東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

傑作前後編

超力戦隊オーレンジャー』感想・第17-18話

◆第17話「強奪 変身ブレス」◆ (監督:辻野正人 脚本:杉村升
 今回予告だけ見ると、りんどう湖ファミリー牧場アクション回みたいに構成されているのが、嘘ではないが真実の全てでもない絶妙なさじ加減(笑)
 オーレンジャーロボの配備によりバラノイアの巨大円盤部隊に大打撃を与えた後、連戦連勝を重ねる国際空軍超力部隊――バラノイアの襲撃頻度も著しく下がり、隊長さえお菓子作りのテキストを読むなど警戒態勢に気の緩みの見える超力基地だが(新しい路線の開拓を目指してか、樹里だけ生真面目に筋トレをアピール)、パトロール中の裕司が、少年をさらおうとするバラノイア兵士を発見して追跡。
 ところが周到な罠にはまって高所に宙づりにされる危機に陥り、近づいてきたバラノイア兵士の仮面の下の素顔は、なんと白衣を着込んだ地球人。
 「バラノイアじゃなかったのか! 誰だ貴様!?」
 「私は悪の天才、ジニアス黒田」
 侵略組織と手を結ぼうとする悪人、というのは《スーパー戦隊》だと恐らく意外と少ないパターンなのですが、自ら矢面に立ってメンバーの一人に割とえげつない工作を仕掛けた上で、自分から「悪の天才」と言い出すのが、掴みで強烈なインパクト(笑)
 ジニアス黒田はレーザートーチで裕司の腕から超力ブレスを奪い取ると、直後に容赦なく高所から転落させ、今作の世界情勢でいえば、バラノイア戦闘員の扮装をしている時点で、問答無用で射殺されても文句は言えないわけですが、殺される覚悟があるって事は、殺す覚悟もあるって事だと、アバンタイトルから凄まじいキまり具合。
 裕司の落下していく映像がなかなかの迫力の後、ロケットパックを背負った白衣の男が画面真ん中を突っ切って上昇していく画にサブタイトルがかかるのも破壊力抜群で、辻野監督の演出もキレキレ。
 東映特撮への参加はそれほど多くありませんが、『オー』『メガ』『ギンガ』の3作だけで、辻野監督は、忘れがたい演出家の一人となっています。
 超力によって強化された肉体と、たまたま落下地点に積まれていた荷物により転落死を免れた裕司は隊長らと合流し、ブレス強奪犯の正体は、2年前に突如として姿を消した物理工学の世界的権威・黒田博士と判明。
 パワーブレスは素材の関係で新しく作る事ができず、「最近、黒田を、那須高原の、りんどう湖ファミリー牧場付近で見かけたという情報」を頼りに、オーレンジャー那須高原へと急行する。
 その頃、目撃情報通りに那須高原の自宅へ戻っていた黒田は、出迎えた息子・茂に対して、今し方、人ひとり死んでもいいやと扱ってきた事などおくびにも見せない子煩悩な父親の顔を向けるが、その裏ではバラノイアと接触を繰り返しており、超力ブレスと、地球征服後の日本の支配権の交換を要求。
 「私は、人間より君たちマシンの方が大好きなんだ」
 バラノイアを相手に一歩も引かぬ駆け引きを見せる、今作これまで存在しなかった、人間の顔を出した“悪”が異彩を放ち、演じる市川勇さんも実にいい味ですが、流れで見ると、『ダイレン』『カクレン』における変態怪人(人間体)路線の残り香も感じます。
 その現場を目撃した茂少年が父の悪事にショックで家を飛び出す一方、りんどう湖ファミリー牧場に到着したオーレンジャーは探知機を手に園内を駆け巡り、時にアトラクションに乗りながら超力ブレスの反応を探すタイアップ展開。
 ……そう、今回は、あくまでタイアップ回。
 裕司と樹里は、偶然見かけた茂少年から何故かブレスの反応を検知し、その映像データから即座に素性を割り出せる超力データベース。
 「樹里、その子は黒田の一人息子、茂くんだ。2年前、黒田と一緒に姿を消している」
 少年を追いかけた樹里と裕司は、変身不能の裕司を狙ってブルドントの放ったバラバキュームの襲撃を受け、生身での戦いを余儀なくされる裕司をかばって変身するイエローだが、戦闘のさなか、裕司がバキュームの体内へと吸い込まれてしまう。
 一時撤収した黄が隊長らと合流すると、偶然にも黒田親子を発見し、リモコンからビームが!(笑)
 《レスキューポリス》系の謎ビーム兵器を扱う父親を止める茂だが、そこにブルドント一行が姿を見せ、様相は三つ巴。
 「親を思う子供の気持ち。人間とはなかなか面白い生き物だねぇ」
 やり取りを聞いたブルドントがブレスを狙って茂を襲わせると、バキュームの銃弾を受けて負傷した茂は本人にも自覚の無いロボットであったと判明し、バラノイア兵(マシン)だと思ったら人間だったに始まって、人間だと思ったらマシンだったに繋がるのが、上手い仕掛け。
 ……上手い仕掛けなのですが、軽い悪夢のような展開を見せる、あくまでタイアップ回。
 「……パパ……僕の体、僕の体はどうなってるの?」
 「ふぅん、こいつはいいや! その子はロボットだったのか! ぬふふふはは!」
 悪に荷担する父親と、それを止めようとする心優しい少年の親子愛がテーマかと思われたエピソードは思わぬ悪夢的急旋回を見せ、気を失った茂の体内から転がり出る超力ブレス……の隠し場所がナチュラルに狂っているのが、さすがの杉村さん(笑)
 超力戦隊とバラノイアは、地面に落ちたブレスを巡って争奪戦に突入し、園内所狭しと観光タイアップしながらの大事なアイテムパス合戦は、シリーズでも史上屈指の規模でしょうか。
 「マシン獣! 俺を吸い込めるものなら吸い込んでみろ!」
 バラバキュームを挑発し、ゴーカートで突っ込んでいた隊長は、故意に吸い込まれる事で内部の裕司にブレスを渡し、揃って脱出に成功。OPインストと共に反撃のターンとなり、青の連続必殺技から一斉飛び蹴り、そしてジャイアントローラーで轢き殺し、オーレ!
 アチャコチャもゴーカートに乗りながらの砲丸投げで巨大化エネルギーが注入されると、初のロボ挿入歌をバックに巨大戦となり、王者のように気高く早くクラウンファイナルクラッシュ!(バキューム潰しのソード投げアクションが格好いい)
 かくして超力ブレスを取り戻し、バラバキュームを撃破するオーレンジャーだが黒田父子は姿を消し、観光タイアップ回の要点は押さえてアクションもたっぷり盛り込まれながら、一民間人による超力ブレス強奪に始まって、その息子のメカバレに至る飛び道具がエピソード中を乱舞する狂気溢れる展開で、大きな謎を残しながら、後編につづく。
 なお、今回の樹里の髪型は、一部横結びでした。

◆第18話「父の異常な愛情」◆ (監督:辻野正人 脚本:杉村升
 「茂、実はな……本物の茂は、2年前、交通事故で死んだんだ」
 自宅に戻った黒田は損傷した茂の回路を修復していき、今の茂が、息子の死を受け止められなかった黒田によって、茂の頭脳をコンピューターにインプットして作られた、瓜二つのロボットであると真実を告げる。
 「でも今じゃおまえのほうがずっと大切だよ。人間の茂はちょっと車にぶつかっただけで死んでしまったが、マシンのおまえは簡単には死なない。やりようによっては、人間の何百倍のパワーも持てるし、武器だって内蔵する事ができるんだ」
 茂くん衝撃のメカバレこそあったものの、それはそれでマシンにすがるしかなかった悲しい親子愛の物語かと思っていたら、既に黒田が完っ璧に狂っている事を鮮やかに示す、「人間の茂はちょっと車にぶつかっただけで死んでしまった」が、最高の切れ味。
 ナチュラルボーンマッドサイエンティストの描写は杉村さんの真骨頂ともいえる得意技ですが、東映ヒーロー作品における杉村脚本の中でも、随一といえる狂気の表現になったと思います。
 「バラノイアが地球へ攻めてきた時、これだと思った。連中はマシンだ。マシンこそ地球を支配するのにふさわしい」
 マシン茂の存在を正当化する為にバラノイアの侵略を肯定する黒田は、皇帝バッカスフンドに謁見。
 「息子も簡単に死んでしまった。そして私の妻も。人間は弱すぎるのだ……そんな弱い人間を作り出した神が私は憎い。そんな神を敬い、何も気付かない愚かな人間も憎い。地球上の人間全てを滅ぼし、マシンが、神に代わってこの地上を治めればいいのだ。わかるかな? この憎しみのパワーが」
 黒田が人だからこそ持つ憎しみのパワーをバッカスフンドに売り込む一方、那須高原に直接出向き、黒田の研究資料を調べていた参謀長により、茂くんの体内にはちゃっかり武器が内蔵済みだった事が判明。
 突如として現れた巨大な金属の蔦に襲われた昌平と桃が消息を絶ち、茂くんの元へ急いだオーレンジャーは外部からコントロールされたマシン茂の攻撃を受け、一つ手前で、なぜ黒田が大事な茂を残していったのか? に隊長が疑問を抱いているのが、展開がスムーズに繋がると同時に、隊長の頭脳の見せ方として秀逸。
 樹里もまた金属の蔦によって地中に引きずり込まれると茂も姿を消し、後を追って山腹の洞穴に飛び込んだ赤と青を待ち受けていたのは、バラノイアによる改造手術を受け、マシンと一体化したジニアス黒田。
 「ふははははは、来たなオーレンジャー、待っていたぞ」
 杉村脚本では以前にも、『ウインスペクター』『ソルブレイン』において、狂気の果てにマシン(コンピューター)と融合した人間が山場のエピソードで登場しましたが、周囲に複数の巨大な蔦を蠢かし(ケーブルからの連想か)、金色のザリガニめいた鋼鉄のボディから僅かに人間の顔だけを見せ、胴体には顔が鉄の仮面で覆われた茂を融合したマシン黒田の姿は、狂気の愛情が行き着いた先の悪夢的情景として、素晴らしい説得力になりました。
 「嬉しいだろう茂。私もようやくマシンになれた。これからは、いつも二人は一緒だからな」
 「バカな! どうかしてるぞ黒田!」
 黒田を止め、3人の仲間を救出しようとする赤青だが、目からは光線、口からは火焔を吐き出すマシン茂に阻まれ、絶体絶命。
 マシン黒田の繰り出す蔦に絡め取られ、人類に対して抱かれた、黒田の強烈な憎しみのパワーの前に全滅に寸前に陥ったその時、マシンでありながらも父を愛する心を持っていた茂にオーレンジャーの呼びかけが届くと、父からの自立に至ったマシン茂(涙をこぼすマスクのデザインは、どこか石ノ森ロボット風味)が攻撃を中止して父親を制止し、オーレンジャーを捕らえていた蔦をビームで切断。
 その様子を見ていたバッカスフンドは黒田を見限ると融合していたバラアイビーを分離し、切り捨てられながらも目からビームで反撃する黒田の根性が、凄い(笑)
 しかし黒田はアイビーの攻撃で炎に包まれ、最後に残った心で茂をオーレンジャーに託すと、愛を捨てればそれに根ざした憎しみもまた消え、だが愛があればマシンにはなりきれない、矛盾に満ちたマシンの――図らずも茂に対する“神”の――なり損ないとして爆発の中に消えるのであった……。
 茂を連れ、洞穴を脱出したオーレンジャーは5人揃って超力変身。
 主題歌を背負って山岳地帯でのバトルになり、バラアイビーの繰り出す巨大な蔦攻撃は、見栄えのするアクション。宙を舞う隊長がその蔦を切り裂くと、懐に飛び込んでの秘剣・超力ライザーで、うわぁたぁぁぁ!! から、足場が悪いので久々のビッグバンバスターでフィニッシュ。
 火球を放ち、地中から奇襲攻撃をかけてくる巨大バラアイビーは、カウンターの一撃からクラウンファイナルクラッシュで一刀両断して勝利を収めるオーレンジャーだったが、無理な融合と分離が祟ったのか、マシン茂の命もまた、失われつつあった。
 「お兄ちゃん……パパ、死んだんだね……?」
 「……茂くん」
 「いいんだ。僕も死ぬから」
 「なに言ってるんだ。人間はね、どんなに苦しくても、死ぬなんて思っちゃいけないんだ」
 「ごめんねお兄ちゃん。パパは悪い人だったけど、それでも僕好きだったんだ。吾郎さん、昌平さん、裕司さん、樹里さん、桃さん……ありがとう」
 「「……茂くん!!」」
 瞳を閉じた茂を前に口々にその名を叫ぶ5人だがその時、背後に姿を見せる黒服の男。
 「泣くなみんな。茂くんは、死んではいない。機能が一旦停止しただけだ」
 ……おい三浦ぁぁぁぁぁ!!
 自分は2年前に作られた身代わりのロボットであり、記憶の中の楽しかった思い出は全て移植された幻でしかない事を知りながら、それでも父親を愛していると言ったマシン茂の“心”を隊長がせめて人間として看取ろうとしたのに、あ、マシンは死なないから、と全てをバイク戦艦で挽き潰していき、息子を失った悲しみから狂ってしまった天才科学者の姿をたっぷり前後編で描いた末に、本当の“人の心が無い”とはこういう事だと、参謀長が全てをさらっていくウルトラE。
 人として死ぬ事を許されず、三浦の手によりマシンとして甦った茂くんは、超力戦隊のメンバーと楽しく遊んで新しい思い出を作っていき……一見いい話風にまとめられるのですが、いや、これ、誰が責任取るんですかね……。
 (茂くん、君は人間の心を持っている。人間はどんな辛い事があっても、それを乗り越えていく勇気と強さを持っている。だから君も、頑張ってくれ、茂くん)
 気を取り直した隊長が、人間の心があれば悲しみや困難を乗り越えていける、と格好良くまとめるのですが、人間としての記憶と、なまじマシン離れして発達した精神性を持ちながら、決してその姿形が人間のように成長する事は無いマシン茂くん、ホントに誰が、責任取るんですかね……。
 まあ、参謀長が金と権力を持っている内は、成長に合わせて程よくボディの交換をしてくれるかもしれませんが、いずれ精神と身体の間の矛盾が何か致命的な悲劇を招くのではないかという気がしてならず、本当のマッドサイエンティストは、愛とか憎しみとか特に何かなくても自然と気が狂っているという、実に杉村升らしい筆の運びが、何度見ても凄まじい破壊力。
 杉村升はこれ以前に『特警ウインスペクター』第31-32話で、バイクによる轢き逃げで娘を失った科学者が“道具”に憎悪を燃やし、初めはバイクを、更には日本中の新幹線や飛行機、果ては科学そのものを崩壊させようと狂気の赴くままに主人公たちと敵対するというエピソードを書いているのですが、今作ではジニアス黒田は、死んでしまう“脆弱な人間の肉体そのもの”に憎悪を向け、もともと何を愛していたのかさえ見失ってしまう、というのが非常に凶悪。
 『ウインスペクター』第31-32話の悪役は、亡き娘の名前を付けたコンピュータであらゆる科学を否定しようとした結果、自己否定の矛盾に陥ったコンピューターに殺されてしまう最期を向かえるのですが、愛した息子の身代わりを作り出した末に、その根源であった筈の人間に対する愛情を失ってしまうという皮肉と狂気は実に杉村脚本であり、『鉄腕アトム』や『人造人間キカイダー』といった先行作品も恐らく視野に入れつつ、杉村升マッドサイエンティストテーマの到達点といって良いのではと思っている前後編。
 悪の組織に与しようとした悪役が無残に切り捨てられるテーマに、過去の悲劇から“人間である事”を憎むに至った狂気の天才の親子愛を組み合わせて人間とマシンの境界を掘り下げ、悪夢的映像と正気に戻る事のない悪役・ジニアス黒田で充分にインパクトがあったところから、最後の最後、身内の一言で完全に視界を外れた位置まで飛躍してのける、傑作回でありました。
 個人的にはここまでが、『オーレンジャー』第一部、といった印象で、次回――またも盛られる赤い星。