東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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向き合わない男

イナズマンF』感想・第19-20話

◆第19話「イナズマン デスパー軍団に入隊す!!」◆ (監督:前川洋之 脚本:上原正三
 ゴロゴロ体当たりをしかけてくるミキサーデスパーとイナズマンの戦いから始まり、丸っこい体型がなんだか、ダークロボットを思い出させるKAWAII
 「引き上げろ!」
 「イナズマン、また会おうぞ」
 サデスパー参謀と協力してイナズマンの顔面に手袋を投げつけると、そそくさと帰っていく姿も、ちょっとKAWAII
 変身解除したらとりあえず手袋は外れた渡五郎だが、ミキサーたちが街を襲った現場に駆けつけたイナズマンは、ミキサーの持つ銃から放たれた謎の光を浴びると、何故かデスパー軍団に協力して、さらわれていく人々を助ける事なく見捨ててしまう。
 作戦が首尾良くいった参謀とミキサーは、改めてガイゼル総統に、今回の詳細を説明。
 「特殊電極ミクロニードル作戦の仕組みを、ガイゼル総統に、説明しろ」
 「ええぃ! 専門的な説明はいらん!」
 をつい思い出してしまいましたが、プロフェッサー・ギルよりは度量のあるガイゼル総統は、黙って説明を聞いてくれました!
 「人間どもは愛するものを奪われた時に、その相手を怒り憎む。全ての憎しみを、イナズマンに向けさせるのだ」
 ミキサー手袋により打ち込まれたミクロニードルを中性子の放射によって操られる事で、デスパーの傀儡と化してしまった渡五郎は、自ら両手両足を拘束し、山荘の牢屋に閉じこもるが、電波遮断膜を貫通する中性子の作用によりまたも操作を受けると、それを止めようとする荒井と激突の末、二人まとめて吊り橋と爆発……じゃなかった、吊り橋から転落。
 「君が発狂する時には目も充血している」
 「……そういえば、目の奥に激痛が走るんです」
 二人がデスパーの仕掛けに気付く一方、ミキサーデスパーはイナズマンを人類社会の敵とする計画を着々と進め、拉致した市民の公開処刑を宣言。……山の中で。
 デスパーに手を貸すイナズマンを市民に見せつける筋立てからギャラリーを必要とする一方、もろもろ撮影の都合で舞台が山の中になった結果、家族の処刑を見せる為に群衆をどことも知れぬ山中に集めてロープを張る、なんとも気の抜けた画になった上に、企画回だった可能性もありますが、前半からモブ市民・モブ子供たちの演技が全体的につたなく、緊迫感を鈍器で滅多打ち。
 (なお、クレジットに声の出演とは別に岩名雅記の名前があり、場所からすると、処刑されそうになる公務員のお父さん役とかでしょうか……?)
 操ったイナズマンに一般市民をチェストさせ、悪魔の手先として決定づけようとするデスパーの陰謀に対し、堂々と姿を見せたイナズマンが、ちょっとデスパーに操られて悪事に荷担したけれど、本当は正義の戦士だと証明してみせる! と、くどくどギャラリーに弁明し、前作からの悪い癖ですが、純粋な子供との交流などを媒介にして“正義の味方”イナズマンをアピールしようとすると、物凄くわざとらしく(嘘っぽく)なるのは、何故なのか(笑)
 ……多分、スタッフの本意が別にあるのがにじみ出ているからなのですが。
 散々、イナズマンの「ヒーロー性否定」の要素があるエピソードに凝っておいて、不意に「違うよ! イナズマンはみんなのヒーローだ! ほーら子供達もみんなイナズマンが大好きー!」みたいな事をやればそれは、いやでもわざとらしくなるわけです。
 私としては、前者をやりきって突き詰めていくわけでもなく、後者を誠実に描くわけでもない今作への好感度は、どうも上がってこないところ。
 当時的な感覚は現代から見たものとは少し以上に違っている可能性はあると思いますが、50年後の今の視点からは、「問題作」である事に酔っているように見える苦手なタイプの作品となってしまい、残念。
 今回、イナズマン(渡五郎)の社会的抹殺を図ったり、その過程で市民からの糾弾が描かれたりと、前作第17話「謎の対決! ふたりの渡五郎!!」(監督:塚田正煕 脚本:上原正三)に類似した構造なのですが、その回が、「「偽ヒーローが子供を轢く衝撃シーン」がやりたかっただけ、みたいな」回だったように、今回も究極「母親をさらわれて泣きじゃくる赤ん坊に背中を向けて去って行くイナズマン」がやりたかっただけなのでは、と見えてしまう出来。
 今日の私はひと味違うぞ、と雄々しく崖上に立つイナズマンに向けて中性子投射銃の先端が向けられるが、デスパー忍法ミクロニードル破れたり、と放たれたその対策とは……マフラーを、顔に、巻いた!
 ナレーション「全ての物質を貫通する中性子も、イナズマンのマフラーを突き通す事は出来なかった」
 敵の幻術(など)を目を閉じる事で防ぐパターンなのですが、あくまで中性子の投射であって視覚は別に関係ない為、マフラーが問答無用でトンデモに飛躍。
 まあ、V3・26の秘密と似たような作劇といえば作劇で、自ら視覚を遮断して戦うイナズマンはミキサーロケットを浴びて危機に陥るが、頭上から荒井の方向指示による援護を受け、
 「4時の方向!」
 はよく聞きますが、
 「20分!」
 は、初めて聞いた気がします。
 イナズマンは念力パンチからの落雷追い打ちでミキサーデスパーを撃破し、クライマックスの支援や五郎との生身バトルなど、荒井フィーチャー回でもありましたが、荒井は荒井でこれといった愛嬌が無いので、もういっそ、コスプレ担当とかの方が良かったのではないかという気がしている今日この頃。
 次回――KAWAIKUNAI。

◆第20話「蝶とギロチン 花地獄作戦」◆ (監督:前川洋之 脚本:さとうかずゆき/楢岡八郎
 束の間の休暇を荒井の別荘で過ごす事になった渡五郎が、ベッドに半裸で転がっているサービスシーンがだいぶしつこく続くと、突然、荒井の首切り死体ドッキリが行われ、導入としては、だいぶげんなり。
 「ごめんごめん。ちょっと冗談が過ぎたかな」
 そうですね……。
 荒井は変事の調査の為、本部の指示で急遽ヒマラヤに飛ぶ事になり、砂浜に転がる首の切られた人形……そして、気絶していた女を拾って別荘に連れ帰る五郎@かつてないラフなTシャツ。
 ギロチンによる首切りのモチーフと、「赤」をキーワードにした、血・芥子の花・蝶・靴、といったモチーフの連鎖が繰り返し散りばめられ、陶然とした表情を浮かべるガイゼルが、なんだか真っ先に阿片にやられています。
 血まみれの骸骨が全身にあしらわれ、直球でグロテスクなデザインのギロチンデスパーが別荘を襲撃するが、よくわからない口上で撤収すると、五郎と謎の女は、海辺でザ・文芸映画、みたいな会話をかわし、そして、いくら昔住んでいた事がある土地にしても、どうして五郎は、少年の日の思い出の赤い靴を、荒井の別荘に持ち込んでるの……?!
 第18話と似た、アート志向で雰囲気重視の作りですが、さりげなく示された小道具が物語に関わってくるのではなく、雰囲気を出す為の小道具がどこからともなく強引に降ってくる乱暴さと優先順位が、率直に辛い。
 波に洗われる砂の城のイメージと共に、芥子の花粉を吸い込んで海岸に倒れる人々をギロチンデスパーが次々と首刈りしていき、悪趣味な見世物小屋的なスリラーと、赤い花と蝶とを中心にした幻想的なイメージが混合され、それが調味料としてヒーローフィクションを面白くしているのかといえば、単に使いたい素材を放り込んでいるだけになって完成形の定まらない、いつもの『イナズマンF』味。
 これはこれで……と受け止めるにはギロチンパートの趣味の悪さが肌に合わず、何を見せられているのやら、という気持ちになってしまいました。
 ジュディ・オングのような衣装で現れた謎の女が蝶を操って芥子の花粉を五郎に吸わせ(一緒に悶え苦しんでいる荒井……サイボーグ荒井……?)、五郎は辛うじて剛力招来するがギロチンの刃に切り裂かれ、サナギマンに有効なダメージを与えられたの、実は劇中初では……?!
 (焼け付くように熱い……熱すぎる。これ以上体が痺れたら、俺の命の灯も消える……)
 海岸をのたうち回るサナギマンは、赤い靴に記憶を刺激されて蝶の女が子供の頃の知り合いだった事を思い出し、童謡「赤い靴」になぞらえた女の哀しい素性が明かされるのですが……世を恨むに至った女と、ヒーローとして世を守ろうとする五郎の対比が機能するわけでもなんでもないので、放り込んだ刺激物が劇中でどこにも反響せず、虚しく床に転がるばかりとなっています。
 とにかく渡五郎/イナズマンが、個々人の私的な事情に全くリアクションできず、したと思えば通り一遍の「命を大事に」ぐらいしか出てこない主人公なのですが、デスパー・シティ回の「勇敢な人だな君は」発言が主人公性にとって致命傷だったな、と改めて。
 弟を粛正したレジスタンスのリーダーが自ら危険な囮役を買って出た事に対してそれで済ませてしまったのが今となっては象徴的となりましたが、ゲストエピソードを重苦しく刺激的なものにしていく一方、本来ならそれに対応させるべき主人公のモデルチェンジは全く為されていないので、「イナズマンの物語」と「ゲストの物語」の間に深い断絶があってそれが作品としての歪みとなり、主人公の存在を擦り抜けたまま「ゲストの物語」を視聴者に投げつけるような構造に陥っている感。
 以前にも書いたように、そこに向き合って、「変化」をもたらす者としてこそ主人公に機能してほしいのですが、言う事は言ったし、そろそろ片付けなくては、といった具合でギロチンの必殺技からサナギマンをかばって蝶の女は絶命し、怒りのパワーでサナギマンは超力招来。
 おまえの歯を全部折ってやる! とギロチンデスパーの顔面に執拗にパンチを浴びせると、ゼーバー落雷でトドメを刺したイナズマンは、変身解除すると瀕死の女を抱き上げ、五郎のそのシャツのチョイスは一体……『不思議の国のアリス』……?
 瀕死の女を看取っていると、突然、画面端から入ってきた3人の子供たちの姿がかつてのいじめっ子の姿と重なるが、3人は実は、女にトドメを差すために送り込まれたデスパー少年兵だった! のは思い切った大技。
 「海は青かったか?」  「「「ノー」」」
 「空は青かったか?」  「「「ノー」」」
 「では人間の未来は?」  「「「灰色なのでーす」」」
 「デスパーの未来は?」  「「「明るい光で一杯なのでーす」」」
 の、訥々としたやり取りはかえって恐怖感を醸しだし、最後の最後で面白いカードが切られましたが、消化できるのかどうかには、不安が募ります。
 この世の平和が、脆く崩れやすい波打ち際の「砂の城」に例えられ、それを守る事を(思い出スイッチで唐突な心変わりを見せた、憎しみに任せてぶち壊す側に居た女から)託された五郎は征く、果てしなき戦いの道を。
 女の変心については、心底の願望では脱ぎ捨てて踊りをやめたかった赤い靴を、幼少期の思い出を大切に持ち続けていた五郎との出会いから脱ぎ捨てられたなどの解釈は可能ですが、なんにせよきっかけとなった「赤い靴」の他人の別荘への持ち込みが強引にして唐突だったので、どう足掻いても強引で唐突にならざるをえず。