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簡易レビュー企画4:『仮面ライダーアギト』

 全話視聴済みの作品を、簡便に一つずつまとめてみようという、手探り気味の企画です。

Here we go,Count ZERO

◆『仮面ライダーアギト (2001年1月28日~2002年1月27日) 全51話

演出〔長石多可男:19本 田崎竜太:10本 石田秀範:8本 金田治・鈴村展弘:4本 六車俊治佐藤健光・渡辺勝也:2本 〕
脚本〔井上敏樹:50本 小林靖子:1本〕

 ――君のままで、変わればいい。
 いわゆる《平成ライダー》第2作。
 「現代社会に正体不明の“怪人”が出現したら?」というリアルシミュレーション路線を基調に、現代に立脚しうる新たな“ヒーロー”像の構築を目指した前作『クウガ』とは趣向を変え、前作を踏まえつつもより外連味の成分を増量しながら、過去の殺人事件と水難事故、二つの謎を大きな軸としたサスペンス色を押し出し、力に翻弄される人々と不可能殺人を繰り返す怪物が生む、複雑に絡み合う悲喜劇を描いた一作。
 陰惨な描写や怪人=アンノウンによる人死にも多く、決して明るい作風ではない一方、主人公である翔一くんを中心にユーモアと切れ味に溢れたキャラクターのやり取りが全編通して魅力的で、特に翔一くんの愛嬌は物語のアクセント&推進力として序盤から素晴らしく、演じた賀集利樹さんの存在感が光りました。
 そして、ライダーのベルトも凄い勢いで光りました。
 底抜けに明るくて前向きな記憶喪失の青年・津上翔一、堅物で無骨で不器用な刑事・氷川誠、夢を絶たれた失意の中で己に起きた異変の謎を追う大学生・葦原涼、をトリプル主人公として、異なる主観・異なる立場に基づく情報の制限が、誤解や衝突、思わぬ繋がりを生んでいくのが軸となる要素で、“巧妙な台詞回しと展開の計算を支えに、情報の差異によって生まれる錯綜劇を、特撮ヒーロー物の文法で描く”メインライター井上敏樹の得意技が縦横無尽に展開。
 その後のシリーズ作品において、商業的要請から劇中に盛り込まなくてはならないアイテム量が爆発的に増大してからは――見せようとする“面白さ”そのものが変質している事で――どだい不可能な作劇になっている事情もありますが、複数ライダー・複数視点のバランスに関しては《平成ライダー》第2作にして一つの頂点といっていい出来で、個々のキャラクターの持つ「情報」と「情念」の重視、そのコントロールの巧みさが光ります。
 その点では前作『クウガ』とは違った形で、シリーズ最初期でありつつ、シリーズ異端の一作。
 《平成ライダー》がシリーズとしての確立前、《メタルヒーロー》の後枠で新生・仮面ライダーをやっていた時代、後にこれが《平成ライダー》と呼ばれる事になる作品群……であった頃の一作と言えますが、初期《平成ライダー》における、ある種の“取り留めの無さ”はやはり、《メタルヒーロー》の延長線上で捉えるのがわかりやすいとは思うところ。
 強化ギミックの描写が軒並み雑、といった難点はありますが、謎に満ちた事件の真相に複数の視点から迫っていく中で、「仮面のヒーロー」という特性を最大限に活かしているのが変身ヒーロー作品としての面白みで、バラバラだった人間関係の糸が右に左に繋がっていく話運びの気持ち良さを主に、要所要所で視聴者の快感のツボを突きながら物語に引き込んでいく仕掛けがとにかく巧み。
 広げていった風呂敷に、
 ・記憶喪失の主人公を巡るサスペンス
 ・人類を襲う謎の敵が跋扈するスリラー
 ・現在と過去の事件が重なっていくミステリ
 ・三人のライダーの群像青春劇
 ・光と闇の神話的サーガ
 ・人類vs超人類のSFバトル
 など、やりすぎなぐらいに詰め込んだ多彩な顔を持ち、どこに焦点を合わせて見るかによって感触が大きく変わるのも特徴といえますが、記憶喪失ゆえに空っぽの器として聖なる力(アギト)の乗り物であった翔一が、俗なる世界において自己を確立していく――聖なるものが俗なるものへと転換していく――過程をもってして、“人が生きる”とは何かを描く主題が一貫しており、物語全体を綺麗な着地に導きました。
 メタ的な「ヒーロー」論も取り込みつつ、1年間の積み重ねを存分に生かし切ったラスト2話がとにかく素晴らしく、心に響いた一作。

一番好きなエピソード:
 ●第50話

印象深いポイント:
 ●主題歌(シリーズ歴代でもトップクラスに好き)。
 ●アギトキックからの残心ポーズの格好良さ!
 ●アナザアギトの格好良さ!
 ●バーニングフォームの格好良さ!
 ●天才・小澤澄子の傍若無人ぶりと鋭い舌鋒。
 ●終盤の便利使いに繋がった面はありますが、中盤以降、何をやっても(やられても)面白くなる、という怪物的進化を遂げる北條透。

口に出して読みたい名台詞:
 ●「ぐだぐだ言ってないで、アンノウンもアギトもあなたが八つ裂きにすればそれでいいのよ」
 ●「馬鹿ね。正しいか間違ってるかなんかどうでもいいの。男はね、気にくうかくわないかで判断すればそれでいいの」
 ●「北條くんのは情熱とは言わないの。あれは妄執っていうのよ」
 ●「ちょ、ちょっと待って下さい! 豆腐を取れないから私は彼より劣ってるというんですか?!」
 ●「俺も物好きでな。ガキの走りが見たくなった」