年代戦隊の雄である長石監督の復帰に関係者一同テンションが上がりすぎてブレーキを見失ったりしていたのでしょうか……。
 次回――ピラミッドだけじゃ止まらない。