東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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錯乱する過去と現在

仮面ライダーV3』感想・第42話

◆第42話「カタツムリ人間の人体実験!」◆ (監督:折田至 脚本:海堂肇)
 怪人カタツブラーに襲われて無数のカタツムリを浴びた女の額にカタツムリの紋様が浮かぶと、志郎に突然襲いかかるのが、なかなかホラー。
 女の異変に気付くや躊躇なく女を羽交い締めにするのが凄く藤兵衛ですが、藤兵衛を振りほどいて志郎に襲いかかった女は、突如としてがっくりと力が抜けるとそのまま息絶え、真っ黒な両手から大量のカタツムリがこぼれ落ちるのが大変嫌な映像。
 志郎は、女の妹から「姉を殺した」と糾弾され、白昼堂々、衆人環視の中での変死事件という状況を用意しておきながら、カット変わると、足早に立ち去る少女に対して藤兵衛が志郎を擁護するもデストロンの名を持ちだして理解されずに頭を掻くといった大胆すぎるスキップで早くも話の脈絡が行方不明に。
 冒頭、部屋の天井に突如として張り付いているカタツムリ怪人の映像は面白かったのですが、街中での騒動に関しては、少女の主張する「志郎が姉を殺したのを見た」どころか、「錯乱した女がいきなり志郎に掴みかかると、勝手にバッタリ息絶えた」ですし……。
 肉親の死による哀しみで理性を失っていると捉えるにしても、あまりにも色々スキップしすぎてしてまい、どうせややこしい所を省略してしまうのに、ややこしくなりそうな状況だけを持ち込む、70年代作品としても不誠実さの目立つ刺激物の投入となってしまいました。
 今回はとにかくこの少女の動きに無理がありすぎるのですが、前作第2話の流用脚本との事なので、もしかすると、前作における緑川ルリ子(父親が本郷猛に殺害されたと誤解)の立ち位置を、そのままゲスト少女にスライドしたら、脈絡と音信不通になってしまったのでしょうか。
 デストロンの陰謀が進行しているのかもしれない、とマンションの様子を窺う志郎は、住人がカタツムリ人間に変えられている事を知り、天井からぶら下がっているカタツムリ怪人は実にホラー。
 「人間カタツムリ・カタツブラーだ。風見志郎、デストロンの人体実験場に、ようこそ」
 70年代特撮では、時代の風物として巨大団地を舞台としたエピソードがしばしば見られますが、マンション一棟丸ごと実験場、というのはSFホラーとしては大変良い風味。
 カタツブラーの卵を産み付けられた人間は、体内で育ったカタツムリに支配されてカタツムリ人間と化してしまい、志郎に襲いかかるマンション住人の、真っ黒な手と額の渦巻き紋様の不気味さは、実に効果的なメイクとなりました(そして今回はやはり、「奪われた村」系SFホラーテイスト)。
 ベランダから飛び降りて空中変身を決めたV3は、カタツブラーの甲羅に攻撃を阻まれ粘液攻撃に苦戦するが、屋上から地面に叩きつける落下ダメージによって逆転。窮地に陥ったカタツブラーは自己催眠を発動して休眠状態に入り、敵に情報を渡さない為……とヨロイ元帥から説明が入るのですが、完全に行動不能に陥った事で、念入りな拷問を受けそうになっているのですが!
 カタツブラーと、その操るカタツムリ人間が休眠中に、対処法を探る志郎は藤兵衛に連絡を取るが、志郎を憎む少女が藤兵衛の後をつけてマンションに入り込み、「人殺しと勘違いされるヒーロー」の主題そのものは面白く転がせそうながら、部屋中にマンションの住人が転がる明らかに異常な光景に一切反応を見せないなど、あまりにも少女が話の都合で動くコマすぎて(だから、姉を想っての行動とも捉えづらい)、“物語”が成立していないレベルなのが、非常に残念。
 「そうか、薬は貴様の体に……」
 「そうとわかりゃこっちのもんだ!」
 そそのかされてカタツブラーを開放した少女が、カタツムリ人間とされて姉の死の真実を知ると、少女を人質に取引を持ちかけられた志郎は逆に《言いくるめ》てカタツブラーの体液が解毒剤となる事を掴み、悪党との口約束など守る必要はゼロと率先して体当たりを仕掛ける藤兵衛が生き生きとしています。
 組織の信用の無さが恨めしいぜ、と垂直壁登りで逃走を図るカタツムリだが、先回りして屋上に立ちはだかるV3!
 連続キックを殻に弾かれ、カタツブラーの殻を利用した渦巻き眩惑により視覚に異常をきたすV3だが、苦し紛れのチョップが怪人の触覚にクリティカルヒット。これによりカタツブラーが視界を失った事に気付くと怒濤の膝蹴りを連続で叩き込み、瞳が緑に輝くと脳裏にダブルライダー先輩のメッセージが響き渡る――
 「「いいか志郎! カタツムリ殻を剥がせばナメクジだ!!」」
 ライダー物事の基本は筋肉! によりカタツブラーの殻を強引に剥がしたV3は、ぬめぬめとしたナメクジ怪人を空中に放り投げるとV3キックを叩き込み、防御力0と化していたナメクヅラーは豆鉄砲にも耐えられずに無残に弾け飛ぶのだった。
 志郎は地面にぶちまけられた真っ黒な体液を回収すると、解毒剤としてマンション住人に注射していき、人々は無事に元通り。
 「良かったぁ、これで良かった」
 「すみません。疑ったりした悪い私なのに、助けてくれて」
 藤兵衛とゲスト少女は笑顔をかわし、なんか誤解も解けて大団円、みたいに片付けられていますが、少女の姉がデストロンの無残な犠牲になった事実は覆されず、高速で焼却されていく過去を笑顔で誤魔化すにも限界を感じます。
 人々を救ったヒーローはいつの間にか姿を消して人知れずバイクでバイクで走り去る王道のエピローグに
 ナレーション「仮面ライダーV3・風見志郎は、いつも孤独だ」
 と、深い心の底では間違ってはいないかもしれませんが、もはや歴史の捏造レベルのナレーションが重ねられ(まあ少なくとも志郎の場合、同じような身の上で開発者のダブルライダー先輩はいるわけで……)、
 ナレーション「誰にもわからぬ哀しみに耐えて、ただ一人爆走していく。目的は一つ、デストロンの陰謀を打ち砕く為に」
 と、“孤高のヒーロー”を強調する中で、「爆走」という言葉のチョイスが面白くて、つい笑ってしまいました。
 前回は、「ショッカーを受け継ぐデストロンとは何か?」「仮面ライダーがそのデストロンと戦う理由とは何か?」の再確認として、『V3』第41話に持ってきても成立しうるエピソードだったのですが、今回は、「仮面ライダーの戦いとは何か?」を前作最序盤から持ってきてしまった事で、前作2年+『V3』半年以上の積み重ねと衝突事故を引き起こしており、あまりにも無理の目立つ事に。
 伊上先生の脚本が遅れたとかやむを得ない事情があったりもしたのかもしれませんが、流用なら流用で、ここまでの物語の積み重ねと馴染ませるべく手を入れるところに適切な手が入っておらず、なんとも雑な仕事の目立つ一本。
 また、一般市民に厳しい70年代であり、冒頭の犠牲があったが故に、といえるにしても、カタツムリ人間の治療法を探る中盤以降の展開と、導入であっさり死んでしまうゲスト姉のバランスが悪すぎて後味の苦みが強く、最後に少女が浮かべる笑顔が大変無理のあるいびつなものとなってしまいました。
 キバ一族が花火を打ち上げた後、どうにも下り調子の今作、ここから盛り返して欲しいところですが、次回――デストロンを憎み、恨み、そして狙う謎の男。
 その名を、ライダーマン