『忍者戦隊カクレンジャー』感想・第33-34話
◆第33話「あまのじゃく村」◆ (監督:佛田洋 脚本:高久進)
サスケの従弟が小坊主を務める山寺を訪れるカクレンジャー一同だが、助けを求めたら崖から落とされそうになり、警官は犯罪者を捕まえる気がなく、甘いと勧められた柿は酷い渋柿で、なにやら村の様子がおかしく……2023年現在も、《仮面ライダー》《スーパー戦隊》シリーズなどで特技監督として活躍する佛田洋の、本編監督デビュー作になるのですが、シーンの繋ぎがスムーズで無かったり、会話の成り行きの唐突さが目立ったり、急に“やりたかった映像”みたいなものが飛び出してきたりと、正直、ちょっと見づらい出来。
後の佛田監督の本編担当作品にはそれほど悪い印象は無いので、初ゆえの気負いみたいなものもあったのかもですが、全体的に、必要なシーンだけがあって、その前後のフォロー(流れ)への意識が足りない感じで、尺の都合もあるにせよ、演技指導も含めてそこは技量と経験の出やすい部分ではあるのだろうなと。
村人がおかしくなったのは、寺に封じられていた妖怪・天邪鬼の復活が原因で、和尚さんに化けた天邪鬼が育てたキノコを食べた人間は、悪意を持ってあべこべな事を言う天邪鬼の性質を得てしまうのであった!
妖怪復活の原因を作った小坊主の相談を受け、天邪鬼の正体を暴くサスケであったが、本物の和尚は既に始末されたと告げられ、自らの不始末から恩師を殺害された小坊主がトラウマ案件すぎて、そこまでやる必要はあったのか感。
キノコをかじったジライヤがサスケに殴りかかるなどあったものの、妖怪の罠を回避したカクレンジャーは、怒りの急降下ゴリラパンチから、片腕分離によるゴッドサルの必殺攻撃で、巨大天邪鬼を成敗。
戦い終わると無事だった和尚が救出されて、小坊主のトラウマ案件は無かった事にされるのですが、和尚が殺されたと思い込んだ小僧の激情を戦闘の起伏として散々利用したにも拘わらず、「和尚さんを始末した」のも天邪鬼のあべこべ発言でした、といった点に全く触れないので物語中の要素をくるっと収めてみせるオチとして機能せずに、ただ都合のいい、シビアな展開と思わせて違いました、とだけなってしまったのも残念。
和尚生存についてはさすがに、脚本(撮影)段階では説明があったものがカットされたのではと思うのですが……ラスト、唐突な『ゆうやけこやけ』をバックに情景描写が入るのもだいぶ不自然で(一応、村人たちも元に戻った表現にはなっていますが……)、脚本への信頼度も微妙にしても、どちらかというと演出の不得手に思われる部分が引っかかる一本でした。
◆第34話「花嫁砂地獄!!」◆ (監督:佛田洋 脚本:曽田博久)
小手二刀流でクレープ作り世界一を自称するサイゾウは、弟子となった直樹少年とクレープを焼き始めるのだが、妖怪・砂かけ婆の介入によりクレープは砂へと変わってしまう。
砂かけ婆がチャーターしたへりから砂をばらまくと、街中の食べ物が砂と化して大パニックが巻き起こり、空飛ぶネコ丸がヘリを追いかけて、
ゴー・ライジンゴー!
と噛みつくとヘリは墜落し、妖怪退治にカクレンジャー推参。
ブランドバッグ・ボディコン・厚化粧、と三拍子揃った砂かけ婆に対して初手から放たれるカクレンジャーボールだが、あっさりと砂かけリターンされてカクレンジャーの方が吹き飛び、合体技の扱いに厳しい今作、もはや、カマセンジャーボール。
日本ハンガー作戦もとい「不毛の砂地獄の果てにみんな飢えちゃう大作戦」を成就させた暁には、大魔王との結婚を夢見る砂かけ婆に大魔王様は狼狽し、「パッ!とさいでりあ」(新興産業のCMソング。なお新興産業は2003年に倒産との事)の替え歌を繰り返しながら砂がばらまかれ、第21話の「それが・あな・たの・いいと・こ・ろ」に続いて流行りのCMパロディなのですが、曽田先生の中で『カクレンジャー』的なネタだったのか、或いは苦し紛れの手だったのか。
水を求めて街を彷徨うカクレンジャー一同は砂地獄の中で必死にクレープを作ろうとする直樹少年と再会。
運動も勉強も苦手な少年が苛められていたところをサイゾウに助けられた事をきっかけに、クレープ屋さんになりたいと夢を抱いた経緯が語られ、サイゾウの、子供に優しいお兄さんぶりが貫かれたのに加えて、“ヒーローは憧れてくれる子供のために格好つけなくてはいけない”が描かれたのは、今回の良かったところ。
サイゾウは自称大魔王人間体に化けての色仕掛けで砂かけ婆に接触すると、砂の力の不思議な源の秘密は「このボインでございます」と聞き出す事に成功し、基本、《スーパー戦隊》シリーズの作風もあって(その作風に曽田先生がそもそも多大な影響を与えているわけですが)、お色気や下ネタはあまり持ち込まない曽田先生だけに、突然何があったのか(笑)
怪人のデザインを見て現場で出てきたのかもしれませんが、今作と、『キカイダー01』第28話「狂った街 恐怖の人魚姫大逆襲」の「人魚ボイン爆弾」は、曽田脚本の中でも割と異色の要素として、どこから出てきたのかちょっと気になります。
……まあ曽田先生の場合、母数が大きすぎるので何をもって“異色”とするのかが難しかったりもしますが。
首尾良く人魚姫、じゃなかった、砂かけ婆から情報を集めていくサイゾウだが、事情を知らない直樹少年に食ってかかられて結婚詐欺に失敗すると、砂による目つぶしで視力を失う大ピンチ。
ドロンチェンジャーを取り落としたサイゾウは直樹少年に助けを求め、日常に居場所の無い少年にヒーローが勇気を与え、その勇気を受け取った少年が自ら一歩を踏み出した時に世界が「変わる」というのは、曽田先生らしい作り。
また、私の感じるヒロイズムというのは、“誰の為に、何の為に、格好つけるのか”に因るところが大きいのだな、と改めて。
つまり、
「なんせムチャクチャに…………よ……ムチャクチャ惚れちまった女が……あそこで俺を見てるんだ…………カッコ…………つけねえと……なあ」 (『俺たちのフィールド』村枝賢一)
なわけですよ!
あと、終始ツボにはまっていた『烈車戦隊トッキュウジャー』はやはり、この精神性――誰に向けて格好良くあろうとするのか――をコアに置いていた作品だな、と。ついでに『仮面ライダーW』なんかも、その傾向が強め。
「行くぞ! スーパー変化! ドロン・チェンジャー!――人に隠れて悪を斬る! ニンジャブルー、見参!」
印籠を拾ってサイゾウに届けた少年が背負わせて目の代わりを務める定番の作戦で、回避のジャンプはともかく、斬撃の方向やタイミングを伝える少年、殺意高い(笑)
これが、クレープの恨みだ! と青の必殺剣が炸裂して自慢のボインがナインになると青は視力を取り戻し、ゴッドオオカミを召喚。砂かけ婆を油断させる為の囮になっていた仲間たちもようやく合流すると、カクレ! カクレ! カクレ! カクレ! 隠大将軍!!
妖術砂地獄に苦しめられる大将軍だったが、少年の夢を守る為に立ち上がると妖怪の持つツボにオオカミアタックを叩き込み、形勢逆転から連続パンチで成敗。砂かけ婆の新婚旅行のプランは砂と崩れ、サイゾウと少年は今度こそクレープを振る舞うのであった。
特別面白かったわけではないですが、演出に前回ほどの不自然さもなく、ヒーロー物としてのセオリーと、『カクレン』的な味付けの落としどころを巧く探った、といった感じの一本でした。
元より、曽田先生にそういう役割が求められての参加な節はありますが、前半にこのぐらいの安定感があったら、作品全体の流れが変わっていたかなとは思わせる内容で、しかし『カクレン』にしろ前作『ダイレン』にしろ、“安定に敢えて背を向ける”コンセプトはあったと思われるので、変化と維持のバランスは、つくづく難しいと思わされます。
次回――有言実行カクレンジャー。