『スマイルプリキュア!』感想10・カガヤクチカラ
……簡易感想、だった筈なのですが。
●第23話「ピエーロ復活! プリキュア絶体絶命!!」
「行こう! キャンディを助けに!」
戦う理由を見つめ直し、みんなでウルトラハッピーになる為にいよいよバッドエンド帝国にカチコミを仕掛けるみゆき達。
闇に包まれ、陰鬱な森が広がるその大地では囚われのキャンディが磔にされ、三幹部が高いところで待ち受けている様式美で、プリキュアはさっそく変身。
キャンディ救出の為に桃を先行させ、橙黄緑青&ポップの4人が幹部を引き受ける作戦を採ると、〔狼vsサニー・魔女vsマーチ・鬼vsピース〕のマッチアップとなり、桃を急襲して地べたにぺちっとはたき落として上から見下ろし嘲笑ってやろうと潜んでいたジョーカーが飛び出してくるが、その性格の悪さを的確に読んでいたビューティにより撃墜され、あの時、全員土下座で軍師様をお迎えして、本当に良かった!!
「君……面白いな~」
しかし、物事の基本は、体力……!
ジョーカーは鍛え上げた筋肉により人差し指一本で倒立着地を決め、これまで背後に潜んでいたのでプリキュアとの因縁が薄めのジョーカーを、策士繋がりで取り急ぎビューティと絡めるのですが(これ自体は限られた時間で鮮やか)、なにぶん人差し指一本で倒立着地なので、軍師vs奸智! というよりも、頭脳vs筋肉! に見えて仕方ありません。
「面白い……三幹部の皆さーん! いきますよ~!」
ジョーカーが号令をかけると、プリキュアのお株を奪う4人同時バッドエンドバンクにより、エナジーを高めた悪の幹部たちは、すり鉢状の地形を作り出して、それぞれプリキュアと激突開始。
「キュアサニー! おまえのサンサン太陽とやらを沈めてやるぜ」
「ほんならうちは、あんたの毛刈り取って、セーターにしたる」
「キュアピース! 泣き虫のおまえに俺が倒せるオニ?」
「わたし泣き虫だけど、根性はあるもん!」
「キュアマーチ、へそ曲がりのあたしに勝てるかだわさ?」
「直球勝負!」
三幹部それぞれに台詞があったのは嬉しく……またも、知力が低下傾向に陥るマーチ。
「キュアビューティ、もう一度言っておきます。あなたがたの願いは何一つかないません」
「ハッピーは必ずキャンディを助けます。その為にも私は、あなたを全力で食い止めます」
「うーん~、ゾクゾクするなぁ、ぬふふふふ」
ジョーカーは変態路線にアクセルをフルスロットルし……なんか凄い、正攻法のバトル展開だぞ……?!
で、かなり早めのAパート終了。
かくして、今作初となる気がするプリキュアvsバッドエンド幹部の肉弾バトルに突入し、凄いぞプリキュア、その気になると、真っ正面から叩きつけられた鬼の金棒をガードできるぞプリキュア!
作品全体の折り返し地点となる大きな一山という事でか、力の入った演出と作画により、狼とサニーは町内会(噂の非合法団体)仕込みのステゴロでぶつかり合い、ピースは鬼の金棒から基本的に逃げ回り、スーパー魔女タイムにより一時的に若返った魔女はマーチと足技の応酬を繰り返し……つまり、魔戒法師枠でした。
ビューティはポップのカバーリングによりなんとかジョーカーのトリッキーな攻撃を凌ぎ、スマイルの余地の無い攻防が繰り広げられる中、ひとり暗黒の荒野を走り続けるハッピーがお笑い成分を注入し、ハッピー、素晴らしい仕事だよ、ハッピー。
あわや溶岩ダイブを決めて人知れずリタイアしかけたハッピーは、プリキュアハッピーロケットにより高台まで到達すると、キャンディと共に雑に捨て置かれていたデコルボックスも発見するが、突如立ちはだかる、黄色い鼻の芋虫アカンベェ。
ハッピーは芋虫アカンベェに叩きつぶされ、他の4人も次々と劣勢に追い込まれ、満を持しての直接戦闘となった幹部がちゃんと強いと安心します(笑)
「あんた達に勝ち目はないよ」
「辛くて痛い思いをするだけ損なのに」
だが、それでも、プリキュアは諦める事を選ばない。
「痛い、怖い……でも……ここで逃げたら、みんなと一緒に、居られなくなっちゃうから……それが一番、怖いから……絶対逃げない!!」
割と今作初期から一貫した要素として、「痛さ」や「怖さ」をヒーローが折に触れ示すというのがありますが、溢れそうになる涙を必死にこらえるピースが鬼の足に食らいつきながら叫ぶのは、それを乗り越えて「失いたくないもの」は何かを劇的に示し、積み重ねからの美しい飛躍となりました。
一番大切なものに気付き、その為に戦うプリキュアに対して、バッドエンド陣営はそのネガとして徹底的に友情を否定し、今作立ち上がりに重視したテーゼが両者を決定的に分かつものとして衝突の中心に来るのも、前半2クールのまとめとして鮮やか。
「友達は! 下らんくなんかない!」
「辛い時も楽しい時も、いつも側に居てくれる!」
「みんなで笑ったり! 泣いたり励ましあったり!」
「一緒に居れば、どんな困難も乗り越えてゆける、そんな力が、湧いてくるんです!」
「みんな一緒じゃなきゃ駄目なの……キャンディも、友達や家族、みんな一緒じゃなきゃ……それが私たちの、ウルトラハッピーなんだからーーー!」
「アカン?」
そして、「友達」とはなんなのか、具体的な言葉をもって集約され、前回が「静」なら今回は「動」、生身での芝居で5人が内面を見つめる事にこだわった前回と、変身し通しで戦い続ける今回は対照的な作りなのですが、絶望から希望へ、表裏一体の前後編として、5人の言葉を繋いでいく作りが重ねられているのが、心憎い演出。
――だから今こそ。
5つの光が導く未来へ。
「――か・が・や・けぇぇぇぇぇぇ!」
「「「「「スマイルプリキュアぁー!!!!!」」」」」
アカンベェの拳を押し返すハッピーの絶叫から、チームのキャッチフレーズへの持ち込み方は会心で、5つの光が迸ると、サニーは地面を割って巨岩を持ち上げ、ピースは全力で電撃を放出し、マーチは岩壁を走り、ビューティーは氷の剣を作り出し、ヒーロー反撃のスイッチが入ったところで、各人をOPの戦闘イメージカットと重ねるのは、実にお見事でした。
巨岩に潰された狼さんは、瞳を真紅に染めて更なる加速を見せるが、高速の打撃戦から指を鳴らして焔の錬金術師したサニーが爆熱ヒートフィンガーから火の玉アタックを叩き込み、相変わらず、サニーのアクション作画は一段上の気合いを感じます(笑)
ピースは巨大化した鬼(狼も鬼も、魔女同様に奥の手モードを持っていたのは、地味に嬉しかったポイント)に怯む事なく、プリキュア拳法・人体で一番固い部分は肘ィ!を肝臓に叩き込み、相変わらず、一段上の殺意の高さを感じます。
魔女の分身攻撃に苦しむマーチは、どれが本物かわからないなら全部まとめて攻撃すればいいじゃない、と知性を捨てた暴力で押し切り、最も分が悪そうだったビューティも、ポップとのコンビネーションで零距離ブリザードを叩き込み、ポップをシールド要員にする事で、存在感を確保しつつジョーカーとの戦力差を補う説得力を与えたのは、非常に巧い差配でした。
気合いで芋虫アカンベェを消し飛ばしたハッピーがキャンディを救出し、バッドエンド幹部を撃破した4人と合流。16のデコルも遂に揃うが、その発動よりも早く、溶岩の海の中から巨大なピエロ組長が出所してしまう。
「我が名は皇帝ピエーロ。全てをバットエンドに」
思ったより古の大巨人みたいな見た目だったピエロ組長は、終末のエネルギーを口へと収束し――。
「バッドエナジー砲! 星を破壊するほどの力でござる!」
ええ?! それだいぶ尾ひれついてません?!
巨人は巨人でも、伝説巨神の方かもしれないピエロ組長の雄叫びが電光石火の一撃を呼ぶと、合体技でそれを食い止めようとした5人は呆気なくバッドエナジーに飲み込まれて吹き飛ばされ、戦うか戦えるか怯える心よ。
「プリキュアはみんなの笑顔を守るクル! 絶対に、絶対に負けないクルーーー!!」
「そうだ……絶対に、諦めない!」
空中でハッピーがカッと目を見開くと、事務的な手続きを終えた16のデコルがようやく効果を発揮して、新たな輝きを放つ。
「プリキュアのみなさんに、ペガサスのご加護を」
…………こ、ここまで盛り上げてきて、どうしてそんな、伝言メッセージみたいに?!
せめてメルヘン組長のイメージ映像ぐらいあれば良かったと思うのですが、箱の絵×ベテランの名優に超越者的立ち位置で語ってもらう手法が悪い形に転がって、凄く機械的な感じに(笑) ここで一言だと、どうやってもナレーションぽくはなってしまいそうですが……これは一種の、身内の隠していたビデオメッセージ的なアレなのか。
とにもかくにも、メルヘン一家の杯としてペガサスのステッキが現れると、5人は新たな力を得てプリンセスフォームを発動し、ビューティの髪型が、荒木伸吾。
「届け! 希望の光!」
「「「「「羽ばたけ! 未来へ!」」」」」
イメージのペガサスにまたがった5人が、新必殺技は癒やしとか生ぬるい事は言わない! これが貴様をこの世から消し去る希望の光だ!! とプリキュアレインボーバーストを放つとバッドエナジー砲を逆に飲み込んで押し流し、ま、負けた……。
「輝け!」
「「「「「ハッピースマイル!」」」」」
背中を向けてポーズを決めると、背後でちゅどーんと大爆発が起こり、皇帝ピエーロ様の敗因は、昆虫のバッドエナジーで1ポイント稼いだ回、でしょうか……?
女王様のメッセージはともかく、新必殺技自体は気合いの入った作画でピエロ様を消し飛ばすのに申し分のない迫力で、今回は特に山場としても、今作、概ね必要充分な説得力を持った作画リソースを確保できているのは大きく、多少難のある回でも、肝心の5人の描き分けについては、できる限り意識した作画と演出が出来ているのは、強み。
また、前回今回と物語の核となったキャンディが叫んだら即16デコルが発動するのではなく、ハッピーの「そうだ……絶対に、諦めない!」を挟む事で、そこにヒーローの意志がしっかりと入ったのは、手堅く巧い演出でありました。
立ちふさがる壁としてしっかり強いバッドエンド幹部陣・バラバラに考えて一つの気持ちに辿り着く前回から、バラバラで戦いながらもみんな一緒な今回への繋がり・ポップの使い方・キャッチフレーズとOP映像の劇的な取り込み、などメインライター脚本、監督演出で、非常に“巧さ”の出た回で、前半戦の締めにふさわしい盛り上がりのエピソードとなり、大変面白かったです!
ハッピーは思い入れのあるキャラでは無かったのですが、あそこで「か・が・や・けぇぇぇぇぇぇ!」は、痺れました。
…………気になるのは、ほとんど最終回みたいな事をやってしまったのですが、今回超えを要求される最終回は大丈夫でしょうか(笑)
次回――ピエロ様の種みたいなのは布石で示されたけど、ひとまず、凱旋。